◆◇◆ 食毒とは何か ◆◇◆ 
経験漢方治療学 鮎川静著     
医道の日本社  復刻第2版より抜粋
  
 ※誤字を訂正して読みやすいように、
書き換えて(一部意釈)みました、下手な点はご愛敬<(_ _)>

食毒とは何かを説明するのには、はじめに食養について語るのが道筋である。しかも食養を話すには有名な貝原益軒の「養生訓」は読むべきものであるが、私は不勉強でまだ読んでいない。
私の知るところでは食養については、石塚左玄、その子の右玄氏のとなえた食養法があります、現代の漢方医は小出壽氏の説を深く研究しています。
石塚右玄氏著「食物治療法」に書かれた食養法の概略を以下にあげてみる。

(1).ご飯は、営養と経済の点からみると、玄米飯が最良であるが、永年の胃腸の習慣と炊事の手間から、直ちにこれ常食するのは困難なので、まずは七分づきか五分づきを食べ、嗜好を徐々に玄米飯に転換していくのがよい。

(2).副食は、動物性のものより、植物性の食品、すなわち大根、蓮根、人参、牛芳、里芋、南瓜、カブ、葱、蒟蒻、豆腐等が適当している。しかも、これら野菜類はなるべく皮をはがずに、油気のもの、即ち油揚やガンモドキの類を少し加え少し塩気を強めて煮て食べれば、人工調理品にくらべて、はるかに多くの栄養分の補給となる。

(3).味噌汁は白より赤()味噌汁の方が良い。毎朝一~一半椀の飲用が大切です。

(4).毎食には胡麻塩を飯に少量かけて食べると、非常に消化吸収をたすける。胡麻塩の作り方は、まず黒胡麻と塩をフライパンでよく妙り、胡麻6、塩4の割合で混ぜてすり鉢で擦る。

(5).魚類は、大別して海魚よりは川魚の方が食養に適している。海魚なれば赤身のものを避け、白身を選ぶこと。しかも川魚でも海魚でもなるべく皮骨を全部食るようにして、これらを赤味噌等で調理すれば、一層滋養の成分を増します。フナ、鮎、マス、メザシの干物、ハゼなどが最良です

(6).海草類は何でもよく、特に昆布、ワカメ、鹿菜尾は食養的優良品であります。

(7).抽気の物をと場合、必ず大根おろしを添へる、又は大根其他の野菜類と一稀に煮て食することを忘れてはいけません。そして同じ油気の物でも動物性のよりは植物性の方が善良です。

(8).漬物は日本人の食後の果物ともいうべきもので、大切な食用品です。同じ漬物でも新漬(浅漬)よりも、古漬の物の方が人体に良いです。一夜漬けのタクアン漬、みそ漬けが最良で、福神漬は之に次ぐものです。

(9).果物類は、身体内の諸臓器や諸組織を、弛緩させる働きがあり、慎むことが大事です。とりわけ居住地で採れる果実ならば良いが、全然違う地で採れた果物は、絶対に食べてはいけません。

(10).肉類は必ず野菜と一緒に煮合せて、適度に食することが大切です。一般に肉食は日本人の体質からも、天候地形からみても多食は有害です。肉は単に食の味付け位の程度に止めて置くのが大切事です。

