勿語薬室方函+勿語薬室方函口訣 616処方の解説

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―― な ―― 


内疎黄連湯  保命

・方函「治癰疽腫硬、嘔噦、発熱而煩、脈沈実、臓腑秘渋、当急疎利之。
 黄連、芍薬、当帰、檳榔、木香、黄芩、四肢、薄荷、桔梗、甘草、連翹、大黄。右十二味。」
・癰疽発熱強き者に用ゆ。余は主治の如し多味なれども、癰疽内壅の症に至っては、調胃承気湯・凉膈散よりは
 用工合宜し。若此方の応せさる者は千金五利湯に宜。



内補湯(散)  千金

・方函「治癰疽発背已潰排膿生肉。
 桂枝、白芷、人参、桔梗、川芎、甘草、防風、厚朴、当帰。右九味。今加黄耆、名千金内托散。」
・癰疽及痘疹補托の主剤なり。揮発の力弱なる者には反鼻を加ふへし。癰疽に限らす、一切の腫物、初して熱ある時は、
 十敗湯を用い、潰るるや否や分明ならざる時は、托裏消毒飲を用ひ、口潰ることを見定め、其虚実に隨て此方を与ふへし。



―― に ――  


二角湯  本朝経験

・方函「治痿躄。即四物湯方中加鹿角羚羊。」
・小児の萎躄に最効あり。又、背脊腰痛をも治す。一婦人、腰痛甚しく両脚攣急痿軟して歩行する能はさる者を治して効あり。
 痿躄湯は凝結を融解して活血するの能あり。此方は活血して筋骨を強壮にするの効あり。何れも伯伸の間と知るべし。



女神散  家方

・方函「治血虚上衝眩暈、及産前後通治之剤。
 当帰、川芎、桂枝、白朮、木香、黄芩、黄連、人参、甘草、莎草、大黄、檳榔、丁香。右十三味。
 本方中去白朮莎草、加萍蓬根芍薬地黄沈香細辛、名清心湯。」
・元安榮湯と名づけて、軍中七気を治する方也。余家婦人血症に用て、特験あるを以て今の名とす。
 世に称する実母散・婦王湯・清心湯、皆一類の薬なり。



人参散  聖恵

・方函「治熱病後、虚労、盗汗、口苦、不得睡臥、四肢煩痛、舌乾巻渋。
 麦門、人参、芍薬、柴胡、茯苓、黄耆、牡蛎、鼈甲、甘草、右九味。」
・虚熱盗肝が目的にて、骨蒸労熱の初起、柴胡姜桂湯よりは一等虚候の者に用ゆべし。
 咳嗽甚しき者は五味子を加うるなり。



人参湯  金匱

・方函「人参、白朮、乾姜、甘草、右四味。」
・胸痺之虚症を治する方なれども、理中丸を爲湯の意にて、中寒霍乱すべて太陰吐利の症に用て宜し。
 厥冷の者は局方に從て附子を加うべし。
 朮附子と伍するときは附子湯・真武湯の意にて内湿を駆うの効あり。
 四逆湯とは其意稍異なり。四逆湯は即ち、下利清穀を以第一の目的とす。
 此方の行く処は吐利を以って目的とする也。



人参飲子  十便

・方函「治陽毒傷寒、四肢壮熱、心煩、嘔吐、不止、即小柴胡湯方中加麦門竹葉、劉桂山日、潮熱不解者、加鼈甲殊効。」
・小柴胡湯の一等熱甚しく煩渇嘔吐止まざる者を治す。咳嗽には杏仁を加え、潮熱するには鼈甲を加え、
 往年麻疹後の労熱に用て特効あり。其他諸病に活用すべし



人参胡桃湯  百一選方

・方函「治痰喘、経験秘方云、治気壅滞喉下結作成塊。人参、胡桃肉。右二味、或加訶子甘草、治小兒馬脾風。」
・急喘を治する効尤捷なりとす。凡て胡桃は肺気を潤ほし声唖を治す。故に小児馬脾風端鳴声唖虚候に属する者に、
 訶子・桔梗・甘草を加て効あり。又、驚癇後、或は産後或老人の声唖凡て肺虚に属する者に此加味を用て効を奏す。

※馬脾風バヒフウ‥病証名。小児の急性喘証の事で重症に属す。症状として、呼吸が苦しく胸をふくらまして息をし、肺脹喘満・
 鼻翼煽動・二便秘結・神気悶乱などがあらわれる。寒邪が肺気を塞ぎ、鬱して熱となり、肺気不宣を起こしたもの。
 先ず宣肺清熱の法が良く、五虎湯を用いる。続いて利下痰涎の法に良く一捻金・蘇葶丸を用いる。



人参当帰散  局方

・方函「治産後、去血過多、血虚、内熱、心煩、短気、頭痛、体痛。
麦門、桂枝、人参、当帰、地黄、芍薬、粳米、竹葉、右八味。」
・産後内熱虚煩を主とす。産後のみならず、血虚煩熱頭疼体痛の者に宜し。
 又、竹葉石膏湯の症にて血虚を帯れは此方を用るなり。此方の一等軽き者を甘竹湯とす



