勿語薬室方函、勿語薬室方函口訣 全616方

<一部用語解説を付けてみました>

2つをまとめ、註を付けました。外字部分が□と表記されている所があります。
順次訂正中です。広島での修行中、富士通のワープロオアシスLotus123付きで電子化したのが
始まりでもう30年以上経ちました。その頃はウインドウズも無い時代でした。
仕事が終わって帰宅したあと色々な文献を参考にしてチマチマとキーボードで入力していました。
今は便利なソフトもあるしネットで古い文献を読める便利な時代になったものです。
OSがをアップグレードする度に文字コードが変わり外字の文字化けが頻発しました。
用語の解説は、漢方用語大辞典等を主要文献としています。
自分のパソコンではちゃんと読めますがネットにアップしたら文字化けすこともしばしばです。


──  あ ── 

 

阿膠散  小児薬症直訣

・方函「治小児肺虚、気粗喘促。阿膠、馬兜鈴、牛蒡、杏仁、甘草、粳米。右六味一名補肺散。」
・労嗽にて諸薬効なく声唖痛して咽喉不利する者に宜し。麦門冬湯と伯仲にして潤肺の効は勝れりとす。

*労嗽ロウソウ~咳嗽の一種。労咳・虚労咳嗽・火鬱嗽ともいう。肺結核による咳嗽、及び過労、酒色過度により内臓が損傷
 されておこる咳嗽をいう。⇒労瘵、肺労
*労瘵ロウサイ‥①病名。伝染性の慢性の消耗性疾病をいう。肺結核に類する。肺癆・癆瘵ともいう。また労極・伝尸労・
 尸注~蝶(虫が歹)、転注、鬼注などの名がある。この病の経過は緩慢で伝染する。
 労により正気が傷られ、正が邪に勝てず、労虫に感じて起こる。悪寒・潮熱・咳嗽・喀血・飲食減少・肌肉消痩・疲乏無力・
 自汗盗汗・舌紅・脈細数などがあらわれる。治療には滋陰降火・清肺殺虫の法がよい。②虚損の重症。
*唖ア啞‥①おし、②話すことが出来ないこと。瘖インに同じ
*伯仲‥①兄と次の弟。②技能などの優劣の差がないこと
*馬兜鈴‥ウマノスズクサの成熟果実、苦寒肺大腸経、清肺止咳・降気平喘

   

安肝湯  安藤昌益伝

・方函「治小児腹膨脹、青筋出、肌膚甲錯、或喜唾、或虫候者。
 使君子、檳榔、大腹、蓮肉、楊梅、蜀椒、苦参、附子、木香、硫黄、右十味。」

・小児腹満青筋の症、陰陽錯雑虚実混淆(コンコウ)して世医脾疳抔の方を施し死せず愈す。
 如何ともしかたき者此方を用て意外に効を奏す心得て試むべし

*混淆(交)コンコウ‥①色々ものが入りまじること。また、入れまぜること。〈同義語〉溷淆。②本来区別すべきものを一つにすること。
*脾疳‥五疳
の一つ。疳積・食疳・肥疳ともいう。乳食の不節制により脾胃の虚損や栄養不良を引き起こしたもの。
*五疳‥五臓の分類に応じて命名された疳証。心疳(驚疳)、肝疳(風疳)、脾疳(滾疳)、肺疳(気疳)、腎疳(急疳)
※本方は大部分が虫下しの薬、今ではほとんど使われない薬

 

安神益志湯  寿世保元

・方函「治傷寒、虚煩、心驚、微熱、四肢無力、体倦者、又治六七日別無刑剋証候、昏沈不知人事、六脈倶静者。
 柴胡、人参、麦門、知母、竹茹、五味子、茯苓、当帰、地黄、黄連、遠志、甘草、右十二味。」

・傷寒の壊症にして、六経正面の諸薬効なく復温疫論抔の方も応せす。労疫にも非す、百合にも非す、
 余熱荏苒として解せず。六脈倶静にして精神振はざる者に験あり。

*荏苒シ゛ンサイ‥物事がのびのびになること 

 

安神養血湯  温疫論

・方函「治勞復、熱甚、虚甚。
 地黄、当帰、芍薬、茯苓、橘皮、桔梗、遠志、酸棗、竜眼肉。右九味
・労復の虚熱を解す。大抵は小柴胡湯・麦門冬湯の類にて治すれども虚熱去らざる者は、此方を用ゆべし

*労復‥差後勞復ともいう。差は病の愈ゆること。病が初め愈え、労に因って再び発すること。病後気血がまだ回復せず、
 あるいは、余熱がまだ残っていると、労働過度、飲食不節・七情の過度・房労・飲酒などが再発の誘因と成る。
  

 

安中散  和剤局方

・方函「治遠年日近、脾疼、翻胃、口吐酸水、寒邪之気留滞於内停積不消、脹満、攻刺腹脇、及婦人血気刺痛。
   延胡索、良姜、縮砂、茴香、桂枝、牡蛎、甘草。右七味。」

・世上には癖嚢の主薬とすれども吐水甚き者には効なし。痛甚者を主とす。反胃に用ゆるにも腹痛を目的とすべし。
 又婦人血気刺痛には癖嚢より反て効あり。

*荏苒シ゛ンサイ‥物事がのびのびになること
*澼嚢ヘキノウ‥胃下垂・胃アトニー症・胃拡張のように胃内停水のある病

*胃反(翻・飜)イハン‥反胃、翻胃ともいう。食後脘腹が脹満し、朝に食すると夕暮れに吐し、あるいは夕暮れに食すると朝に吐す。
 その吐いた物は、不消化物であり、元気なく、舌は淡紅色で、脈は細く無力であり、食べると反って出るのでこの名がある。


 

--い--

 

医王湯(補中益気湯) 「内外傷辨惑論」

・方函「治脾胃乃傷、労役過度、損耗元気身熱頭痛或滑不止、不任風寒、気高而喘、又治発汗後二三日、
 脈芤、面赤、悪熱、或下利二三行、舌上有胎或無胎、而不欲食、喜熱飲、食難進、重者不寝、問有讝語妄言、
 眼赤。黄耆、甘草、人参、升麻、柴胡、橘皮、当帰、白朮、右八味。
 加麦門五味子、名味麦益気湯、又称医王合生脈、加乾姜附子、名姜附益気湯、加芍薬茯苓、名調中益気湯。

・元来、東垣、建中湯・十全大補湯・人参養栄湯なとを差略して、組立し方なれば、後世家にて種々の口訣あれども、
 つまり小柴胡湯の虚候を帯る者に用ゆべし。補中だの益気だの升堤だのと云う名義に泥(ナス゛)むべからず。

・その虚候と云ものは、①手足倦怠 ②言語軽微 ③眼勢無力 ④口中生白沫 ⑤失食味 ⑥好熱物 ⑦当臍動悸
 ⑧脉散大而無力
 等、。八症の内一二症あれは此方の目的となして用ゆ。

・其他、薜立齊か所謂、飲食労役而患瘧痢等証因脾胃虚而久不能愈だの龍雲林の所謂、気虚卒倒中風等症因内傷者
 だのと云処に着眼して用ゆべし。前に述る通り、少陽柴胡の部位にありて、内傷を兼る者に與れは間違なき也。
 故、婦人男子共に虚労雑症に拘らず、本方を長服し効を得ることあり。婦人には最効あり。
 又、諸痔脱肛の類疲れ多き者に用ゆ。又、此症にして煮たてたる熱物を好むは附子を加うべし。
 何ほど渇すといへども附子苦しからず。

泥ナス゛む=こだわる

 

葦莖湯  金匱要略

・方函「葦莖、薏苡仁、桃仁、花瓣。右四味」
・平痰にして思いの外、効あるもの也。微熱と胸中甲錯とを目的とすべし。
 胸に甲錯あるは蓄血あるが故なり。蓄血なくとも咳血のあるに宜し。
 若し咳嗽甚しきものは四順散を合して効あり。
 福井風亭は肺癰に先ず準縄の瀉白散を用い、効なきときは此方を用と云

  

已椒藶黄丸料  金匱要略

・方函「防已、椒目、葶藶、大黄。右四味。随証或加芒硝。」
・元、腸胃の間に留飲ありて水腫に変する者に効あり。四肢の浮腫よりは腹脹満を主とすべし。
 腹堅実の者には芒消を加ふべし。此芒硝は木防已去石加茯苓芒硝と同意にて、
 実を挫き利水を主とする也。方後に渇するものに加ると在に拘るべからす

 

 

痿症方  秘方集験

・方函「当帰、芍薬、杜仲、牛膝、黄耆、蒼朮、地黄、知母、黄蘗。右九味。」
・福井楓亭の経験にて腰以下痿して不起者の初起に効あり。若し、津液竭之咳嗽等の症あらば
 加味四物湯を與ふべし。但、脚気の痿症には此二方よりは済生腎気丸・大防風湯の類に宜し。

 

葳蕤湯  本朝経験

・方函「治虚弱黴毒。葳蕤、遺糧、当帰、川芎、鹿角、木通、黄連、甘草。右八味、
 黴瘡約言去鹿角苷(草冠に甘)加芩芍芐沈名麟角解毒湯通治結毒。」

・漫遊雑記に出て虚憊の梅毒或骨痛或は上逆して耳鳴或頭鳴り或は目悪き等に用ゆ。
 又毒の咽喉に就て腐らんとし或は鼻梁をさんとするに効あり。蓋、熱候ありて汞剤附子など
 用ひ難き処に宜し。若熱無く虚憊甚だしき者は六度煎を與ふべし。

憊=疲れる
苷(草冠に甘)‥甘草、    芐‥地黄、    遺糧‥山帰来
 

 

胃風湯  「和剤局方」

・方函「治風冷乘虚、入客腸胃水穀不可、泄瀉注下、及湿毒下如豆汁、或下瘀血。
 人参、茯苓、川芎、桂枝、当帰、芍薬、白朮、粟米、右八味」

・素問いわゆる胃風には非ず。一種の腸胃の不和より泄瀉に非ず、滞下に非ず、水穀化せずして、
 稀と血液と漏下して止まず。顔色青滲荏苒歳月を延者を治す。
 蓋し、甘草瀉心湯・断利湯の如きは上焦に属し、此方は下焦の方に属する也。

荏苒:物事がのびのびになること

 

胃苓湯  回春

・方函「治、脾、胃不和、腹痛泄瀉、水穀不可、陰陽不分。
厚朴、橘皮、甘草、蒼朮、豬苓、沢瀉、茯苓、桂枝、右八味。」

・平胃散五苓散の合方なれば、傷食に水飲を帯る者に用いて宜し。
 その他、水穀不化して下利或いは、脾胃不和して水気を発する者に用ゆべし。
 回春に所謂陰陽不分とは太陰に位して陰陽の間に在症を云うなり。

 

李仁湯  聖惠

・方函「郁李、桑白、黒豆、橘皮、蘇子、茅根。右六味

・眼科青木氏の家方にして水腫の套剤とす。実腫には極めて効あり虚腫には斟酌すべし。

套剤:日常頻繁に用いる常用方剤

 

郁李仁湯  本朝経験

・方函「治、面目手足浮腫、小便不利者。
 郁李、蘇子、防已、青皮、杏仁、茯苓、大黄、白桃花、生姜。右九味」

・虚実間の水気を治す。就中、水気上体に盛にし、心腹脹満或は短気ある者に効あり。
 聖恵に郁李・杏仁・橘皮・防已・蘇子・茯苓の六味の方あれども此方より其効劣れり。

  

遺糧湯  中西深斎(1724-1803)

・方函「治黴瘡、或身疼痛者。遺糧、忍冬、大黄、荊芥、防風、川芎、撲樕。右七味。」

・中西家の伝にて梅瘡下疳の初起に解毒剤より発表の効あり。応じ易し。初起の骨節疼痛にも用ゆ。
 毒劇者は七宝丸を兼用すべし。此方、土骨皮を伍するに皆あり。
 先哲の伝に毒気頭上に上衝すること劇き者は土骨皮を主として天麻を加ることあり。
 又、和方に土茯苓を不用して土骨皮を用ることあり。功能大抵土茯苓と相類すと見ゆ。

   遺糧‥土茯苓、山帰来。サルトリイハ゛ラの根茎。風湿を除き脾胃を健やかにし、関節を利し、黴瘡癰瘡を治す。
    土骨皮‥クヌギの幹の皮(撲樕;の一部)
 

 

茵荊湯  本朝経験

・方函「治下血不止、身體萎黄、或浮腫者。茵陳、荊芥、蒼朮、茯苓、猪苓、沢瀉、蒲黄、鉄粉。右八味。」

・竹中文慶の家方にして痔血久しく不止、面色委黄、身体浮腫、短気目眩して行歩する能はざるを治す。
 又、脾労下血して水気ある者を治す。此方利水中に止血鎮墜の意を寓する故、運用して以外の効を奏するもの也。
   萎黄‥黄疸の黄ではなく、失血による黄色のこと

 

茵陳蒿湯  傷寒論

・方函「茵陳、梔子、大黄。右三味。千金茵陳湯、本方中加黄芩黄連・人参・甘草。」

・発黄を治する聖剤なり。世医は黄疸初発に茵陳五苓散を用ゆれども非なり。
 先ず此方を用て下を取て後、茵陳五苓散を与うべし。二方の別は五苓散の條に詳にす。
 茵陳は発黄を治するを専長とす。蓋、湿熱を解し利水の効あり。
 故に、蘭室秘蔵の拈痛湯、医学綱目の犀角湯にも此品を用て発黄のみには拘らぬ也。
 山梔子・大黄と伍するときは利水の効あり。方後に云、尿如皀角汁とこれなり。
 後世にても加味逍遙散・龍胆瀉肝湯などの梔子は皆清熱利水を主とする也。
 但、此方発黄に用るは陽明部位の腹満小便不利を主として用ゆべし。
 若心下に鬱結ある者は大柴胡湯加茵陳反て効あり、若虚候ある者は千金茵陳湯に宜し。

  

茵陳五苓散

・方函「即五苓散方中加茵陳」

・発黄の軽症に用ゆ。小便不利を主とするなり。 故に聖剤総録に此方、陰黄身如橘色小便不利云々を治すと云う。
 陰黄の証、巣源に詳に見えて陰症のことには非ず。唯熱状なき者を云。
 若此方の証にして熱状ある者は梔子柏皮湯及び、茵陳蒿湯を撰用すべし。
 又、黄胖には鉄砂散を兼用すべし。東垣、酒客病を治するに此方を用ること最得たりとす。
 平日酒に酔い煩悶止ざる者に與て汗を発し小便を利する老手段なり

黄胖:病名、全身の皮膚が黄色になり顔や足がむくみ、動悸、息切れを伴う。食労疳黄、黄腫、脱力黄ともいう

 

茵陳散  聖濟

・方函「治傷寒後、熱在心中、恍惚多驚、不得眠睡。
 茵陳、柴胡、芍薬、茯苓、黄芩、麦門、梔子、犀角、甘草、生姜、竹葉、地黄。
右十二味」

・医学綱目、犀角湯の原方にして、傷寒導赤各半の症にて熱心下に結留し、数日解せざる者に用て効あり。
 雑病には犀角湯反て捷効を奏す

茵陳散  醫通

・方函「治骨槽風。茵陳、荊芥、薄荷、連翹、麻黄、升麻、独活、姜蚕、細辛、大黄、牽牛子。右十一味。」

・骨槽風を治すが主なれども、凡て牙歯疼痛歯断腐爛して諸薬効なき者に用ゆ。
 兼て上部瘀毒上衝して項背強急する者を治す。骨槽風は難治の症なれども初起此方を用ゆるときは善治を得るなり

骨槽風:病名、穿腮毒・牙叉発・穿腮発ともいう(漢辞p37 


 

―― う ――

 

烏頭湯  金匱要略

・方函「麻黄、芍薬、黄耆、甘草、烏頭、蜜。右六味。」

・歴節の劇症に用て速効あり。又白虎風痛甚しきにも用ゆ。白虎風の事は聖剤総録に詳なり。
 不可屈伸と云が目的なり。一婦人、臂痛甚く不可屈伸昼夜号泣衆医治を盡して治する能はず。
 余、此方を用て速に治す。又腰痛数年不止せんとする者少翁門人中川良哉此方を用ひ腰に芫菁膏を貼して全治す。
 青洲翁は嚢癰に用て効を奏せり。此方は甘草分量少なく且つ、蜜を加されは効なし。
 此二味能く血脈を和し筋骨を緩むるなり。

佝僂クル‥せむし、cf.くる病(佝僂病)
臂痛ヘキツウ・ヒ゛ツウ‥ヒジの痛み   臂‥①うで、かいな。ⓐ肩から手首まで、ⓑ肩から肘まで、ⓒ肘から手首まで。②ヒジ。

烏頭桂枝湯  金匱要略

・方函「即桂枝湯方中加烏頭蜜。」

・寒疝の主剤也故に腰腹陰嚢にかけ苦痛する者に用ゆ。後世にては附子建中湯を用れども、
 此方蜜煎にしたる方が即効あり。又失精家常に腰足冷て臍腹力なく脚弱く羸痩腰痛者、此方及大烏頭煎効あり。
 証に依て鹿茸を加え或は末とし加入するも佳あり。

 

烏梅丸料  傷寒論

・方函「烏梅、細辛、乾姜、黄連、当帰、附子、蜀椒、桂枝、人参、黄蘗。右十味。」

・蛔厥は冷痛すもの也痛や煩は発作して止もの也軽き症には起る時はかり厥する者あり。
 柯琴は蛔厥のみならす凡て厥陰の主方とす。最厥飲は寒熱錯雑の症多き故、茯苓四逆湯呉茱萸湯の外は、
 汎く此方を運用して効を奏すること多し。故に別に蛔虫の侯なくしても胸に差こみ痛ある者に用ひ、
 又、反胃の壊症に此方を半夏乾姜人参丸料にて送下して奇効あり。又能久下痢を治するなり。
 

 

烏冷通気湯  回春

・方函「治一切疝気無問遠近寒熱。烏薬、当帰、芍薬、香附、山査、陳皮、茯苓、白朮、玄胡、沢瀉、木香、甘草、生姜。右十四味。」

・後世疝の套剤とすれども疏気利水力主意にて寒疝諸症温散和中の薬効なき者に用て通気の験著るし。
其他婦人両乳痛甚しき者、小児陰嚢急痛する者に與て即効あり。通気二字玩味すべし。

玩味:がんみ、詩文を読んでその意味を考え味わう

 

温経湯  金匱要略

・方函「呉茱萸、当帰、川芎、芍薬、人参、桂枝、阿膠、牡丹、生姜、甘草、半夏、麦門。右十二味。」

・胞門(子宮頸部)虚寒と云か目的にて凡婦人血室虚弱にして月水不調腰冷腹痛頭疼下血種々虚寒の侯ある者に用ゆ。
 年五十云々に拘るへからす。反て方後の主治に拠るへし。又下血の証唇口乾燥手掌煩熱上熱下寒腹塊なき者を
 適証として用ゆ。若癥塊あり快く血不下者は桂枝茯苓丸に宜し。其又一等重き者を桃核承気湯とするなり。

 

温清飲   回春

・方函「治婦人経脈不住、或如豆汁、五色和雜、面色萎黄、臍腹刺痛、寒熱往来、崩漏不止。
 当帰、芍薬、地黄、川芎、黄芩、黄蘗、黄連、梔子。
右八味。」

・温と清と相合する処に妙ありて婦人漏下或は帯下或は男子下血久不止者に用て験あり。
 小栗豊後の室下血不止十余、面色萎黄腰痛如折両脚微腫ありて衆医手を束ぬ。余此方を與て全癒。。

 

温胆湯  千金

・方函「治大病後、虚煩不得眠、此胆寒故也。
 半夏、枳実、甘草、竹筎、生姜、橘皮、茯苓。右七味。本無茯苓、今従三因、或加麦門人参、或加黄連酸棗。

・駆痰の剤也古人淡飲のことを胆寒と云。温胆は淡飲を温散する也。
 此方は霊枢流水湯に根抵して其力一層優とす。後世の竹茹温胆・清心温胆等の組方也。

 

温肺湯  月海雑録

・方函「麻黄、杏仁、五味子、桂枝、甘草。右五味。」

・麻黄湯に五味子を加る者にて外感の咳嗽甚しき者を治す。三拗湯五拗湯よりは其効著し。

 

温脾湯  千金

・方函「治下久赤白連年不止、反霍乱脾胃冷実不消。
 大黄、人参、甘草、乾姜、附子。
右五味。又本方中去甘草加桂枝、治積久冷熱、赤白痢、
 儈深方治脾気不足、虚弱下利、上久下出、即本方。

・温下の極剤とす。桂枝加大黄湯大黄附子湯に比すれは其力尤強し。脾胃冷実と云か目的也。
 本事方も茲(ここ)に本づきて連年腹痛泄瀉休作無時者を痼冷の所為として温下するなり。
 傷寒六書の黄龍湯も此意にて結熱利に用ゆる也。久瀉不巳証に此方の応する処あり。
 泄瀉に限らす温薬効なき証に大黄と附子と組合せ寒熱交へ用ゆること深味あり心得へし

 

温脾湯  晋済本事方

・方函「治痼冷在腸間、連年腹痛泄瀉、休作無時、服諸熱薬不効、宜先取去、然後調治易差、
 不可畏虚以養病也。即千金温脾湯方中去人参加厚朴桂枝。

・千金方に胚胎す千金熱痢門の温脾湯は即四逆加人参湯に加大黄冷痢門は去甘草加桂心。
 本事方は去人参加甘草厚朴倶に六味とす。其病症に適して取捨すべし。
 畢竟は仲師桂枝加大黄湯大黄附子湯の意に本きて皆温下の剤也。

本方は参苓白朮散(和剤局方)の加減方

雲林参苓白朮散 回春

・方函「治気虚泄瀉、凡虚瀉者、飲食入胃即瀉水穀不化、脈微弱是也。
人参、白朮、茯苓、縮砂、薯蕷、藿香、橘皮、乾姜、肉豆蔲、訶子、蓮肉、甘草、生姜、燈心草。右十四味。」

・局方の参苓白朮散よりは収濇の力優とす。故に胃虚下痢不止者に効あり

 


―― え ――

営実湯  本朝経験

・方函「滌宿水。営実、大黄、甘草。右三味。

・疎滌の効至て捷なり実証の水気腹満には即効あり又疝より来る水気に宜し。旧友神戸儒員沢熊山嘗て疝塊あり
 夏秋の間水気を醸し陰嚢腫大両脚洪腫腹満如皷諸治水の剤寸効なし。此方を服し三貼にして徹し五貼にして
 全く愈。蓋利水の品郁李仁は上に係りて桃花より緩に営実は中位に在て牽午子に比すれは最峻なりとす。
 又其尤峻なる者を甘遂とし其甘遂の重を巴豆とする也。旦下痢後大渇を発す宜く千金の緑豆湯を服せしめ
 其渇を防くべし

 

益気聡明湯  試効

・方函「治飲食不節、労役形体、脾胃不足、内障耳鳴、或多年目昏暗、此薬令目広大。
黄耆、人参、甘草、蔓荊子、升麻、葛根、芍薬、黄蘗。
右八味。」

・老人なと心思労動して目暗耳鳴する者に効あり真の青盲なとの内障には更に効なし

 

益元湯  六書

・方函「治傷寒論、微熱煩悶、面赤、脈数無根、上熱下冷。即寿世復元湯方中去芍薬加艾葉」

・復元湯と同じことにて陰陽錯雑の治方なり。本邦の医は既に柴胡四逆抔と云者を用ゆれども
 上盛下虚には既済湯外熱裏寒には復元湯上熱下冷には増損四順湯吐云様に規則を正くして用ゆべし

 

越婢湯  金匱要略

・方函「麻黄、石膏、生姜、大棗、甘草。右五味。或加附子。」

・脾気を発越すと云か本義にて、同じ麻黄剤なれども麻黄湯大青竜湯とは趣を異にして、
 無大熱汗出と云か目的也。故に肺脹皮水等に用て、傷寒溢飲には用ひず。
 又論中の麻杏甘石湯も此方と一類の者なり。

 

越婢加朮湯  金匱要略

・方函「即越婢湯方中加蒼朮、或随証更加茯苓附子」

・裏水とあれども、越婢湯方後に風水加朮四両とあれば、風水の誤りと知るべし。
 朮を加うるものは湿邪に麻黄加朮湯を與ふると同手段なり。千金に附子を加えて脚弱を治するも、
 風湿の邪の為に脚弱する者にて、即ち今の脚気痿弱なり。

 

越婢加半夏湯   金匱

・方函「即越婢湯方中加半夏。」

・肺脹を主とす。其症して上気喘ありて気急し甚支飲に似たり。
 然れども、支飲の喘は、発胸痛或は手足厥冷して気急し側臥すること不能。
 肺脹の上気は熱勢つよく卒に発して目脱するか如き状あり。
 然れども側臥しかたきに非す。半夏と石膏と伍するときは破飲鎮墜の効あり。
 小青竜加石厚朴麻黄湯も同しことあり。又、心下に水気あり。
 或脇下痛に欠盆に引者は小青竜加石膏に宜きなり。

 

延年半夏湯  外臺祕要方

・方函「主腹内左肋痃癖硬急、気満不能食胸背痛。
 半夏、柴胡、別甲、桔梗、呉茱萸、枳実、檳榔、人参、生姜。
右九味。」

・痃癖の主方とす。其中東郭の説の通り、呉茱萸は左部に在者に最効あり。
 又、脇肋の下よりして肩背につよく牽痛する者に宜し。
 若痃癖にても胸背より腹中に及て拘急する者は、外台柴胡鼈甲湯を宜とす。
 又、黄胖に用るに平胃散と上下の別あり。此方は病上に位して胸満気急するを目的とす。
 平胃散は病膈下にありて気急の症なし。

 


―― お ――

 黄耆湯   直指小児

・方函「治疳勞、回春云、疳勞、喘咳、虚汗、骨蒸、滑而腹瀉、少食者。
 黄耆、人参、別甲、当帰、地黄、茯苓、橘皮、川芎、芍薬、蝦蟆、半夏、柴胡、使君子、生姜。右十四味。」

・浄府散と表裏の方にて浄府は血気に少しも虚なく心下或は両肋下或は右或左に凝ありて攣急あり。
 腹堅くして渇をなし或下利をなし或下利せすとも発熱つよく脈も盛なるを標的とす。
 此方は既に日数を経て血気虚耗する故発熱の模様も骨蒸と云て内よりむし立る如くなり。
 且盗汗出る也此蒸熱盗汗と五心煩熱とを此方の標的とすへし。
 故に小児疳労の虚証にて後世の所謂哺露奚寧なとと云処に用ゆる也。
 又婦人の乾血労疳より来る者に活用して奇効あり。是旧同僚小島学古の治験なり。

 

黄芩湯   傷寒論

・方函「黄芩、甘草、芍薬、大棗。右六味。」

・少陽部位下利の神方なり後世の芍薬湯なとと同日の論に非す但同し下利にても柴胡は往来寒熱を主とす。
此方は腹痛を主とす故に此症に嘔気あれは柴胡を用すして後方を用る也

 

 

黄芩加半夏生姜湯   傷寒論

・方函「即黄芩湯方中加半夏生姜。」

・辨見于上

 

黄土湯   金匱

・方函「舊注云、主吐血、衂血、下血、此方不論先便後血、吐血衂血、脈緊者効、崩漏脈緊者亦主之。
阿膠、黄芩、黄土、甘草、白朮、附子、地黄。右七味。」

・下血陰分に陥る者収するの意あり。先便後血に拘らず脈緊を以て用るが、此方の目的なり。吐血衂血を治するも、
此意にて用ゆべし。また崩漏緊脈に効あり、又傷寒、熱、血分を侵し、暴に下血する者、桃核承気湯、犀角地黄湯等
を与て血止まず、陰位に陥り危篤なる者、此方を与えて往々奇験を得たり。

※舊=旧

 

黄連湯  傷寒論

・方函「黄連、甘草、乾姜、桂枝、人参、半夏、大棗。右七味。」

・胸中有熱胃中有邪気と云か本文なれども喩嘉言か湿家下之舌上如胎者丹田有熱胸中有寒。仲景亦用此湯治之の説
 に従て舌上如胎の四字を一徴とすへし。此症の胎の模様は舌の奥ほと胎か厚くかかり少し黄色を帯ひ、舌上潤て
 滑かなる胎の有ものは假令腹痛なくとも雑病乾嘔有て諸治効なきに决して効あり腹痛あれは猶更のこと也。
 又此方は半夏瀉心湯の黄芩を桂枝に代たる方なれども、其効用大に異なり。甘草乾姜桂枝人參と組たる趣意は
 桂枝人参湯に近し。但彼は恊熱利に用此方は上熱下寒に用の黄連主薬たる所以也。按に此桂枝は腹痛を主とす
 即千金生地黄湯の桂枝と同旨也

 

黄連阿膠湯   傷寒論

・方函「黄連、黄芩、芍薬、阿膠、雞子黄。右五味。」

・柯韻伯の所謂少陰の瀉心湯にて病陰分に陥て上熱猶去らす心煩或は虚躁するものを治す故に吐血咳血心煩して
眠らす五心熱して漸漸肉脱する者凡諸病日久しく熱気血分に浸淫して諸症をなす者毒痢腹痛膿血止ます。
口舌乾く者等を治して験あり。又少陰の下利膿血に用ることもあり併し桃花湯とは上下の辨別あり。又疳瀉不止者
と痘瘡煩渇不寐者に活用して特効あり

  

黄連解毒湯   外臺祕要方

・方函「治時疾、苦煩悶、乾嘔、口燥、呻吟、錯語不得臥。黄連、黄芩、黄蘗、梔子。右四味。」

・胸中熱邪を清解するの聖剤也。一名倉公の火剤とす其目的は梔子豉湯の証にして熱勢劇しき者に用ゆ。
苦味に堪かぬる者は泡剤にして與ふへし。大熱有て下利洞泄する者或病等の熱毒深く洞下する者を治す。
又狗猫鼠なとの毒を解す又喜笑不止者を治す是亦心中懊憹のなす所なれは也。亦可氏は此方の弊を痛く
論すれども実は其妙用を知らぬ者なり。又酒毒を解するに妙なり。外薹の文を熟読すへし。又外薹に黄柏を
去大黄を加て大黄湯と名く。吉益東洞は其方を用し由証に依て加減すへし

  

黄連橘皮湯  外臺祕要方

・方函「療冬温未即病、至春被積寒所折、不得発、至夏得熱、其春寒解、冬温毒始発出肌中、斑爛隱疹、
如錦文、而咳、心悶、嘔吐清汁、眼赤、口燥、下部亦生瘡、已自得下利。
黄連、橘皮、杏仁、麻黄、葛根、枳実、厚朴、甘草。右八味。」

・時毒の一証にて頭瘟になれは柴胡桔石牛蒡芩連の之所なれども其邪肌膚を侵して赤斑を発し心煩下利する者
に用て効あり。其一等劇者を六書三黄石膏湯とす。又其邪陰分に陥り内攻せんと欲する者温疫論挙斑湯とす。
此三方にて大抵時毒の斑は治するなり

 

乙字湯   原南陽

・方函「理痔疾、脱肛痛楚、或下血腸風、或前陰痒痛者、諸瘡疥誤枯薬洗伝頓愈、後上逆鬱冒如気癖、纎憂細慮、
或如心気不定者、並主之。
柴胡、大黄、升麻、黄芩、甘草、当帰。右六味。本有大棗、今代以当帰更効。」

・原南陽の経験にて諸痔疾脱肛痛楚甚く或は前陰痒痛心気不定の者を治す。南陽は柴胡升麻を升提の意に用たれ
どもやはり湿熱清解の功に取るかよし其内升麻は古より犀角の代用にして止血の効あり此方甘草を多量にせされは効なし

 

 


―― か ──

 

解急蜀椒湯   外臺祕要方

・方函「主寒疝気、心痛如刺、繞臍、腹中盡痛、白汗出欲絶。即、
大建中湯附子粳米湯合方、本無人参、今従大建中湯。

・大建中と附子粳米湯とを合したる方にて其症も二方に近く寒疝心腹に迫りて切痛する者を主とす。
烏頭桂枝湯と其証髣髴たれども上下の分あり。且烏頭桂枝湯は腹中絞痛拘急転側を得さるか目的とす。
此方は心腹痛水気有て腸鳴するを目的とす。又寒疝腹痛腹満雷鳴して嘔吐する附子粳米湯の之処あり。
然れども此は彼より其症つよし。
又此方は附子粳米湯の症にして痛心胸に連らなる者を主とす此方は亦蛔痛を治す。

髣髴:よく似る

解労散   楊氏  

・方函「治勞、積気堅硬、噎塞胸脇、引背徹痛。即四逆散方中加別甲茯苓。

・四逆散の変方にて所謂痃癖為労者に効あり又骨蒸の初起に用ゆへし真の虚労には効なし又四逆散の症にして
腹中に堅塊ある者用て特験あり

咳奇方 東郭

・方函「台州方鈴名加味百合地黄湯医法問要久咳方亦同。
麦門、阿膠、百合、乾姜、白朮、地黄、五味子、甘草、桔梗。右九味。」

東郭の経験にて肺痿の咳嗽を治す若し熱に属する者は聖剤人参養栄湯に宜し此方と景岳の四陰煎は伯中の方とすへし

 

廓清飲    景岳全書

・方函「治三焦壅滞気道不清、小便不利、通身腫脹。
厚朴、大腹、沢瀉、茯苓、橘皮、枳実、白芥子、蘿蔔子、右八味。

・導水茯苓湯より簡にして効多し蓋三子養親湯の症にして中焦実する者を治す

壅:ふさぐ

  

楽苓建中湯(がくれい-)    局方

・方函「治藏府虚損、身體痩、腸熱、自汗、将労、退虚熱、千金云、治虚労不足、四肢煩疼、不欲食、々即脹汗出。
黄耆、芍薬、桂枝、麦門、橘皮、甘草、当帰、細辛、人参、柴胡、茯苓、半夏、大棗、生姜。
右十四味、即千金黄耆湯。」

・即千金黄耆湯にて金匱建中諸類を総括する剤なり虚労寒熱あるものの套古とす但肺痿寒熱ある者には効なし
肺痿なれは聖済人参養栄湯を用ゆべし

 

加減逍遙散    寿世保元

・方函「子午潮熱者、栗園先生日、治婦人血熱期時発者奇効。
当帰、芍薬、白朮、柴胡、茯苓、胡黄連、麦門、甘草、黄芩、秦艽、木通、地骨皮、車前子。右十三味。」

・婦人血熱固着して骨蒸状に似たる者効あり就中小便不利或淋瀝する者に宜し

 

加減凉膈散    回春

・方函「治三焦火盛、口舌生瘡。大黄、黄芩、桔梗、石膏、薄荷、連翹、梔子、甘草。
右八味、加桔梗防風菊花木通車前子、療眼疾。

・凉膈散よりは用ひ易く口舌を治するのみならす諸病に活用すへし。古人凉膈散を調胃承気の変方とすれども其方意は
膈熱を主として瀉心諸類に近し故に凉膈散の一等劇しき処へ三黄加芒硝湯を用るなり

  

加味胃苓湯  類萃

・方函「治一切水腫脹満、随証加減、功効如神。
蒼朮、茯苓、猪苓、沢瀉、厚朴、橘皮、蘇葉、莎草、木香、白朮、生姜。
右十一味。

・水穀不化より来る水気治す傷寒差後に用ることあり又痢後風には別して効あり

  

加味犀角地黄湯  回春

・方函「一切吐血、衂血、咳血、喀血、唾血、並皆治之、即千金犀角地黄湯加当帰黄連黄芩。」

・即千金犀角地黄湯方後の加減に本つきたる者にして諸失血に用ひ易し方後に若紫黒血塊胸中気塞加桃将とあれども
如此症には桃核承気湯を用るを優とす辻翁は犀角を升麻に代て治血套剤とす亦千金に拠る者なり
 

 

加味四君子湯  正宗

・方函「治痔瘡痔漏、下血不止、面色痿黄、必忪、耳鳴、脚弱、気乏、及一切脾虚、口淡食不知味、
又治中気虚不能せ攝血、致便血不禁者並効。即四君子湯方中加白扁豆黄耆生姜大棗。」

・下血止ます面色萎黄短気心する者を治す四君子湯と理中湯は下血虚候の者に効あり肛門潰爛して膿血を
出す者は直に四君子湯に黄耆槐角を加て宜し友松子の経験也又痛ある者は四君子に黄耆建中湯を合し
白扁豆砂人を加るに宜し即朱氏二妙散是なり

 

加味四物湯  正伝

・方函「治諸痿、四肢軟弱不能挙動。
当帰、麦門、黄蘗、蒼朮、地黄、芍薬、川芎、五味子、人参、黄連、知母、牛膝、杜仲。右十三味、或去人参加羚羊。

・滋血生津清熱の三功を兼て諸痿を治す凡痿証の初起は秘方集験の一方に宜し若し凝固にして動き難者は
痿躄湯を用ゆへし又筋攣甚者は二角湯を用ること有若壊症になり遂不振者は此方に宜し蓋此方は大防風とは
陰陽の別ありて彼は専ら下部を主とし此方は専上焦の津液を滋して下部に及す其手段尤妙なり

 

加味四物湯  福井

・方函「梅毒有壮熱者、先用此湯、解其熱後用奇良剤。
当帰、地黄、知母、黄蘗、黄連、蔓荊子、梔子、川芎。右八味。」

・能梅毒の壮熱を解す蓋梅毒の熱を解する者小柴胡加龍胆胡黄連に如く者なし若其人血燥して熱解しかたきものは
此方に宜し又梅毒の熱ある者汞剤を投すへからす血燥には土茯苓を用ゆへからす楓亭よく此旨を得たり

 

加味小陷胸湯

・方函「治火動其痰、雜。即小陥胸湯方中加枳実梔子。

・嘈囃に奇効あり外薹小品半夏茯苓湯に心下汪洋煩の語ある本事方囃に作る之を始とす胸のやけること也。
大抵は安中散にて治すれども劇者は此方と呉茱萸湯に非されは効なし

 

加味小柴胡湯  本朝老医伝

・方函「治暑疫恊熱痢。即小柴胡湯方中加竹筎麦門黄連滑石茯苓。

・一老医の伝にて夏秋間の傷寒恊熱利に経験を取りし方なれども余は毎に滑石を去りて人参飲子の邪勢一等重く
煩熱心悶する者を治す又竹茹温胆湯の症にして往来寒熱する者を治す
  

 

加味逍遙散 女科撮要

・方函「即局方逍遥散方中加牡丹梔子。」

・清熱を主として上部の血症に効あり故に逍遙散の症にして頭痛面熱肩脊強り鼻衂なとあるに佳なり。又下部の湿熱を解す
婦人の淋疾龍胆瀉肝なとより一等虚候の者に用て効あり。凡て此方の症にして寒熱甚く胸脇に迫り嘔気等ある者は
小柴胡湯に梔丹を加ふへし。又男子婦人辺身に疥癬の如者を発し甚痒諸治効なき者此方に四物湯を合して験あり。
華岡氏は此方に地骨皮荊芥を加て鵝掌風に用ゆ。又老医の伝に大便秘結して朝夕快く通せぬと云者何病に限らす
此方を用れは大便快通して諸病も治と云。即小柴胡湯を用て津液通すると同旨なり

