勿語薬室方函+勿語薬室方函口訣 616処方の解説 

青文字は語句の略説緑文字は生薬の略説 です。
□や・が治らない場合は、ブラウザーのキャッシュをクリアすると正しく表記されることがあります。


―― は ―― 


排雲湯  山脇方函

・方函「治風眼。黄連、黄芩、細辛、大黄、車前子、甘草。右六味。
 或加茯苓名薏苡湯、逆気上衝、眼中血熱、或生翳。」
・原風眼の病なれとも、風眼には先づ大青竜湯加車前子にて発汗し、後柴圓(紫円)を用て峻下すべし。
 其以後熱の軽重を詳にし加減涼膈散か此方を與ふべし。



排膿散料  金匱

・方函「枳實、芍薬、桔梗、鶏子黄、右四味。合排膿湯爲一方。」
・諸瘡瘍を排撻するの効尤も捷なり。其妙、桔梗と枳実と合したる処にあり。即ち、局方人参敗毒散に
 枳穀桔梗連用したるも此方意なり。枳実を発散に用い、当帰を下気に用うるは古本草の説。
 又、此方を煎湯に活用するときは排膿湯と合方して宜し。

※排ハイ:ひらく、おしのける、
※撻:タツ:むちでたたく、、
※捷ショウ:勝つ、早い、はかばかしい、



肺疳方  提耳談

・方函「治胸水。通草、半夏、梹榔、桔梗、木香、丁香、防已、猪苓、沢瀉、右九味。」
・北尾春甫経験に出て、小児疳水肺部に属する者を治す。是より運用して、大人肺部に
 属する水気を治す。支飲の候あれば、苓甘姜味辛夏仁黄湯加葶藶を主とす。
 若、虚候あれは此方が宜しき也。



肺傷湯  千金翼

・方函「主肺気不足、治短気、咳唾、膿血、不得臥。
 人参、炮姜、桂枝、阿膠、紫苑、地黄、桑白、飴糖、右八味。」
・肺痿の主方にて炙甘草湯加桔梗の之く処と克肖たり。但し、此方は咳嗽甚しく咳血止まず、
 不得臥者を主とす。炙甘草湯は動悸甚しく、労嗽行動すること能はさる者を主とす。



肺癰湯  南陽

・方函「治咳唾腥臭、口吐膿、或如米粒、脇肋間隠痛、或徹背、声彼気急、不能臥者。
 桔梗、杏仁、栝楼根、白芥子、貝母、黄芩、甘草、右七味、一方無黄芩有生姜。」
・原南陽の創意にして肺癰初起に用て特効あり。若し寒熱胃痛甚しきものは、柴胡桔梗湯加を
 用て清解の後、此方を與ふへし。臭膿多き者は獺肝散を兼服すべし。



肺癰神湯  必読

・方函「未成即消、已成即潰、已潰即愈。
 桔梗、金銀花、黄耆、白及、薏苡、甘草、橘皮、貝母、葶藶、生姜、右十味。」
・肺癰湯を用て効なく、虚憊咳血不止者に用ゆ。若し一等虚脱する者は、外台桔梗湯か、
 牡台玉案の八宝散を撰用すべし



敗毒剤  香川

・方函「治痛痺、風毒、瘟疫類、一切眼疾、咽痛、一切瘡腫疥癬。
 柴胡、独活、桔梗、川芎、枳実、甘草、茯苓、生姜、右八味。」
・香川秀菴子局方人参敗毒散を刪訂したる者にて、敗毒散の場合へ用ゆべし。
 後の十敗湯は後世荊防散敗毒散の場合なり。



破棺湯  本朝経験

・方函「治膈噎。桃仁、杏仁、桑白。右三味。」
・膈噎よりは痰飲家欬喘して咽痛する者に効あり。破棺は咽喉を透達するの意なり。
 瘡瘍の破棺湯は調胃承気湯のことを謂う也。



白薇湯  本事方

・方函「人平居無苦疾、忽如死人、身不動揺、默默不知人、目閉不能開、口不能言、或微知人、
 或悪聞人声、但如眩冒、移時方寝、名日鬱冒。又名血厥、婦人多有之、徐霊胎日、此病最多、
 而婦科皆不知、無不誤治、白薇、当帰、人参、甘草、右四味。」
・婦人卒倒暈絶の症を治す。白薇は総て血症を治す。千金方産後の諸方徴すへし。

※瘖イン:発声機能の障害などで声の出ないこと、またはその病気。



麦煎散  蘇沈

・方函「治少男室女、骨蒸、婦人血風、攻疰四肢、心胸煩壅。
 鼈甲、大黄、常山、柴胡、茯苓、当帰、乾漆、白朮、石膏、地黄、甘草、小麦、右十二味。」
・乾血労の主薬とす。其人熱甚しく口中臭気かるか、二便臭気甚しきものに用て効あり。又、
 婦人瘀血流注して寒熱甚しき者に効あり。凡、乾血の証熱なくして、羸痩腹満の者は、
 桂枝桃仁湯に大黄䗪虫丸を兼用すべし。



麦門冬湯  金匱

・方函「栗園先生日、按金匱本條無肺痿字、肘後方云、治肺痿、咳唾、涎沫不止、咽燥治渇、
 沈明宗日、余藕擬爲肺痿之主方也、蓋本于肘後。
 麦門、半夏、人参、甘草、粳米、大棗。右六味。或加地黄阿膠黄連。治吐血下血極者、加地黄或石膏。
 治咳血及び血証後上逆者。」
・肘後に云通り、肺痿咳唾涎沫不止、咽燥而渇する者に用るが的治也。金匱に大逆上気と計ありては、
 漫然なれども蓋し、肺痿にても頓嫩にても労嗽にても妊娠咳逆にても大逆上気の意味ある処へ用れば
 大に効ある故、此四字簡古にて深旨ありと見ゆ。 小児の久咳には此方に石膏を加て妙験あり。
 さて咳血に此方に石膏を加るが先輩の経験なれども、肺痿に変せんとする者、石膏を日久用れば
 不食になり、脈力減ずる故、千金麦門冬湯類方の意にて、地黄・阿膠・黄連を加て用れば工合よく
 効を奏す。又、聖恵五味子散の意にて五味・桑白皮を加て咳逆甚しき者に効あり。
 又、老人津液枯稿し、食物咽につまり膈症に似たる者に用ゆ。又、大病後薬を飲ことを嫌い、咽に
 喘気有て竹葉石膏湯の如く虚煩なき者に用ゆ。皆、咽喉不利の余旨なり