人参養胃湯  局方

・方函「治外感風寒、内傷生冷、発諸証。厚朴、蒼朮、半夏、藿香、草菓、茯苓、人参、橘皮、烏梅、甘草、生姜、右十一味。」
・不換金正気散より脱化し来て、脾胃を健運し、邪気を開達するの効優なり。故に瘧邪虚に属する者を治するのみならず、
 凡て老人など、胃中湿滞ありて虚熱を釀し、飲食進まざる者を治す。
 又、柴胡・黄芩を加えて小児疳癖の症寒熱有りて瘧に似たる者を治す。浄府散とは虚実の別ありと知るべし。



人参養栄湯  局方

・方函「治脾肺倶虚、発熱悪寒、四肢倦怠、肌肉消痩、面黄、短気、食少作瀉。若気血虚、治変見諸証、
 莫能名状、三因、名御局人参養栄湯。云又治肺與大腸倶虚、咳嗽下利喘乏少気嘔吐痰涎。
 即十全大補湯方中無川芎、有遠志橘皮五味子。」
・気血両虚を主とすれども、十補湯に比すれは遠志・橘皮・五味子ありて脾肺を維持するの力を優なり。
 三因には肺與大腸倶虚を目的にて下利喘乏に用てあり。萬病とも此意味のある処に用ゆべし。
 又、傷寒壊病に先輩炙甘草湯と此方を使ひ分てあり。塾考すべし。又、虚労熱有て咳し下利する者に用ゆ。



人参養栄湯  聖濟

・方函「治肺痿、咳嗽有痰、午後熱並声嘶(せい)者。
 柴胡、桑白、阿膠、桔梗、貝母、杏仁、茯苓、五味子、人参、甘草、枳実、右十一味。袖珍名養肺湯。」
・古名に従えとも袖珍に養肺湯に作るが的切なり。今肺痿の熱症を治する此方に如ものなし。
 若し一等熱候甚しき者を秦亢扶羸湯とす。又、一等虚する者を劫労散とす。此方に云う、
 午後熱声嘶扶羸湯云、寒熱声唖不出刧労散云、微嗽有唾々中有紅線名日肺痿。皆肺痿の主方とすべし。
 又、今所謂虚労なる者は古の肺痿なることを知べし



人参養栄湯  温疫論

・方函「治下後、肢体振戦、怔忡、驚悸、眩暈、鬱冒、循衣摸床、撮空等大盛之証。
 人参、麦門、五味子、地黄、当帰、芍薬、知母、橘皮、甘草。右九味。按生脈散四物湯合方、去川芎加知母橘皮甘草者。」
・生脈散に四物湯を合し川芎を去て知母・橘皮・甘草を加る者也。総虚症の疫に用ゆ。又、温疫大勢解後調理の剤となすべし。
 蓋し又可は人参嫌の人、故、浸の使用古方とは相違す。



忍冬化毒湯  痘疹救逆方

・方函「放点雖密、顆粒克肥、根脚鬆明、而飲食進、神情爽者無伏藏之毒、宜此湯。栗園先生日、諸瘡毒在血分者、此方最捷、不特痘疹也。
 忍冬、連翹、牛蒡、荊芥、牡丹、桃仁、茯苓、木通、甘草。右九味。吾門今称忍冬解毒湯。保赤解毒散、有防風無牡丹桃仁茯苓。」
・三補安貞、痘に計用ゆれとも、惣体血分に渉りて、膿水淋漓する腫物に活用して宜し。

痘トウ:痘瘡、天然痘のこと。


―― ね ――


寧肺湯  楊氏

・方函「治栄衛倶虚、発熱自汗、気短怔忪、安肺、消痰、定喘、止嗽。
 人参、白朮、当帰、地黄、川芎、芍薬、甘草、麦門、五味子、桑白、茯苓、阿膠、右十二味。」
・八珍湯の人参を去り、五味麦門桑白阿膠を加る者にして、肺痿虚敗の者、又は、咳嗽数年を経て血虚骨立する者を治す。
 栄衛倶虚発熱と云が目的なり。若し熱なく虚敗する者は、炙甘草湯加桔梗を佳とす。阿膠は潤燥緩急の能ありて肺部を潤し
 咳嗽を緩むるのみならず、痢に用れば裏急を緩め、淋に用れは橛迫を解き、其他諸失血帯下に用う。皆潤燥を主とするなり。

※怔セイ:おそれる。心臓がドキッとする。 怔忪セイショウ:驚き恐れる。
※橛ケツ:短い木のくい。棒ぐい。きりかぶ。くつわ、馬の口にふくませておく道具。
※迫:せまる。くるしむ。白にはぴったりとくっつく意味がある。しんにょうは行くことる。