 

加味升陽除湿湯  済世全書

・方函「治下利、大便裏急後重、数至厠而不能便不拘赤白膿血、慎勿利之、升陽則陰火自退矣。
防風、芍薬、茯苓、葛根、甘草、蘇葉、山査子、独活、木香、乾姜、桂枝、生姜。右十三味。」

・桃花湯白頭翁湯の後重にも非す。又大柴胡湯四逆散の裏急にも非す一種湿熱より来る処の類痢にて裏急後重する者に効あり。
後世痢疾の初起後重甚きにただの升陽除湿湯を用ゆれども効なし此場合は葛根湯にて発汗すれは後重ゆるむ者なり

  

加味寧癇湯  家方

・方函「即寧癇湯方中加橘皮茯苓。」

・余家の経験にして沈香降気湯の症にして一等衝逆甚き者を寧癇湯とす。寧癇湯の症にして一等衝逆劇しく
胸中満悶するを此方とす。橘皮茯苓を加る所以は外臺茯苓飲と同く胸中を主とする也。

 

加味八脈散  

・方函「治鼻常有悪臭、累年不愈。猪苓、沢瀉、茯苓、木通、地黄、蒿本、梔子、杏仁、知母、黄蘗。右十味。」

・鼻淵脳漏の如く臭水を流すに非す唯鼻に一種の悪臭を覚て如何ともし難き者を治す
又鼻塞香臭を通せざる者に用ること有

  

加味理中湯  千金

・方函「即理中湯方中加麦門茯苓」

・理中湯の症にして咳嗽吐痰或は煩渇微腫する者を治す千金に理中湯の加減種々あれども此方を尤古に近しとす

藿香正気散    局方

・方函「治傷寒、頭疼、憎寒壮熱、腹痛、霍乱。
大腹、蘇葉、藿香、白芷、茯苓、厚朴、蒼朮、橘皮、桔梗、半夏、甘草。
右十一味。」

・元嶺南方にて山嵐瘴気を去か主意なり。夫より夏月脾胃に水湿の気を蓄へ腹痛下痢して頭痛悪寒等の
外症を顕す者を治す世に不換金正気散と同く夏の感冒薬とすれども方意大に異なり

 

葛根湯    傷寒論 

・方函「葛根、麻黄、桂枝、芍薬、甘草、大棗、生姜。右七味。或加蒼朮附子」

・外感の項背強急に用ることは五尺の童子も知ることなれども古方の妙用種々なりて議すへからす。譬は積年肩背に凝結ありて
其痛時々心下にさしこむ者此方にて一汗すれは忘るるか如し。又独活地黄を加て産後柔中風を治し又蒼朮附子を加て
肩痛臂痛を治し川芎大黄を加て脳漏及眼耳痛を治し荊芥大黄を加て疳瘡梅毒を治するか如き其効用僂指しかたし
宛も論中合病下利に用痙病に用るか如し

僂指:指を折り曲げる

 

葛根黄連黄芩湯(葛根黄芩黄連湯)    傷寒論

・方函「葛根、黄芩、黄連、甘草。右四味。加紅花石膏名六物葛根湯治口瘡」

・表邪陥下の下利に効あり尾州の医師は小児早手の下利に用て効ありと云余も小児の下利に多く経験せり
此方の喘は熱勢の内壅する処にして主証にあらす古人酒客の表証に壅るは活用なり紅花石膏を加て口瘡を治するも同し

 

葛根加半夏湯    傷寒論

・方函「即葛根湯方中加半夏」

・合病の嘔を治するのみならす平素停飲ありて本方を服し難く或は酒客外感なとに反て効を得るなり
其活用は上に準すへし

  

活血解毒湯  家方

・方函「即解毒剤方中加当帰紅花荊芥。」

・解毒剤の症にして血燥を帯る者に用ゆ。総して遺糧を用ゆる症血気枯燥者当帰麦門山梔紅花の類を加へざれは効なし。
老医の伝なり。又此方に反鼻を加て天刑病に用ゆ。

  

豁胸湯  東郭

・方函「即桑白皮方中加犀角茯苓。」

・和田東郭外台急喘を治する桑白呉茱萸二味方中に犀角茯苓を加て豁胸湯と名つけ脚気毒衝心昏悶欲化を治す。
又沈香降気湯を合して用ることもあり。梧竹棲方雋には此方に沈香甘草洋参を加入参茯苓湯と名くと云る。
之を外台大犀角湯に比すれば其効やや勝るる然れども原之を大犀角湯に取て其方単甬。

甬ヨウ:みち道、もちいる
雋シュン:人並みすぐれていること

  

活絡流気飲 會元

・方函「治流注塊、或痛或不痛者、或発乍寒乍熱、亦日流注風。
木通、羌活、柴胡、升麻、白芷、桔梗、薄荷、当帰、川芎、紅花、甘草、連翹、皀角刺、木鼈子、威霊仙。
右十五味、素稟虚弱、而脈微細者、加人参黄耆、脈洪大者、加玄参天花粉。

・多味なれども流注毒頑固の者を動かすの力あり若膿潰の後は桂枝加朮附托裏消毒の類に宜し

  

括蔞湯かろとう  潜名方

・方函「治胸痺。括蔞仁、橘皮、半夏、枳実、桂枝、桔梗、薤白、厚朴、生姜。右九味。」

・括樓薤白白酒湯は変方にして薤白白酒の激する者此方中庸を得て効あり痰飲胸膈に結し庸忍ふへからす
咳嗽喘鳴気急の者は小陷胸湯に宜し若し胃中伏火ありて咳嗽気急或膠痰を吐き胸痛する者括萋枳実湯に宜し
唯胸中痛背に引て微咳熱候なき者は此方の主也

かろ:瓜呂、括蔞、瓜蔞などいくつか書き方がある  

 

括蔞瞿麥丸料  金匱要略

・方函「根、茯苓、薯蕷、附子、瞿麦。右五味。」

・水気にて小便不利苦渇する者を治する方なれども凡て八味丸の症にて地黄の泥恋して服しかぬる症に用ゆへし
又消渇八味丸の症にして小便不利する者は此方に宜し。蓋此方は火酒を製するような仕掛にて附子下焦の火を
補茯苓薯蕷中焦の土を補括萋根上焦を清し水と火と上下にありて中の水気を蒸たてる趣向也
 

 

寛快湯  直指

・方函「治気不下降、大府渋滞。莎草、烏薬、枳実、縮砂、甘草、橘皮、木香、蘇子、右八味。

・気剤なれども中気を推下するの効ありて大便不通硝黄の剤を投すれは便気益頻数にして通する能はす
 気利とも云へき症に用ゆ畢竟は訶梨勒散の意にてはたらきのある方なり

 

緩中湯  肘後

・方函「即肘後茯苓緩中湯」

・小建中の変方にて能中気をゆるめ積聚を和するの力らあり故に後世には緩痃湯と称するなり但高階の緩痃湯は
柴胡桂枝乾姜湯に鼈甲芍薬を加る者にして此方と混すへからす若助下或は臍傍に痃癖ありて寒熱盗汗咳嗽等
ある者は高階の方に宜し

 

寛中湯  東郭

・方函「半夏、茯苓、厚朴、乾姜、蘇子、かんぞう。右六味。或加呉茱萸。」

・半夏厚朴湯に甘草乾姜湯を合し蘇葉を蘇子に代たる方にして利気を主とす胸中に気あつまりて心下まても及し
気宇鬱塞する者に宜し東郭は婦人の経閉にて気宇鬱塞する者先此方を用て経水通すと云人手の人と云べし

  

陷胸湯  千金

・方函「治胸中心下結積、飲食不消。大黄、黄連、甘草、括蔞仁。大右四味。」

・陷胸湯と小陷胸湯との間の薬也故に一医中陷胸湯と名く結積胸中或は心下にありて拒痛する者を治す
此飲食不消は胸中に邪ある故也。中脘に満なとあれは益宜し又小児食積縒り胸中に痰喘壅盛する者を治す
若嘔気ある者は半夏甘草を加ふへし

 

乾姜黄連黄芩人参湯    傷寒論

・方函「乾姜、黄連、黄芩、人参。右四味。」

・膈熱ありて吐逆食を不受者を治す。半夏生姜諸嘔吐を止るの薬を與て寸効なき者に特に救あれ。
又禁口痢に用ゆ。

 

乾姜人参半夏丸    金匱要略

・方函「乾姜、人参、半夏。右三味。」

・本悪咀を治する丸なれども今料となして諸嘔吐不止胃気虚する者に用て捷効あり

 

乾地黄湯  良方

・方函「婦人傷寒差後、猶有余熱不去、謂之遺熱。地黄、大黄、黄連、黄芩、柴胡、芍薬、甘草。右七味。」

・大柴胡湯の変方にして熱血分に沈淪する者に効あり。故余門熱入血室を治する正面の者を小柴胡加地黄とし
 変面の者を此方の治とする也又傷寒遺熱を治するに参胡芍薬湯を慢治とし此方を緊治とする也

 

甘草湯    傷寒論 

・方函「甘草。右一味。」

・此方も亦其用広し第一咽痛を治し又諸薬吐して不納者を治し又薬毒を解し又蒸薬にして脱肛痛楚を治し
未にして貼すれは毒螫竹木刺等を治す

螫:虫が刺す

甘草湯  腹証奇覧

・方函「治癲癇腹中拘攣、急迫、或腹痛、時々息迫、上衝者。甘草、桂枝、芍薬、阿膠、大黄。右五味。」

・癲癇の急迫を緩むるに効あり柴胡加龍骨牡蠣湯紫円或は沈香天麻湯なと投し反て激動し苦悶止まさる者
此方を用るときは一時の効を奏するなり

  

甘草黄連石膏湯  東洞

・方函「甘草、黄連、石膏。右三味。按本事方名鵲石散治傷寒発狂或棄衣奔走踰垣上屋。

・出処詳ならざるども本事方に石赤散と云て黄連石膏の二味を末とし甘草煎汁にて送下す方あり
東洞此方の意にて用と云今方家参連白虎湯の之処の驚癇に用ゆ又風引湯の劇き症に用ゆ。
又骨の痛に用小児二三歳に至るまて骨格不堅諸薬無効に此方にて治したり。
此方は凡て煩熱渇を主として用ゆへし余此方の症にして吐逆する者に小半夏加茯苓湯を合して効を奏す

  

甘草乾姜湯  傷寒論

・方函「甘草、乾姜。右二味。

・簡にして其用広し。傷寒の煩躁吐逆に用ひ、肺痿の吐涎沫に用ひ、傷胃の吐血に用ひ、又虚候の喘息
に此方にて黒錫丹を送下す。凡そ肺痿の冷症は、其人肺中冷気虚し津液を温和すること能はず、津液て
涎沫に化す。故に唾多く出づ。然れども熱症の者、唾凝て重濁なるか如に非す。又咳なく咽渇せず。
彼遺尿小便数なり。此症に此方を與て甚た奇効あり。又病人此方を服することを嫌ひ、なく只多く涎沫を
吐して唾に非る者は、桂枝去芍薬加皀莢湯を用て奇効あり。
又煩躁なくても但吐逆して苦味の薬用ひ難き者、此方を用て弛るときは速効あり。

 

甘姜苓朮湯(苓姜朮甘湯、甘草乾姜茯苓朮湯)    金匱要略 

・方函「甘草、朮、乾姜、茯苓。右四味。」

・一名腎着湯と云て下部腰間の水気に用て効あり婦人久年腰冷帯下等ある者紅花を加て與れば更に佳なり

 

甘草瀉心湯    傷寒論

・方函「即半夏瀉心湯方中倍甘草。」

・胃中不和の下利を主とす故に穀不化雷鳴下利か目的なり若し穀不化して雷鳴なく下利する者ならは
理中四逆の之処なり外薹水穀不化に作りて清穀と文を異にす従ふべし又産後の口糜瀉に用奇効あり
此等の苓連は反健胃の効ありと云へし

糜:粥に同じ
苓連は芩連(黄芩黄連)ではないかと思われる

 

甘草粉蜜湯  金匱要略 

・方函「甘草、粉、蜜。右三味。」

・蛔虫の吐涎を治するのみならす吐涎なくとも心腹痛甚者に用ゆ故烏梅丸鷓鴣菜湯なとの剤を投して反て虫積痛を
治するに薬の苦味を嫌ひ強與れば嘔噦する者此方に宜し論中毒薬不止の四字深く味ふへし故に又衆病諸薬を
服して嘔逆止まさる者に効あり一婦人傷寒熱甚く嘔逆止ます小柴胡を用て解せす一医水逆として五苓散を與へ
益劇し此方を與て嘔速に差玉函単甘草湯の意にして更に妙

 甘竹茹湯  千金

・方函「竹茹、黄芩、人参、茯苓、甘草。右五味。」

・竹皮大丸料の一等軽き処に用ゆ産後煩熱ありて下利し石膏抔用かたき処に宜し他病にても内虚煩熱の四字を
目的として用れは中らざることなし甘淡音通す淡竹也

  

甘遂半夏湯  金匱要略

・方函「甘遂、半夏、芍薬、甘草、蜜。右五味。」

・利して反て快と心下堅満か目的なり脈は伏して当にならぬもの也一体心下の留飲を去の主方なれども
特り留飲のみに非す。支飲及脚気等の気急喘ある者に用て緩むること妙なり控喘丹も元来此方の軽き
処にゆく者なり又此方蜜を加へざれは反て激して効なし二宮桃亭壮年の時蜜を不加して大敗を取り
東洞の督責を受しこと有忽諸すべからす

 

甘麦大棗湯    金匱要略  

・方函「甘草、小麦、大棗。右三味。」

・婦人藏躁を主とする薬なれども、凡て右の腋下剤傍(臍傍か)の辺に拘攣や結塊のある処へ用ると効あるもの也。
又小児啼泣止まさる者に用て速効あり。又大人の癇に用ること有。病急者食甘緩之の意を旨とすへし。先哲は
夜啼客忤左に拘攣する者を柴胡とし、右に拘攣する者を此方とすれども泥むべからず。客忤は大抵此方にて治するなり。

客忤キャクコ゛:中客・中人・中悪ともいう。①小児が突然外からの刺激・例えば、物事・大きな音・知らない人などに驚いたために、
顏色が青くなり、涎沫を吐し、喘息腹痛し、肢体が瘈瘲し驚癇のような症状をあらわすもの。②ガスなどの中毒によっておこる急性病。

 

甘連湯  松原方函

・方函「小児初生至四五歳、便不和、吐乳、腹脹、滞食、無故発熱、夜啼、腹痛諸証皆主之。甘草、黄連、紅花、大黄。右四味。」

・専ら胎毒を去を主とす世まくりと称する者数方あれども此方を優とす連翹を加て吐乳を治し連銭草を加て驚癇を治し
竹葉を加て胎毒痛を治するか如き活用尤広し
 

 

甘露飲    局方

・方函「治丈夫小児、胃中客熱、牙宜歯爛、目垂欲閉、饑不欲食、及目赤腫痛口瘡、咽腫、瘡疹已発未発、
又療脾胃湿熱、酔飽房勞、黄疸腹満、或時身熱、並宜服之。
生地黄、乾地黄、天門、麦門、枇杷葉、黄芩、甘草、石斛、枳実、茵蔯。
以上十味。華岡青州以此方治舌疳極験。」

・脾胃湿熱と云か目的にて湿熱より来る口歯の諸瘡に用て効あり若上焦膈熱より来る口歯の病は加減冷膈散に非れは効なし
此方は調胃承気湯や瀉心加石膏などを用る程の邪熱にもいたらす血虚を帯て緩なる処に用る也。又黄疸腹満に此方を
用るは茵陳蒿湯等を用て攻下の後湿熱未全く除かさる者に宜し房労には更に効なし
 

 


―― き ――

  

帰荊湯  直指方

・方函「治風痙、昏迷、吐沫、抽掣、背脊強直、産後痙痛用。当帰、荊芥。右二味、酒水煎。」

・直指に風痙とあれども産後の痙病に格別効あり余門にては豆淋酒にて煎服す

 

帰耆建中湯  青州

・方函「治諸病後、虚脱、盗汗出者。即当帰建中湯方中加黄耆、或随証加反鼻。

・青洲の創意にて瘡瘍に用ゆれども虚労の盗汗自汗症に用て宜し外台黄耆湯前胡建中湯
薬令建中湯の類は総て此方に胚胎する也

 

帰脾湯    済生 

・方函「治思慮過制、勞傷心神脾、健忘、征忡。
当帰、白朮、茯苓、黄耆、龍眼肉、酸棗、遠志、人参、木香、甘草。右十味、加柴胡梔子名加味帰脾湯。

・明医雑著に拠て遠志当帰を加へ用て健忘の外思慮過度して心脾二臓を傷り血を摂することならず或は吐血衂血或は
 下血等の症を治するなり此方に柴胡山梔を加へたるは内科摘要の方なり前症に虚熱を挟み或は肝火を帯る者に用ゆ
 大凡補剤を用るときは小便通利少なき者多し此方も補剤にして且利水の品を伍せされども方中の木香気を下し胸を開く
 故よく小便をして通利せしむ主治に大便不調を云は能小便を利するを以大便自止の理なり

 

桔梗湯    傷寒論

・方函「桔梗、甘草、右二味。加生姜大棗名排膿湯加薔薇花治肺痿、虚労咽痛赤爛、多係脱証者」

・後世の甘桔湯にて咽痛の主薬なり又肺癰の主方とす又姜棗を加て排膿湯とす諸瘡瘍に用ゆ又此方に
加味して喉癬にも用ゆ又薔薇花を加て含薬とするときは肺痿咽痛赤爛する者を治す

  

桔梗湯  外臺祕要方

・方函「療肺癰、経時不差。桔梗、木香、地黄、甘草、敗醤、苡、桑白、当帰、右八味。

・肺癰の症葦茎桔梗湯等を與て臭膿減せず日を経て血気衰弱する者を治す又婦人帯下にて肺痿状を見す者に運用すべし

  

桔梗解毒湯  方輿輗

・方函「治黴毒在咽喉、声嗄者、黴瘡約言云、先師遺方療結毒上攻、咽喉腐爛、親験方云、中山法眼玄享家伝。
 遺糧、川芎、大黄、桔梗、黄耆、芍薬、甘草。右七味、本方中去黄耆芍薬加石膏木通名咽疳解毒湯。」

・咽喉結毒の主方なれども凡て上部の結毒に用て宜し咽喉結毒此方にて効なき者は喉癬湯五宝丹を用ゆべし酷毒の者は熏薬に非れは効なし

  

 枳実薤白桂枝湯    金匱

・方函「枳実、厚朴、薤白、桂枝、仁。右五味。」

・胸痺搶逆の勢甚く心中痞結する者を治す括蔞薤白白酒湯一類の薬なれども白酒湯は喘息胸痛を主とし半夏湯は
心痛徹背不得臥を主とし此方は脇下より逆搶するを主とす其趣各異なり元来心気を労し或は忿怒に因り胸塞り痛
をなし津液之か為に一身に布こと能はす疑唾と成て出る者此三方を考用ゆへし薤白の奇効あること後世医は多く
知らす新崎国林能之を用て心腹痛及膈噎反胃を治す

 

枳縮二陳湯   万病回春

・方函「治涎在心膈上、攻走腰背、嘔噦、大痛。
枳実、縮砂、半夏、橘皮、茯苓、莎草、厚朴、茴香、木香、甘草、延胡索、乾姜。右十二味、
丹渓心法二陳湯加枳実縮砂、名枳縮二陳湯、云順気、寛中、消痰飲。

痰飲にて胸背走痛する者を治す先輩の伝に疝にて背痛する者は千金当帰湯を用痰より来る者は此方を用と云

 

枳朮湯   金匱要畧

・方函「枳実、蒼朮。右二味、丹渓為丸、治痞積、消食、強胃。

・心下堅塊ありて水飲を醸す者を主とす。常の積の類に非すして之を按せはとして声あるもの也。
若挫け難者甘遂半夏湯を交用ゆべし。回春の分消湯、実脾飲は皆此方に原く也。
丹渓は此方を丸として痞積を治し食を消す即脾去湿利水の効あれはなり

轆々:車がころがりきしる

既済湯  易簡

・方函「治下利発熱者。即竹葉石膏湯方中去石膏加附子、溯源集小柴胡湯方中去半夏加竹葉麦門附子、名既済湯。

・傷寒上熱下冷の症を主とす外台文仲の方え竹葉石膏湯を竹葉湯と名け天行表裏虚煩不可攻者を療すとあり此症
虚寒の候あれは此方に非れは効なし既済未済の旨能合点して用ゆべし

橘皮枳実生姜湯  金匱要略

・方函「橘皮、枳実、生姜、右三味。」

・気塞短気を主とす茯苓杏仁甘草湯と症を同ふして一は辛開を用ひ一は淡滲を用ゆ医者機に臨て宜を
酌にありただに胸痺のみならす万病皆然

 

橘皮大黄朴消湯    金匱 

・方函「橘皮、大黄、朴硝。右三味。」

・魚毒を解するの主剤とす。橘皮の魚毒を解すること後世方書未た著れされども今橘皮一味を黒焼にして
 骨硬に用るときは即効あり。古方の鱠胸中に或を治する宜也とす。
 有持桂里日此ただに鱠の毒を解するのみならす諸獣魚肉の毒を治すべし。

鱠カイ‥なます

 

橘皮竹茹湯   金匱要畧 

・方函「橘皮、竹筎、大棗、生姜、甘草、人参。右六味。」

・橘皮の下気を主として竹茹の潤降を兼ぬ故に気逆噦を発する者の主とす又甘草を多入か手段なり
若少量なれは効なし傷寒痢疾なとの脱陽して噦する者には効なし雑病の噦なれは月余の者と雖
必効あり若濁飲上逆して噦する者は陽に在は半夏瀉心湯陰に在は呉茱萸湯の主なり若胃気衰脱
奔騰して噦す

 

橘皮半夏湯    医通 

・方函「治感冒解後、咳独不止者。柴胡、蘇子、橘皮、半夏、茯苓、莎草、桑白、杏仁、桔梗、生姜。右十味。」

・桂麻にて発汗後表証は解すれども咳嗽独り不止者を治す。若心下に水気ありて表不解者は小青竜なり。
又小青竜を與て心下水気は去れども咳嗽止ます微熱ある者此方に宜し。

  

亀板湯  本朝経験

・方函「治痿躄。亀板、芍薬、川芎、当帰、地黄、石決明。右六味、一名痿躄湯。」

・痿躄血分鬱して振はざる者に用産後の痿躄に別して効あり又梅毒の痿証に附子の効なき者に用て宜

 

逆挽湯  名古屋玄医

・方函「治一二日微熱泄瀉数十行、而後帯血裏急後重、即桂枝人参湯方中加枳実茯苓。」

・桂枝人参湯に枳実茯苓を加る者にて其手段は逆流挽舟と云譬えにて下へをりきる力らのなき者は一応上へずっと引あけて、
はづみを付れは其拍子に下だる理にて虚寒下痢にて後重する者は桂枝人参湯にて一旦表へ引戻し其間に枳実茯苓にてを
し流すときは後重ゆるむと云意なり。凡後重の証に四逆散あり白頭翁湯あり大承気湯あり訶梨勒散あり桃花湯あり此湯あり。
其後重する所以を弁別して施治すべし

 

芎黄圓料  楊氏

・方函「治風熱壅盛、頭昏、目赤、大便艱難。」

・楊氏家藏方の主治を至的とす但風熱壅盛して肩強急する者は葛根湯に合し心下支飲ありて頭昏目赤する者は
苓桂朮甘湯に合すれは別して効あり又頭瘡耳鳴り等に兼用すべし

艱難カンナン‥苦しみ。なやみ。艱は硬い、むずかしいの意味。艱難辛苦。  

 

芎帰湯  千金

・方函「治去血多、因到眩冒、因悶者、胎前産後、危急狼狽、垂死等証。
川芎、当帰。右二味。合甘草乾姜湯、治見枕重、及月信痛。

・単味にして和血の効捷なりとす。甘草乾姜湯を合して用すべし後世の補血湯は此方の一等虚する処に用るなり。

 

芎帰膠艾湯    金匱

・方函「川芎、阿膠、甘草、艾葉、当帰、芍薬、地黄。右七味。」

・止血の主薬とす。故に漏下、胞阻に用ゆるのみならず、千金外台には妊娠、失仆(しっふ)、傷産、及び打撲、
傷損、諸失血に用ゆ。千金の芎帰湯、局方の四物湯、皆此方を祖とすれども、阿膠の滋血、艾葉の調経、
之に加うるに甘草の和中を以てして、其の効、妙とす。是を以て先輩は四物湯は板実而不霊と云うなり。
又痔疾及び一切下血、此の方を與えて血止むの後、血気大いに虚し、面色青惨、土の如く、心下悸し、
或は耳鳴する者は、三因加味四君子湯に宜し。蓋、此の方は血を主とし、彼は気を主とす。彼此各々其の宜しき処あるなり。

失仆シッフ‥?失神のことか
仆‥たおれる (タフル) 。ぱったりと前にたおれる。「顛仆テンホ゛ク,テンフ(転でたおれる) 」「前仆後継=前仆ルルモ後継グ」、転ぶ。
仆‥撲、使用人、召使い。ボク。

 

杏仁五味子湯  家方

・方函「杏仁、五味子、茯苓、甘草。右四味。」

・茯苓杏仁甘草湯の症にして咳嗽甚者を治す。高年及虚羸の人厚薬に堪かたき者此方にて意外に効を奏す

 

杏酪湯  朝鮮伝

・方函「清俗供客必用云、暑月最佳、今借治咳嗽。杏仁、麦門、氷糖。右三味。」

・本飲料なれども肺痿労嗽其他咳嗽甚者に兼用して宜し

 

強神湯  本朝経験

・方函「治中風、口眼斜、半身不随、喜欠流涎者。紅花、姜蚕、棕櫚葉、甘草。
右四味、或有桑寄生、此方四逆散、附子瀉心湯、桂枝加朮苓附湯、随証合用、世称州辰野中風薬。」

・和州俗間之伝にて中風の妙薬とす其類方四五あり此方を最とす。証に依て四逆散、附子瀉心湯、
桂枝加朮苓附湯に合し用ゆ。其効更に捷なり。

 

翹玄湯  原南陽

・方函「療瘰癧、侠癭、上部腫毒、発疔、或疹後発小瘡、寒熱似状者、此方能瀉鬱火、散結気、通滞血。
連翹、玄参、独活、木通、升麻、甘草、梔子、薫陸。右八味、一云此方山脇玄冲本干外臺癧門而所製。

・山東洋の外台延年玄参湯に本きて組立つと云瘰癧及上部の腫物にて寒熱状に似たる者に用れは
能鬱火を散し気血を通するなりこの方の一等軽き者を逍遙散瘰癧の加減とす

   

奇良附湯  青州

・方函「治黴毒一切痼疾、身体羸痩虚弱、不可與峻剤者。
遺糧、人参、附子、桔梗、桂枝、乾姜、当帰、黄耆、甘草、右九味。

・梅毒の壊症になり陰分に陥り虚羸奈何ともすへからざる者に用ゆ本邦先哲梅毒の虚症を治するに六度煎七度煎
などと云方あれども此方を最優とす故に諸瘍虚候を具へ臭穢近くへからさる者に與て間々効あり


―― く ――

 空倉痘方

・方函「川芎、黄耆、白芷、牛蒡、桂枝、当帰、鹿茸、地黄、白朮、穿山甲。
右十一味、去白芷牛蒡地黄白朮加附子升麻、名再造飲子。

・大保元湯参耆鹿茸湯よりは其力ら一等強くして痘瘡気血不足灌膿する能はさる者を治す
若毒壅を兼る者は透膿散加反鼻を與ふべし

  

駆邪湯  医方問餘

・方函「瘧疾初発、先寒後熱、先熱後寒者、倶用之。
桂枝、乾姜、蒼朮、半夏、附子、柴胡、甘草。右七味、續名家方選加硫黄少許数日連進治勞瘧難截者。

・瘧邪陰分に陥りて数十日解せす瘧労の状を為す者を治す此方の症にして一等虚候を帯る者は医王湯加附子に宜し
丹水子瘧に桂附の剤を用ひられしは巣源に風寒湿の三気より諸病起ると云に拠れり巣氏の説は元来虚邪賊風を題として設けたるなり

   

駆風解毒湯  済生

・方函「治痄腮腫痛。荊芥、防風、独活、甘草、連翹、牛蒡子。
右六味、東郭加桔梗石膏為含薬、治纒喉風」

・原時毒の腮痛を治す。然れども此症大抵は葛根湯加桔石にて宜し。若硬腫久く散せさる者は此方に桔石を加て用ゆべし。
東郭子は纒喉風熱気甚く、咽喉腫痛水薬涓滴も下らす、言語すること能はさる者に此加味の方を水煎し冷水に浸し
極冷ならしめ之を嚥しめて奇効を得ると云。余は咽喉腫塞熱甚き者毎に此方を極冷にして含ましめ口中にて温る程にして
嗽せしめて屢効を奏せり。若咽喉糜爛して腫痛する者は加味凉膈散加竹葉を此方の如く含ましめて効あり

痄サ‥①傷口がふさがらないこと。②病気の重いこと。
痄腮ササイ‥伝染病の一種。耳の下顎の部分が腫れて痛む。
涓滴ケンテキ:しずく

 

苦酒湯(半夏苦酒湯)  傷寒論

・方函「半夏、鶏子白、苦酒。右三味。」

・纒喉風咽中秘塞飲食薬汁下ること能はす。言語出てさる者に用て奇効あり。一関門を打破するの代針と云ふへし。
喜多村栲窓翁は傷生瘡を金創に鶏卵を用るの意にて凡て咽中に創を生する者に用て効ありと云

纒テン:まとう、からまる
纒喉風テンコウフウ‥病名。多くは臓腑の積熱、邪毒の内侵、風痰の上湧によって起こる。症状は喉の内外が紅く腫れて疼痛し、赤い糸のようなものがまとわりつき、
局部がしびれて痒く、甚だしいものは胸前にまで及び、項が強ばり蛇がまとわりつくようである。若し腫れが深く広がって会厭および喉部に到れば、呼吸困難・痰鳴気促・
胸膈のひきつれ、牙関緊急をあらわす。ジフテリア、咽喉膿腫および膿性頷下炎などに類似する。治療は解毒泄熱・消腫利咽の法によく、方は清瘟排毒飲加減を用いる。
また呼吸促迫し、窒息の危険のあるときは気管開術を行う。

  

九味柴胡湯  樞要

・方函「治肝胆経熱毒、瘰癧、或耳内下生瘡、発熱、潮熱、或胆経湿熱、下注、嚢癰便毒腫潰、或小腹脇股結核。
柴胡、黄芩、人参、梔子、半夏、竜胆、当帰、芍薬、甘草、右九味。

・高階枳園の自製にて湿労の主方とす其実は枢要の柴胡湯と龍胆瀉汗湯を取捨したる者なり余湿労を治するに
四等の別あり寒熱止ます羸痩する者を此方とす盗汗不止咳嗽短気胸腹動甚者を柴胡姜桂湯加天石とす
結毒咳嗽して連々虚労状をなす者を湯とす身体酸疼或痿弱微熱ありて気宇不楽荏苒不愈者を逍遙解毒とする也

  

九味柴胡湯  枳園

・方函「治黴毒為勞状者。柴胡、黄芩、木通、当帰、梔子、沢瀉、地黄、車前子、甘草。右九味。」

・小柴胡湯の変方にて凡瘡瘍の寒熱ある者を治す後世の肝経の湿熱と云を目的とすへし但し湿熱下部に専らなる者は
龍胆瀉肝湯に宜く上部に専らなる者は小柴胡湯加龍胆胡黄連に宜し此方は其中位の者を治する也

 

 

九味清脾湯  済生

・方函「治癉瘧、但熱不寒、或熱多寒少。橘皮、厚朴、白朮、半夏、柴胡、黄芩、茯苓、甘草、草菓、右九味。」

・小柴胡湯の変方にて瘧病のみならす熱少陽部位にありて類瘧の状を為す者に効あり蓋朮苓厚朴を伍する者は湿邪を
駆るの意あり若湿邪の侯なく但熱固着して瘧状をなし乾咳なと強き者は東郭経験の小柴胡湯に葛根草菓天花粉を
加る者を用ゆへし又呉又可の逹原飲は此方を脱胎したるもの也

 

九味半夏湯    飲病論 

・方函「是昇提滲利之剤。治飲之主方也。半夏、升麻、猪苓、橘皮、沢瀉、茯苓、柴胡、甘草、生姜、右九味。

・石崎朴庵名淳古宇玄素の発明にて仲景治飲の方大小青竜湯甘遂半夏湯十棗湯の類あれども皆重剤にして容易に用難し
此方は升堤滲利を主として治飲の主剤とす凡飲食の不和より水飲を生し或は其気心肺を熏蒸止頭眩健忘忌種々証侯を
現する者を治すと云中年以後肥満し其人支飲上逆して雲霧の中に居るか如き者余往々用て験あり

九味檳榔湯    家方

・方函「治脚気気腫満、短気、及心腹痞積気血凝滞者。
梹榔、大黄、厚朴、桂枝、橘皮、木香、蘇葉、甘草、生姜。
右九味或去大黄加呉茱萸茯苓原南陽以枳実代木香理脚気々血凝滞為腫者」

・和方の七味檳榔湯の枳実を去り厚朴木香紫蘇を加へたる者なり脚気腫満短気する者唐侍中の一方よりは
服し易くして効あり世医師梹蘇散を用ゆれども此方より大に劣れり

 


―― け ――

桂姜棗草黄辛附湯     金匱要略

・方函「桂枝、生姜、甘草、大棗、麻黄、細辛、附子。右七味。」

・弁上の麻黄附子細辛湯の條に見ゆ茲に一奇説あり仙台工藤不治球日凡大気の一転は万病を治する極意なるに別て
血症の治に専要とせり昔年一婦人労咳を患ふ血気急肌熱手を烙如く肌膚削脱し脈細数也予視て死症とす一医矢て
治すへしとし桂姜棗草黄辛附湯を用て全愈を得たり予大に敬服してこれににて大気一転の理を発明して乳岩舌疸及
諸翻花瘡等数十人を治し得たり翻花瘡に黄辛附湯を用たる意は陰陽相隔りて気の統制なきゆえ血肉其交を失て頑固し
出血にも至る也として金匱の陰陽相得其気乃行大気一転其気乃散と云に本きて此湯を擬したるなり一婦人乳岩結核処々
糜爛し少く翻花のきさしあり時々出血戊午初春に至りて疼痛甚く結核増長して初て臥床にあり正月二十八日黄辛附湯を與て
四五日疼痛退き結核減し床を起て事視ること平日の如しすへて陰陽相得すして労咳をなし血吐血顔色脱して為すへからさ
るに此湯を與て起死回生を得しことありと余らく此湯のみに限らす凡て古方は此意を体認して運用する時は変化無窮の妙を
得へし

  

桂耆湯  彙言

・方函「治傷寒、理虚表実、行発散薬、邪汗不出、身熱煩躁、六脈塞数。即桂枝湯方中加黄耆柴胡人参。

・桂枝加黄耆湯の変方にて外感後自汗不止時々身熱脈虚数なる者を治す此症にて一等もつれたる者は醫王湯加別甲に宜し 

  

桂枝湯    傷寒論

・方函「桂枝、芍薬、甘草、生姜、大棗。右五味。」

・衆方の祖にして古方に胚胎する者有余方あり其変化運用愚弁を待たす

 

桂枝加黄耆湯    金匱要畧

・方函「即桂枝湯方中加黄耆。」

・能く盗汗を治す又当帰を加芍薬を倍して耆帰建中湯の名け痘瘡及諸瘡瘍の内托剤とす
又反鼻を加て揮発の効尤優なり

 

桂枝加厚朴杏仁湯    傷寒論

・方函「即桂枝湯方中加厚朴杏仁」

・風家喘咳する者に用ゆ老人なと毎に感冒して喘する者此方を持薬にして効あり

 

桂枝加芍薬大黄湯    傷寒論

・方函「即桂枝湯方中加芍薬大黄。」

・温下の祖剤なり温下の義金匱に出て寒実の者は是非此策なけれはならぬなり此方腹満時痛のみならす痢病の熱邪薄く
裏急後重する者に効あり一病人痢疾左の横骨の上に当て処を定て径たり二寸程の処痛堪難く始終手にて按し居して
有持桂里痢毒なりとして此方にて快愈せりと云又厚朴七物湯は此方の一等重き者と知るへし

 

 桂枝加附子湯    傷寒論

・方函「即桂枝湯方中加附子

・汗出悪風に用るのみならす其用広し千金には産後の漏汗四肢微急に用てあり後世方には寒疝に用ゆ
又此方に朮を加て風湿或は流注毒の骨節疼痛を治す

 

桂枝加龍骨牡蛎湯     金匱要畧

 ・方函「桂枝湯方中加龍骨牡蛎、小品日、虚弱、浮熱、汗出者、徐桂枝加白薇附子、故日二加竜骨湯。」

・虚労失精の主方なれども活用して小児の遺尿に効あり。故尾州殿の老女年六十余小便頻数一時間
五六度上少腹眩急して他苦しむ所なし此方を長服して愈

厠:便所

 

桂枝去芍薬加蜀漆竜骨牡蛎救逆湯     金匱要畧

 ・方函「即桂枝湯方中去芍薬加牡蛎竜骨蜀漆」

・火邪を主とす故に湯火傷の煩悶疼痛する者又灸瘡にて発熱する者に効あり
牡蠣の末一味を麻油に調し湯火傷に塗れは忽火毒を去其効推して知る

  

桂枝五物湯    吉益東洞

・方函「治上衝咽喉刺痛、或生瘡者、東洞日、治牙齒疼痛者。南涯日、治血毒迫上者、其証牙齒疼痛、両頬腫痛、或舌強痛。
桂枝、茯苓、桔梗、黄芩、地黄。右五味、一名桂枝桔梗湯、或加大黄治有熱不大便者、加石膏治、伏熱者。

・出処未詳されども東洞の経験にて牙歯疼痛或口舌糜爛の症に効あり此方の一等重き者を保元柴胡清肝散とし
清肝散の虚候を帯る者を滋陰降下湯とす

 

桂芍知母湯    金匱要畧

・方函「桂枝、芍薬、甘草、麻黄、生姜、蒼朮、知母、防風、附子、右九味。」

・身体と云か目的にて歴節数日を経て骨節が木のこぶの如く腫起し両脚微腫ありてわるたるく疼痛の為に逆上して
頭眩乾嘔なとする者を治す又腰痛鶴膝風にも用ゆ又俗にきびす脚気と称する者此方效あり脚腫如脱とは足くひ腫て
くつ脱するか如く行歩すること不能を云

  

桂枝桃仁湯  良方

・方函「治経道不通、繞臍寒疝痛徹。即桂枝湯方中加桃仁地黄。」

・虚候の経閉並に乾血労の初起に用ゆ桂枝湯金匱妊娠の首に用て和血の主とす又桂枝桃仁と伍するときは
専ら血分に走る桂枝茯苓丸桃核承気湯と同旨なり

 