白通湯  傷寒論

・方函「葱白、乾姜、附子、人尿、右四味。」
・四逆湯伯仲の薬にて葱白は陽気を通するを主とし、人尿は陰物を假て、其真寒の陰邪と
 一和せしむるの手段にて、西洋舎蜜学の組合とは夐に異なり。

夐ケイ:はるか、とおい



白通加猪胆汁湯  傷寒論

・方函「即白通湯方中加猪胆汁。」
・通脈四逆湯に猪胆を加ると同し。弁彼條に見ゆ、本邦老医伝に云。
 此方唯吐瀉のみならす、中風卒倒、小児慢驚其他、一切暴卒の病、脱陽の症に奇効を建ることあり。
 然れども、目的なしには、用ひられす。即、心下が目的なり、何分一方を働かせ色々に使ふこと肝要なり。



白頭翁湯  傷寒論

・方函「白頭翁、黄連、黄柏、秦皮、右四味。」
・陰部の熱利を主とす。熱利とは外証は、真武などの如くべったりとして居れども、裏に熱ありて咽乾き、
 渇甚だしく便臭気ありて後重し、舌上は反て胎なし。此症者虚弱甚しきものは、阿膠甘草を加えて
 用ゆべし。金匱に産後とあれども一概に拘るへからず。此方又傷寒時、疫等渇甚くして、水飲咽に
 下る時は、直に利する者に宜し。



白頭翁加甘草阿膠湯  金匱

・唯、虚極というは極字六極の極と同義にて、虚憊甚きを云う。阿膠は下利を止を主とす。
 甘草は中気をる也。外台厚朴湯、安石榴皮湯等の阿膠も同意なり。其他、猪苓湯の阿膠は、
 水を利する也。人参養栄湯の阿膠は、咳を止る也。此と混すへからず。
 余は前の白頭翁湯の條に詳にす。



柏葉湯  金匱

・方函「柏葉、乾姜、艾葉、馬汁通、右四味、聖惠治傷寒、吐血不止、去乾姜艾葉、加地黄阿膠。」
・この方は、出血の専薬なり。馬糞水を用て化開し、布を以て汁を濾し澄清するを馬通汁と云う。
 馬通汁を童便に換ても宜し。童便の血を治することは、楮氏遺書に見た。



八神湯  千金

・方函「治心腹痞満、萎黄、痩晰、四肢痿弱、繚戻。
 柴胡、芍薬、鼈甲、茯苓、大黄、乾姜、人参、甘草、右八味。」
・此方、千金に出つ方名なく、小児疳労の主薬とす。然れども虚実の分あり。虚憊の者は医鑑の黄耆湯に
 宜し。実する者此方を用ゆべし。心腹痞満と萎黄手足繚戻が目的なり。黄耆湯は寒熱黄痩腹満が
 目的なり。又、虚実の間にあるものは解労散の之所と知るべし。



発陳湯  徳本

・方函「治発熱悪寒、上衝頭汗出、或下利、或如瘧状発熱。即柴胡桂枝湯方中去人参大棗、加蒼朮茯苓。」
・後世の柴苓湯や小柴胡湯・三白湯の合方よりは簡易にて活用しやすし。凡、邪気表裏の間に位して
 寒熱頭疼腹痛嘔気ありて下利する者、風寒暑湿を論せす、此方を投すべし。



八珍湯  瑞竹〇元戎名八物

・方函「治肝脾傷損、血気虚弱、悪寒発熱、或煩躁作渇、或、名八物。寒熱昏瞶、或胸膈不利、大便不実、
 或飮食少思、少腹脹満等証、即四物湯四君子湯合方。」
・即、四物湯四君子湯の合方にして気血両虚を目的とす。何病にても気血振はさる者、対症の薬を加味して
 用ゆべし。譬は帯下虚憊の者に牛皮消を加て、特効あるか如く種々活用すべし。



八味地黄丸料  金匱、一名腎気丸

・方函「脾胃虚寒、脈沈而細、身冷、自汗、瀉利、溺白、此名陰黄、凡黄疸、脈弱口中和、小便濁、
 困憊殊甚者、効。地黄、山茱萸、薯蕷、沢瀉、茯苓、牡丹、桂枝、附子、右八味。
 治一男子咳嗽、吐血、熱、渇、痰盛、盗汗、夢遺者、本方加麦門五味子而愈、或加牛膝車前子、
 名済生腎気丸。」
・専ら下焦を治す。故に金匱少腹不仁、或は小便自利、或は轉胞に運用す。又、虚腫、或は虚労腰痛等に
 用いて効あり。其内、消渇を治するは此方に限る也。仲景か漢武帝の消渇を治すと云う小説あるも虚
 ならず。此方、牡丹・桂枝・附子と合する処か妙用なり。済生方に牛膝・車前子を加るは一着輪たる手段
 なり。医通に沈香を加たるは一等進みたる策なり。