以上1~10の原則を守りし、以下の割合で腹八分目に食べれば、健康て長寿を全うすることが出来ます。
これは食養の理想であるが、現在の食事とは相当、かけ離れていることが解るであろう。これを知ることは参考になりそうであるが、興味ある所をその本から抜き出してみよう。
──一切の動物に雌雄があるように、植物にも竹や松などにも雌雄が有ります。殊に、雌松は塩気のある海辺に多く、雄松は塩気の少ない山に多く生えています。それで人間でも海岸に住んで居る夫婦の間には女の子が多く産れます。山間では男子が多いのです。しかして男が肉類や塩気の物を多食すれば妻との間には、女の子が多く産れます。従って、一は其の人の容貌を見れば、その授かる子供の男女を推定することが出来ます。穀類もやはり雌雄があるもので、うるち米は雄米で男なので粘り気がありませんが、モチ米は雌米、すなわち女だから粘り気があり旨味があります。
──大昔は、玄米ばかりでしたが、仁徳天皇の十五年に始めて春米部というものが置かれて、此の玄米を搗白するようなりました。しかし、当時の搗白米は、決して現今の如く精白せられたものではありません。ただ玄米を二杵三拝搗いたもので、ちょうど今の半搗米か若しくは七分搗米に相当したものです。‥‥それから、三韓征伐をしてから後、肉食が徐々に行われるようになり折角瑞穂の國の米食人であったものが、三韓征伐以来肉食することが一時盛んになって来たので、国に種々な変動が起って来るようになったのです。それから、近頃は蒙を建てるにも二階三階或は四階と段々高くします。家が高くなると反対に人間の量見が低くなります。此れも肉食の盛んになった結果で、これはたとえを猫にとって見ると一番よく判ります。猫は、なんでも高い用に居たがる、コタツの上とか、フトンを積み重ねた上とか、又は物干の上などに登りたがります。人も猫の様に肉食が多過ぎると、二階とか三階とか高い所に居住したくなります。
──豊後(大分県)地方では魚類過食の結果、ライ病患者が多いので、之を救助するためにサツマイモの耕作を奨励して食べさせたので此病が少くなったといふことであります。
 これは私たちも考えさせられることがあります。永らく私は田舎の小学校医をしているが、此間に色々と考えさせられることは、トラホーム(眼疾患感染症)と魚類食の関係である。私の村は純農村ではなく、海浜で漁業をする部落と石炭の部落と農民部落との三種領あるが、トラホームは海浜の子供と炭坑の子供で独占しているようなものである。海浜の子供が魚類の適食に陥ることは当然であるが、炭鉱の子供も田園の自然物に恵まれない結果、前述するように魚類の産地が近いので魚類過食に陥る結果、このような現象を起こしているのではないかと考えたのであるが、今こうした記事に接すると尚更、その感を深くする。
──それから、歩きつきで、その人の食物がほぼ判ります。肉食を過食すると外攣で、楽観的になりますし、野菜物を食ひ過ぎると、内攣になって悲観的に陥ります。いわゆる気が内輪に過ぎていけません。然らば穀食者はどんなに、之は中庸を得て安観的であります。
──今の若い人連は西洋心酔の結果、とにかく肉食を多くするため、余り記憶は良ろしくない様です。だから故きをねて新らしき知る、などといふ事はなく、皆故きを忘れて新らしきに就く、といふ風になって来たのです。──