桂枝人参湯    傷寒論  

・方函「即人参湯方中加桂枝」

・恊熱利を治す下痢を治するは理中丸に拠るに似たれと心下痞ありて表症を帯る。故金匱の人参湯に
桂枝を加ふ方名苟もせす。痢疾最初に一種此方を用る場合あり。其症腹痛便血もなく悪寒烈く脈
緊なる者此方を與るときはすっと弛む者也。発汗の所宜こ混すへからす。丹水子は此方に枳実茯苓
を加て逆挽湯と名つく是は医門法律に拠て舟を逆流に挽もどす意にて此方と同く下痢を止る手段なり
 

 

桂枝茯苓丸    金匱要畧

・方函「桂枝、茯苓、牡丹、桃仁、芍薬、右五味。
本方中加車前子茅根大黄名桂枝茯苓湯、治瘀血変成水腫者、一方去大黄加琥珀。

・瘀血より来る癥瘕を去るが主意にて、凡て瘀血より生ずる諸症に活用すべし。原南陽は甘草大黄を加へて腸癰を治すと云ふ。
余門にては大黄附子を加へて血瀝痛及び打撲疼痛を治し、車前子・茅根を加へて血分腫及び産後の水気を治するなり。
又此の方と桃核承気湯との別は、桃承に如狂、少腹急結あり、此の方は其癥不去故也を目的とす。
又温経湯の如く上熱下寒の候なし。

 

桂枝麻黄各半湯    傷寒論

・方函「即桂枝湯麻黄湯合方」

・外邪の壊症になりたる者に活用すへし類瘧の者は勿論其他風疹を発して痒痛する者に宜し。
 一男子風邪後腰痛止まず。医疝として療し其病益劇し。一夕此方を服せしめ発汗して脱然として愈ゆ。

 

鶏鳴散    千金方

・方函「治従高堕下崩中。大黄、当帰、桃仁、右三味。

・打撲の主薬なり後世にては此傷へ当帰鬚散など用ゆれども其効大に鈍也とす

 

鶏鳴散  時方歌括

・方函「治脚気第一品薬、不問男女皆可服、如感風湿、流注脚痛不可忍、筋脈浮腫者、並宜服之。
梹榔、橘皮、木瓜、呉茱萸、蘇葉、桔梗、生姜。右七味、此方本出朱氏集験」

・弁は唐侍中一方の條下に詳にす

   

結毒喉癬一方 廣算記

・方函「桔梗、甘草、竜胆、射干、遺糧、山豆根。
右六味、送下牛黄、青州名喉癬湯、腐爛及鼻中者、加辛夷兼用鼹鼠丸」

・桂枝加黄耆湯の変方にて外感後自汗不止時々身熱脈虚数なる者を治す
 此症にて一等もつれたる者は
医王湯加鼈甲に宜し

鼹鼠エンソ‥もぐら

   

解肌湯  外臺祕要方

・方函「主治天行病二三日、頭痛壮熱者、即葛根湯方中加黄芩」

・葛根湯の症壮熱甚く少陽に進まんとする者を治す。故に疫症熱つよく無汗者世医達原飲加麻黄なとを用る
傷にして一殷強く発すへき症あらは此方を與へし其余痘瘡の初起敗毒散を用る症に此方の行く処あり

  

解語湯  永類鈴方

・方函「治心脾経受風、言語蹇渋、舌強不転、涎唾溢盛、及淫邪搏陰神、内昏鬱塞心脈滞、暴不能言。
桂枝、防風、独活、附子、羚羊、甘草、酸棗、天麻、右八味。

・中風の言語渋に虚実の分あり実する者は所謂痰迷心なり。続命湯痰丸の類を用べし甚者は吐剤を與るを佳とす
虚者此方也若内熱ある者は本草彙言一方或は犀角一味を服せしむ又神仙解語丹は此方の一等重き処に用ゆるなり

蹇ケン:ちんば、とどまる
滾:=混、渾、大水が流れる様、たぎる・水がわく 

 

解毒剤(香川解毒剤)   香川

・方函「療黴瘡、便毒、下疳、結毒、発漏、筋骨疼痛諸壊証、及癬黴瘡諸悪瘡、膿淋。
遺糧、川芎、大黄、茯苓、木通、忍冬、甘草。右七味、或加桂枝附子牽牛子、治身體疼痛、或加車前子滑石阿膠。
治毒淋、或加菊花車前子桔梗防風滑石、治湿眼。

・香川氏江州の民間より伝たりと云。捜風解毒湯とは方意を異にして運用尤広とす。
其他諸家の解毒剤数方あれども効用此方にしかず。

遺糧‥山帰来

  

元陰湯  本朝経験

・方函「治傷寒壊証、舌上黒胎乾裂、精神恍惚、津液枯竭、熱劇不可奈者。即六味地黄丸方中加・黄連白芥子、
雨森中牛南日、本方去黄連加防風黄耆、治麻疹緩、数日熱不退者、奇効。」

・本朝老医の伝にて面白き考なり傷寒数日を経て熱解せす壊症ニナル者は鍋に物のこけ着たやうな者なり
無理にこけを取んとすれは鍋を損する也先水を入て潤て置て夫より火にかけるときは其こげか自然と取れる也
傷寒に六味地黄を入れるは先水をさすなり黄連白芥子を加るは火にかける意なり妙譬と云へし
六味地黄の熱疫に効あることは救袖暦にも見ゆ

※瘟:流行病

  

建中湯  活幼

・方函「治痘淡白、頂陥、腹鳴下利、即顫咬牙者。
人参、黄耆、白朮、当帰、川芎、附子、乾姜、桂枝、丁香、甘草。右十味。」

・痘毒内陥して下利寒戦の者を主とす此意にて癰疽諸瘍及産後の下痢止ます寒戦する者に効あり
若毒内攻して下痢戦栗する者は真武湯加反鼻を用ゆへし

  

建理湯

・方函「即建中湯理中湯合方」

・方意相反して効を相同す建中は胃中を潤す薬なり。理中は胃中を燥す薬なり。若胃中潤沢なく血気行をす拘急或腹痛
すれは胃中の水穀益化すること能は遂に内潰して下痢をなす故に二方相合して効を奏するなり。
百々漢陰日人の脾胃と云者は人家の台所にある、はしり京方言関東にては、なかし、と云許を見るやうな者也常に
水を流さざるを得さる処なれは成丈乾くやうに世話をやか子ははしり許か朽る也。人の脾胃も水穀を受こむ処なれは
成丈水気のしてくるやうに乾くやうにせ子はくちて傷む也と此譬にて理中の主意は明了に解する也

譬:たとえ

 

堅中湯  千金

・方函「治虚労内傷、寒熱、嘔逆、吐血。
半夏、大棗、茯苓、芍薬、乾姜、甘草。右七味、本無大棗有大黄、今以茯苓代之、或加当帰、或加呉茱萸。

・小建中湯の変方にて其用広し古方家にては小建中湯加茯苓を用ゆれども此方の伍用かに勝れり

  

蠲痺湯    楊氏

・方函「治風湿相搏、身体煩疼、項臂痛重、挙動艱難、及手足冷痺腰腿沈重、筋脈無力。
当帰、羌活、姜黄、芍薬、黄耆、防風、甘草、生姜。右八味、外科枢要去黄耆防風甘草加白芷遺糧、名蠲痺消毒散、治時瘡肢節筋攣。

・麻痺筋攣の要薬とす風寒湿三気合して痺を成すと云か目的なり又痺症の筋をるに準縄の舒筋湯あり参考すへし

艱難カンナン‥苦しみ、なやみ

 


―― こ ――

 香葛湯  辻本

・方函「治暑熱感冒。即香蘇散方中加桔梗葛根。

暑熱感冒に効あり其他感冒桂麻の用ひ難者斟酌して與ふへし

  

香芎湯    儒門

・方函「治偏正頭痛。石膏、桂枝、川芎、甘草、薄荷、莎草。右六味、中藏経無桂枝薄荷、名香芎散、治一切頭風。

・中藏経の香芎散に本つきたれども張子和の工夫一着高くして偏頭痛には奇効あり若此症にして
肩背強急して痛む者本事方の釣藤散を佳とす

  

香砂六君子    薛己

・方函「治脾胃虚弱、而兼宿食痰気、飲食不進、嘔吐、悪心、或泄利後、脾胃不調、或風寒病後、余熱不退、
咳嗽不止、気力弱者、即六君子湯方中加莎草縮砂藿香。」

・後世にて尊奉する剤なれども香砂の能は開胃の手段にて別に奇効はなし。但平胃散に加るときは消食の力を速にし
六君子湯に加るときは開胃の力を増すと心得へし。又老人虚人食後になると至て眠くなり頭も重く手足倦怠気塞る者
此方に宜し若至て重き者半夏白朮天麻湯に宜し

 

香蘇散    局方 

・方函「治四時温疫傷寒、頭疼、寒熱往来。莎草、蘇葉、橘皮、甘草、右四味。

・気剤の中にても揮発の効あり故に男女共気滞にて胸中心下痞塞し黙々として飲食を欲せす動作に懶く胸下苦満する
故大小柴胡なと用ゆへれども反て激する者或は鳩尾にてきひしく痛み昼夜悶乱して建中瀉心の類を用ゆれども
寸効なき者に與て以外の効を奏す。
昔西京に一婦人あり心腹痛を患諸医手を盡して愈すこと能はす。一老医此方を用三貼にして霍然たり其昔韓の役
清正の医師の此方にて兵卒を療せしも気鬱を揮発せしが故なり。但局方の主治には泥むへからす。
又蘇葉は能く食積を解す故に食毒魚毒より来る腹痛又は喘息に紫蘇を多量に用れは即効あり

  

香朴湯  回春

・方函「治老人中寒下虚、心腹膨張、不喜飲食、脈浮遅而弱、此名寒脹。厚朴、木香、附子。右三味。」

・寒気腹満を治す中寒或霍乱吐瀉の後間此症あり大抵厚朴生姜甘草半夏人参湯の一等重き者と知るへし

  

行気香蘇散  金鑑

・方函「治内傷生冷、飲食厚味堅硬之物、肚腹腸満、疼痛、外感風寒湿気、頭疼、身熱、憎寒、遍身骨節麻木疼痛、
七情嚢悩怒相冲、飲食不下、心腹気痛、栗園先生日、治疝挟内熱、諸薬無効者。
柴胡、橘皮、木香、烏薬、蘇葉、蒼朮、川芎、独活、枳実、麻黄、甘草。右十一味、
偏墜気、増寒壮熱者、加茴香木香莪朮三稜木通。

・香蘇散の症にして滞食を兼邪気内壅して解せさる者に効あり。往年金局吏原健助なる者平素疝塊あり飲食為之化する能はす。
時々外感して邪気遷廷し医諸外感の薬を投して解せす余此方を與て愈後外感毎に此方にて百中す後世の方策亦侮るへからす

  

行湿補気養血湯  回春

・方函「治気血虚弱、腹皷脹、浮腫。
 人参、蒼朮、茯苓、当帰、芍薬、川芎、木通、厚朴、大腹皮、蘿蔔子、海金砂、木香、橘皮、甘草、蘇葉。右十五味。」

・鼓脹の末症に用るなり弁前治鼓脹一方條下に見ゆ

 

甲字湯    原南陽 

・方函「理瘀血、即桂枝茯苓丸料方中加甘草生姜。」

・桂苓丸の症にて激する者に適当す。若塊癖動かさる者は鼈甲を加ふへし

  

侯氏黒散料  金匱

・方函「外薹治風癲、徐胎日、腸腹空虚則邪易留、此填満空隙、使邪気不能容。
菊花、蒼朮、細辛、茯苓、牡蛎、桔梗、防風、人参、黄芩、当帰、乾姜、川芎、桂枝。右十四味。或去礬石。」

・多味繁雑なれども中風の頭痛眩暈甚き者に効あり往時司農川路左衛門尉偏枯を患ひ難奐稍差るの後頭痛甚く
昼夜呻吟不能眠衆医手を束ぬ余此方を與て即効を得たり又先輩辻本氏屡此方を用して見たり

  

厚朴七物湯     金匱要畧

・方函「厚朴、甘草、大黄、大棗、枳実、桂枝、生姜、右七味。」

・桂枝去芍薬湯に小承気湯を合する者にて発熱と腹満か目的なり得効方に陽実陰虚陽盛なれは外熱を生し陰虚すれは
内熱を生す陰虚して宜通すること不能して飲食如故脹満熱脹を為すと云か如く陰虚する故に陽気浮て発熱あり脈も亦
浮なり是表邪に非す又実満に非す方中の桂枝は唯陽気を発起して外表へ出す為なれは即太陰温下の一方とすへし
余は桂枝加大黄湯の條に具す

 

厚朴生姜半夏甘草人参湯     傷寒論 

・方函「厚朴、生姜、半夏、人参、甘草。右五味。」

・中気虚して腹満する者を治す故に古人太陰の主方とす厚朴七物湯や厚朴三物湯の跡にて用ゆることあり
又平胃散の虚症に與て能効あり

 

厚朴麻黄湯    金匱要畧 

・方函「厚朴、麻黄、石膏、杏仁、半夏、乾姜、細辛、小麦、五味子。右九味。」

・小青竜加石膏湯に似たる薬なれども降気の力ら優とす。故に喘息上気に用て効あり溢飲を主とするは小青竜加石膏
を宜とす。又射干麻黄湯と伍にして用。然れども此方は熱強く脈浮なる者に宜し。彼方は熱なきを異なりとす。
又富貴安佚の人膏梁に過て腹満咳をなす者此方に大黄を加て効あり。麻黄大黄と伍すること表裏のやうなれども
千金黒散なとと同意にて面白きはたらきあり。

 

高良姜湯  千金

・方函「治卒心腹絞痛如刺、両脇支満、煩悶不可忍。
良姜、厚朴、当帰、桂枝。右四味、又治肝経受寒、面色青惨、厥而泄利者。

・心腹絞痛を主とす故に只腹痛のみにては効なし少しにても心にかかるを目的とす且痛も劇き程よろしきなり
是以大小建中の治すること能はさる処に奇中す良姜温中の効あり安中散に伍する是と同し乾姜に此すれは
其力一等優なり又厚朴と伍して下利を止む故虚寒下利腹痛の症真武なとにて効なき者を治す
有持氏は疝利の腹に満ある者を目的として用ゆ腹満なき者は当帰四逆真武等の之処とす
又奇効良方の良姜湯は此方の証にして一等腹に凝結ありて下利不食するものなり

 

黒散  千金

・方函「治小児変蒸、中挟時行温病、或非変蒸時而時行者、麻黄、杏仁、大黄。右三味。」

・麻黄湯の変方にして小児暴熱を発し気急喘鳴する者を治す此方の症にして一等重く吐腹膨張する者は本草彙言治小児風痰方を用へし 

 

黒豆湯  家方

・方函「治黴瘡、服軽粉、口中腐爛、歯齗出血不止者。黒豆、桔梗、紅花、大黄、甘草、右五味。」

・軽粉或は甘汞の毒に中り口中腐爛牙根露出飲食咽に入るること能はす疼痛甚者を治す大柢は含嗽煎にて
治すれども其劇毒の者に至ては此方を内服せされは験なし

 

牛車腎気丸   済生 

・方函「治腎虚、腰重、脚腫、小便不利。即腎気丸方中加牛膝車前子、一名加味腎気圓。

・八味丸の症にして腰重脚腫或痿弱する者を治す一男子年三十余年々脚気を患ひ腰重脚軟歩する能はす
冬月は稍差るに似たれども春夏の際に至れは復発すること故の如し余強て秋冬より春末に至るまて此方を服せしめて全愈

 

 五香湯  千金

・方函「治熱毒気、卒腫痛、結作核、或似癰疽而非使人頭痛寒熱、気急者、数日不除殺人。
藿香、木香、乳香、丁香、沈香。右五味、或加反鼻、或加大黄。

・解毒の良方なり凡瘡毒内攻衝心の者此方に非れは救ふ能はす又痘疹の内攻に與て宜し本邦往古の医書には此方に
多く加減して胎毒の主剤とする也。又小児初生に用ゆ此症は色なと青白になり其外何となく陰症を顕はし心下に迫る
気味の者に宜し此一段重を四逆湯とす然れども初生附子を用る場に至れは多難治なり

 

五虎湯    万病回春

・方函「治傷寒喘急、又治虚喘急、先用此湯表散、後用小青龍湯加杏仁。
即麻杏甘石湯方中加桑白、本有細茶、今不必用。

・麻杏甘石湯の変方にして喘急を治す。小児に最効あり。但馬脾風は一種の急喘にして
此方の症に非す。別に考究すへし。

 

五積散    蘇沈

・方函「治内外感寒、和一切気、通血絡。
蒼朮、茯苓、橘皮、白芷、甘草、麻黄、当帰、厚朴、川芎、芍薬、桔梗、半夏、桂枝、枳実、乾姜。右十五味、
去麻黄名和気飲。」

・軒岐救正論に気血飲食痰を五積と云ることあり。即此意にて名くと見ゆ故に風寒を駆散し発表するの外に
内を温して血を和するの意あれは風寒湿の気に感し表症もあり内には従来の疝積ありて臍腹疼痛する者
尤効あり先哲此方を用る目的は腰冷痛腰腹攣急上熱下寒小腹痛の四症なり。
其他諸病に効あること宋以来俗人も知る薬にして亦軽蔑すへからす

 

五蒸湯  外臺祕要方

・方函「解五蒸熱。茯苓、葛根、知母、黄芩、石膏、竹葉、地黄、粳米、甘草、人参。
右十味。按入門有麦門冬治男婦諸虚損熱蒸痿自汗等症。

・竹葉石膏湯の変方にして骨蒸熱の虚脱せさる者を治す。此方と蘇沈良方の麦煎散は骨蒸初起の主剤とす。
但此方は入門の所謂煩熱蒸痿自汗を主とし麦煎散は方後所謂骨蒸黄痩口臭盗汗を主とする也

 

 五物大黄湯  東洞

・方函「治指腫而腐爛、熱痛者、所謂疽指痛也、或痔脱肛者、用此湯洗之効。
大黄、桂枝、地黄、川芎、甘草、右五味。

・出処未詳東洞の経験にて疽代指に効あり或は蒸薬として痔脱肛を治す

 

五苓散    傷寒論

・方函「猪苓、沢瀉、茯苓、桂枝、蒼朮。右五味、加車前子苡、治陰嚢赤腫脹痛、加附子商陸、治腫満。

・傷寒渇而小便不利か正面なれども水逆の嘔吐にも用ひ又畜水の顛眩にも用其用広し後世にては加味して
水気に活用す此方は本法の如く新に末にして與ふへし煎剤にては一等下るなり胃苓湯や柴苓湯を用るは
比例に非す又疝にて烏頭桂枝湯や当帰四逆湯を用て一向に腰不伸諸薬効なきに五苓散に加茴香にて
妙に効あり是即腸間の水気を能逐か故なり

 

呉茱萸湯    傷寒論 

・方函「呉茱萸、人参、生姜、大棗。右四味。」

・濁飲を下降するを主とす故に涎沫を吐するを治し頭痛を治し食穀欲嘔を治し煩躁吐逆を治す肘后にては
吐醋雑を治し後世にては噦逆を治す凡危篤の症濁飲の上溢を審にして此方を処するとき其効挙て数へ
かたし呉崑は烏頭を加て疝に用ゆ此症は陰嚢より上を攻め刺痛してさしこみ嘔なともあり何れ上に迫るか
目的なり又久腹痛水穀を吐する者此方に沈香を加て効あり又霍乱後転筋に加木瓜大に効あり

 

牛蒡芩連湯  回春

・方函「治積熱在上、而腫、多従耳根上起、俗日大頭瘟。
黄芩、黄連、桔梗、石膏、大黄、荊芥、防風、羌活、連翹、牛蒡、甘草。右十一味。本有玄参。」

・時毒大頭瘟の主方なれども凡て積熱上に在て諸悪瘡を発し愈難き者に用て効あり時毒頭瘟の類其初は
葛根湯加桔梗石膏にて発汗すへし発汗後腫痛不解者は小柴胡湯加桔梗石膏に宜し
其次を大柴胡湯加桔梗石とし其次を此方とす若早く此方を與るときは甚た工合悪き者也

 

琥珀湯  山脇

・方函「治産後水腫、及諸血毒腫。琥珀、商陸、反鼻、猪苓、丁香。右五味、或代丁香以桂枝。」

・血分の水気を治す故に産後の水気及諸血衂血腫に効あり若し此方を與て腫気減せざる者は
本事後集血分腫の一方を與ふへし復宝慶集の調経散を兼用するも佳なり

 

虎翼飲  産論

・方函「治心下逼而嘔吐者、即小半夏湯方中加茯苓橘皮伏竜肝。」

・小半夏加茯苓湯に橘皮伏竜汗を加る者にして悪阻の主薬とす但し悪阻の甚に至ては湯剤反て激する者なり
単烏梅丸を徐々に下すへし虚候の者は半夏乾姜人参丸に宜し此方は反て雑病の嘔吐不止者に運用して効あり

 


―― さ ――

 

 

柴葛解肌湯  蘊要

・方函「治脈弦長、少陽陽明合病、而熱者。即小柴胡湯方中加葛根芍薬、栗園先生曰、家方柴葛解肌湯証、而汗出、不煩渇、脈弦長者、宜此湯。

・弁前の柴胡桂枝湯の條に見ゆ又家方柴葛解肌湯の症にして汗出煩渇せず脈弦長なる者に能適当するなり

 

 

 

柴葛解肌湯  家方

・方函「治太陽少陽合病、頭痛、鼻乾、口渇、不眠、四肢煩疼、脈洪数者。柴胡、葛根、甘草、黄芩、芍薬、麻黄、桂枝、半夏、石膏、生姜。右十味、此方家君済庵翁所製、此之於六書柴葛解肌湯、尤効。

・余家の新定にして麻黄葛根二湯の症未た解せず既に少陽に進み嘔渇甚く四肢煩疼する者に宜し局方十神湯六書の柴葛解肌湯よりは其効優なりとす

 

 

 

柴陥湯  本朝経験

・方函「即小柴胡湯合小陥胸湯合方、上焦熱盛、痰咳者、加竹筎。」

・医方口訣第八條に云通り誤下の後邪気虚に乗して心下に聚り其邪の心下に聚るにちけて胸中の熱邪かいよいよ心下の水と併結する者を治す此症一等重きか大陷胸湯なれども此方にて大抵防ける也又馬脾風初起に竹茹を加へ用其他痰咳の胸痛に運用すへし

柴梗半夏湯  医学入門

・方函「治発熱、咳嗽、胸満、両脇刺痛者、此邪熱挟痰攻注也。柴胡、桔梗、半夏、黄芩、枳実、青皮、栝樓仁、杏仁、甘草、大棗、生姜。右十一味。」

蘊要の柴胡枳桔湯に青皮杏仁を加る者なり枳桔湯の症にして咳嗽甚者に用ゆ

 

 

 

柴胡散  聖惠

・方函「熱病後、虚労、煩熱、四肢疼痛、小便赤黄、不欲食。柴胡、地黄、鼈甲、黄連、茯苓、地骨皮、知母、枳実、甘草、右九味。

・大柴胡湯の変局にして世の所謂風労なる者に用ゆ骨蒸の初起には効あり虚する者は秦扶羸湯に宜し

 

 

 

柴胡湯  千金

・方函「治産後、往来寒熱、悪露不盡。柴胡、芍薬、黄耆、桃仁、乾姜、呉茱萸、当帰、甘草。右八味。」

・産後悪露下らすして往来寒熱する者を治す故に桂苓丸折衝飲の類を與へ血去らす寒熱を発する者を治す若悪露盡て寒熱不止者は小柴胡加地黄湯に宜し

 

 

 

柴胡飲子  金匱

・方函「柴胡、白朮、檳榔、橘皮、生姜、桔梗、枳実、甘草、右八味。」

・四逆散の変方にして時々肌熱を発し或瘧状の如く二三日苦悶する者を治す又脚気初起傷寒に似て発熱する者に効あり煎法は宋人の改正と見ゆ従ふへからず

 

 

 

柴胡加芒硝湯  傷寒論

・方函「即大柴胡湯方中加芒硝。」

・成無已は小柴胡に加れども入門に従大柴胡に加ふべし何となれは柴胡証にして陽明に及者に用ゆれは也故に其熱侯鬱々微煩にはあらて日所潮熱を発するなり芒硝は即胃中凝滞の実熱を去る為に用ゆ金匱には芒硝一味大黄に伍せすして用ゆれども解凝利水の用にして此方とは趣意違ふ也

 

 

 

柴胡枳桔湯  傷寒蘊要

・方函「治小結胸、脈弦数、口苦、心下硬痛、或胸中満硬、或脇下満硬、或発熱或日哺潮熱或往来寒熱、或耳聾、目眩。即小柴胡湯方中去人参大棗加仁枳実桔梗。

・結胸の類症にして胸脇痛み咳嗽短気寒熱ある者を治す此類に三方あり胸中より心下に至るまて結痛する者を柴陥湯とす胸中満して痛或は肺癰を醸さんとする者を此方とす又両脇まで刺痛して咳嗽甚き者を柴梗半夏湯とす世医は枳実湯を概用すれども此三方を弁別するに如はなし

 

 

 

 

柴胡去半夏加湯  金匱

・方函「即小柴胡湯方中去半夏加根。」

・瘧疾発渇を治すれども傷寒論の加減法に拠れは本方の症にして渇する者に広く用ゆへし又労瘧に此方を用る者は清涼滋潤を主とする也又此方に荊防連翹を加て去加柴胡湯と名け小児諸瘡及痘疹余毒に運用するなり

 

 

柴胡桂枝湯  傷寒論

・方函「即小柴胡湯桂枝湯合方」

・世医、風薬の套方とすれども、左にあらず、結胸の類にして心下支結を目的とする薬なり。但し表症の余残ある故に桂枝を用ゆる也。金匱には寒疝腹痛に用てあり即今所謂疝気ぶるひの者なり又腸癰生せんとして腹部一面に拘急し肋下へ強く牽しして其熱状傷寒に似て非なる者此方に宜し又世医の此方を用る場合は傷寒蘊要の柴葛解肌湯当れりとす即小柴胡湯に葛根芍薬を加る者也又此方に大黄を加て婦人心下支結して経閉する者に用ゆ奥道逸法眼の経験なり

 

 

 

柴胡桂枝乾姜湯  傷寒論

・方函「柴胡、桂枝、乾姜、根、黄芩、牡蛎、甘草。右七味。枳園加鼈甲芍薬名緩痃湯、治肋下或臍傍有痃癖、按之則痛、微寒熱、盗汗咳嗽、神気悒鬱(ゆううつ)、身体漸削痩者、吾門毎加黄耆鼈甲、或加呉茱萸茯苓。

・結胸の類症にして、水飲心下に微結して、小便不利、頭汗出る者を治す。此症、骨蒸の初起、外感よりして此症を顕する者多し。此方に黄耆鼈甲を加て與るときは効あり。高階家にては鼈甲芍薬を加、緩痃湯と名づけて、肋下或は臍傍に痃癖ありて骨蒸状をなす者に用ゆ。此方は微結が目的にて、津液胸脇に結聚して五内に滋さず、乾咳出る者に宜し。固より小青竜湯などの心下水飲に因て痰咳頻に出る者の比に非ず。又小柴胡加五味子乾姜湯の、胸脇苦満して両肋へ引痛するが如にも非ず。唯表症より来て身体疼痛なく、熱ありと雖脈浮ならず、或は頭汗盗汗出、乾咳する者に用ゆ。又瘧、寒多熱少き者に用て効あり。又水腫の症、心下和せず、築々として動悸する者は、水気と持病の積聚と合して、心下へ聚る者あり。此方に茯苓を加て宜し。又此方の症にして、左脇下よりさしこみ緩みがたき者、或は飲の症に、呉茱萸茯苓を加て用ゆ。又婦人、積聚、水飲を兼、時々衝逆、肩背強急する者に験あり。

悒‥うれえる。気がふさぐ。うっとうしい。

飲‥留飮、懸飲ともいう。飲邪が胸脇に停留する事によりおこる。症状は脇下が脹満して不快であり、咳をすると痛みを増し、転側や呼吸をすると引きつれて痛み、乾嘔や短気を兼ね、脈沈弦などをあらわす。逐飲するを主として治療するに良く、方は十棗湯などを用いる。本病は滲出性胸膜炎に類似している。

 

 

 

柴胡解毒湯  正伝

・方函「治少陽陽明合病、脇痛、嘔逆、自利、脈弦長而沈実。即小柴胡湯黄連解毒湯合方。

・傷寒のみならず凡て胸中に蘊熱ありて咽喉に瘡腫糜爛を生し或は目赤頭瘡或は諸瘡内攻壮熱煩悶する者を治す古人の言通り諸瘡瘍は肝胆経を子ろふて柴胡を用るか定席なり其内熱毒甚き者は黄連解毒を合すへし黄連能湿熱を解すれは也

 

 

 

柴胡厚朴湯  外薹

・方函「療心腹脹満。柴胡、厚朴、茯苓、橘皮、蘇葉、檳榔、生姜、右七味。

・柴胡湯の位に在て脹満する者を治す若実する者は大柴胡加鼈甲湯を用ゆへし若し虚気の脹満なれは厚朴生姜甘草半夏人参湯に宜し

 

 

柴胡三白湯  本朝経験

・方函「即小柴胡湯方中加白朮茯苓芍薬。」

・参胡三白湯の症にして熱勢一等甚き者を治す又暑痢嘔渇腹痛不止者を治す

 

 

 

柴胡四物湯  補命

・方函「治日久、虚労、微有寒熱。即小柴胡湯四物湯合方、一名三元湯。

・小柴胡湯の症にして血虚を帯る者に宜し保命集には虚労寒熱を主とすれども広く活用すべし此方小柴胡加地黄湯に比すれは血燥を兼る者に験あり

 

 

 

柴胡清肝散  寿世保元

・方函「治肝経怒火、風熱伝脾、唇腫裂、或繭唇。柴胡、黄芩、地黄、黄連、当帰、牡丹、梔子、川芎、升麻、甘草。右十味按明医雜著治産後頭痛亦效。

・口舌唇の病に効あり柴胡黄芩は肝胆の子らひとし升麻黄連は陽明胃経の熱をさまし地黄当帰牡丹皮は牙齦より唇吻の間の血熱を清解し血を消散すと云後世割普請の方なれども畢竟する処清熱和血の剤にして上部に尤効ある者と知るへし

明医雜著‥書名

 

 

 

 

柴胡清燥湯  温疫論

・方函「下後、間服緩剤。柴胡、黄芩、橘皮、甘草、知母、天花粉、生姜、大棗。右八味。」

 

 

 

柴胡疎肝湯  統旨(医学統旨)

・方函「治佐脇痛為肝経受邪。即四逆散方中加莎草川芎青皮、医通有梔子炮姜名柴胡疏肝散。治脇痛、血薨(罒なし)於上。」

・四逆散の加味ゆえ脇痛のみに限らす四逆散の症にして肝気胸脇に鬱塞し痛を覚え或は衝逆して頭疼肩背強急する者を治す。医通の方は血ありて痛を為す者に宜し。

莎草サソウ‥①はますげ②かやつりぐさ。香附子のこと

 

 

 

 

柴胡鼈甲湯  外薹

・方函「療痰癖、心腹痛、兼冷喘息。柴胡、枳実、芍薬、蒼朮、鼈甲、檳榔、甘草、右七味。

・集験一方とありて方名なし洛医鎌田碩庵此名を冐して喘息の痃癖より来る者に屡効を得たり其方は四逆散に鼈甲檳榔朮を加る者にして痃癖心腹痛を治するか主なり楊氏の解労散は此方の一等軽き者なり二方共労立の胸脇にかかり寒熱往来して咳嗽ある者に用て大小柴胡湯よりは反て効あり此方又瘧母を治す是にて治せさる者は柴胡加芒硝湯なり

 

 

 

柴胡鼈甲湯  聖済

・方函「治傷寒、潮熱不解、或時作寒如瘧状。柴胡、鼈甲、茯苓、黄芩、知母、桑白皮、甘草、右七味、或加胡黄連。

・少陽の壊症にて潮熱或は瘧状の如き熱を発し連綿解せさる者に宜し世医は小柴胡加鼈甲を用れども此方を是とす若熱気固着する者は檪窓に従て胡黄連を加べし

 

 

 

柴胡養栄湯  温疫論

・方函「治表有余熱、血燥。柴胡、黄芩、橘皮、甘草、当帰、芍薬、地黄、知母、天花粉、生姜、大棗、右十一味。

・後の清燥湯と伯仲にして下後胃中の津液乏くなりて余熱未た除かす動もすれは再び胃に陥んとする勢ある者か清燥湯なり下後血液枯燥して余熱之か為に去る能はさる者か此方なり傷寒大勢解後往々此場合あり下後に拘はるへからす

 

 

 

柴胡龍骨牡蛎湯  傷寒論

・方函「半夏、大棗、柴胡、生姜、人参、竜骨、鉛丹、牡蛎、桂枝、茯苓、大棗。右十一味。或去大黄鉛丹、加芍薬釣藤羚羊甘草。

・肝胆の鬱熱を鎮墜するの主薬とす。故に傷寒の胸満煩驚のみならず、小児驚癇、大人の癲癇に用ゆ。又中風の一種に熱癇(脳卒中の熱のある者)と称する者あり。此方よく応するなり。一通り癇症にて煩驚なく四肢掣縦(自由にならない)心志不安者は方後の加減を用ゆへし。又鉄砂を加て婦人の発狂を治す。此方傷寒にては左もなけれども雑病に至ては柴胡姜桂湯と紛れやすし。何れも動悸を主とすれはなり。蓋し、姜桂は虚侯に取り此方は実侯に取て施すべし。

 

 

 

柴芍六君子湯  本朝経験

・方函「治四逆散証而兼胃虚者。即六君子湯方中加柴胡芍薬。

・四君子湯の口訣に在通り脾気虚加芍薬と云意にて脾気病は腹筋拘急して痛み又胸脇へ引付る形ある故に柴芍と伍する也畢竟は四逆散の症にして脾胃一層虚候あり後世所謂肝実脾虚と云処に用ゆべし

 

 

 

柴蘇飲  本朝経験、衆方規矩

・方函「治傷寒後、耳聾。即小柴胡湯香蘇散合方。

・小柴胡の証にして鬱滞を兼る者に用ゆ耳聾を治するも少陽の余邪鬱滞して解せざるか故なり其他邪気表裏の間に鬱滞する者に活用すべし

 

 

 

柴苓湯  得効

・方函「治傷風傷暑瘧。即小柴胡湯五苓散合方、本有麦門地骨皮、今去之。

・小柴胡湯の症にして煩渇下痢する者を治す暑疫には別して効あり

 

 

犀角湯  千金

・方函「犀角、羚羊。柴胡、黄芩、梔子、升麻、射干、大黄、香豉。右九味。」

・歴節の熱毒甚く一身に入り四肢節々痛腫して越婢湯や続命湯の症にて一段痼をなしたる者なり病源侯論に熱毒の痛風を挙て陽結と云即此症也市谷抹香屋妻両脚腫痛日よりを発し其痛忍ふべからす徹夜号泣す余此方を與て熱漸減し一月にして痛全安し賞聞華岡青洲は痛風熱甚く烏附の剤投し難者に用て奇験を奏すと云

熱:焼けるような熱

 

 

 

犀角湯  医綱(医学綱目)

・方函「治傷寒後、伏熱在心、怔忪、驚悸、不得眠睡。犀角、茵、茯苓、地黄、麦門、梔子、竹葉、生姜、右八味。

・傷寒大勢解する後心胞絡に余熱畜在して心煩驚悸などあり小便赤濁或は微咳嗽する者を治す其他雑病に運用すへし蕉窓雑話に治験あり熟読すべし

 

 

 

犀角湯  張渙

・方函「退癇、鎮心神。犀角、茯苓、麦門、人参、甘草、黄芩、地黄、右七味。

・小児驚癇に用る薬なりども大人肝虚内熱の症或熱病後心神不安者に効あり医綱の犀角湯の症よりは熱気一等軽き者と知るへし

 

 

 

犀角旋覆花湯  千金

・方函「治脚気腫満或行起渋弱、小便秘渋、喘息気衝喉食嘔不下。犀角、旋復花、橘皮、茯苓、生姜、蘇葉、香豉、大棗、右八味。

・脚気の水気上胸腹に盛にして嘔気を発し或は気急喘息する者を治す蓋此方と沈香降気豁胸湯とは脚気上部に盛にして衝攻せんと欲する者を治すれども沈香豁胸は気急促迫を主とし此方は水気嘔逆を主とする也

 

 

犀角大黄湯

・方函「治剛痙壮熱、頭痛、筋脉不能舒展。犀角、大黄、川芎、石膏、牛黄、竹葉。右六味。」

・剛痙壮熱を治する薬なれども中風初起熱甚く金匱続命湯を與て応せざる者此方にて一下するときは病ゆるむるものなり

 

 

 

犀角地黄湯  千金

・方函「療傷寒及温病、応発汗而不発之、内瘀有畜血者、及鼻衄吐血不盡、瘀血、而黄、大便黒者、此主消化瘀血。犀角、地黄、芍薬、牡丹、右四味。

・内血有て吐血衂血する者を治す傷寒のみならす諸病に運用すべし芍薬地黄と伍する者は四物の意にて血を和する為也此方の症にして不大便の者は方後の加味を用ゆへし又児科方要に黄連解毒湯を合して用走馬牙疳歯衂湯に効あり若畜血に因て吐血衂血甚者桃核承気湯に非れば効なし此方は第二等に処すべし

 

犀角麻黄湯  千金

・方函「治風毒脚気、栗園先生日、此方能治脚気腫、脈数小便赤渋、毒気犯血分、発熱者。犀角、麻黄、黄芩、生姜、石膏、甘草、杏仁、桂枝、防風、独活、防已、川芎、蒼朮、羚羊、当帰、右十五味。

・風毒脚気の主剤なり風毒脚気の侯は千金及聖恵に悉く見へたり湿気外邪を挟て発熱腫満する者此方に非れは効なし若此症誤治し内攻する者大陷胸湯に非れは救ふこと能はす東郭は脚気痿弱の症千金附子湯なとを用るに胸中一物あるか如胸肋膨脹して却て快からざる物越婢湯に木瓜檳榔を加て用ひ又其甚き者に此方を用ゆと云

 

 

 

左金丸料  丹渓

・方函「治肝臓火実、左脇作痛。黄連、呉茱萸、右二味。」

・丹渓の工夫にて左脇痛を主とす或は症に依て沈香降気湯に合し或は参連湯に合して用ゆべし

 

 

 

 

刪繁府湯  蔓難録

・方函「治蛔家熱利、心腹脹痛者。柴胡、黄芩、半夏、茯苓、山査子、莪朮、沢瀉、甘草、右八味。

・拓殖彰常の伝にて簡便にして用安し若し癖熱甚く腹満塊ある者は矢張本方を與ふへし

 

 

 

三黄湯  千金

・方函「治中風手足拘急、百節疼痛、煩熱、心乱悪寒、経日不欲飲食。麻黄、独活、細辛、黄耆、黄芩。右五味、身熱如大黄腹満加枳実。」

 

 

 