八味疝気方  福井氏

・方函「主治寒疝繞臍痛、及脚攣急、或陰丸腫痛、或婦人瘀血、血塊作痛、或陰戸突出、腸癰等、
 凡そ小腹以下諸疾、属水閉瘀血者並治。桂枝、桃仁、延胡索、木通、大黄、烏薬、牡丹、牽牛子。右八味。
 臨服点牽牛子末、腹痛者去大黄、名七味疝気方。」
・疝気血分に属する者主とす。当帰四逆加呉茱生は和血の効あり。此方は攻血の能ありて虚実の分とす。
 又婦人血気刺痛を治す。福井にては小腹に瘀血の塊あって脚攣急し、寒疝の形の如き者、或は陰門に
 引き、時々痛みあり。或は陰戸突出する者。又腸癰等にも用ゆ。
 楓亭の識見は、疝は本水気と瘀血の二つに因て痛を作す者の病名とす。故に大黄牡丹皮湯・牡丹五等散・
 無憂散・四烏湯・烏沈湯等の薬品を採擇め一方となす也。此意を体認め用ゆへし。観聚方、烏薬を烏頭に
 作る。誤也。



八味帯下方  名家方選

・方函「治湿熱蘊結、下臭物之類。奇良、当帰、川芎、茯苓、橘皮、木通、金銀花、大黄、右八味。」
・婦人帯下梅毒を兼る者に用て効あり。若し陰中糜爛疼痛甚しく、臭気鼻をふ者は甘汞丸を兼用すべし。
 本朝経験の方にして帯下に闕くべからざる方也。



八物附子湯  千金

・方函「治湿風、体痛欲折、肉如錘刀所刺。附子、茯苓、蒼朮、芍薬、桂枝、当帰、人参、乾姜、右八味。」
・傷寒論、附子湯の症にして其痛一等劇しく精気欠乏の者に用ゆべし



馬明湯①  本朝経験

・方函「治眼疾属先天遺毒者、及結毒入眼、或疳眼等諸証。
 鷓鴣菜、忍冬、紅花、石菖根、馬明退、甘草。右六味。」

馬明湯②  本朝経験

・方函「治胎毒。馬明退、大黄、鬱金、紅花、石膏、甘草。右六味。村上氏方、去石膏鬱金、治一切蟲証、
 又去石膏加乳香名野鼠(?上に既≒蚕)湯。」
・忍冬・石菖根の伍する方
 ①は原南陽の傳にて、胎毒眼に効あり。其内胎毒にて眼胞赤爛膿水淋漓する者能く功を奏す。
 此方②は和田東郭の傳にて嬰児胎毒脇肋の下に在て種々害を爲者を治す。老医の傳に、凡て小児の
 病を診察するに、先ず陰嚢を能くみるべし。若し陰嚢に紅筋ちらちらとある者は、決して其父母の遺病也。
 余之を試るに、胎毒の者は必す陰嚢に紅筋を見し後、遂に悪瘡を発すること有。又、此方の主なり。
 其他小児の瘡瘍胎毒に属する者、忍冬・連翹を加て効あり。
 清川菖軒の経験に、一室女気宇鬱塞、時時身痒を発し、寒熱往来して乾血労の漸とも謂べき証に、
 此後方を用て数旬閉たる経水通し諸症脱然として愈と云。



半夏湯  千金

・方函「主淡飲、辟気、呑酸。栗園先生日、治脚気胃虚嘔逆衝心者奇効。
 半夏、生姜、附子、呉茱萸。右四味。
 呉茱萸加白朮茯苓人参桂枝、名大半夏湯。治痰冷、澼飲、胸膈中不理。」
・痰飲の陰分に陥る者を治すなれども其薬至て単捷ゆえ、中風の痰喘壅盛欲脱者にも脚気虚憊して
 衝心嘔逆する者にも活用して効あり。



半夏散及湯  金匱

・方函「半夏、桂枝、甘草、右三味。」
・冬時寒に中りて咽喉腫痛する者に宜し。発熱悪寒ありても治す。此証冬時に多くあるもの也。
 後世の陰火喉癬とも云べき症にて、上焦に虚熱ありて、咽喉糜爛し痛堪かたく飲食咽に下を治す。
 甘桔湯其他諸咽痛を治するの薬寸効なき者に用て一旦即効あり。古本草に桂枝咽痛を治する効を戴す。
 半夏のれん辣と甘草の和緩を合して其効用を捷にす。古方の妙感するに余りあり。



半夏厚朴湯  金匱

・方函「半夏、厚朴、茯苓、生姜、蘇葉、右五味。」
・此方局方四七湯と名く気剤の権輿なり。故に、梅核気を治するのみならず諸気疾に活用してよし。
 金匱千金に据て婦人のみに用るは非也。蓋し婦人は気鬱多者故血病も気より生する者多し。
 一婦人、産後気舒暢せず、少し頭痛もあり。前医血症として芎帰の剤を投すれども不治。之を診する
 に脉沈也。因て気滞生痰の症として此方を與れば不日に愈ゆ。血病に気を理する亦一手段なり。
 東郭は水気心胸の畜滞して利しかたく呉茱萸湯などを用て倍通利せさる者、及び小瘡頭瘡内攻の水腫
 腹張つよくして小便甚少者、此方に犀角を加えて奇効を取と云。亦、浮石を加て膈噎の軽症に効あり。
 雨森氏の治験に睾丸腫大にして斗の如なる人、其腹を診すれば必ず滞水阻、隔して心腹の気升降せず。
 因て、此方に上品の犀角末を服せしむること百日餘、心下開き漸々嚢裏の畜水も消化して痊、又身体
 巨瘤を発する者にも効あり。此二証に限らず、凡て、腹形あしく水血二毒の痼滞する者には、皆此方にて
 奇効ありと云。宜しく試むべし。