──牛馬など顏の長いのに、縦の物、即ち植物性の草類を食べるからで、虎や豹の顏の短かいのは、横の物、即ち動物性の魚類や肉類を食べるからで、人間の顏もなおかつ之と同じ譯合であります。動物中の最も高位にある人間が、虎や豹の様な下等の肉食動物のマネをする必要はありません。而して植物性食品を摂取すればよいのです。その植物性食品の中で最高位の米を食べていれば、それが一番良いのです。米といふものは天地中和のもので、他物の及ばない不変の特性を持っていますから、熱となく寒となく、水と土との二物で出来て居りますが、麦の如きは土ばかりの陰で出来ています。人間は米によって生命を保持しているので、寒熱中庸の性をもっている。米の藁、即ち藁蒲団の様なものを着て寝れば温いのです。藁とか糖とかいふ物を体に着れば温まります。麦は陰のため冷えますから麦藁のようなものは、仮に之を蒲団の中に入れたら冷えてとても寝られるものではありません。人間の身体ばかりでなく、すべて植木の霜除けなどに皆藁を用ひてあります。之に反して暑気を除けるためにするビールビンの覆ひ、又は夏帽子の様なものは、皆冷える所の麦藁で出来ています。西洋ではこの尊い米が出来ないから止むを得す、炭酸カリウム類の多い麦ばかりを食して居りますから体が冷えるのです。そこで陽物の肉類を食べます。肉は体を温めるのでなく熱くするので之では少し熱の方が勝つから、食後には体を冷やす果物を食べます。これで始めて調和を計るといふ複雑な事をする訳です。この理を知らずして近頃の人は、西洋人が食後に果物を食ふからといって、その真似をして米飯の後で、大いにハイカラのつもりで、果物を食べるから、身体が冷え従って肺の穀になる病が非常に多くなって来ました。実に国家の前途憂ふべき大問題であると思います。・・・・而して古来中国の各時代における興亡の跡をみると、米食を専らにして興つた国が、牧場などが盛んになって雑食が行はれる様になると亡びるのです。穀類さえ多く食していれば、その人は何日も健康長寿で、延ては国家の隆盛といふ事になるのです。──
──尚ほ牛乳がなぜ日本人に不適当なるかとを言うと、乳には化学的成分以外に生きた醗酵素があります。故に牛乳が一且胃に入れば、胃酸によって凝固して、チーズが出来ます。之が醗酵素により再び分解せられて始めて完全な消化を遂げるのです。そのところで米は肉類等と違って消化中の過剰は酸に化し易いので、米食人の胃は肉食人の胃より酸過多症になっています。之に牛乳が入って来ると非常に強烈な酸により劇しい凝固として乳に含まれる醗酵素位では分解することが出来ません。加えて今日私共が口にする牛乳は、子牛が母牛から飲むのとは違い消毒のために大切な醗酵素が死んでいます。要するに牛乳でなく死乳であります。言葉をかえていえば、単純な化学的栄養のみとなっています。これが酸の多い日本人の胃の腑に流れこむと再び解けないチーズとなります。解けずにそのまま排泄されるならまだしも害にはなりませんが、元より牛乳は乳酸醗酵を起し易いものです。それでなくても酸化し易い米のかたわらにその乳が来ますから、これが醗酵素となって米をも醗酵して遂に牛乳の不適応の原因が出来上がるのです。──
──最後に「食物と消化器及び其他との関係」といふ所に次のように書かれています。──
──すべて人間は其のとるべき食物と、その消化器との間には深い関係があります。その例として歯と顎とについていうと、普通成人の歯の数は32枚で、その内、第1切歯、第2切歯、が上下4枚づつの8枚、俗に門歯ともいふ野菜類を咀嚼するための歯で、ここで述べている食養法上、これを菜歯と名付ける事が出来ます。次に犬歯が上下2枚づつ4枚、俗に糸切歯といい、肉を噛むための歯で、肉歯と言えます。次に第1第2の小臼歯が上下4枚で8枚、第1第2の大臼歯が上下4枚で8枚、第3大臼歯、俗にいう親しらず歯が上下2枚で4枚、合せて20枚。これが即ち穀類を咀嚼すべき性質の歯で、穀歯と云ふことが出来ます。
其比率は
菜歯2割5分