三黄石膏湯  六書

方函「治陽毒発斑、主治詳于雑病翼方。即黄連解毒湯方中加石膏麻黄香豉或以知母代香豉。

・陽毒発斑を治するか主なれども麻疹熱毒甚く発し兼る者に宜し又丹毒にも用ゆべし

 

 

 

三黄知母湯  本朝経験

・方函「治歯痛。即三黄湯方中加知母石膏甘草、一方加茅花、治衂血甚妙、無花以根代之、竹田謙預於本方去知母加紅花甘草名尚足飲治舌瘡腐爛及一切歯痛。

・上部熱甚歯痛或歯衂する者を治す若齲歯或は断疽牙疳の類にて痛甚者桃核承気湯に非れは効なし蓋此方と葛連湯に紅花石膏を加て口瘡を治するとは古方者流の工夫に出て面白き経験なり又此方の知母を去朱砂を加て心気不足種々の癇症を発する者を治す又世に用る三黄加芒硝湯は古今録験に方名なく骨熱身に瘡多く瘰癧瘍腫ある者を療すと云但し四味蜜丸なり

 

 

 

 

 

三湯  伝家秘宝

・方函「治三焦気逆、解大便秘滞、下胸脇満脹。大腹、蘇葉、独活、沈香、木瓜、川芎、蒼朮、檳榔、橘皮、右十一味。

・気の壅滞を疎利するか主意にて畢竟腹気の壅滞するより色々の症を生し或は大便秘結小便不利或は腹より或は腰疼み或は背疼み手足いたみ或面腫手脚腫れ或腹中痞塊を生し種々の患をなすを治す悉くは局方三和散の主治を読て知るべし衆方規矩云筋攣急する者は気滞也。此方に宜し亦脹内に形指の如きものあり之を按じて異々として転動する者此方を用る要也と亦一徴となすへし又此症にして虚寒に属する者は補腎湯に宜し

 

 

 

三子養親湯  皆効

・方函「治凡人年老形衰、苦痰気喘嗽、胸満。蘇子、白芥子、蘿蔔子。右三味、或熱者合小陥胸湯特験。

・老衰或は虚劣の人痰喘胸満して浮腫する者に効あり一老婦痰喘より追々上部水気を発し気急促迫する者此方に琥珀末一味を点服して即験あり

 

 

 

三味湯 本朝経験

・方函「治傷食、医事説約云、傷食、腹痛、呑酸、不吐、不瀉、揮霍撩乱、急以三味搨湯取、吐瀉後煎湯可也。香、益知、木香。右三味、擺服一名神祖袖薬、又益知飲。

・弁上益々智飲の條に見ゆ

 

 

 

三味鷓鴣菜湯  提要方函

・方函「下蛔虫。鷓鴣菜、大黄、甘草。右三味、養寿院方、去甘草加蒲黄苦楝皮為四味、治小児毒頭瘡虫癬腹痛者。

・駆虫の主剤なり鷓鴣菜の方種々あれども此方と七味鷓鴣菜湯にて大抵事足れりとす若鷓鴣菜の不応者は鶴虫を與ふへし寸白虫には二方共効なし梅肉丸を用べし

 

 

 

三物黄芩湯  金匱

・方函「黄芩、苦参、地黄。右三味、千金用生地黄名苦参湯、療天行熱、病五六日以上。

・蓐労のみに限らず、婦人血症の頭痛に奇効あり。又乾血労にも用ゆ。何れも頭痛、煩熱が目的なり。此の症、俗に疳労と称して、女子十七八の時多患ふ。必ず此の方を用ゆべし。一老医の伝に、手掌煩熱、赤紋ある者を血の侯とす。乾血労、此の侯有て也侯なき者を此方の的治とす。亦た一徴に備ふべし。凡て婦人血熱解せず、諸薬応せざる者を治す。旧友尾台榕堂の長女、産後血熱解せず、午後頭痛甚だしく、殆ど蓐労状を具す。余此の方を処して、漸々愈を得たり。爾後、其症発動するときは自ら調剤して之を服すと云ふ。

蓐労:病名、産後に気血が消耗したり、養生が悪かったり、風寒に犯されたり、憂思過労により起こる

 

 

 

 

 

三霊湯  本朝経験

・方函「治蟲積嘔吐者、提耳談云、治大人小兒蛔虫癖積泄瀉嘔吐腹痛及禁口痢霍乱上吐下泄、凡諸病脈弱不食胸満気逆嘔吐悪心危急者。莎草、紅花、檳榔、右三味。

・蛔虫の嘔吐を主とする薬なれども諸嘔吐に権用すべし婦人血症の嘔吐に尤効あり又往年棚倉城主松平周防侯脚気衝心嘔吐甚く諸薬口に納ること能はす余此方を與て嘔気始て止み衝逆隨て取る後他症を発して遂に不起惜むべし

 

 

 

滲湿湯  千金

・方函「治脚気、腰以下冷痺、腫拘、小便難、栗園先生日、治黴毒累年不解、又感脚気者、得効。茯苓、乾姜、蒼朮、甘草、牛膝、附子、萆解或代遺糧、右七味、或加呉茱萸。

・脚気下部に専らにして腰以下冷痺し或は両脚微腫し痿弱せんとする者を治す大抵は桂枝加朮苓附湯にて治すれども虚侯毒気を兼る者は此方に宜し

 

 

 

酸棗仁湯(酸棗湯)  金匱

・方函「酸棗仁、甘草、知母、茯苓、川芎。右五味、千金無川芎有人参桂枝生姜石膏、治虚労、煩擾、奔気在胸中、不得眠。

・心気を和潤して安眠せしむるの策なり同し不得眠に三策あり若心下肝胆の部分に当りて停飲あり之か為に動悸して眠を得ざるは温胆湯の症なり若胃中虚し若血気虚燥心火亢りて眠を得ざる者は此方の主なり済生の帰脾湯は此方に胚胎する也又千金酸棗仁湯石膏を伍する者は此方の症にして余熱ある者に用ゆべし

 

 

 


―――しししししししししししししししししし―――

 

 

四陰煎  景岳全書

・方函「此保肺清金之剤、治陰虚勞損、相火熾盛、津枯煩渇咳嗽吐衂、多熱等証、栗園先生日、此方夐出于滋陰降下湯之上。地黄、麦門、芍薬、百合、沙参、甘草、茯苓、右七味、痰多気盛、加貝母、阿膠天花粉。」

・景岳の新方なれども陰虚火動の症には滋陰降下湯より効あり降下湯は理屈はつめども寒凉に過て保肺清金の力反て劣れり又此症にして虚弱浮熱汗出者を二加龍骨湯とす白薇は虚熱を治するの効優とす故に附子にも伍し石膏にも伍する也

 

 

 

滋陰降下湯  寿世保元

・方函「治虚火上升喉痛幷喉内生瘡。当帰、川芎、黄蘗、知母、天花粉、芍薬、地黄、桔梗、甘草。右九味入竹瀝温服。」

・虚火上炎して喉瘡を生する者を治す肺痿の末証陰火喉癬と称する者一旦は効あれども全治すること能はす又舌疳には此方と甘露飲を服せしむるより別に策はなし

 

 

 

滋血潤腸湯  統旨

・方函「治血枯、及死血在膈、飲食不下、大便結燥。当帰、芍薬、地黄、紅花、桃仁、枳実、大黄、韮汁、右八味。

・膈噎の血に属する者に用れども総て血の胸腹に在者に運用すべし

 

 

 

治吃逆一方  東郭

・方函「半夏、粳米、竹筎、茯苓、胡椒、乾姜、右六味。」

・橘皮竹茹湯の反対にて裏寒の吃逆に用て効あり胡椒乾姜を多量にせされば験なし

 

 

 

治脚気冷毒悶、心下堅、背博(木が月)痛、上気欲死方  外薹

・方函「呉茱萸、檳榔、木香、犀角、半夏、生姜、右六味。」

・唐侍中一方の証にして嘔吐あり上気欲死者に用ゆ嘔気の模様犀角旋覆花湯に似たれども旋覆花湯は水気上部に盛に顯てあり此方は水気表に身れす湿毒直に心下に衝て嘔吐する者に宜し

 

 

 

治肝虚内熱湯(治肝虚内熱、時驚、時夢(えん)、時狂怒時搦、或大人中風、小兒驚風、及五癇癲癡、人事狐惑、一切必神失霊、肝神昏乱諸証)  彙言

・方函「羚羊、半夏、当帰、防風、天麻、茯苓、酸棗、人参、白朮、釣藤。右十味。」

・沈香天麻湯の証にして内熱ある者に用ゆ此証の一等軽き者は抑肝散なり又大人類中なと肝に属する者は此方に宜し若陰分に渉る者は解語湯を用ゆへし方意皆相類す

 

 

 

治狂一方  東郭

・方函「厚朴、大黄、枳実、黄芩、黄連、芒硝、一角。右七味。」

・大承気湯の変方にして発狂の劇症に用て宜し和田東郭屡経験と云病緩なる者は下気円を宜とす

 

 

 

治血狂一方  本朝老医伝

・方函「当帰、芍薬、川芎、地黄、乾姜、紅花、大黄、桂枝、右八味。」

・鳥巣の本邦老医傳に出つ血狂は大抵三黄瀉心加辰砂桃核承気湯にて治する者なれども数日を経て壊症になりたる者は此方に非れは効を収めかたし四物湯に桂枝乾姜を力へたる処に妙処ありと知へし

 

 

 

治肩背拘急方  中山攝州

・方函「青皮、茯苓、烏薬、莎草、莪朮、甘草、右六味。」

・旧同僚中山攝州の傳にて気鬱縒り肩背に拘急する者には即効あり若胸肋に痃癖ありて迫る者は延年半夏湯に宜し唯肩背のみ張る者は葛根加芎黄か千金独活湯を用ゆ

攝‥摂

 

治皷脹一方  新修

・方函「琥珀、沈降、茯苓、地黄、犀角、三稜、莪朮、蘇木、右八味。」

・敗血流て水気に変する者を治す但産後敗血より出る水気には東洋琥珀湯なり皷脹をなす者には此方に宜し

 

 

 

治骨硬一方  台州

・方函「誤呑釘銭骨、不下咽者皆治之。縮砂、甘草。右二味、包布白湯浸、含口漸呑下。

・骨硬の方衆治あれども此方の簡便にして捷効あるに如かす若急なれは象牙の末を服するも佳也亦柑皮を黒焼にして服すへし

 

 

 

治酒査鼻方  本朝経験

・方函「黄連、大黄、梔子、芍薬、紅花、甘草、地黄、右七味、去黄連加黄芩葛根、名三黄梔子湯、一名八仙飲子。」

・三黄瀉心湯に加味したる者にて総して面部の病に効あり酒査鼻に限るへからす若瘡膿ある者大芎黄湯に宜し。清上防風湯は二湯より病勢緩なる処に用ゆ。

 

 

 

治小児愛吃泥方  寿世保元

・方函「黄芩、橘皮、白朮、茯苓、甘草、石膏、胡黄連、使君子、右八味。」

・吃泥のみに限らず小児喜て壁土瓦坏線香生米茶葉などを食し肚大青筋鼻を畜し爪を咬み頭を揺し髪竪て穂を作す者多は脾虚して津液乏く胃熱去らさるの致す処此方を服して効あり又此症にて面黄肌痩四肢無力者は虫積に属する也大七気湯加梹榔を與ふへし

 

 

 

治小児風痰云云方(治小児風痰、吐沫気喘方)  彙言

・方函「射干、大黄、檳榔、牽牛子、麻黄、甘草、右六味。」

・麻杏甘石湯の症にして風痰壅盛する者に宜し馬脾風の初起に用て間間効あり

 

 

 

治上熱下寒嘔吐方  傷寒本義

・方函「呉茱萸、乾姜、黄連、人参、右四味。」

・呉茱萸湯の変方にして上熱を目的とす吾門近年此方に本きて上熱下寒の者に直に呉茱萸湯に半夏黄連を加て特効あり

 

 

 

治水腫皷脹一方  東郭

・方函「婦人産後水腫及一切因瘀血而発腫者投之効如神。厚朴、枳実、茯苓、附子、蒼朮、木通、甘草、当帰、川芎、黄連、独活、紅花、莎草。右十三味一名驛(=駅)亭方。」

・分消湯よりは一等重くして血を兼る者に用ゆ然して行湿補気養血湯に比すれは称実する者なり一婦血分腫にて本事後集の一方にて効なき者此方にて効を得たり

治頭瘡一方  一名大芎黄湯

・方函「忍冬、紅花、連翹、蒼朮、荊芥、防風、川芎、大黄、甘草。右九味、福井家方有黄芩、無紅花蒼朮。

・頭瘡のみならす凡て上部頭面の発瘡に用ゆ清上防風湯は清熱を主とし此方は解毒を主とするなり

 

 

 

治頭痛一方  東郭

・方函「黄芩、黄連、大黄、半夏、枳実、乾姜、呉茱萸、甘草、右八味。」

・半夏瀉心湯の変方にして濁飲上逆の頭痛を治す胃虚に属する者は半夏白朮天麻湯に宜し心下痞不大便なれは此方にて一下すへし

 

 

治癬一方  竹中氏

・方函「忍冬、樸、石膏、芍薬、大黄、甘草、当帰、右七味。」

・竹中文輔の家方にて疥癬痛甚き者を治す其効十敗湯に優なること萬々なり

 

 

 

治喘一方  東郭

・方函「茯苓、厚朴、桂枝、杏仁、蘇子、甘草、右六味。」

・辨上に見こ発端の時大抵の薬激して悪し唯此方と麻黄甘草湯とは激せすして効を収めやすし

 

 

 

 

治喘一方  後藤艮山

・方函「茯苓、枳実、半夏、乾姜、木香、右五味。」

・降気破飲を主とす東郭の一方と緊慢の別あり譬は胸痺に橘皮枳実桂枝湯と茯苓杏仁甘草湯の別あるか如し破飲の力を緊にせんと欲すれは此方を用ゆへし降気を専にせんと欲らは後方を用ゆへし

 

 

 

 

治打撲一方  香川

・方函「萍蓬、樸、川芎、桂枝、大黄、丁香、甘草、右七味、日久者加附子。」

・能打撲筋骨疼痛を治す萍蓬一名川骨血分を和す僕骨疼を去故に二味を以主薬とす本邦血分の薬多く川骨を主とする者亦此意なり日を経て不愈者附子を加るは此品能温經するか故也

 

 

 

 

治脹満方  梅花無盡藏

・方函「莎草、橘皮、川芎、茯苓、蒼朮、檳榔、厚朴、枳実、黄連、右九味。」

・分消湯より簡便にして脹満の初起に効あり婦人には別して宜し此方より一等重きを分消湯とす又一等進て処に属する者を行湿補気養血湯とする也

 

 

治吐乳一方  幼々新書

・方函「蓮肉、丁香、人参、右三味。」

・小児胃虚の吐乳を主とす又大人禁口痢の吐逆に運用すへし若吐乳して下利する者は銭氏白朮散加丁香に宜し

 

 

 

治肺積右脇硬痛方

・方函「橘皮、莎草、檳榔、右三味、一方以沈香代橘皮。」

・右脇の硬痛を治す若飲を兼る者は良枳湯に宜し若熱気ある者は小柴胡湯加青皮芍薬を與ふへし以上三方左脇の硬痛には効なし左脇にある者は和肝飲柴胡疎肝湯四逆散呉茱萸茯苓延年半夏湯の類選用すへし大柢病左右を論せされども脇痛は治方を異にせされは効なし先輩呉茱萸良姜を以て左右を分一理ありと云へし

 

 

 

治婦人經水不通云云方(治婦人經水不通、即化黄水、々流四肢、則遍身皆腫、名日血分、便作水治之、恐喪命)  本事後集

・方函「人参、茯苓、当帰、瞿麦、大黄、芍薬、桂枝、、右八味。」

・血分腫の主方なり血分腫とは王汞甫か恵濟方云婦人經滞化爲水流走四肢悉皆腫満名日血分証與方水腫相似医不能審輙作水腫治之誤也と是なり若虚候ありて此方を用かたきときは宝慶集の調經散を用ゆへし

 

 

 

治婦人骨蒸労熱咳嗽云々(治婦人骨蒸労熱咳嗽、或有汗無汗、此之於逍遥散之類、取効甚捷)  宮邸便方

・方函「川芎、当帰、芍薬、莎草、麦門、白朮、牡丹皮、地骨皮、生地黄、五味子、甘草。右十一味。」

・婦人骨蒸初起に與て逍遙散より其効捷なり骨蒸とは熱の内に強く骨を蒸す如き形状に見ゆる故に名く外台秘要に専ら出つ遵生八牋に焼骨労と云同病なり眼あたりの通称と見ゆ六味丸滋陰降火の症なとは腎虚労傷より根さす者なり此方は血鬱に因る者也

 

 

 

治婦人塊痛  彙言薛国球開元記事

・方函「此方治結蠱脹満。芍薬、玄胡索、木香、乾漆、莪朮、五霊脂、肉桂、右七味。

・婦人脹満血蠱に属する者を治す霊樞所謂藏腑の外に在て藏腑を排して胃脇に郭し皮膚に脹ると云症には効なし是分消湯なとの所之なれども難治の者也徐霊胎か膨膈同しく極大の病なれども膨は治すへしと云は此方及鼈甲湯等の治する症を言也。

 

 

 

治腰膝髀云云方(治腰膝髀連脚酸疼者方) 外薹

・方函「戸中、独活、地黄、当帰、川芎、丹参、右六味。」

・脚気腫除の後痿弱酸疼する者に宜し後世にては思仙続断円なと用ゆれども此方の簡便にて捷効あるに如す若腫気残りて麻痺疼痛するものは四物湯加蒼朮木瓜苡人に宜し又此方を畏腿風に用ることあり何も酸疼を目的とす

※髀‥もも

四逆散  傷寒論

・方函「柴胡、芍薬、枳実、甘草。右四味、或加呉茱萸茯苓、治挾飲澼者、或加茴香茯苓、治疝痛、或加釣藤黄連羚羊、治癇癖、先哲加薯蕷名薯蕷湯、治疝家。挾鬱毒鬱火者加呉茱萸牡蛎名曼倩湯、治癖嚢。

・大柴胡の変方にして少陰の熱厥を治するのみならす傷寒に癇を兼ること甚く讝語煩躁し噦逆を発する等の証に特験あり其腹形専ら心下及両脇下に強く聚り其凝り胸中にも及位にて拘急はつよけれども熱実は少き故大黄黄芩を用ず唯心下両肋を緩して和くることを主とする也東郭氏多年此方を疫症及雑病に用て種々の異証を治すること勝て計へからずと云仲師の忠臣と謂べし

 

 

 

四逆湯  傷寒論

・方函「甘草、乾姜、附子、右三味。」

・陰症正面の治方にて四肢厥逆下利清穀等か目的なり其他仮熱の証に此方を冷服せしむる手段あり矢張加猪胆汁の意に近し又附剤に人尿を伍するも陰物の品を仮て其真寒の陰邪と一和せしむる也又此方に烏梅蜀椒を加へ温中湯と名て蛔厥を治す

 

 

 

四逆加人参湯  傷寒論

・方函「即四逆湯方中加人参」

・亡血亡津液を目的とす後世にては参附と一つかみに云とも仲景陰虚には附子を主とし陽虚には人参を主とす後世にて云は参は脾胃に入て脾元の気を温養し附は下元に入て命門火の源を壮にするとの相違あつて格別のものと心得べし

 

 

 

四君子湯  局方

・方函「治栄衛気虚、臓腑怯弱、心腹脹満、全不思食、腸鳴泄瀉、嘔吐噦逆。即理中湯方中去乾姜加茯苓。

・気虚を主とす故に一切脾胃の元気虚して諸症を見す者此方に加減斟酌して療すべし益気虚と雖参附と組合せ用る証とは余程相違あり唯胃口に飲を畜る故胃中の陽気分布しかたく飲食これに因て進ます胃口日々に塞り胸膈虚痞痰嗽呑酸なとを発するなり此方及六君子湯皆飲食進みかたく気力薄きを以主症とす故に脈腹も亦これに準して力を薄く小柴胡瀉心湯なとの脈腹とは霄壌の違あるものなり

霄壌:ショウシ゛ョウ、天地

 

 

 

四順飲(四順湯)  医通

・方函「治血熱便秘、脈実者。当帰、芍薬、大黄、甘草。右四味此本出局方、名清涼飲子、或加地黄、治腸胃燥熱、血下者。

・血熱ありて便秘する者を治す又地黄を加て腸胃燥熱下血する者を治す老人血燥の便秘痔家湿熱の便秘には此方よく応する也

 

 

 

 

四順湯  聖濟

・方函「治肺癰、吐膿五心煩熱、壅悶咳嗽。貝母、桔梗、紫苑、甘草、右四味、或咳嗽甚加杏仁。

・肺癰咳嗽に効あり主治の如く五心煩熱壅悶する者は葦莖湯を合方して用ゆへし此方は肺癰のみならす咳嗽声唖の者に用て効あり外台の四物湯と伯仲の方なり

 

 

 

四順清凉飲  正宗

・方函「治湯溌火焼熱極逼毒入裏、或外被凉水所汲、火毒内攻、致生煩燥内熱口乾大便秘実者。連翹、芍薬、羌活、防風、当帰、梔子、甘草、大黄、右八味。

・湯火傷の内攻して実熱ありて煩躁便秘する者に用ゆ大抵は桂枝加龍蠣及救逆湯にて宜しけれども実熱の症は此方適当とす

 

 

 

四物湯  外台

・方函「療卒得暴咳吐乳嘔逆昼夜不得息。即桔梗湯方中加紫苑麦門。

・小児暴に咳嗽を発し声唖不得息者を主とす故に頓嗽の劇症或哮喘の急症に用て効あり又大人一時に咳嗽声唖する者に宜し肺痿の声唖には験なし

※哮:コウ、猛獣が怒りほえる

 

 

 

四物湯  和剤局方

・方函「調益栄衛滋養気血、治衝任虚損、月水不調、即芎帰湯方中加芍薬地黄、或加厚朴莎草独活防風紅花甘草治、痛風諸薬無効者。」

・局方の主治にて薬品を考勘するに血道を滑かにするの手段なり夫故血虚は勿論血々塊の類臍腹に滞積して種々の害を為者に用れ譬は戸障子の開闔にきしむ者に上下の溝へ油をぬる如く活血して通利を付る也一概に血虚を補者とするは非也東郭の説に任脈動悸を発し水分の穴にあたりて動築最も劇しき者は肝虚の症に疑ひなし肝虚すれは腎も倶に虚して男女に限らす必此処の動築劇しくなる者なり是即地黄を用る標的とす世医多く此標的を知らす妄に地黄を用ゆ故に効を得すと亦以此方の(秘伝)証治要訣とすべし

闔:コウ、とじる

 

 

 

四物龍胆湯  抜萃

・方函「治目暴発。即四物湯方中加羌活防風竜胆防已。」

・目風寒に侵され血熱沸鬱して痛甚き者を治す或風眼の症紫円なとにて快下の後血脈赤渋開くこと能はさる者を治す

 

 

 

四苓散  温疫論

・方函「治煩渇思飲、酌量與之、若引飲過多、自覚水停心下、名停飲説約云、四苓散用華蒼朮、治雀目至妙、即五苓散方中去桂枝。」

・能雀目を治す又腸胃の間水気ありて熱下利する者に車前子を加て効あり

 

紫根牡蠣湯  黴癘新書

・方函「治楊梅瘡毒、痼疾沈痾、無名頑瘡、及痒瘡嶮悪証。当帰、芍薬、川芎、大黄、升麻、牡蛎、黄耆、甘草、忍冬、紫根。右十一味。」

・水戸西山公の藏方にして楊梅瘡其他無名の悪瘡に効あり工藤球卿は痔痛痘疹に宜く又乳岩肺癰腸癰を治すと云悉きことは西山公の秘録に見たり

 

 

 

 

紫蘇子湯  千金

・方函「治脚弱上気。蘇子、厚朴、半夏、柴胡、甘草、当帰、橘皮、桂枝。右八味、或加杏仁桑白、治咳逆上気。」

・脚弱上気を治する方なれども今の脚気には効すくなし上気は今の喘息のことにて虚気亢りて喘鳴する者に効あり故に後世にて足冷喘急を目的として用ゆ又耳鳴鼻衂歯揺口中腐爛血水腫喘満等の症足冷の候あれは必す効あり易簡方に下元虚冷并尊年気虚之人元有上壅之患服補薬不得者用之立効とあり此意脚気に用るにも又雑病に用るにもよき口訣と知るべし又此方に天南星川芎細辛桔梗茯苓を加て大降気湯と名け痰咳甚く或は水気ある者を治す症に臨て試むべし

 

 

 

紫蘇和気飲  済世全書

・方函「子懸者、心胃脹痛也、兼治胎気不和、心腹満疼痛、及胎前諸疾。当帰、川芎、芍薬、莎草、蘇葉、橘皮、大腹、甘草、右八味産経無莎草有人参、名紫蘇飲。

・妊娠気満飲食消化すること能はす或は胎気不和なる者を治す方意は半夏厚朴湯の症に和血を兼たる者と心得へし

子懸シケン‥病名。胎気上逼、胎上逼心ともいう。この証は平素より腎陰が不足し、肝が養われないため、妊娠後、下の陰が虚し、気が上に浮き、心胸に衝逆して起こる。症状は、胸膈脹満し甚だしければ脇痛・喘息・煩躁不安などをあらわす。治療は理気安胎の法によく方は参蘇飲などを用いる。

 

 

 

七気飲  岡本

・方函「治蟲積臍下痛足冷。莪朮、青皮、三稜、木香、桂枝、莎草、良姜、橘皮、川芎。右九味。」

・玄治翁の燈下集に大七気湯に加減して婦人臍下痛に経験せり証に臨て運用するときは虫積のみならす諸積痛に験あり

 

 

 

七気湯  外薹

・方函「療寒気熱気憂気勞気愁気或飲食為膈気或勞気内傷五不調気衰少力。桂枝、黄芩、桔梗、人参、芍薬、地黄、半夏、気実、呉茱萸、橘皮、乾姜、甘草。右十二味。」

・労気内傷よりして飲食胸膈に阻格し或は寒熱ありて気衰少力者を治す千金積気門には桂枝桔梗なく根蜀椒あり証に依て用ゆべし

 

 

 

 

 

指迷七気湯  直指方→衆方規矩をみよ

・方函「治七情相干、陰陽不得升降、気道壅滞、攻衝作疼、即済生大七気湯。」

・弁大七気の條に見ゆ

 

 

 

七気消聚散  統旨

・方函「治蠱脹、困積聚相攻、或疼或脹。莎草、青皮、莪朮、三稜、枳実、木香、縮砂、厚朴、橘皮、甘草、右十味。

・分消湯と伯仲の薬なり但蠱脹の疼痛ある者には此方効ありとす

蠱脹:コチョウ、=皷脹

 

 

 

七賢散  正宗

・方函「主治腸癰潰後、疼痛淋瀝不已、或精神減少、飲食渋味、而色痿黄、自汗盗汗、睡臥不安。茯苓、山茱萸、薯蕷、牡丹、地黄、人参、黄耆、右七味。

・六味地黄丸に沢瀉を去り人参黄耆を加る者にて、腸癰潰後の滋補のみならす諸瘡瘍に運用すべし。場合によりては十全大補湯より効あり。余又傷寒差後下元虚憊の者に与て験を得たり。

 

 

 

七成湯  温疫論

・方函「治病愈後、脈遅細而弱、毎至黎明、或夜半後、便作泄瀉者。人参、附子、茯苓、五味子、甘草、破故紙、右六味。」

・呉氏専ら五更瀉に用ゆれども総て老人脾腎の虚よりして下利足脛微腫をなす者に効あり五更瀉は多分疝に属する者にて大抵真武湯にて治するなり

 

 

七味鷓鴣菜湯  家方

・方函「治嘔吐、腹痛、属蛔者。黄連、桂枝、半夏、大黄、鷓鴣菜、甘草、乾姜、右七味。

・蛔虫にて嘔吐腹痛する者を治す椒梅瀉心と類方なれども彼は安蛔を主とし此は殺蛔を主とする也

 

 

 

七味白朮湯  小児薬症直訣

・方函「治脾胃久虚、嘔吐泄瀉乳食不進。人参、茯苓、白朮、香、葛根、木香、甘草。右七味。」

・趣意は四君子湯にて脾胃の虚を補ひ香木香にて脾気の眠りを醒し葛根にて陽明の熱を清解し渇を止め下利をととむと云手段なり故に小児吐瀉羸痩虚熱亢りて煩渇し動もすれは驚癇を起さんと欲する者を治す葛根を陽明の薬とすること古意に非す吾門にては唯葛芩連湯の虚候に渉る者此方を与て的効あり

 

 

 

止痛子湯(止痛附子湯) 秘旨

・方函「治諸疝気。蒼朮、莎草、黄蘗、青皮、益知、桃仁、延胡索、茴香、附子、甘草。右十味。」

・血に属する疝にて疼痛攻注する者を治す即八味疝気剤と表裏の方なり八味の症にして陰位に属する者に用ゆ又通経導滞湯の症にして陰位にある者に用ゆへし

柿蒂湯  済生

・方函「治咳逆。丁香、柿蒂、生姜。右三味、一方加人参、簡易加半夏。」

・後世噦逆の主方とす。蓋し橘皮竹茹湯とは寒熱の別あり症に隨て撰用すべし。一老医此方に本づき俗間所在の柿の渋汁なる者を濃煎して用即効を得たりと云。

 

 

 

炙甘草湯  傷寒論

・方函「甘草、生姜、桂枝、人参、地黄、阿膠、麦門、麻仁、大棗、右九味。」

・心動悸を目的とす凡心臓の血不足するときは気管動揺して悸をなし而心臓の血動血脈へ達すること能はす時として間歇す故に脈結代する也此方能心臓の血を滋養して脈路を潤流す是以動悸を治するのみならす人迎辺の血脈凝滞して気急促迫する者に効あり是余数年の経験なり又肺痿の少気して胸動甚しき者に用て一時効あり龍野の秋山玄瑞は此方に桔梗を加て肺痿の主方とす蓋金匱に拠る也又局方の人参養栄湯と治を同して此方は外邪に因て津液枯槁し腹部動気ある者を主とし養栄湯は外邪の有無に拘らす気血衰弱動気肉下に在者を主とす蓋後世の人参養栄湯や滋陰降下湯は此方より出たる故二方の場合は大抵此方にて宜し但結悸の症は二方にては治せぬなり

歇:ケツ、やむ。やめる(ヤム)。

 

 

 

謝導人大黄湯  外薹

・方函「療両眼痛、葑菲錄云、療眼目腫赤痒痛、或睛腫生雲翳。大黄、黄芩、芍薬、甘草、細辛。右五味、、今加茯苓滑石車前子特効、又去滑石加木通名八味大黄湯。

・天行赤眼或は睛腫雲翳を生し痛する者を治す数日不愈者は方後の加減効験あり

 

 

 

瀉心湯  千金

・方函「治卒大下痢、熱脣乾、口瘡、嘔逆、引飲。即半夏瀉心湯方中去大棗加橘皮根。

・半夏瀉心湯の症にして唇乾口燥嘔逆引飲と云か目的なり又下利の中に噦逆を発する者に用て効あり

 

 

 

瀉心導赤散  寿世保元

・方函「傷寒、心下不痛、腹中不満、大便如常、身無寒熱、漸変神昏不語、或夢中独語一二句目赤神焦、将水與之則嚥、不與則不思、形如酔人、医者不識、便呼為死証、若以針灸誤人多矣、殊不知熱邪伝入少陰心経也。因火上而(ひつ)肺所以神昏故名越経証。梔子、黄芩、麦門、知母、黄連、滑石、人参、犀角、茯苓、甘草、地黄。右十一味傷寒六書名導赤各半湯。」

・瀉心湯黄連解毒湯の変方にして解毒湯よりは一等熱勢甚く精神昏乱すれども承気湯の如く胃中に邪毒ありて発する熱には非す後世の所謂心包絡肝胆経抔に怫鬱して煩悶する症を治す又升陽散火湯と其症相似たれども散火湯は柴胡湯の位にて動もすれは陰分に陥んとするの機あり故に附子を加ることあり此方は其機なく唯からた中へ遍蔓したる熱甚く精神之が為に昏する者に用ゆ総て虚症の時疫因唾する症に此方の行処あり呉氏人参養栄湯陶氏升陽散火湯の症に比すれは熱強き者也又竹茹温胆湯の症と紛れ易けれども彼は心驚恍惚煩熱不眠を主とし此方は神昏不語或夢中独語形如醉人と云目的なり方後の如く生汁を点入するときは特効あり

:地黄

 

 

瀉脾湯  千金翼

・方函「脾臓気実、胸中満不能食、又主冷気在脾臓、走在四肢、手足流腫、亦逐水気、栗園先生日、此方治茯苓飲証而有鬱熱者。茯苓、厚朴、桂枝、生姜、半夏、人参、黄芩、甘草。右八味、閑齊加竜骨牡蛎治黄胖。」

積気留飲にて胸中満し不食を治す蓋中結聚するか目的とす其外証は動気衝逆なり外台には梔子を加て遊気湯と名く又千金の方后に逐四肢之腫とあり是も中凝結より来る水気なり又常に厚味肉食の人肩へ凝り頭痛逆上して耳鳴或は聾する者に効あり此も必中に云分あり失より気宇鬱塞頭痛等を発す世上に癇や積などと称する者に此症最多し一閑斎は龍骨牡蠣を加て黄胖に用ゆ今脾労黄の症動悸甚く鉄砂の応せさる者此方能効あり又上逆烈き者石膏を加是も閑斎の経験也

 

 

 

芍甘黄辛附湯  南涯

・方函「治腹中及手足攣急、偏痛者。即芍薬甘草湯大黄附子湯合方。

・芍薬甘草湯に大黄附子湯を合したる者にて南涯の趣意は攣急に偏痛を兼たる者に広く用ゆるなり近来の製なれども古方に劣らす効験あり

 

 

 

芍薬甘草湯  傷寒論

・方函「芍薬、甘草。右二味。」

・脚攣急を治するか主なれども諸家腹痛及脚気両足或膝頭痛屈伸すへからさる者其他諸急痛に運用す。又釣藤羚羊を加て驚癇の勁急を治す。又松心を加て淋痛甚く昼夜号泣する者を治す。又梅毒諸薬を服して羸劣骨節仍痛攻下すへからさる者松心を加て効あり。或虎脛骨を加るも佳と云。

勁:ケイ、つよい(ツヨシ)。つよく張ってたるみがないさま。しんがつよいさま。

 

 

 

 

芍薬甘草附子湯  傷寒論

・方函「即芍薬甘草湯方中加附子。」

・発汗後の悪寒を治するのみならす芍薬甘草附子湯の症にして陰位に属する者を治す又附子を草烏頭に代て妙に虫積の痛を治す又疝或は痛風鶴膝風等に活用す痛風より鶴膝たちになり綿にて足を包と云程冷るに効あり凡下部の冷専ら腰にかかるは苓姜朮甘なり専ら脚にかかるは此方なり又湿毒の後足大に冷る者にも用ゆ若余毒あるものは伯州散を兼用すべし

 

 

 

赤小豆湯  済生

・方函「治年少血気倶熱逐生瘡疥、変為腫満或煩或渇、小便不利。赤小豆、当帰、商陸、沢瀉、連翹、芍薬、防已、猪苓、沢漆、桑白、右十味、熱甚者加犀角。

・諸瘡瘍より変して水腫を成者を治す老人小児血気薄弱瘡毒揮発する能はす内壅して水気に変する者に宜し若血気壮実毒気内攻して衝心せんと欲する者は先備急圓を与へ快下の後東洋赤小豆湯を用べし此方と東洋の方とは虚実の弁あり

 

 

 

 

赤小豆湯  東洋

・方函「治諸瘡内攻腫、及毒内攻、気急息迫、赤小豆、商陸、麻黄、桂枝、反鼻、連翹、生姜、大黄、右八味。」

・山東洋の麻黄連赤小豆湯と済生の赤小豆湯を斟酌して組立し方也諸瘡内攻腫を治する捷なり斯人反鼻を善使用す故に此方及琥珀湯再造散に伍して最効あり余亦其顰に倣ひ真武に反鼻を加て諸瘡内攻虚腫に変したる者に効を得たり

 

 

 

赤石脂湯  青州

・方函「治痔疾臓毒、及脱肛、即補中益気湯方中加赤石脂。」

・脱肛及藏毒下血に効あり後世柴胡升麻を升提する者として用ゆれども其実は柴胡は肝経湿熱を解する故下部の瘡に効あり升麻は犀角の代用にする位にて静粛出血の効あり此方も東垣の理屈に拘泥せす升麻赤石脂にて下部を静粛止当帰黄耆白朮にて中気を扶助すれは自然に下陥も防く者と心得べし

 

 

 

収嗽湯  保嬰須知

・方函「治小児頓嗽、兼蛔者。天門、貝母、檳榔、百部根、甘草、右五味。

・頓嗽の蛔を兼る者を治す試むべし先人済庵翁は此症に鷓鴣菜忍冬甘草三味を用て効を取しことあり又古人理中安蛔湯を頓嗽に用ること有治療は広く考定すべし

 

 

 

十全大補湯  局方

・方函「治男子婦人、諸虚不足、五勞七傷、一切病後、気不如舊。即千金黄耆茯苓。」

・局方の主治によれば、気血虚すと云か八物湯の目的にて、寒と云ふが黄耆肉桂の目的也。又、下元(下焦)気衰と云ふも肉桂の目的なり。又、薜立斎(せつりゅうさい)の主治によれば、黄耆を用ふるは人参に力を合せて自汗盗汗を止め、表気を固むるの意也。肉桂を用ふるは参耆に力を合せて、遺精、白濁、或は大便滑泄、小便短少、或は頻数なるを治す。又、九味の薬を引導して夫々の病処に達するの意なり。何れも此意を合点して諸病に運用すべし。

 

 

 

 

十棗湯  傷寒論

・方函「芫花、甘遂、大戟、大棗。右四味。」

・懸飲内痛を主とす懸飲と云ものは外邪内陥して胃中の水を胸へ引挙て胸に水気をたくはへるなり又外表の方へ張出す気味あつて汗出発熱頭痛等の証を兼る者もあれとも裏の水気主となりて表は客なり故に胸下痛乾嘔短気或は咳煩水気浮腫上気喘急大小便不通を目的として此方は与ふへし又欠盆に引を目的として用ゆ脈は沈にして弦或緊なり又此方烈き処はかりに用るやうに覚れどもしからす家の水飲に因る者捨置は労嗽に変すたとひ引痛の症なくとも水飲の候見付たれは直に此方を用ゆべし前田長庵の経験に一人手はかり腫て余所はさつはりと腫れす元気飲食とも如故者此方を用て水瀉を得たれは速に愈たりと面白手段と云べし

 

 

 

十味散  葉氏

・方函「治臂痛連筋及骨、挙動艱難。附子、茯苓、当帰、川芎、芍薬、防風、白朮、黄耆、桂枝、地黄。右十味。」

・血虚臂痛甚者を治す又足痛日を経て脛肉脱し行歩艱難の者に効あり

艱難:カンナン、困難にあって苦しみ悩む

 

 

 