※権輿ケンヨ:物事の始め
※舒暢ジョチョウ:心をのびのびさせる



半夏瀉心湯  傷寒論

・方函「半夏、黄芩、干姜、人参、黄連、大棗、甘草。右七味、千金心虚実門加附子。」
・飲邪併結して心下痞硬する者を目的とす。故に、支飲或は澼飲の痞硬には効なし。
 飲邪併結より来る嘔吐にも、噦逆にも、下利にも皆運用して特効あり。千金翼に附子を加るものは、
 即ち、附子瀉心湯の意にて飲邪を温散させる老手段なり。又、虚労或は脾労等の心下痞して下利する者、
 此方に生姜を加てよし。即ち生姜瀉心湯なり。
 又、利病嘔吐強き者に、無盡藏の太乙丸を兼用して佳なりと云。



半夏白朮天麻湯  試効

・方函「治脾胃、虚弱、痰厥頭痛。
 天麻、黄耆、人参、半夏、白朮、神麹、蒼朮、橘皮、沢瀉、茯苓、麦芽、乾姜、黄柏、生姜。右十四味。」
・痰飲頭痛か目的也。其人、脾胃虚弱、濁飲上逆して、常に頭痛を苦しむもの此方の主なり。
 若し、天陰風雨毎に頭痛を発し、或は一月に二三度宛大頭痛嘔吐を発し、絶食する者は、半硫丸を兼用
 すべし。凡てこの方は、食後、胸中熱、手足倦怠、頭痛睡眠せんと欲する者効あり。
 又、老人虚人の眩暈に用ゆ。但、足冷を目的とするなり。
 又、濁飲上逆の症、嘔気甚しき者は、呉茱萸湯に宜し。若し、疝を帯る者は当帰四逆加呉茱萸生姜湯に宜し。



反鼻交感丹料  本朝経験方

・方函「治失心、及健忘。茯苓、莎草、反鼻、乾姜。右四味。
 医事説約去莎草、加桂枝芍薬芡実丁香、名反鼻交感丹、然不如此方之簡。」
・健忘甚しき者、或は発狂後、放心して痴がいになる者。又は癇鬱して心気快々と楽まさる者を治す。
 牧野侯、発狂語心気鬱塞、語言する能はず。殆癡人の如し。此方を服する一月餘、一夜東台博覧会開館
 の煙火を見て始て神気爽然平に復す。其他数人此方にて治す。反鼻揮発の功称賛すべし。



―― ひ ―― 

百合固金方  通雅

・方函「治肺傷咽痛、喘咳痰血、栗園先生日、虚労肺痿咽痛甚者宜之。
 百合、芍薬、甘草、麦門、当帰、地黄、貝母、桔梗、玄参、右九味。」
・咽痛咳血を主とす。咳血は肺傷湯、麦門冬湯地膠連にて大抵は治すれども、咽痛劇き者に至ては、
 此方に非れは効なし。



白虎湯  傷寒論

・方函「知母、石膏、甘草、粳米、右四味。」
・邪熱肌肉の間に散漫して、大熱大渇を発し、脈洪大或は滑数なるものを治す。
 成無已は、此方を辛凉解散静粛肌表の剤と云て、肌肉の間に散漫して汗に成んとして、今一
 いき出きらぬ者を、辛凉の剤を用て肌肉の分を静粛してやれば、ひへてしまる勢いに発しかけたる
 汗の出きるやうになる也。たとえて言は、糟袋の汗を手にてしめて絞りきって仕舞ふ道理なり。
 是故に、白虎は承気と表裏の剤にて、同し陽明の位にても、表裏倶熱と云4.或は三陽合病と云て
 胃実ではなく表へ近き方に用ゆる也。



白虎加人参湯  傷寒論

・方函「即白虎湯方中加人参。」
・白虎湯の症にして、胃中の津液乏くなりて大煩渇を発する者を治す。故に大汗出の後か、誤下の後に用ゆ。
 白虎に比すれは少し裏面の薬也。是以表症あれは用ゆへからす。



白虎加桂枝湯  金匱

・方函「即白虎湯方中加桂枝。」
・温瘧を治す。温は温病の温と同じく悪寒なくして熱するを云。此病、骨節煩疼が目的にて肌肉の間に
 散漫する邪が骨節まて迫り発せずして煩疼する。故に辛凉解散の剤に桂枝を加て表達の力を峻に
 するなり。他病にても上衝して頭痛なと劇しき者に効あり。中風たちにも用ゆ。
 東洋は此処に白虎加黄連を與ると云。



白朮散  金匱

・方函「白朮、川芎、蜀椒、牡蛎、右四味。」
・妊娠胎寒の者を治す。懐娠中濁水などを漏し、腰冷などを覚る者に用ゆべし。
 大抵は温経湯にて事すむなり。養胎とあれども常服の薬にはあらず。



檳榔散  外臺祕要方

・方函「療吐酸水、毎食即変作酢水吐出。檳榔、茯苓、人参、橘皮、萆薢、右五味。」
・胃中不和、水気ありて呑酸或は、毎に吐水する者に用て効あり。蓋し茯苓飲の症と混ずべからず。
 彼は停飲宿水を吐して後、心胸間に虚気満て不食する者に用ゆ。
 此方は、吐水すれは一旦快然となる者なり。又五苓散の水逆は、水口に入れは即吐する者にて、
 此方の吐水とは夐に異なり。

※夐ケイ:はるか。とおい。



檳榔散  聖惠

・方函「治脚気、春夏防発宜服此、疏風調気。
 檳榔、枳実、大黄、独活、茯苓、羚羊、沈香、川芎、甘草。右九味。」
・年々春夏の交脚気を発し、両脚微腫或は、疼痛をなし、歩覆自由ならす。微熱短気ある者に効あり。
 余嘗て閣老松平周防矦毎年脚疾にて困難せしを此方を與て全愈せり。
 陳修園は此処へ鶏鳴散を用ゆれども此方を以優とす。