穀歯6割2分5厘

肉歯1割2分5厘
となります。だから人間の食物は、此の骨に応じて米を主とした穀類を約七割、野菜類を約二割、肉類を約一割の割合に、食べれば良いのです。
それから唾液のことですが、これは動物は生まれつき食物によって性質を異にしています。即ち純肉食動物の唾液の中には殿粉を消化させるに必要な酵素を少しも含有していません。之に反して人間の唾液の中には、殿粉質を消化する酵素を多量に含有しています。これが即ち、人間は肉食動物でないといふ一つの確証です。少くとも人は穀食することによって、その栄養に必要な澱粉質の消化を容易にするだけの酵素を分泌しています。
更に腸の長さにおいても、その動物うまれつきの食物に応じて、各々その長さを異にしています。即ち肉食動物の代表とも見るべき虎の腸の長さは、その全身の長さの3倍程ですが、草類のみ食べている羊の腸はその全身の20倍程もあります。人間の腸の長さはといふと、大腸小腸を合せて26尺(7.8m)ほどあります。次で他動物の身長を計るには、頭頂から尾呂骨俗にいふ亀の尾までを計るのですから、人間もその例に因て腸の長さと、頭から亀の尾までの長さを比較すると、(普通人間の頭から亀の尾まで平均2尺5寸餘也)腸の長さは11倍餘りになります。然らば何故草食動物の腸管が長くて、肉食動物の陽管は短いかといふと、前者はその食物たる植物の繊維によつて腸が刺激されてて蠕動が亢進するから自然長いので、これに反し後者は其の食物中に植物繊維がないので腸の蠕動は緩慢なために短いのです。
夫れからすべての動物にある、腸の下部における腐敗作用に就ついてみると、此の作用はバクテリアにとって、都合のよい環境のために、繁殖が激しく盛んに腐敗が行はれるので、草食動物は其の食物中に多量の木繊維を破壊して消化します、従つてバクテリアが、これらの消化に利用されているので、或る意味において此のバクテリアは、草食動物には大切なものであります。之に反して肉食動物は、普通の消化液にで消化されていますから、腐敗作用の程度においても、丁度その中間に位するのですが何れかと言へば、草食動物の方により近いのであります。── 
以上数項は前述したように石塚式食物治療法中、化学的食養法の概説から必要で興味ある所を抜き出したのですが何処にも現代営養学者のビタミンやカロリーなどいふ言葉は出て来ません。
しかしながら吾々はビタミンの解説はなくしても、亦カロリー云々の学説はなくしても、成程、我々に必要な営養とはこんなものであろう、亦あらねばならないであろう、といふことがうなづけます。
私は恰度、此の項を執筆中、たまたま内科を専門とする某博士と患家で合いました。種々先方は西洋医学の立場から、私は漢方の立場から雑談を交しているうちに、彼氏はこんなことを言ひ出した。ビタミン云々と言っているけれども現在解っているものが、今のビタミンA、B、Cなどであって、実際に吾々人間に必要なものは他に沢山なビタミンなり或は類似のものが有るのではあるまいか、だから例へば蝮蛇の焼酎漬けしたのを民間で強壮剤として賞味して居るのなどは、むしろその全部のビタミンなりホルモンと言つたやうなものが抽出されるのではあるまいか、と言ったようなことを考えさせられる。──
私は期せずして平素の私の持論に一致したので快哉を叫んだのである。
実は此処まで石塚氏の所説を引用した一つの私の目的はその所に有った。であるから目下盛んにビタミンの必要が力説せられ、治療の上にも応用されていのは結構なことであるが一面から考えると、西洋医学のこうした学説はまだまだ進行の途上に有るのであって、今後如何に変るか、如何にビタミンのごときものが増加するか、全く不明なのである。だから学理の研究としては立派なものであるが、唯、是までに発見せられた未完成の学理を実際治療に用い過ぎると、とんでもない結果がもたらせられないとは言えない。
だから私は栄養学上に於ても、既に人間に経験済みのこうした学説を今日の治療家は頭に置くべきではないかと思う。こうした考えに立ち、今日、種々な患者に接する時、私たちは誤まった食養の害毒が意表に出ることを痛切に感ずるのである。
その誤まった食事こそ、即ち漢方の「食毒」と称するものである。
だから吾々人類は腐敗した食物などによっ急性中毒、即ち急性の食毒に害せられることの有るのは勿論であるが、誤った食養によつて知らずしらずの間に食毒の被害を受けつつあるわけである。こうした食毒はやがては吾々の体内に於て血となり或は水毒となる運命をもつて居ることを考へなければならない。
以上