十味当帰湯  千金

・方函「治冷気、脇下往来、衝胸膈痛、引脇背悶者。当帰、桂枝、茯苓、枳実、大黄、呉茱萸、芍薬、人参、甘草、乾姜、右十味。

張文仲当帰大黄湯に枳実茯苓を加るものなり前方の症にして上部に迫り胸膈よ痛脇背へ引て者りに効あり俗に云疝積衝疝などと云症不大便の者に宜し又後世用ゆる処の平肝流気飲なとの証に効あり

 

 

 

十味敗毒湯  青州

・方函「治癰疽、及諸瘡腫、初起増寒壮熱、疼痛、柴胡、独活、桔梗、川芎、甘草、荊芥、防風、桜皮、茯苓、生姜、右十味、今以樸代桜皮。」

・青洲の荊防敗毒散を取捨したる者にて荊敗よりは其力優なりとす

 

 

 

順気剤  香川

・方函「吾門以順気為治療第一義、順気者承気也、蓋取於仲景承気湯意也。苟能識得此方、臨機応変以活用之、則処剤治病、可運於掌上矣。茯苓、半夏、枳実、厚朴、甘草、生姜、右六味。

・半夏厚朴湯の変方にして承気の意を寓す艮山の趣意は唯一気留滞するに因て胸中心下に飲を畜へ或は嘔吐悪心をなし或痰涎壅盛気急成は種々閉塞の症を発す是皆一気の所為故反て淡味の剤を用れは畜飲にも碍らすして痞塞早く緩む即柔より剛を制するの手段なり今病者に臨て芩連の苦味にて推すへき症もなく又芍薬甘草膠飴の甘味にて緩むべき症にもあらす唯気胸中に迫りて鬱悶多慮するに用て効あり半夏厚朴湯温胆湯も同類の方なれども各主証ありて少しくゆく処を異にする也

 

 

 

春沢湯  奇効

・方函「治伏諸発熱、煩渇引飲、小便不利、肋周文采医方選要云、兼治傷寒陰陽不分、疑似之間最宜服之、又云渇甚去桂加五味黄連各二銭。即五苓散方中加柴胡人参麦門。

・能く伏暑の熱邪を解す此症柴苓湯に似たれども柴苓は往来寒熱を主とす此方は清熱滋潤を主とす混すべからす又湿瘟白虎湯の症に似て熱気は稍軽くして湿邪の方重き者に用此症春夏の交より梅雨比にままあり心得て経験すべし

 

 

 

椒梅湯  回春

・方函「治腹痛時止時発、面白唇紅者、蟲痛也。烏梅、蜀椒、檳榔、枳実、木香、縮砂、莎草、桂枝、川楝子、厚朴、甘草、乾姜、右十二味。

・蛔虫の腹痛を治す其形症実に似たれども殺虫の薬応せさる者に効あり其一等軽き者を椒梅丸とす

 

椒梅瀉心湯  本朝経験

・方函「即半夏瀉心湯方中加烏梅蜀椒。」

・蛔虫の嘔吐心下刺痛を治す又常に心下寒飲ありて悪心喜唾する者を治す

 

 

 

小陷胸湯  傷寒論

・方函「黄連、半夏、仁、右三味。」

・飲邪心下に結して痛む者を治す実は痛を主とす金匱胸痺の諸方以徴すべし故に名医類按には此方にて孫王薄述之胸痺を治し張氏医通には熱痰膈上に在者を治す其他胸満して塞り気むづかしく或は囃或は腹鳴下痢し或は食物進まず或胸痛を治す羽間宋元は此方に芒硝甘遂山梔子大黄を加て中陷胸湯と名驚風を治すれども方意は反て大陷胸湯に近し

 

 

 

小建中湯  傷寒論

・方函「即桂枝湯方中加倍芍薬加膠飴。」

・中気虚して腹中の引はり痛を治すすべて古方書に中と云は脾胃のことにて建中は脾胃を建立するの義なり此方は柴胡鼈甲延年半夏解労散などの如く腹中に痃癖ありて引はり痛と異にして唯血の乾き俄に腹皮の拘急する者にて強く按せは底に力なくたとえは琴の糸を上より按か如きなり積聚腹痛などの症ににてもすべて建中は血を潤し急迫の気を緩むるの意を以て考へ用べし全休腹くさくさとして無力その内にここかしこに疑ある者は此湯にて効あり即後世大補湯人参養栄湯の祖にして補虚調血の妙を寓す症に臨て汎く運用すべし

俄:にわかに

汎:ひろく

 

 

 

小解毒湯  栗山

・方函「治下疳、莖中痛、膿出者。遺糧、滑石、沢瀉、阿膠、茯苓、木通、忍冬、大黄、右八味。

・内注下疳の淋痛を治す若膿血淋瀝痛堪ゆへからさる者は解毒剤に加阿膠滑石車前子を與ふへし解毒剤は本香川氏江州の民間より伝たりと云漢方には此類の方なし運用して其効の妙を知べし

 

 

 

小柴胡湯  傷寒論

・方函「柴胡、黄芩、人参、甘草、生姜、大棗、半夏、右七味。」

・往来寒熱胸脇苦満黙々不欲飲食嘔吐或は耳聾か目的なり凡此等の証あれば胃実の候ありとも柴胡を與べし老医の説に脇下と手足の心と両処に汗なきものは胃実の証ありとも柴胡を用へしとは此意なり総て此方の之処は両肋の痞硬拘急を目的とす所謂胸脇苦満これなり又胸腹痛み拘急するに小建中湯を與て愈さるに此方を用ゆ今の人多く積気ありて風邪に感し熱裏に閉て発せざれは必心腹痛あり此時積也とて其針薬を施して治せざる者此方にて速に愈仲景の言欺くべからす又小児食停に外邪相兼或は瘧の如きも此方にて解す又久しく大便せざる者此方にて程能大便を通し病解する者也上焦和し津液通つるの義なり後世三禁湯と名つくる者は益汗吐下を禁する処へ用ゆるか故也又此方に五味子乾姜を加て風邪胸脇に迫り舌上微白胎ありて両脇に引て咳嗽する者に用ゆ治験は本草衍義の序例に見ゆ又葛根草菓天花粉を加て寒熱瘧の如く咳嗽甚者に用ゆ東郭の経験なり其他呉仁斎小柴胡湯加減法の如きは各方の下に弁す故に贅せす

 

小柴胡加地黄湯  本事

・方函「治婦人室女、傷寒発熱、或発寒熱、経水適来、或適断、昼則明了、夜則讝語、如見鬼状、亦治産後悪露方来、忽爾断絶、即小柴胡湯方中加地黄。」

・許叔微熱入血室の主剤とす経水の適断に拘らす血熱の甚者に効あり凡血熱を治するに三等の別あり頭疼面赤耳鳴歯痛の者は小柴胡加石膏に宜し血気刺痛心下に衝逆し嘔吐する者は小柴胡加紅花に宜し五心煩熱日瘧の如く寒熱を発する者小柴胡加鮮に宜しとす

 

 

 

小承気湯  傷寒論

・方函「大黄、厚朴、枳実、右三味。」

・胃中邪気を軽く泄下する也本論にては燥屎の有無を以て二湯の別とす後世にて大承気は三焦痞満を目的とし小承気は上焦痞満を目的とする也燥屎の侯法種々あれども其的切は燥屎あるものは臍下を按して物あり是を撫れは肌膚かはく也燥屎と積気と見誤ること有これはくるくるとして手に按して大抵しるるなり燥屎は按して痛少なく積は痛て自ら発きさめあり且下焦にあるのみならず上中焦へも上る也此候なくして潮熱讝語する者此方に宜し又此方を潔古は中風に小続命と并せ用てあり

 

 

 

小青竜湯  傷寒論

・方函「麻黄、芍薬、乾姜、甘草、桂枝、細辛、五味子、半夏。右八味、易簡本方中去麻黄加人参茯苓杏仁甘草生姜、名杏子湯。」

・表不解而心下水気ありて咳喘する者を治す又溢飲の咳嗽にも用ゆ其人咳嗽喘急寒暑に至れは必発し痰沫を吐て臥すこと能はす喉中しはめく抔は心下に水飲あれは也此方に宜し若上気煩躁あれは石膏を加ふへし又胸痛頭疼悪寒汗出るに発汗剤を與ること禁法なれども咳して汗ある症に矢張小青竜にておし通す症あり麻杏甘石を汗出るに用るも此意なり一老医の伝に此場合の汗は必臭気甚しと一徴とすべし此方を諸病に用ゆる目的は痰沫咳嗽無裏熱の症を主とす若老痰になりて熱候深き者は清肺湯清湿化痰の類に宜し

 

 

 

小青竜加石膏湯  金匱

・方函「即小青竜湯方中加石膏」

・弁見于前

 

 

 

小続命湯  千金

・方函「治卒中風欲死、身体緩急、口目不正、舌強不能語、奄奄忽忽、神情悶乱、諸風服之皆験、令人不虚。附子、防風、芍薬、防已、杏仁、人参、川芎、麻黄、黄芩、甘草、桂枝、生姜。右十二味。」

・中風初起病経絡にある者の主治とす金匱続命湯とは陰陽の別あり症に隨て撰用すべし楓亭は此方の症にして桂附を用ひ難き者に烏薬順気散を用ひ又此方の症にして上気強く面浮腫する者に西州小続命湯を用ゆるなり

 

 

 

小半夏湯  金匱

・方函「半夏、生姜、右二味。」

・嘔家の聖剤なり其内水飲の嘔吐は極て宜し水飲の症は心下痞硬し背七八椎の処手掌大の如き程に限りて冷る者なり此等の証を目的として此方を用るときは百発百中也又胃虚嘔吐穀不得下者先此方を服せしめ愈さる者大半夏湯を與ふ是大小の弁なり

 

 

 

小半夏加茯苓湯  金匱

・方函「即小半夏湯方中加茯苓。」

・前方の症に停飲を兼て渇する者を治す又停飲ありて嘔吐不食心下痞硬或頭眩する者に効あり総て飲食不進者或は瘧疾日を経て食不進者此方に生姜を倍加して能効を奏す

 

 

 

小檳榔湯  千金本無方名

・方函「治脚気、心煩悶、気急不安、栗園先生日、治脚気嘔吐効、檳榔、半夏、茯苓、黄耆、当帰、柴胡、人参、甘草、生姜、白糖、右十一味。」

・脚気嘔気ありて衝心せんとする者を治す併唐侍中の一方に比すれは其症軽し故に小檳榔の名あり又此症にして水気上部に盛なる者は犀角旋覆花湯を與べし

 

 

 

升麻鼈甲湯  金匱

・方函「升麻、当帰、蜀椒、甘草、鼈甲、雄黄、右六味。」

・陽毒の発斑錦文の如きを治す陰陽毒の説明了ならされども疫毒斑疹の異症に用て効あり大伝馬街一老医の伝に囚獄中に一種の病あり俗に牢役病と称す尋常温疫の治法験なし此方を用るときは特効ありと云又平安佐野氏は董氏医級の説に本きて喉痺の急症を陰陽毒の種類とし此方を用て治を得る甚多と云并て試むべし

 

 

 

升陽散火()湯  六書

・方函「治叉手胃胸、尋衣模床、讝語昏沈不醒、此肝熱乘於肺、元気虚、不能自主持、名日撮空証、小便利者可治、如不利者難治。人参、当帰、芍薬、黄芩、麦門、白朮、柴胡、陳皮、茯苓、甘草、生姜、右十一味。

・温疫虚症循衣摸牀語昏沈不省人事者に呉氏の人参養栄湯と互に用て効あり就中此方の主る処は癇症の如にして煩悶強く或は両脇攣痛し或下利する者に宜し又此方の症にして困睡し熱つよき者は瀉心導赤散に宜し一体大承気湯の循衣摸牀は胃実よりすることなれども又肝経へ邪熱のかぶれ甚しく元気主持すること能はざる者有故に陶節庵か此方を制せる也升陽散火と云は弁脈法に陽気下陥入陰中則発熱と云義に本て名く東垣升陽散火も同義なり此は小柴胡湯逍遙散等より脱胎して組合たるものにて二方に比すれは肝火を清凉し解熱するの力つよく若此症にして一層熱のさばけかた悪く上心肺に衝逆したる処の肝火すかず讝語妄語愈盛なる者は犀角生下を加て効あり又此上に脱候ある者は附子を加ることあり右等の加味診察詳ならざれは用ひ難し其具合斟酌すべきことなり

 

 

 

升陽燥湿湯  蘭室秘蔵

・方函「治白帯下、陰戸中痛、空心而急痛、身黄皮緩、身重如山陰冷如水。黄芩、橘皮、防風、良姜、郁李仁、甘草、柴胡、乾姜、白葵花、右九味。」

・白帯下の主剤とす身重如山陰冷如水と云か目的なり白帯下は婦人の内尤難治とす臭気甚き者は別して不治なり此方は牝戸より俗に水じもと云如き冷水を漏下し腰痛する者に効あり産科立野龍貞は白葵花を白鶏冠花に代るか験ありと云試むべし

 

 

 

正観湯  外薹「せ」にも記述

・方函「療痢腹中切痛、下黒色、昼夜百行、将死者、黄連、竜骨、白朮、当帰、附子、赤石脂、乾姜、阿膠、右八味。」

・痢病の壊症になりて百行止ます魚腸の如く或黒の者を下し切痛甚者を治す後世にては真人養臓湯を用ゆれども此方のかた其力優にして虚熱ある者最宜とす

 

 

 

正気天香湯  纂要「せ」にも記述

・方函「治婦人一切諸気、或上湊心胸、或攻脇肋、〔〇玉機、微義此以下有腹中結塊、発渇刺痛、月水不調或眩運嘔吐、往来寒熱、胎全産後一切気候皆治之。減食文()。〕莎草、陳皮、烏薬、蘇葉、乾姜、甘草、右六味。

・気剤の総司なり諸気為痛と云を以て目的とす其他眩暈嘔吐寒熱の類何れも気の鬱滞より来るものは一症を見さば即用ゆべし蓋此方専ら気の鬱滞を利すれども血分の申分にも能応すいかんとなれは血不能独行必依気流行すと云て血分の不和は気に本くか必然の理なりそれ故気滞より経行不利する者に用て効あり経行不利を強て血分に拘て療治するは拙作とす気滞のみならす痃癖攣急の類すへて其腹候を審にし其源証を治すれは自然と経事来る也

 

 

 

正心湯  医統「せ」にも記述

・方函「治七情五志久逆、心風、妄言妄笑、不知所苦。当帰、茯苓、地黄、羚羊、甘草、酸棗仁、遠志、人参、右八味。

・帰脾湯の症にして心風甚く妄言妄行不止血気枯燥する者を治す又小児肝虚内熱精神爽かならざる者に用ゆ

 

 

 

生化湯  達生「せ」にも記述

・方函「治兒枕痛。当帰、川芎、桃仁、甘草、乾姜。右五味。」

・景岳全書幼々集成等に出たれとの隶赤の女科秘方に載せたる論最も精し其主意は凡産後に血気順行すれは畜消して新血滋生するの理必然なり故二古より桂枝茯苓丸を用て血を逐を主薬とす然れども脱血過多の症には参附地黄黄耆など専用して温補すへきことなれども概して地黄抔用るは宜しからす是に於て芎帰姜桃を以て生化の運用を成こと実に妙手段と云べし若平素疝にて子宮痛者か或は付き信痛堪がたき者は桃仁を去て用るを佳とす

 

 

 

 

生姜甘草湯  千金

・方函「治肺痿咳唾涎沫不止咽燥而渇。生姜、人参、甘草、大棗、右四味。」

・肺熱候なき者に用ゆしかし甘草乾姜湯に比すれは潤燥の剤也故に甘草乾姜湯は肺寒を主とし聖剤人参養栄湯は肺熱を主とし此方は其中間に乏く者也

 

 

 

生姜瀉心湯  傷寒論

・方函「即半夏瀉心湯方中加生姜。」

・後世順気和中を用る場へ即効あり又香砂六君子香砂平胃なと与て痰火上格の勢ありて応せさる者に用て善験あり又虚労或脾労等の心下痞して下利する者を治す古方皆乾姜あるときは生姜を用ひず唯此方のみ生乾共に用其深意味ふべし総て半夏生姜甘草三瀉心の証は水気心中に迫り心下硬満して痞する者有て脇腹は迫りなく但心下のみ甚しく胸中へ上逆して嘔吐噫気し或は水気下行して腹中雷鳴下利する者是胃中の虚不和よりなす故に中には下利清穀と同しやうに見ゆれども全く穀不化の証なり

 

 

 

消疳飲  済世

・方函「治小児癇疾、身熱、面黄、肚大青筋、痩弱。人参、黄連、神麹、青皮、茯苓、白朮、縮砂、胡黄連、甘草、右九味。

・小児脾疳腹肚大の者に用ゆ主治にある青筋を顕すものは大抵不治也

 

 

 

消疳退熱飲  

・方函「青黛、檳榔、使君子、木通、牽牛子、柴胡、莪朮、枳実、黄芩、甘草。右十味、栗園先生日、此方與梢疳飲有虚実之別、臨症宜撰用。(人参白朮麦門五味子橘皮甘草黄蘗当帰黄耆、右九味。按張三錫新定方。無麦門五味子、有升麻姜棗。括弧内は講義での追加)」

・消疳飲の症にして稍実に属する者を治す水腫脹満の類其腹硬くして石の如く唇色は朱の如く身に熱ありて小便赤く脈数なる者此方奇効あり虫積の症にして水腫鼓脹となる者此方に油断すへからす唇朱の如きと云か一つの目的なり

 

 

 

生地黄湯  千金

・方函「治小児、感熱進退、啼叫、腹痛。地黄、桂枝。右二味、今加大黄特捷。

・小児の腹痛に奇効あり小児の痛に胎毒攻下の剤を与て愈さる者必試むべし凡小児の腹痛と否を决診するには時を期して頻に啼呼して反張する者是を腹痛の候とする也

 

 

生脈散  弁惑論

・方函「滋生精気、培養真元、補心潤肺。麦門、人参、五味子、右三味、接外薹深師療傷寒下後除熱止渇五味麦門冬湯去甘草石膏者。

・世に千金方より出ると称すれども確ならす張潔古李東垣より専ら用始しなり其旨は寒は血を凝し暑は気を傷ると云て暑と云者は至てよく人の元気をそこなうもの也尤老人虚人などの暑につかるること甚しく六脈力なく甚に至ては結代するものあり此方にて元気を引立脉を生すると云意也但し暑中には限らす一切元気弱き脈の病人には医王や真武に此方を合して用ゆべし

消暑飲

・嶺南衛生方の消暑湯に石膏を加へたる者往年暴瀉流行の時頗る効を得たり治験は治瘟編に見ゆ

 

 

消暑湯  松原

・方函「治夏日熱甚、嘔吐、食不下、頭痛煩渇者。半夏、石膏、茯苓、生姜、右四味。」

 

 

 

消水聖愈湯  時方妙用「せ」にも記述

・方函「治水第一方、然両手脈浮面遅、足跌陽浮而数、診法絲毫毛不錯一服必験。即桂姜棗草黄辛附湯方中加知母防已、以附子代天雄。

・陰水の主剤とす陳修園の発明に出て場合に因て意外に効を奏す即大気一転の手段也なほ桂姜棗草黄辛附湯の條を参照すべし

 

 

 

消風散  正宗

・方函「治風湿浸淫血脈、致生瘡疥、掻痒不絶、及大人小兒、風熱疹遍身、雲片斑点、乍有乍無、並効。当帰、地黄、防風、蝉退、知母、苦参、胡麻、荊芥、蒼朮、牛蒡、石膏、甘草、木通、右十三味。」

・風湿血脈に浸淫して瘡疥を発する者を治す一婦人年三十許年々夏になれは惣身悪瘡を発し肌膚木皮の如痒時に稀水淋漓不可忍諸医手を束て愈へす余此方を用ること一月にして効あり三月にして全く愈

 

 

 

逍遙解毒湯  黴瘡約言

・方函「治楊梅結毒不除、腹中有熱、肌肉痩削、俗呼日湿勞或服粉剤後生変、或諸瘡久不愈。金銀花、当帰、芍薬、白朮、柴胡、梔子、茯苓、苡、連翹、甘草、右十味。

・湿労を治するの主剤とす逍遙散は小柴胡湯の腹形には手弱き剤也故に当帰芍薬柴胡甘草にて心下両脇をゆるめ白朮茯苓にて胃中の水飲を消導する中に梔子の瀉火連翹の湿熱を清する苡の濁湿を駆る金銀花の瘡毒を制する品を伍す入してむつくりと精気を損せす邪毒を去るの工夫青洲翁の精義入神と謂べし

 

 

 

逍遙散  局方

・方函「治血虚労倦、五心煩熱、頭目昏重、心忪頬赤、発熱盗汗、及血熱相搏、月水不調、臍腹脹満、寒熱如瘧。柴胡、芍薬、茯苓、当帰、薄荷、白朮、甘草、生姜。右八味、、或加麦門阿膠、治血虚発熱不止、或労嗽者、或加地黄莎草、治血虚鬱塞者、一去甘草加橘皮牡丹貝母黄連、名医貫逍遥散、治一切鬱証似瘧者、但其人口苦、嘔吐清水、或苦水、面青脇痛、耳鳴脈濇。

・小柴胡湯の変方にして小柴胡湯よりは少し肝虚の形あるものにして医王湯よりは一層手前の場合にゆく者なり此方専ら婦人虚労を治すと云へども此実は体気甚た強壮ならす平生血気薄く肝火亢り或寒熱往来或頭痛口苦或煩赤寒熱如瘧或は月経不調にて申分たへす或は小便淋瀝渋痛俗云せうかちの如く一切肝火にて種々申分あるものに効あり内科摘要に牡丹皮山梔子を加る者肝部の虚火を鎮むる手段なりたとえば産前後の口赤爛する者に効あるは虚火上炎を治すれはなり東郭の地黄香附子を加る者此裏にて肝虚の症水分の動悸甚く両脇拘急して思慮鬱結する者に宜し

薔薇湯  家方

・方函「治口瘡。薔薇花、桔梗、甘草。右三味、含之、千金治口瘡薔薇湯、黄蘗升麻地黄薔薇根、然不如此湯速捷。

・大病の人口瘡を発し或は口中糜爛んて薬食共に癈する者に用て即効あり一時の権宜に備ふべし

 

 

 

浄府散  医鑑

・方函「治小児、腹中癖塊、発熱、口乾、溲便赤。柴胡、茯苓、猪苓、沢瀉、山査子、山稜、莪朮、黄芩、白朮、半夏、人参、甘草、黄連。右十三味、枳園加鼈甲檳榔名消癖湯治疳癖。

・柴苓湯の変方にして莪朮三稜胡黄連を加る者は峻に胸中心下を推し開き胃口両脇の間に停畜する処の水飲を消導するときは癖塊も融和する也後世にては莪稜を消塊の品とすれども消塊軟堅の効は鼈甲に如す但破気の能ありと知るへし又此方を小児の専治とすれども大人に用て効あり余越前藩川崎氏老母寒熱腹満甚き者を治し又平岡栄山室暑疫の熱固有の塊癖に執着して数日解せさる者を治す立方の意を会得せは何そ大人小児擇はんや東郭氏は此方の症にして胃気鬱閉一層甚き者に麦芽木香を加て効ありと云試むべし

擇≒選

 

 

常山湯  香川

・方函「(せつ)瘧剤。常山、知母、檳榔、右三味露宿服之。」

・蜀漆散と同く瘧の截薬なり常山の方数種あれども此方最効あり

截:セツ:きる。たつ。刃物でたちきる。

 

 

舒筋温胆湯  蘭軒

・方函「治痿躄、栗園先生日、治諸癇癖攣痛效、柴胡、芍薬、枳実、茯苓、半夏、当帰、竹筎、羚羊、釣藤、甘草、呉茱萸。右十二味。」

・萬安方に拠る雖出処未た詳ならす近くは伊沢蘭軒の経験にて痿躄を治すと云余は四逆散温胆湯の変方として癇症にて四肢拘攣腹裏拘急して心志不寧抑肝散などより其病一等重き者に用て効あり

 

 

 

蜀漆湯  千金

・方函「治産後、虚熱往来、心胸煩満、骨節疼痛、及頭痛壮熱、晡時輙甚、又如微瘧。蜀漆、桂枝、甘草、黄芩、黄耆、知母、芍薬、地黄、右八味。

・蓐労の主薬とす大抵は小柴胡加地黄湯三物黄芩湯にて治すれども虚熱盗汗身酸疼等の症に至ては此方と加減逍遙散に非れは効なし

蓐労:→三物黄芩湯

 

 

 

除湿補気湯  済世全書(古今方彙、麻木篇)

・方函「治両腿麻木、沈重無力、多汗喜笑、口中涎下、身重如山、語声不出者。橘皮、黄耆、柴胡、蒼朮、五味子、当帰、蒿本、升麻、黄蘗、知母、甘草、右十一味。」

・猥腿風俗に所謂醉々と称する者の主薬とす食禁を厳にし此方を与るときは稍保全すべし若此症にして湿熱甚き者は会解の清湿湯とす二方の主治熟読すべし

猥腿風:ワイタイフウ、脊髄労、偏枯の別称

辛夷清肺湯  正宗

・方函「治肺熱、鼻内瘜肉、初如榴子、日漸大、閉塞孔竅、気不宜通。辛夷、黄芩、梔子、麦門、石羔、知母、百合、升麻、枇杷葉。右九味。」

・脳漏鼻淵鼻中肉或鼻不聞香臭等の症凡て熱毒に屬する者に用て効あり脳漏鼻淵は大抵葛根湯加川芎大黄或は頭風神方に化毒丸を兼用して治すれども熱毒あり疼痛甚き者は此方に非れは治すること能はす

石羔=石膏

 

 

 

 

新続命湯  有持桂里

・方函「治小児、発壮熱、無汗煩躁者。麻黄、石膏、芍薬、桂枝、羚羊、葛根、甘草、右七味。

・小児一時壮熱甚く発する者を治す外感の発は痙病と同しことにて葛根湯にて大抵宜しけれども大渇煩躁する者は此方を宜とす又大人中風の熱症にも与ふべし

 

 

 

神効散  回春

・方函「治痘出、毒気太盛、血紅一片不分地界、如蛟蠶種、或諸失血、或吐瀉、七日以前証可服解毒。黄耆、人参、芍薬、地黄、牛蒡、柴胡、紅花、紫根、甘草、右九味。

・痘瘡気虚毒壅の主剤とす膿漿充ること能はす痘尖内陥する也毒壅とは血紅一片地界を分たす或は暗黒を帯て痒の勢あるを云此方を以解毒表托すべし毒深者は反鼻を加

:とう、土地がくぼむ。たおれる、くずれる

 

 

 

神秘湯  外薹

・方函「療久咳奔喘、坐臥不得、幷喉裏呀声気絶。麻黄、蘇葉、橘皮、柴胡、杏仁。右五味、或加厚朴甘草、刪繁(さんはん)加生姜石膏名橘皮湯。

・外台備急に療久奔喘、坐臥不得、并喉裏呀声気絶方、又名神秘湯とあるか原方にて、王碩(おうせき)の易簡方、揚仁斉の直指方、東垣の医学発明にも同名の方ありて二三味づつの加減あれは、此方か尤捷効あり。吾門厚朴を加る者は易簡に一名降気湯の意に本つく也。

 

 

 

 

真武湯(玄武湯) 傷寒論

・方函「朮、茯苓、芍薬、附子、生姜、右五味、或加赤石脂、治鶏鳴瀉及疝瀉。或加半夏人参、治胃虚下利、或加呉茱萸桑白、治痰、飲上迫。

・内有水気と云か目的にて他の附剤と違ふて水飲の為に心下悸し身動すること振々として地にたをれんとし或は麻痺不仁手足引つることを覚え或は水腫小便不利其腫虚濡にして力なく或は腹以下腫ありて臂肩胸背羸痩其脈微細或は浮虚にして大に心下痞悶して飲食美ならざる者或は四肢沈重疼痛下利する者に用て効あり方名は千金及翼に従て玄武に作るべし

 

 

 

 

秦扶羸湯  入門

・方函「治肺膽二経虚熱、及肺痿骨蒸、已成労嗽、或寒或熱、声嗄不出、体虚自汗、四肢怠惰。
秦艽、鼈甲、人参、当帰、半夏、甘草、柴胡、地骨皮、紫苑、烏梅、大棗、生姜。
右十二味、按此方本出聖濟、治肺痿骨蒸、已成労嗽、或寒熱声唖不出、体虚自汗、四肢怠惰。

・肺痿骨蒸の主剤とす。前の秦鼈甲湯に比すれは稍虚侯を見す者に宜し。但し彼は骨蒸壮熱肌肉消痩して咳嗽なき者に用ゆ。此方は熱強く咳する症に用ゆ。又外台解五蒸湯の症に似て羸痩甚き者に与ふへし

 

 

 

秦鼈甲湯  宝鑑エイセイホウカン 

・方函「治風勞、骨蒸壮熱肌肉消痩、舌紅頬赤、気鹿、困倦盗汗。秦艽、知母、当帰、鼈甲、柴胡、地骨皮、青蒿、烏梅、生姜、右九味。」

・風労の主薬とす。虚弱の人風かぬけそこねてぶらりと労熱になりたるを治す。一時清熱の効あり。然れども日を経て骨蒸の候を具し肌肉消痩唇紅頬赤の者に至ては此方の治する処に非す。此は柴胡姜桂加鼈の場合の今一段熱つよく姜桂の熱薬の障りそうな処へ用ゆべし。

姜桂:柴胡桂枝乾姜湯    本方は黄耆鼈甲湯がベースとなっている

 

 

 

参耆鹿茸湯  回春

・方函「治痘色淡、白疱不尖、根無紅暈者、気虚而血縮者也。不成膿。人参、黄耆、鹿茸、当帰、甘草、生姜、右六味或加反鼻。

・虚痘にて其色灰白根に紅暈なく膿漿を醸すこと能はさる者を治す。又痘のみならす諸瘡瘍気虚して血縮む者に効あり。一婦人乳癰数年不愈膿水淋漓長肉すること能はす頑肉突起其状乳岩自潰の者に似たり。此方を與うること数月にして全愈ゆ。

 

 

 

参胡三白湯  蘊要ウンヨウ傷寒蘊要

・方函「治傷寒過経不解、脈虚数、人弱発熱、或潮熱、口乾舌燥。柴胡、人参、芍薬、白朮、茯苓、右五味煩熱不得眠者、加竹筎麦門。

・嶺南衛生方の愚魯湯ク゛ロトウに三白散サンハ°クサンを合したる者なり。此症は小柴胡湯を用ゆへき様に見ゆれども、黄芩半夏抔と組合ては一際するとの勢あり。是は脈虚数或は下利抔ありて動もすれは、医王か真武の証に陥んとして未だ少陽の位を出さる者に用ゆ。

 

 

 

参胡芍薬湯シ゛ンコ゛シャクヤクトウ  入門

・方函「治傷寒十餘日、外余熱未解、脈息未緩、大便不快小便黄赤、或渇或煩、不得安睡、不思飲食、此邪気未浄、正気未復、当量其虚実調之、柴胡。
芍薬、枳実、黄芩、生姜、知母、人参、地黄、麦門、甘草、右十味。

・大柴胡湯に半夏大黄を去り知母人参生麦門甘草を加へたる者にて其症も大略大柴胡に似たれども其脈腹大柴胡ほどの実したる処なく又胸中に飲を畜ふる様子もなく唯熱荏苒として数日を経津液枯燥して解すること能はさる者に用ゆ東郭の説に総てかやうの処に生を主剤として用ゆるは実症の解熱に石膏を用ると同段にて多年用て効験多し今此方の中に知母生と組たるは即実症に知母石膏と組たると同趣意なり

※生‥生地黄

参蘇飲  雞峰

・方函「治産後面黒、乃悪血、及肺発喘欲死。人参、蘇木。右二味、一名山査湯。

・血喘を主とす又産後血衝心の者にも用ゆ証に依て即効ある薬なり

 

 

 

参苓白朮散  和剤局方

・方函「治脾胃虚弱、飲食不進、多困少力、嘔吐泄瀉。白扁豆、蓮肉、桔梗、縮砂、苡、人参、茯苓、白朮、甘草、薯蕷。右十味。」

・脾胃の弱き人食事進まず泄瀉し易き者を始す。故に半井家にては平素脾胃の至て虚弱なる人動(ヤヤ)もすれは腹の下ると云ものに常用にすと云土佐道寿は脾胃虚弱の候にて発熱悪寒の症あるを補中益気湯とし唯労倦して飲食進まざるを此方とす又此方の症にして下利一等重き者回春の参苓白朮散とするなり

 

 

 

沈香飲  得効

・方函「而腹脹、気喘、坐臥不得、沈香、木香、蘿蔔子。右四味。」

・腹張気喘の症諸薬効なき者に用て宜し虚する者は附子を加ふること有

 

 

 

沈香解毒湯  青州

・方函「治諸疔瘡。香、連翹、沈香、木通、黄連、木香、桜筎、黄芩、右八味。

・五香連翹湯の軽き症に用ゆ疔瘡は大抵十敗湯加菊花大黄に宜し若熱毒甚き者は黄連解毒湯加牛蒡子に宜し下剤の宜しからぬ処か此方の主なり

十敗湯‥十味敗毒湯

 

 

 

沈香降気湯  局方

・方函「治陰陽壅滞、気不升降、胸膈痞塞、喘促、嗜臥、又治脚気上衝、心陽堅満。沈香、縮砂、莎草、甘草、右四味。或合左金名寧癇湯、或合豁強胸名豁胸降気湯、若血気者加紅花黄連、求古館加桑白呉茱萸半夏蘇子名沈水香湯。

・気剤の総目なり陰陽升降せすと云か目的にて脾労の症或は一切の病上衝強く動悸亢り頭眩し耳鳴り気鬱する症に用ゆ。又脚気心を衝の症に桑白皮湯或呉茱萸湯等の苦味を苦い嘔吐する者に効あり。香蘇散・正気天香湯等は気発を主とす。此方は降気を主とす。其趣称異なり。を入ものは潤下に属す。或は左金丸を合するときは降下の力尤強とす。

左金丸‥黄連6:呉茱萸1

 

 

 

沈香四磨湯 家宝

・方函「治冷気攻衝、心腹㽲痛。沈香、木香、檳榔、烏薬。右四味、或加犀角。」

・冷気攻衝と云か目的にて積聚にても痰飲にても冷気を帯て攻衝するに與れは一時即効を奏す。済生方には上気喘息を治するに養正丹を兼服してあり。

 

 

沈香天麻湯 宝鑑

・方函「治驚癇、発痰涎壅塞、目多白睛、項背強急、喉有一声、一時許方省、神思如癡、脈沈弦而急、多服鎮墜寒凉之剤、復損其気。沈香、益知、烏頭、天麻、防風、半夏、附子、羌活、独活、甘草、当帰、姜蚕、生姜、右十三味。

・先輩許多の口訣あれども畢竟癇の一途に出す其癇に抑肝散治肝虚内熱方などを用一等病勢強き者此方の主也又慢驚風に全蝎を加て功を奏す是陰癇に属すれはなり又大人小児共に痿喘甚しく咽に迫り癇を発する症に用て奇効あり又産後金瘡或は下血痢疾或は男女共に脱血して不時に暈絶して人事を不省手足麻木或は半身屈伸しかたく或は手足の指ゆかみて伸す脉沈弱なるに用て妙なり一婦人不食征仲胸中氷冷眩暈足冷に與て得大効是本寒痰胃中に塞りて有より発することなれは胸中の冷気に着眼して能審定すへし

 

 

腎気明目湯  回春

・方函「治勞神、腎虚、血少、眼痛昏暗、当帰、川芎、熟地黄、生地黄、芍薬、桔梗、人参、梔子、黄連、白芷、菊花、蔓荊子、甘草、荼。右十四味、今去熟地黄。

・内障眼の主方とす。内障に気虚血虚の分あり。血虚の者を此方とす。気虚の者を益気聡明湯とす。其一等重き者を医王湯加防風蔓荊子白豆とす。此方の一等重き者を十全大補湯加沈香白豆附子とす。内障に硬翳乳汁翳の二証あり。又黒内障癇家に属する者あり。宜く専門に就て弁明すべし。

 

 

 

半湯  香川

・方函「嘔家用之、即半夏乾姜人参丸方中去乾姜加甘草。」

・大半夏湯の趣向にて面白き方也余は此処に専ら半夏乾姜人参丸料を用ゆ

 

 

連湯  提要方函

・方函「治精気為癇。人参、黄連、呉茱萸、右三味、此方本出于丹渓纂要附餘、無方名、云下痢噤口不食者、脾胃熱甚也、其名参連者、始龔氏、回春、今加呉茱萸、故従撮要也。

・元丹渓治禁口痢と入門に見へたれとも今運用して諸気疾直視煩悶に用て即効あり又吐血心下痞硬の者に用て奇験を奏す故に一閑斎の家にては卒病の要薬とす薬籠中一日も不可無者なり此方にてゆかぬ時は熊参湯なり熊胆人家不可不畜のことは沈括か筆談に見ゆ

 

 

針砂湯  原南陽

・方函「理虚悸、短気、眩暈、虚煩、幷黄胖、此方運用多端、事以鎮墜為主也。鍼砂、牡蛎、茯苓、桂枝、人参、蒼朮、甘草。右七味、續名家方選為丸、名鍼砂丸。

・桂苓朮甘湯に針砂牡蠣人参を加へたる者にて黄胖或奔豚の症動悸甚しく眩暈短気の者を治す又下血後動悸にも用ゆ此方と連珠飲とは症相近くして針砂は胸動を主とし地黄は水分の動を主とする也

 

 

 

熊湯  松原

・方函「治卒倒不知人事、胸心間窒、大煩満者。人参、黄連、熊胆、右三味、先煑二味、後入胆、盡為度。

・単捷にて一時危急を救の良剤也其効用は人参熊胆の性味詳にして知べし

 


―――すすすすすすすすすすすすすすすすすす―――

 

 

頭風神方  廣筆記

・方函「遺糧、金銀花、蔓荊子、玄参、防風、天麻、辛夷、黒豆、川芎、燈心草、芽荼、右十一味、一名山牛湯。」

・結毒の頭痛或耳鳴者に効あり又結毒の眼に入て痛者を治す何れも結毒紫金丹を兼服するを優とす此方惟湿毒のみに非す他症脳痛或耳鳴等の症に用て効あり

 

 

 

 


―――せせせせせせせせせせせせせせせせせせ―――

 

 

清肌安蛔湯  蔓難

・方函「治寒熱往来、肌膚枯燥似瘧如勞、即小柴胡湯方中去大棗加鷓鴣菜麦門。」

・小児蛔虫より寒熱を発する者に効あり似瘧如労者は浄府湯よりは能応するなり

 

 

 

清湿湯  會解

・方函「動於火為す湿熱、腰背跨疼、身重倦怠、身如板夾脚似沙堕、表裏湿熱、宜用。独活、防風、沢瀉、苡、防已、芍薬、黄蘗、黄芩、甘草、右九味。」

・湿熱にて腰脚疼沈重沙墜に似て世に所謂醉々に疑似する者を治す此湯の一等重き者を除湿補気湯とする也

 

 

 