―― ふ ―― 


不換金正気散  局方

・方函「治四時傷寒、瘴疫時気、霍乱吐瀉。蒼朮、厚朴、橘皮、甘草、半夏、藿香。右六味、或加茯苓。」
・嶺南方にて山嵐瘴気を去るか主意なり。夫より転して水土に服せさる者、或は壊腹と云て、腹気失常吐瀉など
 する者に用ゆ。原芸庵は、此方五十余通の加味ありて、万病に用いたれどもそれ程に効ある者ず非ず。
 併し不換金と云は古人も珍重したると見ゆ。



復元丹  三因方

・方函「治水腫、喘息奔急、水気盈溢、心腹堅脹。
 附子、木香、茴香、蜀椒、独活、厚朴、蒼朮、橘皮、呉茱萸、桂枝、沢瀉、檳榔、肉豆蔲、右十三味。」
・陰水を治する薬なれども、心腹堅脹と云か目的にて、水のみならす気の凝結か甚だ短気急喘する者に宜し。
 故に余門にては三聖丸の証にて堅脹甚者、此方にて送下す。

※盈エイ・ヨウ‥みちる



復元湯  寿世保元

・方函「傷寒、無頭痛、無悪寒、身微熱、面赤、微渇、目無精光、口出無倫語、脈数無力、此汗下太過、
 下元虚弱、此無根虚火泛上、名日戴陽証、此湯。」
・傷寒陰陽錯雑の者に用ゆ。四逆湯に生脈散を合し、黄連・知母・芍薬を加えたる趣意は、既に陰位に陥り、
 裏は虚寒になりて居れども、表邪は熱甚しく、讝語渇など有て陽症に似たれども、病者元気弱く、
 脈の悪しき者は此方に宜し。

※泛ハン‥うかぶ



伏竜肝湯  千金

・方函「治労傷衝任脈、崩中去血、赤白相兼、或如豆汁。
 伏竜肝、生姜、地黄、甘草、艾葉、赤石脂、桂枝、右七味。」
・崩漏帯下等の症、芎帰膠艾の類を與へ、血は減したれども、赤白相兼、或は豆汁の如き止まさるに宜し。
 若し瘀水計多く下る者は蘭室秘藏の升陽燥湿湯に宜し。



茯苓飲  金匱

・方函「茯苓、人参、蒼朮、枳実、橘皮、生姜、右六味。」
・後世所謂、留飲の主薬なり。人参湯の症にして胸中淡飲ある者に宜し。
 南陽は此方に、呉茱萸・牡蠣を加て澼飲の主薬とす。



茯苓緩中湯  肘後

・方函「緩痃気。即桂枝湯方中加黄芩茯苓枳実。」
・弁見于緩中湯條

※痃気ゲンキ‥痃に同じ。①腹腔内に生じる弦索状の痞塊をさす。後世では臍傍の両側に一本の
  索状の塊状物をなすものとしている。 また両脇の弦急、心肋脹痛を痃気としている。



茯苓杏仁甘草湯  金匱

・方函「茯苓、杏仁、甘草、右三味。」
・短気を主とす。故に胸痺のみならず、支飲喘息の類、短気甚しき者に用いて、以外に効を奏す。
 又打撲にて体痛して歩行すれば、気急して息どしかる者は、未瘀血の盡きざる也。下剤にて下らさるに
 此方を用て効あり。此方、橘皮枳実生姜湯と並列する者は、一は辛開を主とし、一は淡滲を主とし、
 各宜処あればなり。



茯苓桂枝甘草大棗湯(苓桂甘棗湯)  傷寒論

・方函「茯苓、桂枝、甘草、大棗、右四味。」
・臍下の動悸を主とす。大棗は能く臍下の動を治するもの也。此臍下の動悸上に盛なる者を桂枝加桂湯とす。
 桂枝加桂湯の臍下を去て、心下にのみあるを茯苓甘草湯とす。故此三方一類にして相依る者也。
 苓桂朮甘湯は又別に離るる者なり。茯苓甘草湯は、苓桂朮甘湯に似たれども、逆満や目眩はなし。
 若有れは苓桂朮甘湯とする也。此方もと奔豚の水気に属する者を治するか主なれども、運用して澼飲に
 與て特効あり。委きは時還読我書に見ゆ。



茯苓桂枝朮甘草湯(苓桂朮甘湯)  傷寒論

・方函「茯苓、桂枝、朮、甘草、右四味。」
・支飲を去を目的とす。気咽喉に上衝するも、目眩するも、手足振掉するも、皆水飲に因る也。起則頭眩と云か
 大法なれども、臥して居て眩暈する者にても心下逆満さへあれは用る也。夫にて治せさる者は沢瀉湯なり。
 彼方はたとひ始終眩なくしても、冐眩と云ものにて顔がひつはりなとする候ある也。又此方、動悸を的候と
 すれは、柴胡姜桂湯に紛れやすし。然れども此方は顔色明にして表のしまりあり。第一脈が沈緊になければ
 効なき者なり。又此方に没食子を加て喘息を治す。又水気より来る痿躄に効あり。矢張足ふるひ或は腰ぬけ
 んとし、劇者は、臥して居ると脊骨の辺にひくひくと動き、或は一身中脈の処ひくひくとして、耳鳴逆上の効ある
 者也。本論の所謂、久而成痿の症、何病なりどもあらは此方百発百中也。

※掉トウ:=振



茯苓琥珀湯  宝鑑

・方函「治臍腹腫満、腰脚沈重、不得安臥、小便不利。即五苓散方中加琥珀滑石甘草。」
・五苓散に六一散を合して琥珀を加る者にて、五苓は元、小便不利渇を主とする処へ、六一散の甘淡の者を加へ、
 琥珀の力を添て利水の効を立るなり。此方を水気に用るは、同気相求の理にて、水の味に類したる味の淡泊なる者を
 用て滲透せしむる也。