清湿化痰湯  寿世保元

・方函「治遍身四肢骨節走注疼痛、牽引胸背、寒熱喘咳煩悶或作腫塊、或麻痺不仁、或背心一点如氷冷、脈沈滑者。南星、半夏、橘皮、茯苓、蒼朮、羌活、黄芩、白芷、白芥子、甘草、生姜、右十一味。

・痰飲四肢に走注して痛者を走注の理は控涎丹の主治に詳なり控涎丹の症一等軽者此方を與ふべし又痰結して胸膈痛み或は肩背塊を生し痛ある者に用又首筋の辺に痰集りて結核を生し瘰癧気腫して如く数多く累々として久く愈さる者乳香没薬海石朴硝を加て治すること妙なり世医此症を瘰癧として誤治すること有瘰癧は塊に根有て深し此塊は根なくして浅し叉手を以推すに痛ます瘰癧は痛むなり混すへからす凡て湿痰流注経絡関節不利と云か目的なり

 

 

 

清暑益気湯  内外傷辨

・方函「治長夏湿熱大勝人感之、四肢困倦、身熱心煩小便少、大便溏或渇或不渇、不思飲食自汗。人参、白朮、橘皮、黄蘗、神、沢瀉、当帰、青皮、麦門、葛根、五味、黄耆、蒼朮、升麻、甘草、右十五味。

・注夏病の主剤也。虚弱の人夏になれは羸痩して倦怠し、或は泄利、或は乏喘し四肢煩熱する者を治す。此方東垣の創意にて多味に過たり。即効を取には近製の方を用ゆべし。老人などの持薬には此方を宜とす。余は近製方の條下に具す。

清暑益気湯  医学六要(近製)

・方函「近製主治同内外辨方、人参、白朮、麦門冬、五味、橘皮、甘草、黄蘗、当帰、黄耆。右九未、按張三錫新定方無麦門五味有麻姜棗。

・注夏病を主とす医学入門毎遇春末夏初頭疼脚軟食少体熱名注夏病治之方補中益気湯去升柴加黄柏芍薬五味子麦門冬即此方一類の薬なり又張三錫新定方には麦門五味なく升麻姜棗あり何れも其宜に従て選用すへし又弁惑論升陽順気湯云治飲食不節労役所傷腹脇満悶短気遇春則口淡無味遇夏雖熱猶有悪寒飢則常如飽不喜食冷物云々是亦注夏病の主方也然れども注夏病は大抵此方を服せしめ萬葉集に拠て鰻を餌食とし閨房を遠くれは秋冬に至て復する者也金匱云春夏劇秋冬と亦此病を謂に似たり

:さんしょううお

 

 

 

清上防風湯  回春

・方函「治頭面瘡風熱毒。荊芥、防風、梔子、黄連、薄荷、枳実、連翹、白芷、桔梗、川芎、黄芩、甘草、右十二味、火石膏或大黄。

・風熱上焦のみに熾に頭面に瘡毒腫等の症あれども唯上焦計のことにて中下二焦の分さまて壅滞することなけれは下へ向てすかす理はなき故上焦を清解発散する手段にて防風通聖散の如き硝黄滑石の類は用ひぬ也凡て上部の瘡腫に下剤を用ることは用捨すべし東垣か身半以上天之気身半以下地之気と云ことを唱へ上焦の分にあつまる邪は上焦の分にて発表清解する理を発明せしは面白き窮理なり

 

 

 

清心温胆湯  医鑑

・方函「平肝解鬱、清火、化痰、除眩暈諸癇之疾。麦門、川芎、人参、遠志、当帰、白朮、芍薬、茯苓、橘皮、枳実、半夏、竹筎、莎草、黄連、甘草、石菖根。右十六味、回春名精神抑膽湯。」

・千金温胆湯の症にして肝気亢盛の者を治す温胆湯は事に觸て驚き易く臥寝し難き者は心胸中畜飲の故なりそれを軽く疎通すれは愈此方は一等重く肝気亢りて心下両脇へかけて拘急心気鬱塞し或は怒火頻に動き癇状を為す者に宜し竹茹温胆湯と髣髴すれども此方は四逆散の意を含してりさて方名を抑胆に作るの益胆に作るのと議論あれども矢張温胆に作るか穏なり

髣髴=彷彿、よく似る、ぼんやりみえる、ほのか

觸=触

 

 

 

清心蓮子飲  局方

・方函「治心中煩躁、思慮憂愁抑鬱、小便赤濁、或有沙漠、夜夢遺精、遺瀝渋痛、小便赤如、或酒色過度、上盛下虚、心下上炎、肺金受剋、故口苦咽乾、漸成消渇、四肢倦怠、男子五淋、婦人帯下赤白、五心煩熱、此薬温平、清心、養神、秘精。蓮肉、人参、黄耆、茯苓、麦門、地骨皮、車前子、黄芩、甘草、右九味。

・上焦の虚火亢りて下元之か為に守を矢し、気淋白濁等の症をなす者を治す。又遺精の症、桂枝加龍蠣の類を用ひて効なき者は上盛下虚に属す。此方に宜し。若し心火熾にして妄夢失精する者は龍胆瀉肝湯に宜し。一体此方は脾胃を調和するを主とす。故に淋疾下疳に因る者に非す。又後世の五淋湯、八正散の之く処に比すれば虚候の者に用ゆ。名医方考には労淋の治効を載す。加藤謙斎は小便餘癧を覚る者に用ゆ。余、数年歴験するに、労動力作して淋を発する者と、疝家などにて小便は佳なり通ずれども跡に残る心持ありて了然たらざる者に効あり。又咽乾く意ありて小便餘癧の心を覚るは猶更此方の的当とす。正宗の主治は拠とするに足らず。

清熱補気湯  準縄

・方函「治中風虚熱、口舌如無皮状、或発熱作渇。人参、白朮、茯苓、芍薬、当帰、升麻、五味子、麦門冬、玄参、甘草。右十味、服之不応加炮姜、更不応加附子、按産後口舌痛者、服消す黄朱石類、未嘗得治、一老医伝此方、後屢々試之效。」

・元、中風虚熱口舌無皮の状の如きを治する方なれども、今、産後口舌痛み消黄朱石の類を服して効を見さる者に運用すれは、其験()()の如。蓋此方は明医雑著の柴胡清肝散と表裏にて、彼は肝火亢盛、唇舌腫裂する者を治し、此は血虚、口舌糜爛する者を治す

桴:フ、いかだ、たいこのばち、    鼓:つづみ

 

 

 

 

清肺湯  回春

・方函「治一切咳嗽、上焦痰盛、或久咳不止、或労怯、或久嗽声瘂、或喉生瘡者、此火傷肺金幷此湯。桔梗、茯苓、橘皮、桑白、当帰、杏仁、四肢、黄芩、枳実、五味、貝母、甘草、右十二味。

・痰火咳嗽の薬なれども虚火の方に属す若し痰火純実にして脈滑数なる者は氏は枳実湯を用る也肺熱ありて兎角せきの長引たる者に宜し故に小青竜加石膏湯などを用て効なく労嗽をなす者に用ゆ方後の按に久嗽不止成労怯者とあり着眼すべし

 

 

 

 

清凉至宝飲  玉衡

・方函「此淸熱之剤。薄荷、地骨皮、牡丹、梔子、天花粉、玄参、細辛、右七味。

・熱を清するを主とす。医宗金鑑に陰毒陽毒は今の所謂病也と云ども二病共に稀有の証にして弁明しかたし。一種奇熱の者あり此方を用て効あり。後世病に黄連解毒湯を用ゆ。然れども彼は下痢洞泄を主とす。此は熱を主とする也。

熱‥ツツカ゛ムシ病、リケッチア。水害の後に流行することがある。40度台の発熱がある。クロマイが効く。

 

 

 

折衝飲  産論

・方函「治姙娠二三月下血塊。桂枝、芍薬、桃仁、当帰、川芎、牛膝、延胡索、紅花、牡丹。右九味、按聖恵方牛膝散去木香加紅花。

婦人良方の牛膝散に加減したる者なり産後悪露盡さる者及婦人血に属する諸病に用て宜し世医桂苓丸と同様に見做すれども桂苓丸はを主とし此方は行血和潤を主とするなり

 

 

 

 

旋覆花湯  外薹

・方函「主胸膈痰結、睡如膠、不下食、附子、旋復、細辛、柴胡、甘草、茯苓、半夏、生姜、桂枝、右九味、原用烏頭、今代附子。」

・淡飲胸膈に凝結し飲食之か為に阻隔して下らす其症膈噎に類すれども心下に停食ありて真の膈噎にあらす数日解せさる者を治す

 

 

 

旋覆花湯  聖剤

・方函「治支飲、胸膈実痞、呼吸短気、栗園先生日、木防已湯去石膏加茯苓芒消湯、而属実熱者、宜此湯。旋覆、檳榔、柴胡、桔梗、桑白、鼈甲、大黄、甘草、右八味。」

・木防已湯の症にして飲結今一等甚しく支飲の治を施して動かさる者を治す胸膈実痞と云か此方の目的にて心下痞堅するのみに非すして胸膈に痞して喘あり咽乾き気息臥すことを得す下証ある者に用ゆ又此方を與て諸症緩むと雖復発する者木防已湯に宜きことあり参照して互に用ゆへし

 

 

 

旋覆代赭石湯(旋覆花代赭石湯) 傷寒論

・方函「旋復花、甘草、大棗、人参、生姜、半夏、代赭石。右七味。」

・生姜瀉心湯の症一等重き者を治す。医学綱目には病解して後、痞硬、噫気不下痢の者を此方とし、下痢する者を生姜瀉心湯とす。今、嘔吐の諸症、大便秘結する者に用ひて効あり。又、下痢止まずして嘔吐し、宿水を吐するに効あり。一は秘結に宜しく、一は下痢に宜し、其の妙、表裏にあり、拘るへからず。又、噦逆、水飲に属する者を治す。周楊俊日予用此方以治反胃噎食気逆不降者神効と又試むべし

 

 

 

前胡建中湯  千金

・方函「治大勞虚劣、寒熱、嘔逆、下焦虚熱、溲便赤痛、客熱上熏頭目及骨肉疼痛、口乾。芍薬、桂枝、半夏、茯苓、黄耆、当帰、柴胡、人参、甘草、生姜、白糖、右十一味。

・黄耆建中湯の変方にして薬令建中の祖なり男女積冷気滞或は大病の後常に復せす四肢沈重を苦み骨肉やせ痛吸々として気少く行動すれは喘之胸満を気急し腰背強く痛み心中虚悸し咽乾き唇燥き面体色少く飲食味なく胸肋脹満し頭重くして挙らす臥こと多く起こと少なく少腹拘急して羸瘠する者に用ゆ凡虚労を治するには大温補の剤にて医王抔よりば能応する者なり

瘠:セキ、やせる≒痩

 

 

 

喘四君子湯  回春

・方函「治短気、凡気短而喘者、呼吸短促而無痰声也。人参、茯苓、厚朴、縮砂、木香、蘇子、桑白、当帰、白朮、沈香、橘皮、甘草、右十二味。

・其人胃虚して時々喘息を発する者に宜し熱なくして短気か主になる症なり若熱あれは一旦麻杏甘石の類を用て解熱すべし当帰を痰に用ゆること粉々説あれども千金紫蘇子湯清肺湯楼貝養栄湯の類皆降気を主とする也本草を精究すべし

 

 

 

喘理中湯  回春

・方函「治寒喘、四肢逆冷、脈沈細。蘇子、縮砂、厚朴、桂枝、沈香、木香、橘皮、甘草、乾姜、右九味、或加附子。

・寒喘を主とす傷寒陰分の喘は大抵死証なれども雑病に在ては然らす寒飲を温散すれは愈るもの也但四十以上の人卒然として喘息を発し四肢厥冷する者肺絶の候也不治とす

 

 

 

 

正観湯  外薹「し」にも記述

・方函「療痢腹中切痛、下黒色、昼夜百行、将死者、黄連、竜骨、白朮、当帰、附子、赤石脂、乾姜、阿膠、右八味。」

・痢病の壊症になりて百行止ます魚腸の如く或黒の者を下し切痛甚者を治す後世にては真人養臓湯を用ゆれども此方のかた其力優にして虚熱ある者最宜とす

 

 

 

正気天香湯  纂要「し」にも記述

・方函「治婦人一切諸気、或上湊心胸、或攻脇肋、〇玉機、微義此以下有腹中結塊、発渇刺痛、月水不調或眩運嘔吐、往来寒熱、胎全産後一切気候皆治之。減食文。莎草、陳皮、烏薬、蘇葉、乾姜、甘草、右六味。

・気剤の総司なり諸気為痛と云を以て目的とす其他眩暈嘔吐寒熱の類何れも気の鬱滞より来るものは一症を見さば即用ゆべし蓋此方専ら気の鬱滞を利すれども血分の申分にも能応すいかんとなれは血不能独行必依気流行すと云て血分の不和は気に本くか必然の理なりそれ故気滞より経行不利する者に用て効あり経行不利を強て血分に拘て療治するは拙作とす気滞のみならす痃癖攣急の類すへて其腹候を審にし其源証を治すれは自然と経事来る也

 

 

 

正心湯  医統「し」にも記述

・方函「治七情五志久逆、心風、妄言妄笑、不知所苦。当帰、茯苓、地黄、羚羊、甘草、酸棗仁、遠志、人参、右八味。

・帰脾湯の症にして心風甚く妄言妄行不止血気枯燥する者を治す又小児肝虚内熱精神爽かならざる者に用ゆ

 

 

 

生化湯  達生「し」のも記述

・方函「治兒枕痛。当帰、川芎、桃仁、甘草、乾姜。右五味。」

・景岳全書幼々集成等に出たれとの隶赤の女科秘方に載せたる論最も精し其主意は凡産後に血気順行すれは畜消して新血滋生するの理必然なり故二古より桂枝茯苓丸を用て血を逐を主薬とす然れども脱血過多の症には参附地黄黄耆など専用して温補すへきことなれども概して地黄抔用るは宜しからす是に於て芎帰姜桃を以て生化の運用を成こと実に妙手段と云べし若平素疝にて子宮痛者か或は付き信痛堪がたき者は桃仁を去て用るを佳とす

 

 

 


―――そそそそそそそそそそそそそそそそそそ―――

 

 

壮原湯  赤水

・方函「治下焦虚寒、中満腫脹、小便不利、上気喘急、陰嚢両腿皆腫、或面有浮気。人参、蒼朮、茯苓、破故紙、桂枝、附子、乾姜、縮砂、右八味。

・元中満腫脹か目的にて皷脹の薬なれども陰水にて桂姜棗草黄辛附湯真武湯の類を投し腹満反て甚く元気振はす小便不利する者に用て効ありすべて附子剤此方の類を用ゆる腹満皷脹は腹平満して大便秘せさる者なり平満の処へ下剤をやると益早脹をなす者也厚朴七物湯の類を始め下剤を與る脹満はつんぽりと脹ものなり是を腹満陰陽の別とす

増損四順散  外薹

・方函「療少陰下利不止、手足微冷及無熱候。人参、附子、乾姜、甘草、竜骨、黄連、右六味、今加茯苓。

・四逆湯の症にして寒熱錯雑する者を治す故に復湯既済湯の一等重き処に用ゆ又下痢不止の語に注意して理中四逆を與て下痢不止まさる者に用ゆ古方龍骨黄連と伍する者は下痢を収するの手段なり断痢湯の方意も亦同じ

 

 

 

増損理中丸  外薹

・方函「療下後、或不下、心下結満、両脇痞塞、胸中気急、厥逆欲絶、心起高胸、手不得近、浮過二三日死、此下後虚逆、気毒相激、即理中丸方中加枳実茯苓牡蛎根。」

・理中丸の症にして心下結満或は胸中気急結胸に類して其実は虚気上気して胸部を圧迫する者を治す活人書の枳実理中湯は此方の一等軽き者なり

 

 

 

桑白皮湯  脚気論

・方函「桑白、沈香、防已、木通、厚朴、茯苓、檳榔、郁李仁、蘇葉、生姜、犀角。右十一味。」

・磐瀬元策の家方にて脚気衝心腫気の衝心になりたるに用ゆ唐侍中一方犀角旋覆花湯に比すれは利水の力強く沈香渓胸湯に比すれは降気の力乏とす

 

 

 

桑白皮湯  東郭〇外薹無方名

・方函「定上気、息鳴卒喘便欲絶者、入口気下、桑白、呉茱萸。右二味、元和紀用経名降気湯。

・外台卒喘の主とす凡そ急迫喘気を発し困悶する者を治す又此意にて諸方に合して用へし導水鎮言に三日坊を治すと云も此症なるべし有持桂里は此方酒にて煎しされは効なしと云

 

 

 

捜風解毒湯  本綱

・方函「治楊梅瘡、并楊梅瘋毒、及服軽粉薬、筋骨疼痛、不能動履者。防風、遺糧、金銀花、木通、苡、木瓜、皀角刺、白蘚皮。右八味、済生外科経験、名加味遺糧湯、福井氏去遺糧加萆解、名八味萆解湯、治楊梅瘡已後、用奇良、而頭痛者。

・解毒剤の元祖にて梅毒の套薬とすれども汞薬を服するの後筋骨疼痛する者に非れば効なし尋常の梅瘡なれは香川の解毒剤を隠当とす

穏当:道理にかなっていること

 

 

 

走馬湯  金匱

・方函「巴豆、杏仁。右二味。」

・紫円の元方にて一本鎗の薬也凡中悪卒倒諸急症牙開噤急人事不省の者此薬をくときは二三滴にて効を奏す又打撲墜下絶倒口噤の者にも用ゆ

鎗=槍

 

 

瘡瘍解毒湯(瘡瘍解毒湯)  福井

・方函「連翹、檳榔、桔梗、欝金、丁香、沈香、木香、忍冬、紅花、甘草。右十味。」

・一切腫瘍に用ゆれども其中胎毒に属する者に効あり連翹湯の一等重き者にして五香連翹湯よりは稍軽きとす

 

 

 

息奔湯  三因

・方函「治肺之積在右脇下、大如覆杯、久久不愈、病洒洒寒熱、気逆喘咳、発為肺癰。桂枝、呉茱萸、桑白、半夏、、人参、甘草、右七味。

・延年半夏湯の症の如く脇下に飲癖ありて時々衝逆して呼吸促迫気喘絶せんと欲する者に宜し蓋半夏湯に比すれは塊癖は軽くして上迫の勢強しとす或人脇下の左右を以二方の別とするは肺積の名に泥むものと云へし

 

 

 

蘇恭一方犀角湯  外薹

・方函「犀角、羚羊、射干、沈香、木香、丁香、石膏、麦門、竹筎、麝香、人参、茯苓。右十二味、蘇恭云、若風熱軽、但毒気入胃、但心悶煩、索水混胸面、乾嘔、好叫欲断絶者、服此。

・脚気衝心膈熱甚く因悶する者を治す又傷寒膈熱の症にも用ゆ即紫雪と同意なり

 

 

 

続命湯 金匱

・方函「麻黄、桂枝、当帰、人参、石膏、乾姜、甘草、川芎、杏仁。右九味、去人参加黄芩、名西州続命湯、治風湿腰脚攣急、痺疼。」

・偏枯の初起に用て効あり其他産後中風身体疼痛する者或は風湿の血分に渉りて疼痛止まさる者又は後世五積散を用る症にて熱勢劇者に用ゆべ

 

 

 

蘇子湯  外薹

・方函「療気上迫満、或気不通、煩悶喘嘔。蘇子、乾姜、橘皮、茯苓、半夏、桂枝、人参、甘草、右八味。」

・千金紫蘇子湯の類方にして虚気上逆して気喘する者を治す盡紫蘇子湯に比すれは利水の効あり半夏乾姜と伍するは心下の飲を目的とする也

 


 

―――たたたたたたたたたたたたたたたたたた―――

 

 

大阿膠湯(大膠艾湯) 千金

・方函「治男子絶傷、或従高墮下、微者唾血、甚者吐血、及金瘡傷経。即芎帰膠艾湯加乾姜。」

・此方は芎帰膠艾湯と主治同し蓋乾姜を加る処に深意あり地黄乾姜と伍するときは血分のはたらき一層強くなる也咳奇方治血狂一方も同旨なり

 

 

 

大黄黄連瀉心湯  傷寒論

・方函「大黄、黄芩、黄連、右三味。」

上焦瀉下の剤にして其用尤広し局方三黄湯の主治塾読すべし但気痞と云か目的なり

 

 

 

大黄甘草湯  金匱

・方函「大黄、甘草、右二味。」

・所謂南熏を求んと欲せは必先北を開の意にて胃中の壅閉者亦効あり同理也丹渓小便不通を治するに吐法を用て肺気を開提し上窮通して丁竅亦通せしむ此方と法は異なれとも理即同き也其他一切の嘔吐腸胃の熱に属する者皆用ゆへし胃熱を弁せんと欲せは大便秘結或食巳即吐或手足心熱或目黄赤或は上気頭痛せは胃熱と知へし上冲の症を目的として用れは大なる誤はなし虚症にも大便久く燥結んる者此方を用是権道也必す柱に膠すへからす讃州の御池平作は此方を丸として多く用ゆ即今の大甘丸中川修亭は調胃承気湯を丸として能吐水病を治すと云皆同意也

北:北方の窓

 

 

 

 

大黄甘遂湯  金匱

・方函「大黄、甘遂、阿膠、右三味。」

・水血二物を去を主とすれは水気か重になりて血は客也徴難と云者は一向不通に非す此症に多くある者なり然し婦人急に小腹満結小便不利する者に速効あり又男子疝にて小便閉塞少腹満痛する者此方尤験あり

 

 

 

大黄牡丹湯(大黄牡丹皮湯)  金匱

・方函「大黄、牡丹、桃仁、瓜子、芒硝、右五味。」

・腸癰膿潰以前に用る薬なれども其方桃核承気湯と相似たり故に先輦血衝逆に運用す凡桃核承気の証にして小便不利する者は此方に宜し其他内痔毒淋便毒に用て効あり皆排血利尿の効あるか故なり又痢病魚脳の如を下す者此方を用ゆれは効を奏す若虚する者駐車丸の類に宜し凡痢疾久く愈さる者は腸胃腐爛して赤白を下す者と見做すことは後藤艮山の発明にして奥村良筑其説に本き陽症には此方を用ひ陰症には苡附子敗醤散を用て手際よく治すと云古今未発の見と云ふへし

 

 

 

 

大黄附子湯   金匱

・方函「大黄、附子、細辛、右三味。」

・偏痛を主とす左にても右にても拘ることなし胸下も広く取て胸助より腰まても痛に用て宜し但し烏頭桂枝湯は腹中の中央に在て夫より片腹に及もの也此方は脇下痛より他に引はるなり蓋大黄附子と伍する者皆尋常の症にあらす附子瀉心湯温脾湯の如き亦然り凡頑固偏僻抜き難ものは皆陰陽両喘に渉る故に非常の悟を為す附子石膏と伍するも亦然りとす

 

 

 

 

大陷胸湯  傷寒論

・方函「大黄、芒硝、甘遂、右三味。」

・熱実結胸の主薬とす其他胃痛劇者に特効あり一士人胸背徹痛昼夜苦楚忍ふへからす百治効なく自死せんとす大陷胸湯を服する三貼にして霍然たり又脚気衝心昏悶欲絶者此方を服して蘇せり凡医者死地に臨て又此手段無んはあるべからす又留飲に因て肩背に凝者に速効あり是よりして小児の亀背などにも此方を用ることあり其軽き者は大陷胸丸に宜し又小児亀胸にならんと欲するとき此方を早く用れは効を収るものなり

 

 

 

 

大建中湯  金匱

・方函「蜀椒、乾姜、人参、膠飴、右四味。」

・小建中湯と方意大に異なれども膠飴一味あるを以て建中の意明了なり寒気の腹痛を治する此方に如はなし蓋大腹痛にして胸にかかり嘔あるか腹中塊の如く凝結するか目的也故に諸積痛の甚くして下から上へむくむくと持上る如き者に用て妙効あり解急蜀椒湯は此方の一等重き者也又小建中湯の症にして一等衰弱腹裏拘急する者は千金大建中湯を宜とす

 

 

 

 

大建中湯  千金

・方函「内虚絶、裏急少気、手足逆冷、少腹攣急、或腹満弦急、不能食、起即微汗出、陽縮、或腹中寒痛、不堪勞苦、唇口舌乾、精自出、或手足乍寒乍熱而煩、苦酸疼不能久立、多夢、補中益気。黄耆、人参、当帰、桂枝、大棗、半夏、生姜、芍薬、附子、甘草、右十味。

・弁前金匱大建中湯の條に見ゆ同名にて遠志龍骨の入方は桂枝加龍牡湯の症一等重精気虚乏の者に與て効を得しことあり

 

 

 

大建中湯  千金

・方函「治五勞七傷、小腹急、胸中気急、不下飲食、小便黄赤、尿有餘瀝、夢交去精、驚恐虚乏。膠飴、黄耆、遠志、当帰、沢瀉、芍薬、人参、竜骨、甘草、生姜、大棗、右十一味、簡易引究原、無膠飴大棗、治小腹急痛、便溺、失精虚熱盗汗、気弱甚加附子、腰痛筋急加桂枝。

 

 

 

 

大柴胡湯  傷寒論

・方函「柴胡、黄芩、芍薬、半夏、生姜、枳実、大棗、大黄。右八味、加鷓鴣菜治腹満不大便、熱甚昏瞶而蛔者、又加茵、治発黄証、求古館去大棗大黄加羚羊釣藤甘草、名大羚羊角飲。

・少陽の極地に用は勿論にして心下急鬱々微煩と云を目的として世の所謂癇症の鬱塞に用ゆるときは非常の効を奏す恵美三伯は此症の一等重きに香附子甘草を加ふ高階枳園は大棗大黄を去羚羊角釣藤甘草を加ふ何れも癇症の主薬とす方今半身不遂して不語する者世医中風を以目すれども肝積を塞き血気の順行あしく遂に不遂を為也肝実に属する者此方に宜し尤左脇より心下へかけて凝り或は左脇の筋脈拘攣し之を按て痛大便秘し喜怒等之証を目的とすべし和田家の口訣に男婦共に櫛けつる度に髪ぬけ年不相応に髪の少なきは肝火のなす処也此方大に効ありと云又痢疾初起発熱心下痞して嘔吐ある症早く此方に目を付へし又小児疳労にて毒より来る者に此方加当帰を用て其勢を挫き其跡は小柴胡小建中の類にて調理する者其他茵陳を加て発黄心下痞硬者を治し鷓鴣菜を加て蛔虫熱嘔を治するの類運用最広し

経隧:隧=道、経隨:血管系をさす

 

 

 

大三五七散  千金

・方函「治頭風眩、口、目斜、耳聾。細辛、防風、乾姜、天雄、山茱萸、薯蕷、右六味。

・陽虚風寒入脳の六字か主意にて一夜の内に口眼邪を発し他患る処なく神思少しも変らぬ者に効あり医大抵中風の一症として治風の薬を與れども効なし是は一種の頭風也重き者は時々紫円にて下すべし又外に苦処なく唯耳聾る者に効あり若熱有て両脇へ拘急し耳聞へ難き者は小柴胡湯の行く処なり諸病耳鳴り或は頭痛して足冷る者に用て妙効あり

 

 

大七気湯  済生

・方函「治六聚、状如癥瘕、隨気上下、心腹㽲痛、攻刺腰痛。三稜、莪朮、桔梗、桂枝、橘皮、香、甘草、莎草、益知、右九味。

・後世にては積聚の主剤とすれども莪稜は破気を主とす堅塊の者は檳鼈に非れは効なし故古方積宅の方多く此二品を用る也此方は腹中に癖気ありて飲食に嗜忌あり或は食臭を悪動もすれは嘔吐腹痛を発しにして忘るるか如ものに効あり又蛔を兼る者に檳榔を加て用後世所謂神仙労なとの類は余此方に神仙散を兼服せしめて往々効を奏せり

須臾:わずかの時間、しばらく

 

 

大承気湯  傷寒論

・方函「大黄、厚朴、枳実、芒硝、右四味。」

・胃実を治するが主剤なれども承気は即順気に意にて気の凝結甚き者に活用すること有り。当帰を加て発狂を治し、乳香を加て痔痛を治し、人参を加て胃気を鼓舞し又四逆湯を合し温下するが如き妙用変化窮まりなしとす。他は本論及び呉又可氏の説に()りて運用すべし。

 

 

 

大神湯  竹田家方

・方函「治黄胖病如神。茵、大黄、人参、梔子、茯苓、縮砂、黄芩、甘草。右八味未効、則加澤蘭乾湿。

・黄胖の重症に用ゆ黄胖は大抵平胃散加鉄砂針砂湯瀉脾湯加龍蠣の類にて治すれども重実の症に至りては此方を宜とす又虚症に至りては六君子湯莎撲蜜を宜とす

※莎:さ、ハマスゲ=香附子

大青竜湯  傷寒論

・方函「麻黄、桂枝、甘草、杏仁、生姜、大棗、石膏。右七味。」

・発汗峻発の剤は勿論にして其他溢飲或肺脹其脈緊大表症盛なる者に用て効あり。又天行赤眼或は風眼の初起此方に車前子を加て大発汗するときは奇効あり。蓋風眼は目の疫熱なり。故に峻発に非れは効なし。方位は麻黄湯の一等重きを此方とする也。

肺脹‥肺炎

 

 

 

大半夏湯  金匱

・方函「外薹云、治嘔吐、心下痞硬者、及憂怒之餘、得食(すなわち)嚔、胸中隱々痛。半夏、人参、蜜、右三味。」

・嘔吐に用るときは心下痞硬か目的なり先小半夏を與て不差者に此方を與ふへし大小柴胡湯大小承気湯の例の如し蓋小半夏湯に比すれは蜜を伍するに深意あり膈咽の間交通の気降を得すして嘔逆する者蜜の膩潤を以て融和し半夏人参の力をして徐々に胃中に翰旋せしむ古方の妙と云へし故に此方能膈噎を治す膈噎の症は心大逆満してつふつふと枯燥してあり此方必す効あり若枯燥せさる者は水飲にてなす膈にて効なし又胃反膈噎ともに食にむせひ気力乏きに此方に羚羊角を加て用羚羊角の能は外台羚羊角湯の條に弁す

 

 

 

大百中飲  本朝経験

・方函「治下疳梅瘡、其他一切湿毒、積年不愈、或頭面腐潰、或鼻柱陥塌、己或廢痼者、神効。遺糧、牛膝、甘草、黄連、檳榔、人参、大黄、桂枝、黄芩、沈香、川芎、杜仲。右十二味、一名奇験方。」

・療治茶談に載する如く梅毒の沈痾痼疾になりて奈何ともすべからざる者に効あり其中上部の痼毒に宜し下部の痼毒ま七度煎に宜し又身體痼毒ありて虚憊甚き耆は威ずい湯に宜し本邦唐瘡の治方に奇験すと称する者数方あれども此方第一とす

耆:老人    梅瘡や湿毒は黴毒と考えて良い    遺糧‥土茯苓、山帰来。黴毒に多用していた

 

 

 

大寧心湯  吐方論

・方函「治宿痰鬱火、胸動高亢、大便秘者、若大便軟者、去大黄加半夏、名小寧心湯。大黄、茯苓、粳米、竹筎、黄連、知母、石膏。右七未、柴田方函大寧心湯、本方中去茯苓粳米、加青皮芍薬甘草、治小兒驚癇。

・薩州医員喜多村良沢癇火を鎮するの主方とす千金温胆湯の症にして実する者に用ゆ柴田家にては小児陽痩煩渇甚者の主方とす

 

 

 

大保元湯  保赤

・方函「治頂陥、根窠雖紅而皮軟且薄、血有鉄而気不足者、川芎、黄耆、人参、桂枝、甘草、白朮、右六味。」

・痘瘡元気虚して起脹する能はさる者を主とすれども凡て小児虚弱にして五遲五軟の兆あり也余症なき者に用て三味の保元湯より効優なり吉村扁耆は三味の方は痘疹より反て慢驚風に効ありと云試むへし

天然痘(痘瘡)に使われた薬

大防風湯  百一

・方函「治鶴膝風、両膝腫大而痛、脛枯腊、局方云、一切麻痺痿軟、風湿挟虚者。地黄、当帰、芍薬、川芎、黄耆、防風、戸中、蒼朮、附子、人参、独活、甘草、牛膝、右十三味。

・百一選方には鶴膝風の主剤とし局方には麻痺痿軟の套剤とすれども其目的は脛枯とか風湿挾虚とか云気血衰弱の候か無れは候なし若実する者に與れは反て害あり

 

 

 

大連翹飲  回春

・方函「治小兒傷風感冒発熱痰壅、風熱丹毒腫痛、頸項有核、顋赤癰、眼目赤腫、口舌生瘡、咽喉疼痛、小便淋瀝、胎毒痘疹餘毒、一切熱毒竝治之。連翹、荊芥、通草、防風、牛蒡子、甘草、蝉退、当帰、芍薬、柴胡、黄芩、山梔子、滑石、車前子、右十四味。

・元痘疹収の期に及て余毒甚く諸悪症を現するを治する方なれども今運用して大人老婦血分に滞ありて身体種々無名の悪瘡を発し諸治効なき者に與て奇効あり若熱毒甚き者は犀角を加るを佳とす

顋サイ‥あご、えら。腮は異字体

竝=並

靨:えくぼ

痘疹‥天然痘たけでなく色々な皮膚病に応用が期待される

 

 

 

托裏消毒飲  正宗

・方函「治癰疽已成、不得内消。人参、川芎、芍薬、黄耆、当帰、白朮、茯苓、白芷、金銀花、甘草、桔梗、皀角刺、右十二味。

・千金内補散と白仲の剤なれども内補散は托膿を主とし此方は消毒を兼ぬ故に毒壅の候を帯る者此方を與るを佳とす余は内補散の條に弁す

癰疽‥フルンケルン、カルブンケルなどの化膿症

 

 

 

断痢湯  外薹

・方函「半夏、乾姜、人参、黄連、附子、茯苓、甘草、大棗。右八味、千金加竜骨、治胸心下伏水。」

・半夏瀉心湯の変方にして本心下に水飲あり既に陰位に陥りて下利止まさる者を治す又小児疳利の脱症に用て効あり疳利は黄連附子と伍せざれは効を奏せす又痢病諸薬効を奏せす利止み難き者此方を用て験あり

 

 


 

―――ちちちちちちちちちちちちちちちちちち―――

 

 

竹茹温胆湯  寿世

・方函「治傷寒日数過多、其熱不退、夢寝不寧、心驚恍惚、煩躁多痰不眠者。柴胡、橘皮、半夏、竹筎、茯苓、莎草、枳実、黄連、人参、桔梗、麦門、甘草、生姜、右十三味。」

・竹葉石膏湯よりは称実して胸膈に鬱熱あり咳嗽不眠の者に用ゆ雑病にても婦人胸中鬱熱ありて咳嗽甚き者に効あり不眠のみに拘るへからす又千金温胆三因温胆の二方に比すれは其力緊にして温胆柴胡二湯の合方とも称すへき者也且黄芩を伍せすして黄連を伍する者龍氏格別の趣意なること深く味ふべし

 

 

 

 

竹皮大丸  金匱

・方函「竹皮、石膏、桂枝、甘草、白薇、右五味。」

・血熱甚く煩乱嘔逆して諸薬口に納る能はさる者に奇効あり白薇は能血分に之く千金婦人門白薇の諸方徴すへし本事方治血厥白薇湯も同意なり又小品方には桂枝加龍骨牡蠣の桂を去白薇附子を加て二加龍骨湯と名け虚弱浮熱汗出者を治す

 

 

 

竹葉湯  金匱

・方函「竹葉、葛根、防風、桔梗、桂枝、人参、甘草、附子、大棗、生姜、右十味。」

・産後の中風虚熱頸項急痙病を発せんと欲する者に用る薬なれども老人なとの虚熱上部に着き頭痛悪寒微咳ありて連綿日を経る者に與て微外功を奏す

 

 

 

竹葉黄芩湯  千金

・方函「治精極、実熱、目視無明、歯焦、髪落、形衰、体痛、通身虚熱。竹葉、黄芩、茯苓、麦門、芍薬、地黄、大黄、甘草、生姜、右九味。

・竹葉石膏湯の証にして一等虚熱甚しく歯焦髪落と云如く血燥の症ありて大小便なと短渋し形容枯稿すれども大の外維持の力ある者に用て効あり

 

 

 

竹葉石膏湯  傷寒論

・方函「竹葉、石膏、麦門、粳米、半夏、人参、甘草。右七味。」

・麦門冬湯の一等熱候ありて煩悶少気或は嘔渇咳嗽する者を治す同一石剤なれども此方と竹皮大丸とは上焦に専に白虎治は中焦に専ら也麻杏甘石と越婢加半夏とは肺部に関係し大青竜は特り表熱に専らにす其方参照して区別すへし又張路玉の経験に病後虚渇して小便赤き者に宜しと云今参胡芍薬湯などを用て其熱解せす小便の色とりわけ赤き者此方効あり又麻疹を治するに此方始終貫きて用ひ場あり体認すへし

 

 

 

 

知蘗六味丸  心法

・方函「治腎虚発熱。即六味地黄丸方中加知母黄蘗、景岳名滋陰八味丸。」

・滋陰の剤にて虚熱に用ゆ又腰以下血燥して煩熱酸疼する者にも用ゆ先哲の説に腎虚をするに二の心得あり所謂腎には水火の二つ有て其中人の性により水朽て火の盛なる者あり軽きときは此方重きときは滋陰降下の類を用ゆ又火衰て水泛する証あり是を八味丸とす是両途を辨して此方の之処は真水か乏くして命門の火の亢る症と心得へし

 

 

 

調胃承気湯  傷寒論

・方函「大黄、甘草、芒硝、右三味。」

・承気中の軽剤也故に胃に属すと云胃気を和すと云少々與ふと云大小承気の如く腹満燥屎を主とせす唯熱の胃に属して内壅する者を治す雑病に用るも皆此意なり

 

 

 

調栄湯  春林軒

・方函「治金瘡傷損脱血者、栗園先生日、治婦人帯下、腰腹絞痛者、人参、当帰、川芎、芍薬、地黄、茯苓、牛皮消、仙骨、白朮、甘草、右十味。」

・八珍湯に牛皮消川骨を加る者にて金創傷損脱血の者に効あり牛皮消川骨の二味は本邦古来の経験にて打撲傷損に用て和血止痛の能あり南總九十九里一老婦あり帯下の奇方を施す牛皮消一味の末也余は此意を体して此方を運用するなり

 

 

 

丁香茯苓湯  楊氏

・方函「治久積隙塞、留滞腸胃、嘔吐痰沫、或有酸水、全不入食。丁香、茯苓、附子、半夏、橘皮、桂枝、乾姜、縮砂、右八味。

・胃中不和より滞飲酸敗を生し遂に翻胃状をなす者を治す生姜瀉心湯よりは一等虚候にして久積陳寒に属する者に宜し

 

 

 

丁附理中湯  全生集

・方函「治胃反、逆、及治服塞凉薬過多、傷胃忒者、即理中湯方中加丁香附子。」

虚寒の噦逆を治す就中下利後の噦逆に効あり中焦を理する力ある故なり又反胃の虚証小児吐乳の脱候に運用すること有何れも中焦を目的とす

 