茯苓四逆湯  傷寒論

・方函「即四逆湯方中加茯苓人参。」
・茯苓を君薬とするは煩躁を目的とす。本草云、茯苓主煩満、古義と云へし。
 四逆湯の症にして、汗出煩躁止まさる者、此方に非れは救うこと能はす。



茯苓瀉心湯  外臺祕要方

・方函「茯苓、半夏、黄芩、黄連、乾姜、人参。右六味。
 一方加呉茱萸牡蛎甘草、治久腹痛、吐水及食、漸為澼嚢、然不減飲食則無験。」
・半夏瀉心湯の変方にして、停飲多く心下痞硬する者に宜し。又澼嚢吐水の証嘈囃甚者に用て効あり。



茯苓補心湯  千金

・方函「治心気不足、善悲愁恚怒、衂血、面黄、煩悶、五心熱、或独語不覚、
 咽喉痛、舌本強、冷涎出、善忘、恐走不定、婦人崩中、面色赤。
 茯苓、桂枝、甘草、大棗、紫石英、赤小豆、人参、麦門、右八味。」
・心気不定にて種々妄想を発し、瀉心湯の場合に似たれども、虚候多く顔色青惨なる者に宜し。
 又、婦人亡血の後面色浮種心気爽かならさる者に宜し。

※恚イ=いかる



茯苓補心湯  婦人良方

・方函「治婦人以血旺気衰為本、心生血、肝臓血、今血衰而気盛。由心気虚耗不能生血。此薬専ら補心元之虚、
 調和栄衛、滋養血脈、兼治去血過多、虚労発熱、及吐血咳●、痰喘。
 当帰、川芎、芍薬、地黄、枳実、半夏、茯苓、桔梗、蘇葉、柴胡、橘皮、葛根、人参、木香、甘草、生姜、右十六味。」
・血虚症なれども、気か閉塞して血を運すこと能はす、血遂に欠乏する者を治す。故に、八珍湯・十全大補湯は、
 気血両虚者を治し、此方は血虚し気実する者を治す。一婦人顔色青惨手足の爪悉反皺して営すること能はす。
 医黄胖となし療して効なし。此方を服して全愈。

●は喘か?、手持ち資料では判読できず



附子湯  傷寒論

・方函「附子、茯苓、人参、白朮、芍薬、右五味。」
・真武湯の生姜を人参に代る者也。彼は少陰の裏水を治し、此は少陰の表寒を主とす。一味の変化妙と云ふべし。
 此方千金に類方多し。身体疼痛の劇易に隨って撰用すべし。



附子粳米湯  金匱

・方函「附子、半夏、甘草、大棗、粳米。右五味。一方加丁香縮砂、治胃反甚、服薬而飜者、又胃寒吃逆不止。」
・粳米を用る者は切痛を主とする也。外台腹痛に秫米一味を用ゆ。徴とすへし。此方寒疝の雷鳴切痛のみならず
 澼飲の腹痛甚者に宜し。又外台には霍乱嘔吐に用てあり。

※秫:ジュツ、もちあわ
※澼飲:留飲・懸飮ともいう



附子瀉心湯  傷寒論

・方函「即大黄黄連瀉心湯方中加附子。」
・気痞の悪寒を目的とす。桂枝加附子湯の悪風、芍薬甘草附子湯の悪寒、皆同意なり。
 若し心下痞硬して悪寒する者は、千金翼の半夏瀉心加附子を用ゆべし。



附子理中湯  直指方

・方函「治虚損久痢四肢厥冷、即理中湯方中加附子。」
・理中丸の方後による者なり。理中は専ら中焦を主とする。故、霍乱吐瀉の症にて四肢厥冷する者は、
 四逆湯より反て此方か速に応する也。
 後世にては中寒に用ゆれども、中寒は桂枝加附子湯四逆湯を優とす。



巫神湯  原南陽

・方函「理婦人血暈、発熱或振寒、小便不利、上衝頭暈、悪心、或嘔、或吐、産後諸証、婦人百病、運用多端、
 又云、瘀血結痛。桃仁輩頻用益劇者、有不可攻者。其持重堅守之日、可任用。血熱入膀胱者、是正的、即ち、
 五苓散加木香、黄連、乾姜。本方中去乾姜名香連五苓散。」
・俗間経験方なれども、面白き組合なり。五苓散に大香連丸を合して乾姜を加る者は、血分不和より水気を醸し、
 其上胃中に湿熱を生し、頭眩下痢種々の変症を成す者。其標に眩惑せす此方を持重するときは、以外に効を
 奏するなり。



扶脾生脈散  入門

・方函「治見血後、脾胃虚弱、気喘、精神短少、衂血吐血不止。
 人参、当帰、芍薬、黄耆、五味子、麦門、紫苑、甘草。右八味。血不止者、加白芨効。」
・吐血欬血不止、虚羸少気、或は盗汗出で飲食進まさる者を治す。医通云う、内傷熱傷肺冒喘嗽吐血衂血者、
 生脈散加黄耆甘草紫苑白芍当帰とは、此方のことを云うなり。先輩は此証に阿膠を加て経験すれども、
 余は白芨を加て屡ば吐血の危篤を救へり。



浮萍湯  回春

・方函「治諸風癬疥、癩瘡。浮萍、当帰、川芎、荊芥、麻黄、甘草、芍薬、右七味。」
・瘡疥の発表に宜し。但し大抵は葛根加荊芥将軍にて治すれども、水気ありて発し兼る者、此方を用ゆへし。
 古人天刑病に與れども未た効を見ず。