 

 

調中湯  宝慶

・方函「治産後怯、腹痛作陣、或如錘刀所刺、洞瀉腸鳴。良姜、当帰、桂枝、芍薬、附子、川芎、甘草、右七味。

・産後の下痢を治す蓋産後の下痢に二道あり其一は心下に水結ありて雷鳴下痢し口中赤爛して飲食進まず医宗金鑑の所謂口糜瀉なり甘草瀉心湯に宜し其一は腹中虚寒飲食科すること能はす食後忽腹痛刺か如くにして暴泄する者此方の主なり若腰以下有水気者は真武湯加良姜に宜し又一種腸胃間に熱ありて水瀉止まさる者は厥陽氏の按に本きて四苓散加車前子大を用ゆへし

 

釣藤散  本事方

・方函「治肝厥頭暈。釣藤、橘皮、半夏、麦門、茯苓、人参、菊花、防風、石膏、甘草、生姜、右十一味。

・俗に所謂癇症の人気逆甚しく頭痛眩暈し或は肩背強急眼目赤く心気鬱塞者を治す此症に亀井南溟は温胆湯加石膏を用ゆれども此方を優とす

 

 

 

腸癰湯  千金

・方函「治腸癰潰後、疼痛、淋瀝不己、或精神減少、飲食無味、面色痿黄、四肢無力、睡臥不安者、栗園先生日、治婦人帯下不止者、牡丹、甘草、敗醤、生姜、茯苓、桔梗、苡、麦門、丹参、芍薬、地黄、右十一味。」

・腸癰にて大黄牡丹湯なと用攻下の後精気虚敗四肢無力して余毒未解腹痛淋瀝不巳者を治す此意にて肺癰の虚症臭膿未巳面色萎黄の者に運用してよし又後藤艮山の説に云如く痢病は腸癰と一般に見做して痢後の余毒に用ることもあり又婦人帯下の証疼痛不巳睡臥不安数日を経る者腸癰と一揆と見做して用ることもあり其妙用は一心に存すへし

 

 

 

腸癰湯  集験方

・方函「治腸癰、腹中㽲痛、或脹満不食、小便渋、婦人産後虚熱多有此病、縦非癰但疑似間便可服。苡、瓜子、牡丹、桃仁、右四味、正宗加芍薬名薏苡仁湯。

・大黄牡丹皮湯の症にして硝黄の用かたき者に用ゆ或は大黄牡丹皮湯にて攻下の後此方を與て與毒を盡すへし腸癰のみならす諸血の症に此方の所治多し

 

 

 

猪苓湯  傷寒論

・方函「猪苓、沢瀉、茯苓、阿膠、滑石。右五味、或加車前子大黄、治尿血重者、兼用黄連解毒湯。

・下焦の畜熱利尿の専剤とす若上焦に邪あり或は表熱あれば五苓散の証とす凡利尿の品は津液の必別を主とす故に二方倶に能下利を治す但其位異なるのみ此方下焦を主とする故淋疾或は尿血を治す其他水腫実に属する者及下部水気有て呼吸常の如くなる者に用て能功を奏す

畜熱:熱、慢性炎症の熱




―――つつつつつつつつつつつつつつつつつつ―――

 

 

追風通気湯(散) 回春

・方函「此薬流注癰疽発背傷折、非此不能効。当帰、木通、芍薬、白芷、茴香、枳実、甘草、可首烏、烏薬、右九味。

・気血流注して癰瘡をなさんと欲する者を解散す就中痛甚き者に効あり打撲仙気等対症の薬を與て効なく痛反て劇者に用ゆ後世にては流注毒実証の者に此方を用ひ虚症の者に正宗の益気養栄湯を用ゆるなり

 

 

 

通開湯(通関散) 寿世

・方函「治喉痺腫痛、不能言語、或瀉、或四肢冷痺者。桔梗、甘草、人参、茯苓、薄荷、防風、荊芥、乾姜、白朮、右九味。或加附子。」

・喉痺の脱症に用ゆ凡喉痺の軽症は桔梗湯重者は苦酒湯危劇の者は桔梗白散にて大抵治すれども脱候の者に至ては此方に附子を加へざれは効なし

 

 

 

通経導滞湯  正宗

・方函「治婦人産後、敗血流注経絡、結成腫塊疼痛。莎草、芍薬、当帰、川芎、地黄、橘皮、蘇葉、牡丹、紅花、牛膝、枳実、甘草、独活。右十三味。」

・血流注を治す又婦人風湿疼痛年を経て血分に関係する者に効あり又血流注の甚者に至ては桂苓丸料加附子将軍か桃核承気湯加附に非れは効なし

 

 

 

通脈四逆湯  傷寒論

・方函「即四逆湯倍加乾姜附子。

 

 

 

通脈四逆加猪胆汁湯  傷寒論

・方函「即通脈四逆湯方中加猪胆汁」

・二方共に四逆湯の重症を治す後世にては姜附湯参附湯などの単方を用れども甘草ある処に妙旨あり姜附の多量を混和する力ある故通脈と名け地麦の滋潤を分布する力ある故復脈と名く漫然に非るなり加猪胆汁湯は陰盛格陽と云か目的なり格陽の証に此品を加るは白通湯と同旨なり

 

 


―――てててててててててててててててててて―――

 

 

定悸飲  檪窓

・方函「治奔豚。即苓桂朮甘湯方中加呉茱萸牡蛎李根皮。

・外台の牡蠣奔豚湯に本きて製せる也奔豚のみならず諸動悸の症衝逆の勢ある者は此方を斟酌して用ゆへし

 

 

 

呈星海一方  呈星海医按

・方函「治黴毒筋骨疼痛。遺糧、白蘚皮、金銀花、荊芥、苡、木通、薄荷、当帰、防風、右九味。

 

 

 

大棗瀉肺湯  金匱

・方函「、大棗、右二味。」

・肺癰の初起及支飲を治す苦寒肺中の気閉を泄す故に喘して不得臥者及不得息者に用ゆ大棗を伍する者は十棗湯皀莢丸と同意也は苦味の者を用ゆ

 

 

 

天雄散  金匱

・方函「天雄、白朮、桂枝、右四味。」

・桂枝加龍骨牡蠣湯の症にして陰寒に属する者を治す一人常に陰嚢冷を苦み時に精汁自ら出る者此方を丸薬とし長服して愈

 

 


―――とととととととととととととととととと―――

 

 

桃花湯  傷寒論

・方函「赤石脂、乾姜、粳米、右三味。」

・千金には丸として用至極便利なり膿血下利此方に非れは治せす蓋後重あれは此方の主にあらす白頭翁湯を用ゆへし若後重して大腹痛あるに用れは害を為す者なり又此方赤石脂禹餘糧湯に対すれは少し手前にて上にかかりてあり病下焦に専らにして腸滑とも稱すへきは赤石脂禹餘糧湯に宜し

 

 

 

桃花湯  松原

・方函「治腹満水多者、栗園先生日、解酒醒甚速、桃花、大黄、右二味、今加甘草。」

・外台桃花湯一味の方より出て腹水を去るに即効あり又能酒毒を下す也

 

 

 

桃核承気湯  傷寒論

・方函「芒硝、大黄、桂枝、甘草、桃仁。右五味、瘀血発痙加荊芥、血瀝痛加附子寿世治吐血、覺胸中気塞、上吐紫血。

・傷寒畜血少腹腹結を治するは勿論にして諸血証に運用すへし。吐血衂血止まさるか如き此方を用されは効なし。又走馬疳断疽出血不止者此方に非れは治すること能はす。癰疽及痘瘡紫黒色にして内陥せんと欲する者此方にて快下するときは思の外揮発する者なり。又婦人陰門腫痛或血淋に効あり。若産後悪露下ること少く腹痛者と胞衣下らすして日を経る者とは此方を煮上て清酒を入飲みあんはい宜くして徐々に與ふへし。又打撲経閉等血の腰痛に用ゆ。血の目的は必昼軽して夜重者也。痛風抔にても昼軽して夜痛みはけしきは血による者也。又数年歯痛止まさる者此方を丸として服すれは験あり。其他荊芥を加て痙病及発狂を治し、附子を加て血瀝腰痛及月信痛を治するか如き其効挙て数へかたし。

 

 

 

当帰湯  千金

・方函「治心腹絞痛、諸気冷気満痛、南陽日、療胸痺心痛、幷陳旧腹痛、旁治澼嚢病。当帰、芍薬、半夏、厚朴、桂枝、乾姜、人参、黄耆、蜀椒、甘草。右十一味、寒疝加附子、小品方云大冷加附子1枚良。」

・心腹冷気絞痛肩背へ徹して痛者を治す津田玄仙は此方より枳縮二陳湯か効有と言へとも枳縮二陳は胸膈に停痰ありて肩背へこり痛む者に宜し此方は腹中に拘急ありて痛みそれより肩背へ徹して強痛する者に宜し方位の分別混すへからす

 

 

 

当帰飲子  済生

・方函「治心血凝滞、内蘊風熱、発見皮膚、遍身瘡疥。当帰、芍薬、川芎、地黄、蒺藜、防風、荊芥、可首烏、黄耆、甘草、右十味。」

・老人血燥よりして瘡疥を生する者に用ゆ若血熱あれは温清飲に宜し又此方を服して効なきもの四物湯に荊芥浮萍を加へ長服せしめて効あり

 

 

当帰鶴蝨散  外薹

・方函「療九種心痛、蛔虫、冷気先従両肋、胸背撮痛、欲変吐。当帰、鶴虱蝨、橘皮、人参、檳榔、枳実、芍薬、桂枝、生姜、大棗、右十味。

・蛔虫にて心痛止まさる者を治す鶴蝨倭産効なし森立之の説に従て蛮名せめんしーなを用へし若し此方を用蛔虫去の後心痛猶者は甘草粉蜜湯特効あり

蝨:しらみ虱

せめんしーな‥新薬の駆虫剤、福沢諭吉も飲んだことが文献に残っている

 

 

 

当帰建中湯  金匱

・方函「当帰、桂枝、芍薬、生姜、甘草、大棗、膠飴、右七味。」

・弁小建中湯の條下に詳にす方後地黄阿膠を加る者去血過多の症に用て十補湯なとよりは確当す故に余上部の失血過多に千金の肺傷湯を用ひ下部の失血過多に此方を用て内補湯と名つく

 

 

 

当帰四逆湯  傷寒論

・方函「当帰、桂枝、芍薬、細辛、大棗、甘草、通草、右七味。」

・厥陰表寒の厥冷を治する薬なれども元桂枝湯の変方なれは桂枝湯の症にして血分の閉塞する者に用て効あり故に先哲は厥陰病のみに非す寒熱勝復して手足冷に可用と云又加呉茱萸生姜は後世の所謂疝積の套剤となすへし陰の軽きは此方にて治するなり若重き者は禹功散を兼用すへし

 

 

 

当帰四逆湯  宝鑑

・方函「治臍腹冷痛、相引腰胯而疼。当帰、附子、桂枝、茴香、柴胡、芍薬、茯苓、延胡索、川楝子、沢瀉、右十味。」

・柴胡附子と伍すること古方の意に非れども姑く四逆散の変方と見做して腹中二行通りに拘急あり腰胯に引て冷痛する者を治す此方の一等甚く腰脚冷痛する者を止痛附子湯とする也

胯:こ、また、両股の間

 

 

 

当帰四逆加呉茱萸生姜湯  傷寒論

・方函「即当帰四逆湯方中加呉茱萸生姜」

・弁見于前

 

 

 

当帰芍薬散  金匱

・方函「当帰、芍薬、茯苓、白朮、沢瀉、川芎、右六味。」

・吉益南涯得意にて諸病に活用す其治験続建殊録に悉し全休は婦人の腹中㽲痛を治するか本なれども和血に利水を兼たる方故建中湯の症に水気を兼る者か逍遙散の症に痛を帯る者か何れにも広く用ゆべし華岡青州は呉茱萸を加て多く用られたり又胎動腹痛に此方は㽲痛とあり芎帰膠艾湯には只腹痛とありて軽きに似たれども爾らす此方は痛甚くして大腹にあるなり膠艾湯は小腹にあつて腰にかかる故早く治せされは将堕胎の兆となる也二湯の分を能弁別して用ゆへし

 

当帰大黄湯  外薹

・方函「療冷気牽引腰背、肋下腹内痛。当帰、芍薬、桂枝、乾姜、呉茱萸、人参、大黄、甘草。右八味、據仲景方加枳実茯苓、名十味当帰湯。

・桂枝加芍薬湯の変方にて温下の在なり俗に所謂疝積にて腰背より肋下へさしこみ痛者此方の目的也若心下堅満して胸膈まても及者は方後に云仲景の枳実茯苓を加る者を用へし其方千金方名なし吾門十味当帰湯と名つく此方及十味当帰湯は脊へ廻て痛者を主とす疝にて腹や腰に廻るものは多くあれども脊に廻る者は少し此着眼の第一なり凡千金外台に冷気と云者は上は痰飲を指し下は疝気を去仲景は痰飲を疳飲と云疝気を久寒と云

 

 

 

当帰拈痛湯  蘭室秘蔵

・方函「治湿熱為病、肩背沈重、肢節疼痛、胸膈不利、栗園先生日、湿熱下注、足脛腫痛、生瘡赤腫、膿水不絶者、宜之。白朮、人参、苦参、升麻、葛根、蒼朮、防風、知母、沢瀉、黄芩、猪苓、当帰、甘草、茵、羌活。右十五味、青洲日、治附骨疽用附子剤疼反劇者。

・湿熱血分に沈淪して肢節疼痛する者に用ゆ其初麻黄加朮湯麻黄杏仁苡甘草湯等にて発汗後疼痛止ます反て発熱或は浮腫する者に宜し青州は附子剤を用て反て劇痛する者に用ゆ世に皮膚黒の人又は黒光りある人多は内に湿熱ある故なり如此病人に遇は淋病又陰癬の類はなきやと問へし必あるもの也左すれは愈湿熱家にて脚気などと称し腰股或足脛少しつつ痛をなし歩行に妨あつて難きする者也此方を用るときは必験あり

 

 

 

当帰白朮湯  三因

・方函「治酒疸発黄、心下有痃癖堅満、身体沈重、妨害飲食小便赤渋者。白朮、茯苓、甘草、当帰、茵、猪苓、枳実、前胡、杏仁、半夏、右十味。

・心下及脇下に痃癖ありて発黄し大柴胡湯加茵陳或八神湯延年半夏湯諸挫堅の剤攻撃の品を施せども寸効なく胃気振はす飲食減少黄色依然たる者に用て往々効を奏す山因には酒疽とあれども諸疽に痛用して飲癖を主とすへし

 

 

 

当帰六黄湯  聖恵

・方函「治盗汗之聖剤也、徐霊胎日、陰虚有火、盗汗発熱。当帰、生地黄、熟地黄、黄蘗、黄芩、黄連、黄耆、右七味。

・陰虚火動の盗汗を治する方なれども総て血分に熱ありて自汗盗汗する者に効あり又眼中翳膜を生し膿水淋漓俗に所謂膿眼に効あり又血虚眼の熱ある者に宜し

 

 

 

唐侍中一方  外薹

・方函「療苦脚気攻心、此方甚散腫気極験。檳榔、生姜、橘皮、呉茱萸、蘇葉、木瓜。右六味、近世名大檳榔湯、或加大黄、能散腫下気、朱氏集験加桔梗、名鶏鳴散治脚気第一套薬、不問男女皆可服。

・脚気衝心の主方なれども虚証には効なし大抵胸満気急し其気上衝せんと欲する者に効あり若此方を用て其腫益盛になりてくるは木茱湯を兼用すへし実する者有持桂里は大黄を加ふ其効速也と云者偏身洪腫して心下苦悶する者辻山松は越婢湯を合して用余は朮苓を加て双解散と名く朱氏集験には桔梗を加て鶏鳴散と名つく脚気の套薬とす

導赤散  回春

・方函「治麻疹已出、讝語小便閉者、地黄、滑石、木通、甘草、燈草、右五味。」

・心経実熱ありて或は声音発せす言語すること能はす或口眼唱斜半身不遂する者を治す此症肝風と混い易し小児直訣局方導赤散円の條を熟読して了解すへし傷寒に用ゆる導赤各半湯も此意を得て與ふへし故友熱田友奄中風不語に導赤各半湯を與て奇効を得しと云心胞終の実熱に着眼したる也

 

 

 

導水湯  本朝経験

・方函「蒼朮、茯苓、檳榔、木瓜、茅根、猪苓、沢瀉、厚朴、右八味、或加附子。」

・導水茯苓湯の軽症を治す和方に導水疏水禹水と称する者数方あれども此方最簡便にして古方に近し

 

 

 

導水茯苓湯  奇効

・方函「治水腫、身如爛瓜、喘満不能転側溺出如割而絶少、雖有而如黒豆汁者。茯苓、麦門、沢瀉、蒼朮、桑白、蘇葉、檳榔、木瓜、大腹皮、橘皮、縮砂、木香、燈心草、右十三味。

・大剤にして濃煎せされは効なし是劉教諭蔵庭の経験なり要如阿刺気酒の義未詳此方の目的は遍身如爛瓜之状手按而陥手起隨手而高突と云言なり若爛瓜の状の如にして手按して高突すること能はす或は毛竅より水溢出する者は虚候にして死期近きに在り此方虚実間にあれは此場を合点して諸水腫曰を経て不愈如し爛瓜者に用て効あり

 

 

 

導滞通経湯  抜萃

・方函「治脾湿有餘、及気不宜通面目手足浮腫、木香、白朮、桑白、橘皮、茯苓、右五味、霖雨時加沢瀉、今従之。」

・気閉より来る水気に効あり呉又可の所謂気復なとの症数日浮腫する者又久病の者一旦に浮腫する者は皆気不宣通に係る皆此方に宜し

 

 

 

洞当飲  産論

・方函「主治吐血衂血、或卒然胸痛者、病得之盛怒、而其気暴逆也。柴胡、黄芩、黄連、茯苓、半夏、芍薬、青皮、甘草、生姜、右九味。

・賀川子玄の創意にて血気暴逆を治する方なれども畢竟は小柴胡湯の症にして肝気暴逆或吐血胃膈拒痛する者を治す傷寒挟熱下利に用ても宜し

 

 

 

桃仁湯  温疫論

・方函「邪干血分者宜之、桃仁、牡丹、当帰、芍薬、阿膠、滑石、右六味。」

・呉氏は邪血分を干す者に用れども吾門にては水分血分二道に渉る者に用ゆ故に猪苓湯の証にして邪血分に波及する者は此方を用又水與血結て血室に在者大黄甘遂湯を以攻下の後此方を與る時は工合至て宜き也

 

 

 

桃仁承気湯  温疫論

・方函「昼日熱減、至夜熱甚者、瘀血也。大黄、芒硝、桃仁、当帰、芍薬、牡丹、右六味。

・傷寒論の変方にして其証一等緩なる処に用ゆ作者の趣意は胃実の症にして下剤を與へす夜に至て発熱する者は熱血分に留る者也下剤を與されは血となる此方を用ゆへしと云とも如此証は矢張本論の方が宜き也又既に下して後昼日熱減し夜に至て熱出る者血行らさる故也此場合にて此方及犀角地黄湯を用ゆへき也此症下を失し自ら下血する者は甚危篤に至る或は暴に下血して手足厥冷し絶汗出一夜を経すして死す故に血を見さる前に此方及犀角地黄湯を斟酌して用ゆへし吾門にては大黄牡丹皮湯の一等軽き処を腸癰湯騰竜湯とし桃核承気湯の一等軽き処を桂枝桃仁湯及此方とするなり

 

 

 

透膿散  正宗

・方函「治癰疽諸毒、内膿已成不穿破者、宜服之立破、黄耆、穿山甲、川芎、当帰、皀角刺、右五味。」

・此方は内膿巳成不芽破と云か目的にて千金内托散より其方更に優なり痘瘡内攻せんと欲する者には反鼻を加て効あり諸瘍とも此意にて活用すへし

 

 

 

騰竜湯  本朝経験

・方函「」消痔、散腫。即大黄牡丹皮湯方中加蒼朮苡甘草。

・竹中分輔の家方にて痔毒を消し痛を治す即大黄牡丹皮湯に蒼朮苡甘草を加る者なれは腸癰便毒諸瘍に活用すへし

 

 

 

土骨皮湯  本朝経験

・方函「治頭瘡。土骨皮、紅花、甘草、柴胡、莪朮、右五味。

・頭瘡の証諸下剤を用て効なき者を治土骨皮一名撲能発表す故に頭瘡骨痛を治す蓋頭瘡発熱悪寒の表症あれは葛根湯加反鼻にて発汗すべし若頑瘡起発の勢なき者は此方に宜し

 

 

 

独活葛根湯 外薹

・方函「療柔中風、身体疼痛、四肢緩弱欲不随、産後柔中風亦用此方、即葛根湯方中加地黄独活。」

・肩背強急して柔中風の証をなし或臂痛攣急悪風寒ある者に宜し蓋其症十味坐散に彷彿して血虚の候血熱を挟む者に宜し

 

 



 

―――なななななななななななななななななな―――

 

 

内疎黄連湯  保命

・方函「治癰疽腫硬、嘔噦、発熱而煩、脈沈実、臓腑秘渋、当急疎利之。黄連、芍薬、当帰、檳榔、木香、黄芩、四肢、薄荷、桔梗、甘草、連翹、大黄、右十二味。」

・癰疽発熱強き者に用ゆ余は主治の如し多味なれども癰疽内壅の症に至っては調胃承気湯凉膈散よりは用工合宜し若此方の応せさる者は千金五利湯に宜

 

 

 

内補湯()  千金

・方函「治癰疽発背已潰排膿生肉、桂枝、白芷、人参、桔梗、川芎、甘草、防風、厚朴、当帰、右九味、今加黄耆、名千金内托散。」

・癰疽及痘疹補托の主剤なり揮発の力弱なる者には反鼻を加ふへし癰疽に限らす一切の腫物初して熱ある時は十敗湯を用い潰るや否や分明ならさる時は托裏消毒飲を用ひ口潰ることを見定め其虚実に隨て此方を与ふへし

 

 


 

―――にににににににににににににににににに―――

 

 

二角湯  本朝経験

・方函「治痿躄。即四物湯方中加鹿角羚羊。

・小児の萎躄に最効あり。又、背脊腰痛をも治す。一婦人、腰痛甚しく両脚攣急痿軟して歩行する能はさる者を治して効あり。痿躄湯は凝結を融解して活血するの能あり。此方は活血して筋骨を強壮にするの効あり。何れも伯伸の間と知るべし。

 

 

 

女神散  家方

・方函「治血虚上衝眩暈、及産前後通治之剤。
当帰、川芎、桂枝、白朮、木香、黄芩、黄連、人参、甘草、莎草、大黄、檳榔、丁香。右十三味本方中去白朮莎草、加萍蓬根芍薬地黄沈香細辛、名清心湯。

・元安榮湯と名て軍中七気を治する方也。余家婦人血症に用て特験あるを以今の名とす世に称する実母散婦王湯清心湯皆一類の薬なり

 

 

 

 

人参散  聖恵

・方函「治熱病後、虚労、盗汗、口苦、不得睡臥、四肢煩痛、舌乾巻渋。麦門、人参、芍薬、柴胡、茯苓、黄耆、牡蛎、鼈甲、甘草、右九味。

・虚熱盗肝が目的にて骨蒸労熱の初起柴胡姜桂湯よりは一等虚候の者に用ゆべし咳嗽甚き者は五味子を加うるなり

 

 

 

人参湯  金匱

・方函「人参、白朮、乾姜、甘草、右四味。」

・胸痺之虚症を治する方なれども理中丸を爲湯の意にて中寒霍乱すへて太陰吐利の症に用て宜し。厥冷の者は局方に從て附子を加うべし。朮附子と伍するときは附子湯・真武湯の意にて内湿を駆の効あり。四逆湯とは其意稍異なり。四逆湯は即、下利清穀を以第一の目的とす。此方の行く処は吐利を以って目的とする也。

 

 

 

 

人参飲子  十便

・方函「治陽毒傷寒、四肢壮熱、心煩、嘔吐、不止、即小柴胡湯方中加麦門竹葉、劉桂山日、潮熱不解者、加鼈甲殊効。」

・小柴胡湯の一等熱甚しく煩渇嘔吐止まざる者を治す。咳嗽には杏仁を加え、潮熱するには鼈甲を加え、往年麻疹後の労熱に用て特効あり。其他諸病に活用すべし

 

 

 

 

人参胡桃湯  百一選方

・方函「治痰喘、経験秘方云、治気壅滞喉下結作成塊。人参、胡桃肉。右二味、或加訶子甘草、治小兒馬脾風。

・急喘を治する効尤捷なりとす。凡て胡桃は肺気を潤ほし声唖を治す。故に小児馬脾風端鳴声唖虚候に属する者に訶子・桔梗・甘草を加て効あり。又、驚癇後、或は産後、或は老人の声唖、凡て肺虚に属する者に此加味を用て効を奏す。

馬脾風ハ゛ヒフウ‥病証名。シ゛フテリーのような疾患。小児の急性喘証の事で重症に属す。症状として、呼吸が苦しく胸をふくらまして息をし、肺脹喘満・鼻翼煽動・二便秘結・神気悶乱などがあらわれる。寒邪が肺気を塞ぎ、鬱して熱となり、肺気不宣を起こしたもの。先ず宣肺清熱の法が良く、五虎湯を用いる。続いて利下痰涎の法に良く一捻金・蘇丸を用いる。

 

 

人参当帰散  和剤局方

・方函「治産後、去血過多、血虚、内熱、心煩、短気、頭痛、体痛。麦門、桂枝、人参、当帰、地黄、芍薬、粳米、竹葉、右八味。

・産後内熱虚煩を主とす。産後のみならず、血虚煩熱頭疼体痛の者に宜し。又、竹葉石膏湯の症にて血虚を帯れは此方を用るなり。此方の一等軽き者を甘竹茹湯とす。

 

 

 

人参養胃湯  和剤局方

・方函「治外感風寒、内傷生冷、発諸証。厚朴、蒼朮、半夏、香、草菓、茯苓、人参、橘皮、烏梅、甘草、生姜、右十一味。

・不換金正気散(和剤局方)より脱化し来て、脾胃を健運し、邪気を開達するの効優なり。故に瘧邪虚に属する者を治するのみならず、凡て老人など胃中湿滞ありて虚熱を釀し飲食進まざる者を治す。又、柴胡・黄芩を加えて小児疳癖の症寒熱有りて瘧に似たる者を治す。浄府散とは虚実の別ありと知るべし

草菓(草果‥)‥ショウカ゛科ソウカの成熟種子、芳香性健胃薬、効能は草豆に似ている

六君子湯、平胃散、二陳湯、等の方意がある

 

 

人参養栄湯  和剤局方

・方函「治脾肺倶虚、発熱悪寒、四肢倦怠、肌肉消痩、面黄、短気、食少作瀉、若気血虚、治変見諸証、莫能名状、三因、名御局人参養栄湯、云又治肺與大腸倶虚、咳嗽下利喘乏少気嘔吐痰涎。即十全大補湯方中無川芎、有遠志橘皮五味子。

・気血両虚を主とすれども、十補湯に比すれは遠志・橘皮・五味子ありて脾肺を維持するの力を優なり。三因には肺與大腸倶虚を目的にて下利喘乏に用てあり萬病とも此意味のある処に用ゆべし。又、傷寒壊病に先輩炙甘草湯と此方を使ひ分てあり。塾考すべし。又、虚労熱有て咳し下利する者に用ゆ

 

 

人参養栄湯(養肺湯(袖珍)) 聖濟

・方函「治肺痿、咳嗽有痰、午後熱並声(せい)者、柴胡、桑白、阿膠、桔梗、貝母、杏仁、茯苓、五味子、人参、甘草、枳実、右十一味、袖珍名養肺湯。」

・古名に従えとも袖珍に養肺湯に作るが的切なり。今肺痿の熱症を治する此方に如ものなし。若一等熱候甚しき者を秦亢扶羸湯とす。又、一等虚する者を劫労散とす。此方に云う、午後熱声嘶扶羸湯云寒熱声唖不出劫労散云微嗽有唾々中有紅線名日肺痿。皆肺痿の主方とすべし。又、今所謂虚労なる者は古の肺痿なることを知べし

嘶‥声が嗄れる

 

人参養栄湯  温疫論

・方函「治下後、肢体振戦、、驚悸、眩暈、鬱冒、循衣摸床、撮空等大虚之証。人参、麦門、五味子、地黄、当帰、芍薬、知母、橘皮、甘草。右九味、按生脈散四物湯合方、去川芎加知母橘皮甘草者。

・生脈散に四物湯を合し川芎を去て知母・橘皮・甘草を加る者也。総虚症の疫に用ゆ。又、温疫大勢解後調理の剤となすべし。蓋、又可は人参嫌の人故浸の使用古方とは相違す

下して壊病になったときに用いる

‥心臓が激しく動悸する一種の病証。この動悸は、上は心胸から臍腹に至るまでみられる。また、心忪・忪悸などともいう。本病は心悸の一種と見なすことができるが、ただ、心悸や驚悸が今一歩進んだものともいえる。心悸は単発的で、は多くは持続する。心悸には虚と実があるが、は多くは虚に偏る。一般には心悸は多くは機能的なものであり、は器質的なものであるといわれる。これが二者の臨床における区別の要点である。原因としては、陰血が虧損して心が養われなくなった場合、心陽が不足して水飲が上逆した場合、あるいは突然驚きや恐れを受けた場合などがある。臨床的には虚証が多く、また治療は心悸の場合と同じである。

 

 

 

忍冬化毒湯  痘疹救逆方

・方函「放点雖密、顆粒克肥、根脚鬆明、而飲食進、神情爽者無伏藏之毒、宜此湯、栗園先生日、諸瘡毒在血分者、此方最捷、不特痘疹也。忍冬、連翹、牛蒡、荊芥、牡丹、桃仁、茯苓、木通、甘草。右九味、吾門今称忍冬解毒湯、保赤解毒散、有防風無牡丹桃仁茯苓。

・三補安貞痘に計用ゆれとも惣休血分に渉りて膿水淋漓する腫物に活用して宜し。

 

 



 

―――ねねねねねねねねねねねねねねねねねね―――

 

 

寧肺湯  楊氏

・方函「治栄衛倶虚、発熱自汗、気短、安肺、消痰、定喘、止嗽。人参、白朮、当帰、地黄、川芎、芍薬、甘草、麦門、五味子、桑白、茯苓、阿膠、右十二味。」

・八珍湯の人参を去り五味・麦門・桑白・阿膠を加る者にして、肺痿虚敗の者、又は咳嗽数年を経て血虚骨立する者を治す。栄衛倶虚発熱と云か目的なり。若熱なく虚敗する者は炙甘草湯加桔梗を佳とす。阿膠は潤燥緩急の能ありて肺部を潤し咳嗽を緩むるのみならす、痢に用れは裏急を緩め、淋に用れは迫クンハ°クを解き其他諸失血帯下に用う。皆潤燥を主とするなり。

 

 



 

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排雲湯  山脇方函

・方函「治風眼。黄連、黄芩、細辛、大黄、車前子、甘草。右六味、或加茯苓名苡湯、逆気上衝、眼中血熱、或生翳。

・原風眼の病なれとも風眼には先大青竜湯加車前子にて発汗し後柴圓を用て峻下すべし。其以後熱の軽重を詳にし加減涼膈散か此方を與ふべし

風眼‥結膜炎、とくに淋菌性の結膜炎

苡‥オオバコ、車前

 

 

 

排膿散料  金匱

・方函「枳實、芍薬、桔梗、鶏子黄、右四味、合排膿湯爲一方。」

・諸瘡瘍を排撻するの効尤捷なり。其妙桔梗と枳実と合したる処にあり。即、局方人参敗毒散に枳穀桔梗連用したるも此方意なり。枳実を発散に用い、当帰を下気に用るは古本草の説。又、此方を煎湯に活用するときは排膿湯と合方して宜し

排膿湯(小柴胡湯)は初期で(膿を吸収する)、排膿散(大柴胡湯)は進行して盛り上がりがある。

 

 

 

肺疳方  提耳談

・方函「治胸水。通草、半夏、梹榔、桔梗、木香、丁香、防已、猪苓、沢瀉、右九味。」

・北尾春甫経験に出て小児疳水肺部に属する者を治す。是より運用して、大人肺部に属する水気を治す。支飲の候あれは苓甘姜味辛夏仁黄湯加を主とす。若、虚候あれは此方か宜き也

 

 

 

肺傷湯  千金翼

・方函「主肺気不足、治短気、咳唾、膿血、不得臥。人参、炮姜、桂枝、阿膠、紫、地黄、桑白、飴糖、右八味。」

・肺痿の主方にて炙甘草湯加桔梗の之処と克肖たり。但、此方は咳嗽甚しく咳血止まず不得臥者を主とす。炙甘草湯は動悸甚しく労嗽行動すること能はさる者を主とす

紫‥鎮咳去痰鎮静、桑白皮‥鎮咳去痰

克肖(克似)‥よく似ている

肺痿‥肺結核、肺癰‥肺壊疽、肺膿瘍

 

 

 

肺癰湯  南陽

・方函「治咳唾腥臭、口吐膿、或如米粒、脇肋間隠痛、或徹背、声彼気急、不能臥者。桔梗、杏仁、楼根、白芥子、貝母、黄芩、甘草、右七味、一方無黄芩有生姜。

・原南陽の創意にして肺癰初起に用て特効あり若寒熱胃痛甚しきものは柴胡桔梗湯加を用て清解の後此方を與ふへし臭膿多者は獺肝散を兼服すべし

 

 

 

 

肺癰神湯  医宗必読

・方函「未成即消、已成即潰、已潰即愈。桔梗、金銀花、黄耆、白及、薏苡、甘草、橘皮、貝母、、生姜、右十味。

・肺癰湯を用て効なく、虚憊咳血不止者に用ゆ。若し一等虚脱する者は外台桔梗湯か丹台玉案の八宝散を撰用すべし

外台桔梗湯‥八味の桔梗湯

 

 

 

敗毒剤  香川修庵

・方函「治痛痺、風毒、瘟疫類、一切眼疾、咽痛、一切瘡腫疥癬。柴胡、独活、桔梗、川芎、枳実、甘草、茯苓、生姜、右八味。

・香川修庵子局方人参敗毒散を刪訂したる者にて敗毒散の場合へ用ゆべし後の十敗湯は後世荊防散敗毒散の場合なり

痛痺‥痛風、あちこち痛む病

 

 

 

 

破棺湯  本朝経験

・方函「治膈噎。桃仁、杏仁、桑白。右三味。」

・膈噎よりは痰飲家喘して咽痛する者に効あり。破棺は咽喉を透達するの意なり。瘡瘍の破棺湯は調胃承気湯のことを謂也

膈噎‥食道や胃の狭窄

 

 

 

白薇湯  本事方

・方函「人平居無苦疾、忽如死人、身不動揺、默默不知人、目閉不能開、口瘖不能言、或微知人、或悪聞人声、但如眩冒、移時方寝、名日鬱冒、又名血厥。婦人多有之。徐霊胎日、此病最多、而婦科皆不知、無不誤治。白薇、当帰、人参、甘草、右四味。」

・婦人卒倒暈絶の症を治す。白薇は総て血症を治す千金方産後の諸方徴すへし

口瘖‥本事方では口噤となっている

白薇‥カ゛カイモ科Asclepiadaceaeのフナバラソウの根。苦鹹寒、肝胃経。清熱涼血。

 

 

 

麦煎散  蘇沈

・方函「治少男室女、骨蒸、婦人血風、攻四肢、心胸煩壅。鼈甲、大黄、常山、柴胡、茯苓、当帰、乾漆、白朮、石膏、地黄、甘草、小麦、右十二味。

・乾血労の主薬とす。其人熱甚しく口中臭気あるか、二便臭気甚しきものに用て効あり。又、婦人血流注して寒熱甚しき者に効あり。凡、乾血の証熱なくして羸痩腹満の者は桂枝桃仁湯に大黄虫丸を兼用すべし。

骨蒸‥消耗性の熱、骨まで熱がある

 

 

 

 

 

麦門冬湯  金匱

・方函「栗園先生日、按金匱本條無肺痿字、肘後方云、治肺痿、咳唾、涎沫不止、咽燥治渇、沈明宗(しんめいそう)日、余(ひそかに)擬爲肺痿之主方也。蓋本于肘後。麦門、半夏、人参、甘草、粳米、大棗。右六味、或加地黄阿膠黄連、治吐血下血極者、加地黄或石膏、治咳血及び血証後上逆者。」

・肘後に云通り、肺痿咳唾涎沫不止咽燥而渇する者に用るが的治也。金匱に大逆上気と計ありては漫然なれども蓋、肺痿にても頓嗽にても労嗽にても妊娠咳逆にても大逆上気の意味ある処へ用れば大に効ある故、此四字簡古にて深旨ありと見ゆ。小児の久咳には此方に石膏を加て妙験あり。さて咳血に此方に石膏を加るが先輩の経験なれども肺痿に変せんとする者石膏を日久用れば不食になり、脈力減ずる故、千金麦門冬湯類方の意にて地黄・阿膠・黄連を加て用れは工合よく効を奏す。又、聖恵五味子散の意にて五味桑白皮を加て咳逆甚しき者に効あり。又、老人津液枯稿し食物咽につまり膈症に似たる者に用ゆ。又、大病後薬を飲ことを嫌い、咽に喘気有て竹葉石膏湯の如く虚煩なき者に用ゆ。皆、咽喉不利の余旨なり。

竊(窃)ヒソカニ

 

 

 

白通湯  傷寒論

・方函「葱白、乾姜、附子、人尿、右四味。」

・四逆湯伯仲の薬にて葱白は陽気を通するを主とし人尿は陰物を假て其真寒の陰邪と一和せしむるの手段にて西洋舎蜜学の組合とは夐に異なり

 

 

 

白通加猪胆汁湯  傷寒論

・方函「即白通湯方中加猪胆汁。」

・通脈四逆湯に猪胆を加ると同し弁彼條に見ゆ。本邦老医伝に云此方唯吐瀉のみならす、中風卒倒小児慢驚其他一切暴卒の病脱陽の症に奇効を建ることあり。然れども目的なしには用ひられす。即心下が目的なり何分一方を働かせ色々に使ふこと肝要なり。

 

 

 

白頭翁湯  傷寒論

・方函「白頭翁、黄連、黄柏、秦皮、右四味。」

・陰部の熱利を主とす。熱利とは外証は真武などの如くべったりとして居れども、裏に熱ありて咽乾き渇甚だしく便臭気ありて後重し、舌上は反て胎なし。此症者虚弱甚しきものは阿膠甘草を加えて用ゆべし。金匱に産後とあれども一概に拘るへからず此方又傷寒時、疫等渇甚して水飲咽に下る時は直に利する者に宜し

身体に熱があって便も熱い、体の外には大承気湯のような熱はない。

 

 

 

白頭翁加甘草阿膠湯  金匱

・唯、虚極というは極字六極の極と同義にて、虚憊甚きを云う。阿膠は下利を止を主とす。甘草は中気をる也。外台厚朴湯・安石榴皮湯等の阿膠も同意なり。其他、猪苓湯の阿膠は水を利する也。人参養栄湯の阿膠は咳を止る也。此と混すへからず。余は前の白頭翁湯の條に詳にす

 

 

 

柏葉湯  金匱

・方函「柏葉、乾姜、艾葉、馬汁通、右四味、聖惠治傷寒、吐血不止、去乾姜艾葉、加地黄阿膠。」

・この方は出血の専薬なり。馬糞水を用て化開し、布を以て汁を濾し澄清するを馬通汁と云う。馬通汁を童便に換ても宜し。童便の血を治することは(ちょ)氏遺書に見た。

 

 

 

八神湯  千金

・方函「治心腹痞満、萎黄、痩瘠(羸痩)、四肢痿弱、繚戻。柴胡、芍薬、鼈甲、茯苓、大黄、乾姜、人参、甘草、右八味。

・此方、千金に出つ方名なく、小児疳労の主薬とす。然れども虚実の分あり。虚憊の者は医鑑の黄耆湯に宜し。実する者此方を用ゆべし。心腹痞満と萎黄手足繚戻が目的なり。黄耆湯は寒熱黄痩腹満が目的なり。又、虚実の間にあるものは解労散の之所と知るべし

解労散の方を良く使う

 

 

 

発陳湯  永田徳本(1513?—1630?