※将軍:大黄



分消湯  回春

・方函「治中満成鼓腸、兼治脾虚発腫満、飽悶。
 蒼朮、茯苓、橘皮、厚朴、枳実、猪苓、沢瀉、莎草、大腹、縮砂、木香、燈心草、生姜、右十三味。」
・利水中に気を兼て、皷脹の初起に効あり。東郭は水腫心下痞硬小便短少大便秘し、其腫勢ありて指を没せす。
 脈沈実なる者に用ゆ。一説に此方は食皷を主とす。食皷とは噫気呑酸悪食飽悶等の症あるを云う。諸水腫にても
 食後に飽悶の意あるものに用て、大効をとること多しと。




―― へ ―― 


平胃散  簡要

・方函「治胃気不和、調気、進食。蒼朮、厚朴、橘皮、甘草。右四味、加芒硝、治産後胞衣不下者、加硫黄、
 治小兒蟲証腹痛啼哭者、倶妙。」
・後世家は称美すれども顕功はなし。唯だ金匱、橘皮大黄朴硝三味方の軽症に用ひ、或は傷食備急円にて
 快下の後、調理に用て宜し。凡て食後食化せす心下に滞り、又食後腹鳴り下利するときは、反て快き症に用ゆ。
 但だ胞衣て下すに芒硝を加え小児虫症腹痛啼哭を治するに硫黄を加るか如きは、理外の理不可測の妙を寓す
 るものなり。



平肝飲  櫟窓

・方函「治左脇下痞満、宗筋怒脹、不快、栗園先生日、此方優於回春平肝流気飲数等。
 柴胡、芍薬、莎草、青皮、鼈甲、檳榔、莪朮、呉茱萸、甘草、右九味。」
・柴胡疎肝湯と外台治寒冷僻飲方との変製にして、左脇下の痃癖か目的也。蓋し延年半夏湯は痃癖左脇下より
 上肩背に迫るを主とし、此方は宗筋怒脹攣痛を主とす。櫟窓劉教諭の工夫にして回春平肝流気飲に比すれば、
 反て古に近し。



鼈甲散  聖恵

・方函「治脾勞、四肢疼痛、不思飲食、栗園先生日、治虚労、煩熱下利、不思飲食者効。
 鼈甲、芍薬、当帰、茯苓、川芎、木香、柴胡、白朮、黄耆、甘草、人参、右十一味。」
・骨蒸の下利不思飲食者に用て一旦効あり。又一通りの虚労熱有て咳し下利する者は、局方人参養栄湯に宜し。
 聖恵には治脾労とあれども、真の脾労には人参養胃湯か加味平胃散の類に宜し。脾労は外台の説を古義とす。

※骨蒸:伝染性の発熱疾患、骨から熱を発するのでこの名がある



変製心気飲  本朝経験

・方函「治水鬱諸状、心下悸而又硬、胸脇痞拘、膨張、四肢沈重、或解解㑊、或微腫、或麻痺、或拘攣、腰脚引痛、
 肩背強急、或呑酸、或噦噯、或小便難、心下満、或目下微腫、或額與目下其色黒、心志茫乎不楽、頭痛、目眩、
 不熟眠等証。桂枝、茯苓、半夏、木通、桑白、檳榔、蘇子、鼈甲、甘草、枳実、呉茱萸。右十一味。
 気虚、水勢稍甚者加附子、心下水塊殆成窟窠者、加犀角。」
・宝慶集分心気飲の変製なれども、其方反て古に近し。就中水鬱と云か此方の目的にて、其源は、支飲より種種に
 変化したる症に用て効験著し。

※解㑊カイエキ:病名。精神の困倦()・肢体の懈怠(解)を覚える病。虚損、消渇あるいは熱性病の後に発生する。
 消痩、少気懈言などを伴う。これは肝腎が虚損したり、精血の不足によって起こる。
※窟:あな。  窠:くぼみ。



―― ほ ―― 


防已湯  千金

・方函「治風歴節四肢疼痛、如槌鍛不可忍者。防已、茯苓、白朮、桂枝、生姜、烏頭、人参、甘草、右八味。」
・歴節痛甚しく腫気を帯る者に用ゆ。歴節痛甚く屈伸しかたき者は烏頭湯なり。腫気ありて痛堪えがたき者、
 此方に非れば効なし。



防已湯  産実

・方函「治姙娠、脾虚、通身浮腫、心腹脹満、喘促、小便不利。防已、桑白皮、蘇葉、茯苓、木香、右五味。」
・妊娠の水気に用て意外に効あり。其他男女に論なく皮水に用ゆべし。



防已黄耆湯  金匱

・方函「防已、黄耆、甘草、蒼朮、生姜、大棗、右六味。」
・風湿表虚者を治す。故に自汗久しく止まず、皮表常に湿気ある者に用て効あり。蓋、此方と麻黄杏人薏苡甘草湯
 と虚実の分あり。彼湯は脉浮汗不出悪風者に用て汗を発す。此は脉浮にして汗出悪風の者に用て解肌して
 愈ゆ。即ち、傷寒中風に麻黄桂枝の分あるが如し。身重は湿邪也。脉浮汗出は表虚する故なり。故に麻黄を以て
 発表せず、防已を用て之を駆る也。金匱治水治痰の諸方防已を用るもの気上に運びて、水能く下に就くに取る也。
 服後、如虫行及腰以下如氷云々、皆湿気下行の徴と知るべし。



防已地黄湯  金匱

・方函「防已、桂枝、防風、甘草、地黄、右五味。」
・老人男女ともに老耄して妄語狂走する者を治す。金匱中風に属してあれども是は失心風の類とも云べき也。
 一老婦、面目手足微腫ありて心気楽まず、人に対すれば落涙愁傷し、他余症なきもの此方を用て全愈せり。

※老耄ロウボウ:おいぼれ。耄は80または90才。



防已茯苓湯  金匱

・方函「防已、黄耆、桂枝、茯苓、甘草、右五味。」
・皮水を主とすれども方意は防已黄耆湯に近し。但し朮を去り、桂苓を加る者は皮膚に専にゆく也。
 一人身体肥胖運動意の如ならず、手足振掉し、前医、桂苓朮甘真武の類を投じ、或は痰の所為として、
 導痰化痰の薬を服せしめ、更に効なき者。此方にて愈ゆ。又、下利久々治せず利水の薬にて愈えかたき者、
 此方を用て意外に治することあり。又、水腫腹堅硬にして是を按すに潤沢なく、譬えば、革袋に水を盛て、
 其上をさする如くかさかさして堅く腫るは、陽気の脱なり。此方に附子を加て効を奏すること有。



撲樕湯  本朝経験

・方函「痛風、痛痺、鶴膝痺、風毒腫、並皆治之。
 撲樕、大黄、忍冬、木通、防風、独活、川芎、牛膝、附子。右九味。一方去木通川芎牛膝附子、加桂枝甘草、
 治諸毒在肌表将発。又去川芎牛膝附子、加甘草、名除痛解毒湯、治骨節疼痛、兼黴毒者。」
・和製にて諸家に類方多く、有通風風毒梅毒などの骨節疼痛荏苒として諸漢方の効なき者、一向に専用して
 意外に効を奏す。土骨皮最主薬なり。多量大剤にして用ゆべし。土骨皮の効は前遺糧湯の條下に弁す。

※土骨皮:撲樕のこと



補血湯  試効

・方函「治肌熱、燥熱、目赤、面紅、煩渇引飲、脈洪大而虚。黄耆、当帰。右二味。
 血虚脾胃不足者、合六君子湯妙、此方本出于千金、名当帰補血湯。」
・試効方に白虎湯疑似の症を治するように論すれども、其実は唯不の血熱を治する。耳四物湯など反て泥恋して
 服し兼るものに用て効あり。脾胃不足の者、六君子湯を合して八珍湯よりは反て捷効あり。

※泛:うかぶ、ひろくろ、くつがえす
※捷効ショウコウ:素速い効きめ



浦公英湯  奥方函

・方函「醸乳剤。蒲公英、当帰、莎草、牡丹、薯蕷。右五味。」
・醸乳の剤諸家数方ありと雖、此方尤簡にして効あり。乳泉散と其功伯伸仲す。
 浦公英は春初嫩葉を羹にして食して醸乳の功あり。

※嫩:ドン・ノン。わかくて柔らかい。
※羹:キョウ、あつもの。肉と野菜を入れて煮た吸い物。



補腎湯  中川捧心方

・方函「治寒疝、肚腹疼痛、泄瀉胸滿痞塞、或虚火上攻、舌胎不食、疝徴積聚編、治腰痛諸治、無効者。
 沈香、人参、蒼朮、茯苓、黄耆、木瓜、乾姜、附子、蘇葉、川芎、甘草、独活。右十二味。」
・疝癥積聚篇にも出て疝積の主方とす。吾門にては、大三脘湯の症にして虚寒に属する者に用て大に験あり。
 又、老人固冷の症に空気(腸内ガス)を帯ふるもの極て宜し。



補中治湿湯  医林

・方函「治腫脹、補中、行湿、利小便。
 人参、蒼朮、茯苓、橘皮、麦門冬、当帰、木通、黄芩、厚朴、升麻。右十味。
 按済世全書、無当帰木通升麻、有澤瀉白朮、名補気建中湯。治鼓腸元気脾胃虚損。
 宜補中行湿利小便切不可下。」
・補中行湿して腫脹を去るの手段、面白き用ひ場あり。一溪道三氏屡経験せし。故一溪の立方の様に謂へども
 医林集要の方なり。復済生全書に当帰木通升麻を去り、沢瀉白朮を加て補気建中湯と名け、皷脹を治す。
 目的は同意なり。



補肺湯  千金

・方函「治肺気不足、逆満上気、咽中悶塞、短気、寒従背起、口中如含霜雪、言語失声、甚者吐血。
 五味子、桂枝、麦門、大棗、粳米、桑白、款冬、乾姜。右八味。」
・麦門冬湯の一層咳嗽甚しき処へ用ゆ。寒従背起口中如含霜雪と云か目的なり。肺痿熱候なき症にままあり。
 甘草乾姜湯と参照すべし。一説に此症必ず頭頂冷て咳する者也と云。柴胡姜桂湯も水飲なき咳に用て効あり。
 然れども彼は熱ある者、此は熱なき者を分とする也。



牡蠣沢瀉散  傷寒論

・方函「牡蛎、沢瀉、括蔞根、蜀漆、葶藶、商陸、海藻。右七味。実者加大黄。」
・腰以下の水気を治すとあれども、腰以上の水気に用て効あり。其之く所は虚実間にある者なり。
 若実する者は大黄を加うべし。劉教諭蔵庭の経験なり。此方服しかたき者は、傷寒五法の沢瀉牡蠣湯を用ゆへし。



奔豚湯  金匱

・方函「半夏、葛根、芍薬、当帰、川芎、黄芩、李根皮、甘草、生姜、右九味。」
・奔豚気の熱症を治す。奔豚のみならず婦人時気に感し熱あり、血気少腹より衝逆する者に即効あり。
 独嘯菴、奔豚気必ずしも奔豚湯を用いず。と謂はれたれど、余門にては奔豚湯必ずしも奔豚を治する
 のみならずとして活用するなり。



奔豚湯  肘後

・方函「療卒厥逆上気、々叉両脇、心下痛満、淹欲絶、此謂奔豚病。
 桂枝、半夏、人参、呉茱萸、甘草、生姜、右六味。」
・此方は前湯の熱候なき処へ用ゆ。且つ虚候あり方中の呉茱萸一切気急ある者を治す。
 腹症奇覧翼には、積聚の套剤とす。故に、一切の積気に因て下より心下に升り痛み、
 或は嘔し呼吸短気死せんと欲するを治す。