・方函「治発熱悪寒、上衝頭汗出、或下利、或如瘧状発熱。即柴胡桂枝湯方中去人参大棗、加蒼朮茯苓。

・後世の柴苓湯や小柴胡湯・三白湯の合方よりは簡易にて活用しやすし。凡、邪気表裏の間に位して寒熱頭疼腹痛嘔気ありて下利する者、風寒暑湿を論せす此方を投すべし

 

 

 

八珍湯  瑞竹〇元戎名八物

・方函「治肝脾傷損、血気虚弱、悪寒発熱、或煩躁作渇、或、名八物。寒熱昏憒、或胸膈不利、大便不実、或飮食少思、少腹脹満等証即四物湯四君子湯合方。

・即、四物湯四君子湯の合方にして気血両虚を目的とす。何病にても気血振はさる者対症の薬を加味して用ゆべし。譬は帯下虚憊の者に牛皮消を加て特効あるか如く種々活用すべし

 

 

 

 

八味地黄丸料  金匱、一名腎気丸

・方函「脾胃虚寒、脈沈而細、身冷、自汗、瀉利、溺白、此名陰黄、凡黄疸、脈弱口中和、小便濁、困憊殊甚者、効。地黄、山茱萸、薯蕷、沢瀉、茯苓、牡丹、桂枝、附子、右八味。治一男子咳嗽、吐血、熱、渇、痰盛、盗汗、夢遺者、本方加麦門五味子而愈、或加牛膝車前子、名済生腎気丸。

・専ら下焦を治す。故に金匱少腹不仁、或は小便自利、或は轉胞に運用す。又、虚腫、或は虚労腰痛等に用いて効あり。其内、消渇を治するは此方に限る也。仲景か漢武帝の消渇を治すと云う小説あるも虚ならず。此方、牡丹・桂枝・附子と合する処か妙用なり。済生方に牛膝・車前子を加るは一着輪たる手段なり。医通に沈香を加たるは一等進みたる策なり

轉胞‥排尿障害

 

 

 

 

 

八味疝気方  福井氏(福井楓亭)

・方函「主治寒疝繞臍痛、及脚攣急、或陰丸腫痛、或婦人瘀血、血塊作痛、或陰戸突出、腸癰等、凡小腹以下諸疾、属水閉瘀血者並治。桂枝、桃仁、延胡索、木通、大黄、烏薬、牡丹、牽牛子。右八味、臨服点牽牛子末、腹痛者去大黄、名七味疝気方。

・疝気血分に属する者主とす。当帰四逆加呉茱生は和血の効あり、此方は攻血の能ありて虚実の分とす。又婦人血気刺痛を治す。福井にては小腹に血の塊あって脚攣急し寒疝の形の如き者或は陰門に引き時々痛みあり或陰戸突出する者又腸癰等にも用ゆ。楓亭の識見は疝は本、水気と血の二つに因て痛を作す者の病名とす。故に大黄牡丹皮湯・牡丹五等散・無憂散・四烏湯・烏沈湯等の薬品を採擇め一方となす也。此意を体認め用ゆへし。観聚方烏薬を烏頭に作る誤也。

繞臍痛‥腸疝痛。

陰戸=陰門‥女性の外陰部

 

 

 

八味帯下方 名家方選(本朝経験)

・方函「治湿熱蘊結、下臭物之類。奇良、当帰、川芎、茯苓、橘皮、木通、金銀花、大黄、右八味。

・婦人帯下梅毒を兼る者に用て効あり若し陰中糜爛疼痛甚く臭気鼻をふ者は甘汞丸を兼用すべし。本朝経験の方にして帯下に闕くべからざる方也

奇良=山帰来

甘汞丸‥水銀と黄連解毒湯からなる丸薬

慢性化したトリコモナスなどに用いた。湿熱温毒、更に炎症強ければ龍胆瀉肝湯→更に実は→大黄牡丹皮湯、虚で頻尿精神不安は清心蓮子飲

 

 

 

八物附子湯  千金

・方函「治湿風、体痛欲折、肉如錘刀所刺。附子、茯苓、蒼朮、芍薬、桂枝、当帰、人参、乾姜、右八味。」

・傷寒論、附子湯の症にして其痛一等劇しく精気欠乏の者に用ゆべし

附子湯‥少陰病の表の寒。附子、茯苓、芍薬、朮、人参、

真武湯‥少陰病の裏寒。附子、茯苓、芍薬、朮、生姜

 

 

 

馬明湯①  本朝経験

・方函「治眼疾属先天遺毒者、及結毒入眼、或疳眼等諸証。鷓鴣菜、忍冬、紅花、石菖根、馬明退、甘草。右六味。」

馬明湯②  本朝経験

・方函「治胎毒。馬明退、大黄、鬱金、紅花、石膏、甘草。右六味、村上氏方、去石膏鬱金、治一切蟲証、又去石膏加乳香名野鼠(?上に既≒蚕)湯。」

・忍冬石菖根の伍する方は原南陽の傳にて胎毒眼に効あり。其内胎毒にて眼胞赤爛膿水淋漓する者能く功を奏す。此方は和田東郭の傳にて嬰児胎毒脇肋の下に在て種々害を爲者を治す。老医の傳に、凡て小児の病を診察するに先陰嚢を能みるべし。若し陰嚢に紅筋ちらちらとある者は、決して其父母の遺病也と。余之を試るに、胎毒の者は必す陰嚢に紅筋を見し後、遂に悪瘡を発すること有。又、此方の主なり。其他小児の瘡瘍胎毒に属する者忍冬・連翹を加て効あり清川菖軒の経験に一室女気宇鬱塞時時身痒を発し寒熱往来して乾血労の漸とも謂べき証に此後方を用て数旬閉たる経水通し諸症脱然として愈と云

 

 

 

半夏湯 千金方(孫思(581—682)

・方函「主淡飲、辟気、呑酸。栗園先生日、治脚気。胃虚嘔逆衝心者奇効。半夏、生姜、附子、呉茱萸。右四味、呉茱萸加白朮茯苓人参桂枝、名大半夏湯治痰冷、飲、胸膈中不理。

・痰飲の陰分に陥る者を治すなれども其薬至て単捷ゆえ、中風の痰喘壅盛欲脱者にも脚気虚憊して衝心嘔逆する者にも活用して効あり。

 

 

 

 

半夏散及湯  金匱

・方函「半夏、桂枝、甘草、右三味。」

・冬時寒に中りて咽喉腫痛する者に宜し。発熱悪寒ありても治す。此証冬時に多くあるもの也。後世の陰火喉癬とも云べき症にて上焦に虚熱ありて、咽喉糜爛し痛堪かたく飲食咽に下を治す。甘桔湯其他諸咽痛を治するの薬寸効なき者に用て一旦即効あり。古本草に桂枝咽痛を治する効を戴す半夏のれん辣と甘草の和緩を合して其効用を捷にす古方の妙感するに余りあり

 

 

 

 

半夏厚朴湯  金匱

・方函「半夏、厚朴、茯苓、生姜、蘇葉、右五味。」

・此方局方四七湯と名く気剤の権輿なり。故に、梅核気を治するのみならず諸気疾に活用してよし。金匱千金に据て婦人のみに用るは非也。蓋、婦人は気鬱多者故血病も気より生する者多し。一婦人、産後気舒暢せず少し頭痛もあり前医血症として芎帰の剤を投すれども不治。之を診するに脉沈也。因て気滞生痰の症として此方を與れば不日に愈血病に気を理する亦一手段なり。東郭は水気心胸の畜滞して利しかたく呉茱萸湯などを用て倍通利せさる者。及、小瘡頭瘡内攻の水腫腹張つよくして小便甚少者、此方に犀角を加て奇効を取と云。亦、浮石を加て膈噎の軽症に効あり。雨森氏の治験に睾丸腫大にして斗の如なる人其腹を診すれば必滞水阻、隔して心腹の気升降せす。因て、此方に上品の犀角末を服せしむること百日餘心下開き漸々嚢裏の畜水も消化して痊又身体巨瘤を発する者にも効あり此二証に限らず凡て腹形あしく水血二毒の痼滞する者には皆此方にて奇効ありと云宜しく試むべし。

権輿:物事の始め

舒暢:心をのびのびさせる

痊セン‥①いえる、病気が治る。②いやす。

 

 

 

 

半夏瀉心湯  傷寒論

・方函「半夏、黄芩、干姜、人参、黄連、大棗、甘草。右七味、千金心虚実門加附子。」

・飲邪併結して心下痞硬する者を目的とす。故に、支飲或飲の痞硬には効なし。飲邪併結より来る嘔吐にも噦逆にも下利にも皆運用して特効あり。千金翼に附子を加るものは即附子瀉心湯の意にて飲邪を温散させる老手段なり。又、虚労或脾労等の心下痞して下利する者、此方に生姜を加てよし。即、生姜瀉心湯なり。又、利病嘔吐強き者に無盡藏の太乙丸を兼用して佳なりと云

 

 

 

 

半夏白朮天麻湯  試効

・方函「治脾胃、虚弱、痰厥頭痛。天麻、黄耆、人参、半夏、白朮、神麹、蒼朮、橘皮、沢瀉、茯苓、麦芽、乾姜、黄柏、生姜、右十四味。」

・痰飲頭痛か目的也。其人、脾胃虚弱濁飲上逆して常に頭痛を苦しむもの此方の主なり。若、天陰風雨毎に頭痛を発し、或は一月に二三度宛大頭痛嘔吐を発し絶食する者は、半硫丸を兼用すべし。凡てこの方は食後胸中熱手足倦怠頭痛睡眠せんと欲する者効あり。又、老人虚人の眩暈に用ゆ。但、足冷を目的とするなり。又、濁飲上逆の症嘔気甚しき者は呉茱萸湯に宜し。若、疝を帯る者は当帰四逆加呉茱萸生姜湯に宜し

 

 

 

反鼻交感丹料  本朝経験方

・方函「治失心、及健忘。茯苓、莎草、反鼻、乾姜。右四味、医事説約去莎草、加桂枝芍薬芡実丁香、名反鼻交感丹、然不如此方之簡。

・健忘甚き者或は発狂後放心して痴がいになる者、又は癇鬱して心気快々と楽まさる者を治す。牧野侯、発狂語心気鬱塞語言する能はす殆癡人の如し、此方を服する一月餘一夜東台博覧会開館の煙火を見て始て神気爽然平に復す。其他数人此方にて治す。反鼻揮発の功称賛すべし

 

 

 


 



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百合固金方  通雅

・方函「治肺傷咽痛、喘咳痰血、栗園先生日、虚労肺痿咽痛甚者宜之、百合、芍薬、甘草、麦門、当帰、地黄、貝母、桔梗、玄参、右九味。」

・咽痛咳血を主とす咳血は肺傷湯麦門冬湯地膠連にて大抵は治すれども咽痛劇き者に至ては此方に非れは効なし

 

 

 

白虎湯  傷寒論

・方函「知母、石膏、甘草、粳米、右四味。」

・邪熱肌肉の間に散漫して大熱大渇を発し脈洪大或滑数なるものを治す成無已は此方を辛凉解散静粛肌表の剤と云て肌肉の間に散漫して汗に成んとして今一いき出きらぬ者を辛凉の剤を用て肌肉の分を静粛してやればひへてしまる勢いに発しかけたる汗の出きるやうになる也たとえて言は糟袋の汗を手にてしめて絞りきって仕舞ふ道理なり是故に白虎は承気と表裏の剤にて同し陽明の位にても表裏倶熱と云或は三陽合病と云て胃実ではなく表へ近き方に用ゆる也

 

 

 

 

白虎加桂枝湯  金匱

・方函「即白虎湯方中加桂枝。」

・温瘧を治す温は温病の温と同しく悪寒なくして熱するを云此病骨節煩疼か目的にて肌肉の間に散漫する邪か骨節まて迫り発せすして煩疼する故辛凉解散の剤に桂枝を加て表達の力を峻にするなり他病にても上衝して頭痛なと劇しき者に効あり中風たちにも用ゆ東洋は此処に白虎加黄連を與ると云

 

 

 

 

白虎加人参湯  傷寒論

・方函「即白虎湯方中加人参。」

・白虎湯の症にして胃中の津液乏くなりて大煩渇を発する者を治す故に大汗出の後か誤下の後に用ゆ白虎に比すれは少し裏面の薬也是以表症あれは用ゆへからす

 

 

 

 

白朮散  金匱

・方函「白朮、川芎、蜀椒、牡蛎、右四味。」

・妊娠胎寒の者を治す懐娠中濁水などを漏し腰冷などを覚る者に用ゆべし大抵は温経湯にて事すむなり養胎とあれども常服の薬にはあらず

 

 

 

 

檳榔散  外臺祕要方

・方函「療吐酸水、毎食即変作酢水吐出、檳榔、茯苓、人参、橘皮、、右五味。」

・胃中不和水気ありて呑酸或は毎に吐水する者に用て効あり蓋茯苓飲の症と混すへからす彼は停飲宿水を吐して後心胸間に虚気満て不食する者に用ゆ此方は吐水すれは一旦快然となる者なり又五苓散の水逆は水口に入れは即吐する者にて此方の吐水とは夐に異なり

 

 

 

檳榔散  聖惠

・方函「治脚気、春夏防発宜服此、疏風調気、檳榔、枳実、大黄、独活、茯苓、羚羊、沈香、川芎、甘草、右九味。」

・年々春夏の交脚気を発し両脚微腫或疼痛をなし歩覆自由ならす微熱短気ある者に効あり余嘗て閣老松平周防毎年脚疾にて困難せしを此方を與て全愈せり陳修園は此処へ鶏鳴散を用ゆれども此方を以優とす

 

 



 

―――ふふふふふふふふふふふふふふふふふふ―――

 

 

不換金正気散  局方

・方函「治四時傷寒、瘴疫時気、霍乱吐瀉、蒼朮、厚朴、橘皮、甘草、半夏、香、右六味、或加茯苓。」

・嶺南方にて山嵐瘴気を去るか主意なり夫より転して水土に服せさる者或は壊腹と云て腹気失常吐瀉なとする者に用ゆ原芸庵は此方五十余通の加味ありて万病に用たれどもそれ程に効ある者に非す併し不換金と云は古人も珍重したると見ゆ

 

 

 

 

復元丹  三因方

・方函「治水腫、喘息奔急、水気盈溢、心腹堅脹。附子、木香、茴香、蜀椒、独活、厚朴、蒼朮、橘皮、呉茱萸、桂枝、沢瀉、檳榔、肉豆、右十三味。

・陰水を治する薬なれども心腹堅脹と云か目的にて水のみならす気の凝結か甚た短気急喘する者に宜し故に余門にては三聖丸の証にて堅脹甚者此方にて送下す

※盈エイ・ヨウ‥みちる

 

 

 

復元湯  寿世保元

・方函「傷寒、無頭痛、無悪寒、身微熱、面赤、微渇、目無精光、口出無倫語、脈数無力、此汗下太過、下元虚弱、此無根虚火泛上、名日戴陽証、此湯。」

・傷寒陰陽錯雑の者に用ゆ四逆湯に生脈散を合し黄連知母芍薬を加たる趣意は既に陰位に陥り裏は虚寒になりて居れども表邪は熱甚く語渇など有て陽症に似たれども病者元気弱く脈の悪しき者は此方に宜し

※泛ハン‥うかぶ

 

 

 

伏竜肝湯  千金

・方函「治労傷衝任脈、崩中去血、赤白相兼、或如豆汁。伏竜肝、生姜、地黄、甘草、艾葉、赤石脂、桂枝、右七味。」

・崩漏帯下等の症芎帰膠艾の類を與へ血は減したれども赤白相兼或豆汁の如き止まさるに宜し若水計多く下る者は蘭室秘藏の升陽燥湿湯に宜し

 

 

 

茯苓飲  金匱

・方函「茯苓、人参、蒼朮、枳実、橘皮、生姜、右六味。」

・後世所謂留飲の主薬なり人参湯の症にして胸中淡飲ある者に宜し南陽は此方に呉茱萸牡蠣を加て癖飲の主薬しす

 

 

 

 

茯苓緩中湯  肘後

・方函「緩痃気。即桂枝湯方中加黄芩茯苓枳実。」

・弁見于緩中湯條

※痃気ケ゛ンキ‥痃に同じ。①腹腔内に生じる弦索状の痞塊をさす。後世では臍傍の両側に一本の索状の塊状物をなすものとしている。また両脇の弦急、心肋脹痛を痃気としている。

 

 

 

茯苓杏仁甘草湯(茯苓杏人甘草湯) 金匱

・方函「茯苓、杏仁、甘草、右三味。」

・短気を主とす故に胸痺のみなてす支飲喘息の類短気甚き者に用て以外に効を奏す又打撲にて体痛して歩行すれは気急して息どしかる者は未血の盡さる也下剤にて下らさるに此方を用て効あり此方橘皮枳実生姜湯と並列する者は一は辛開を主とし一は淡滲を主とし各宜処あれはなり

 

 

 

茯苓桂枝甘草大棗湯(苓桂甘棗湯) 傷寒論

・方函「茯苓、桂枝、甘草、大棗、右四味。」

・臍下の動悸を主とす大棗は能臍下の動を治するもの也此臍下の動悸上に盛なる者を桂枝加桂湯とす桂枝加桂湯の臍下を去て心下にのみあるを茯苓甘草湯とす故此三方一類にして相依る者也苓桂朮甘湯は又別に離るる者なり茯苓甘草湯は苓桂朮甘湯に似たれども逆満や目眩はなし若有れは苓桂朮甘湯とする也此方もと奔豚の水気に属する者を治するか主なれども運用してへき飲に與て特効あり委きは時還読我書に見ゆ

 

 

 

茯苓桂枝朮甘草湯(苓桂朮甘湯) 傷寒論

・方函「茯苓、桂枝、朮、甘草、右四味。」

・支飲を去を目的とす気咽喉に上衝するも目眩するも手足振するも皆水飲に因る也起則頭眩と云か大法なれども臥して居て眩暈する者にても心下逆満さへあれは用る也夫にて治せさる者は沢瀉湯なり彼方はたとひ始終眩なくしても冐眩と云ものにて顔かひつはりなとする候ある也又此方動悸を的候とすれは柴胡姜桂湯に紛れやすし然れども此方は顔色明にして表のしまりあり第一脈か沈緊になくれは効なき者なり又此方に没食子を加て喘息を治す又水気より来る痿躄に効あり矢張足ふるひ或は腰ぬけんとし劇者は臥して居ると脊骨の辺にひくひくと動き或は一身中脈の処ひくひくとして耳鳴逆上の効ある者也本論の所謂久而成痿の症何病なりどもあらは此方百発百中也

掉:=振

 

 

 

茯苓琥珀湯  東醫宝鑑

・方函「治臍腹腫満、腰脚沈重、不得安臥、小便不利。即五苓散方中加琥珀滑石甘草。」

・五苓散に六一散を合して琥珀を加る者にて五苓は元小便不利渇を主とする処へ六一散の甘淡の者を加へ琥珀の力を添て利水の効を立るなり。此方を水気に用るは同気相求の理にい水の味に類したる味の淡泊なる者を用て滲透せしむる也。

最近は使用する機会の少ない処方(中田敬吾)

 

 

 

 

茯苓四逆湯  傷寒論

・方函「即四逆湯方中加茯苓人参。」

・茯苓を君薬とするは煩躁を目的とす。本草云茯苓主煩満。古義と云べし。四逆湯の症にして汗出煩躁止まさる者此方に非れば救うこと能はず。

 

 

 

 

茯苓瀉心湯  外臺祕要方

・方函「茯苓、半夏、黄芩、黄連、乾姜、人参、右六味、一方加呉茱萸牡蛎甘草、治久腹痛、吐水及食、漸為澼嚢、然不減飲食則無験。」

・半夏瀉心湯の変方にして停飲多く心下痞硬する者に宜し。又嚢吐水の証囃甚者に用て効あり。

嚢‥胃下垂・胃アトニー症・胃拡張に相当。胃内停水のある病。

半夏瀉心湯や安中散に加茯苓とするのは茯苓瀉心湯を加える意味がある

半夏瀉心湯-大棗甘草+茯苓で、半夏瀉心湯と適応症は変わりないと考えられる(中田敬吾)

 

 

 

茯苓補心湯  千金方

・方函「治心気不足、善悲愁恚怒、衂血、面黄、煩悶、五心熱、或独語不覚、咽喉痛、舌本強、冷涎出、善忘、恐走不定、婦人崩中、面色赤。茯苓、桂枝、甘草、大棗、紫石英、赤小豆、人参、麦門、右八味。」

・心気不定にて種々妄想を発し瀉心湯の場合に似たれども虚候多く顔色青惨なる者に宜し。又婦人亡血の後面色浮種心気爽かならさる者に宜し

恚イ=いかる

苓桂甘棗湯(奔豚に使う)の方意がある

紫石英は心を鎮め、うるおし、補肝するとされ、心身不安状態や肝血不足、女子の血海(子宮)が虚寒して子供が出来ない者を治す。このような心身不足、肝血不足、心気不足して健忘する者を治す

精神不安に使った例がある(中田敬吾)

 

 

 

茯苓補心湯  婦人良方

・方函「治婦人以血旺気衰為本、心生血肝臓血、今血衰而気盛、由心気虚耗不能生血、此薬専ら補心元の虚、調和栄衛、滋養血脈、兼治去血過多、虚労発熱、及吐血咳喘()、痰喘。当帰、川芎、芍薬、地黄、枳実、半夏、茯苓、桔梗、蘇葉、柴胡、橘皮、葛根、人参、木香、甘草、生姜、右十六味。

・血虚症なれども気か閉塞して血を運すこと能はす血遂に欠乏する者を治す故に八珍湯十全大補湯は気血両虚者を治し此方は血虚し気実する者を治す一婦人顔色青惨手足の爪悉反皺して営すること能はす医黄胖となし療して効なし此方を服して全愈

手術後の血虚証を回復させるときに使う

四物湯+参蘇飲

 

 

 

附子湯  傷寒論、金匱

・方函「附子、茯苓、人参、白朮、芍薬、右五味。」

・真武湯の生姜を人参に代る者也。彼は少陰の裏水を治し、此は少陰の表寒を主とす。一味の変化妙と云ふべし、此方千金に類方多し、身体疼痛の劇易に隨って撰用すべし。

◎寒がる、脈沈、関節痛(山崎正寿の例)

 

 

附子粳米湯  金匱

・方函「附子、半夏、甘草、大棗、粳米、右五味、一方、加丁香、縮砂、治胃反甚、服薬而飜者、又胃寒吃逆不止。」

・粳米を用る者は切痛を主とする也。外台腹痛に米一味を用ゆ徴とすへし。此方寒疝の雷鳴切痛のみならす、飲の腹痛甚者に宜し。又、外台には霍乱嘔吐に用てあり。

:シ゛ュツ、もちあわ

飲‥留飮、懸飲ともいう。飲邪が胸脇に停留する事によりおこる。症状は脇下が脹満して不快であり、咳をすると痛みを増し、転側や呼吸をすると引きつれて痛み、乾嘔や短気を兼ね、脈沈弦などをあらわす。逐飲するを主として治療するに良く、方は十棗湯などを用いる。本病は滲出性胸膜炎に類似している。

幽門狭窄、腸閉塞等の病態に近い。解急蜀椒湯

 

 

附子瀉心湯  傷寒論

・方函「即大黄黄連瀉心湯方中加附子。」

・気痞の悪寒を目的とす。桂枝加附子湯の悪風、芍薬甘草附子湯の悪寒、皆同意なり。若し心下痞硬して悪寒する者は千金翼の半夏瀉心加附子を用ゆべし。

◎半夏瀉心湯加附子と附子瀉心湯は似ている。

 

 

 

附子理中湯  直指方

・方函「治虚損久痢四肢厥冷、即理中湯方中加附子。」

・理中丸の方後による者なり。理中は専ら中焦を主とする故、霍乱吐瀉の症にて四肢厥冷する者は四逆湯より反て此方か速に応する也。後世にては中寒に用ゆれども中寒は桂枝加附子湯四逆湯を優とす。

◎喜唾ある。

 

 

 

巫神湯  原南陽

・方函「理婦人血暈、発熱或振寒、小便不利、上衝頭暈、悪心、或嘔、或吐、産後諸証、婦人百病、運用多端、又云、瘀血結痛。桃仁輩頻用益劇者、有不可攻者、其持重堅守之日、可任用、血熱入膀胱者、是正的、即五苓散加木香、黄連、乾姜、本方中去乾姜名香連五苓散。

・俗間経験方なれども面白き組合なり五苓散に大香連丸を合して乾姜を加る者は、血分不和より水気を醸し、其上胃中に湿熱を生し、頭眩下痢種々の変症を成す者、其標に眩惑せす此方を持重するときは、以外に効を奏するなり。

◎木香黄連は大香連丸(太平恵民和剤局方)慢性膀胱炎にも良い

 

 

扶脾生脈散  入門

・方函「治見血後、脾胃虚弱、気喘、精神短少、衂血吐血不止。人参、当帰、芍薬、黄耆、五味子、麦門、紫苑、甘草。右八味血不止者、加白効。」

・吐血血不止、虚羸少気、或は盗汗出飲食進まさる者を治す。医通云、内傷熱傷肺冒喘嗽吐血衂血者、生脈散加黄耆甘草紫苑白芍当帰とは此方のことを云なり。先輩は此証に阿膠を加て経験すれども余は白を加て屡吐血の危篤を救へり

生脈散、参麦飲素問では「心は血を主り、肝は血を蔵し、脾は血を統する」ので脾胃の力を強め脈を生ずることが出血に関連してくるのである。

◎扶脾生脈散加白‥脾胃虚弱に出血(吐血・喀血)や貧血を兼ねたもの。

 

 

 

浮萍湯  回春

・方函「治諸風癬疥、癩瘡。浮萍、当帰、川芎、荊芥、麻黄、甘草、芍薬。右七味。

・瘡疥の発表に宜し。但し大抵は、葛根加荊芥将軍にて治すれども、水気ありて発し兼る者、此方を用ゆへし。古人天刑病に與れども未た効を見ず。

難治性の皮膚病や癩病に用いるが、癩病が治った例は見当たらず

 

 

分消湯  回春、鼓腸門

・方函「治中満成鼓腸、兼治脾虚発腫満、飽悶。蒼朮、茯苓、橘皮、厚朴、枳実、猪苓、沢瀉、莎草、大腹、縮砂、木香、燈心草、生姜。右十三味。

・利水中に気を兼て皷脹の初起に効あり。東郭は水腫、心下痞硬、小便短少、大便秘し、其腫勢ありて指を没せす、脈沈実なる者に用ゆ。一説に此方は食皷を主とす。食皷とは噫気、呑酸、悪食、飽悶等の症あるを云。諸水腫にても食後に飽悶の意あるものに用て大効をとること多しと。

万病回春には白朮が入っている、本方は実証で脈腹力は実、体力衰え脈腹が虚には用いない

肥満は脹ったものが外に出てないもの、腸満は外に出ている、これがひどいものが鼓腸である(浅井貞庵)

肝硬変症の浮腫に、また森田肛門は慢性腎炎やネフローゼの浮腫に多用した

矢数道明は後世方用法解説p129での応用を述べている

①腹膜炎の初期、体力未だ衰えず、腹部の緊張が甚だしく、脈も相当力ある場合、②腎炎、腎炎または腹膜炎で浮腫を兼ねたもので、体力の未だ衰弱しないもの、③腹水の初期

 

 

 



 

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平胃散  簡要、和剤局方・治一切気p70

・方函「治胃気不和、調気、進食。蒼朮、厚朴、橘皮、甘草。右四味、加芒硝、治産後胞衣不下者、加硫黄、治小兒蟲証腹痛啼哭者、倶妙。

・後世家は称美すれども顕功はなし。唯金匱橘皮大黄朴硝三味方の軽症に用ひ、或傷食備急円にて快下の後調理に用て宜し。凡て食後食化せす、心下に滞り又食後腹鳴り下利するときは、反て快き症に用。但胞衣て下すに芒硝を加、小児虫症腹痛啼哭を治するに硫黄を加るか如きは、理外の理不可測の妙を寓するものなり。

平胃散は陽証、六君子湯は陰証。

本方由来の方剤はとても多い。乾姜や附子の応ずような者には注意を要する。

痰湿気を巡らせる方剤、真武湯など熱薬の適する者には注意

【※加減方】①香砂平胃散‥香附子香木香砂仁‥食欲が異常に亢進した者、②加味平胃散‥山査子神、③不換金正気散‥香半夏麦芽、消化剤として用いると良い、④胃苓湯‥合五苓散、腎炎などの浮腫

矢数道明、後世方用法解説p112に詳説、応用

(1).急性胃腸炎の回復期、(2).慢性腸炎で腹鳴があり下痢後かえって気持ちの良い者、(3).胎盤残留または死胎の下らない者、(4).喘息で美食の多い食積による喘息咳嗽、(5).黄胖病(貧血症)(6).難治不可解の症(消化器に限らず色々な病期に使える)(7).慢性胃炎で風邪を引き易い人は持薬として用ちうる、(8).食毒に原因する頭痛、眼疾、小児の頭瘡、(9).男女に限らず股、膝の冷える訴えのある者には加牛膝、(10).子宮が冷える訴えには加肉桂、(11).臍中腐乱は脾胃の湿熱であり加大黄とする。(12).八味地黄丸など地黄剤が胃にさわる時兼用する

◎現代医学的には急性の胃腸炎、膵炎、胆嚢症などの慢性症に運用することが多い。(矢数道明)

 

 

 

 

平肝散()  櫟窓

・方函「治左脇下痞満、宗筋怒脹、不快、栗園先生日、此方優於回春平肝流気飲数等。柴胡、芍薬、莎草、青皮、鼈甲、檳榔、莪朮、呉茱萸、甘草、右九味。

・柴胡疎肝湯と外台治寒冷僻飲方との変製にして、左脇下の痃癖か目的也。蓋し延年半夏湯は痃癖左脇下より上肩背に迫るを主とし、此方は宗筋怒脹攣痛を主とす。櫟窓劉教諭の工夫にして回春平肝流気飲に比すれは反て古に近し。

延年半夏湯は痃癖脇下より左肩に痛む

平肝飲は宗筋怒張攣痛(筋張り痙攣痛みを主とする)

柴胡疎肝湯は左側腹痛の痛み

平肝流気飲は側腹痛下腹痛の痛み、肝硬変で腹水の無いもの(矢数道明治験)

本方は四逆散の加減方

・本方は回春平肝流気飲より優れている

 

 

 

 

鼈甲散  聖恵

・方函「治脾勞、四肢疼痛、不思飲食、栗園先生日、治虚労、煩熱下利、不思飲食者効。鼈甲、芍薬、当帰、茯苓、川芎、木香、柴胡、白朮、黄耆、甘草、人参。右十一味。

・骨蒸の下利不思飲食者に用て一旦効あり又一通りの虚労熱有て咳し下利する者ば局方人参養栄湯に宜し聖恵には治脾労とあれども真の脾労には人参養胃湯か加味平胃散の類に宜し脾労は外台の説を古義とす

骨蒸:伝染性の発熱疾患、骨から熱を発するのでこの名がある

 

 

 

変製心気飲  本朝経験、(多紀元簡(桂山・櫟窓)1755—1810

・方函「治水鬱諸状、心下悸而又硬、胸脇痞拘、膨張、四肢沈重、或解(かいえき)、或微腫、或麻痺、或拘攣、腰脚引痛、肩背強急、或呑酸、或噦、或小便難、心下満、或目下微腫、或額與目下其色黒、心志茫乎不楽、頭痛、目眩、不熟眠等証。
桂枝、茯苓、半夏、木通、桑白、檳榔、蘇子、鼈甲、甘草、枳実、呉茱萸右十一味、
 気虚、水勢稍甚者加附子、心下水塊殆成者、加犀角。

・宝慶集分心気飲の変製なれども其方反て古に近し就中水鬱と云か此方の目的にて其源は支飲より種種に変化したる症に用て効験著し

・解‥精神の金倦()・肢体の懈怠()を覚える病。虚損、消渇あるいは熱性病の後に発生する。消痩、少気懶言等を伴う。これは肝腎が虚損したり、精血の不足によっておこる。体がバラバラになる位にだるいこと。

支飲が目的、支飲とは胸部から心下部にかけて水分が停滞し、咳嗽や呼吸困難を生ずる病症で、心不全や肺浮腫等の時に起こる。。

 


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防已湯  千金

・方函「治風歴節四肢疼痛、如槌鍛不可忍者。
防已、茯苓、白朮、桂枝、生姜、烏頭、人参、甘草、右八味。

・歴節痛甚しく、腫気を帯る者に用ゆ。歴節痛甚く屈伸しかたき者は烏頭湯なり。腫気ありて痛堪かたき者此方に非れば効なし。

 

 

防已湯  産宝

・方函「治姙娠、脾虚、通身浮腫、心腹脹満、喘促、小便不利。
防已、桑白皮、蘇葉、茯苓、木香、右五味。

・妊娠の水気に用て意外に効あり。其他男女に論なく皮水に用ゆべし。

 

 

 

防已黄耆湯  金匱

・方函「防已、黄耆、甘草、蒼朮、生姜、大棗、右六味。」

・風湿表虚者を治す。故に自汗久しく止まず、皮表常に湿気ある者に用て効あり。蓋、此方と麻黄杏人薏苡甘草湯と虚実の分あり。彼湯は脉浮汗不出悪風者に用て汗を発す。此は脉浮にして汗出悪風の者に用て解肌して愈。即ち、傷寒中風に麻黄桂枝の分あるが如し。身重は湿邪也。脉浮汗出は表虚する故なり。故に麻黄を以発表せず、防已を用て之を駆る也。金匱治水治痰の諸方防已を用るもの気上に運て水能下に就くに取る也。服後如虫行及腰以下如氷云々、皆湿気下行の徴と知るべし。

 

 

 

防已地黄湯  金匱

・方函「防已、桂枝、防風、甘草、地黄、右五味。」

・老人男女ともに老耄して妄語狂走する者を治す。金匱中風に属してあれども是は失心風の類とも云べき也。一老婦、面目手足微腫ありて心気楽まず、人に対すれば落涙愁傷し、他余症なきもの此方を用て全愈せり。

 

 

 

防已茯苓湯  金匱

・方函「防已、黄耆、桂枝、茯苓、甘草、右五味。」

・皮水を主とすれども方意は防已黄耆湯に近し。但し朮を去り、桂苓を加る者は皮膚に専にゆく也。一人身体肥胖運動意の如ならず手足振掉し前医、桂苓朮甘真武の類を投じ或は痰の所為として導痰化痰の薬を服せしめ更に効なき者。此方にて愈。又、下利久々治せす利水の薬にて愈かたき者、此方を用て意外に治することあり。又、水腫腹堅硬にして是を按すに潤沢なく、は革袋に水を盛て其上をさする如くかさかさして堅く腫るは陽気の脱なり此方に附子を加て効を奏すること有

 

 

 

 

 

僕湯  本朝経験

・方函「痛風、痛痺、鶴膝痺、風毒腫、並皆治之。僕、大黄、忍冬、木通、防風、独活、川芎、牛膝、附子。右九味、一方去木通川芎牛膝附子、加桂枝甘草、治諸毒在肌表将発、又去川芎牛膝附子、加甘草名除痛解毒湯、治骨節疼痛、兼黴毒者。」

・和製にて諸家に類方多く有通風風毒梅毒などの骨節疼痛荏苒として諸漢方の効なき者一向に専用して意外に効を奏す土骨皮最主薬なり多量大剤にして用ゆべし土骨皮の効は前遺糧湯の條下に弁す

 

 

 

補血湯  試効

・方函「治肌熱、燥熱、目赤、面紅、煩渇引飲、脈洪大而虚。黄耆、当帰。右二味、血虚脾胃不足者、合六君子湯妙、此方本出于千金、名当帰補血湯。

・試効方に白虎湯疑似の症を治するように論すれども、其実は唯不の血熱を治する。耳四物湯など反て泥恋して服し兼るものに用て効あり。脾胃不足の者六君子湯を合して八珍湯よりは反てあり。

泛:うかぶ、ひろくろ、くつがえす

捷効:素速い効きめき

 

 

 

 

浦公英湯  奥方函

・方函「醸乳剤。蒲公英、当帰、莎草、牡丹、薯蕷。右五味。」

・醸乳の剤諸家数方ありと雖此方尤簡にして効あり乳泉散と其功伯伸仲す浦公英は春初嫩葉を羹にして食して醸乳の功あり

嫩:ト゛ン・ノン。わかくて柔らかい。

羹:キョウ、あつもの。肉と野菜を入れて煮た吸い物。

 

 

 

補腎湯  中川捧心方

・方函「治寒疝、肚腹疼痛、泄瀉胸滿痞塞、或虚火上攻、舌胎不食、疝徴積聚編、治腰痛諸治、無効者。沈香、人参、蒼朮、茯苓、黄耆、木瓜、乾姜、附子、蘇葉、川芎、甘草、独活。右十二味。」

・疝積聚篇にも出て疝積の主方とす。吾門にては、大三湯の症にして虚寒に属する者に用て大に験あり。又、老人固冷の症に空気(腸内ガス)を帯ふるもの極て宜し

 

 

 

補中治湿湯  医林

・方函「治腫脹、補中、行湿、利小便。人参、蒼朮、茯苓、橘皮、麦門冬、当帰、木通、黄芩、厚朴、升麻。右十味。按済世全書無当帰木通升麻有澤瀉白朮名補気建中湯。治鼓腸元気脾胃虚損宜補中行湿利小便切不可下。」

・補中行湿して腫脹を去の手段面白き用ひ場あり一溪道三氏屡経験せし故一溪の立方の様に謂へとも医林集要の方なり復済生全書に当帰木通升麻を去り沢瀉白朮を加て補気建中湯と名け皷脹を治す目的は同意なり

 

 

 

 

 

補肺湯  千金

・方函「治肺気不足、逆満上気、咽中悶塞、短気、寒従背起、口中如含霜雪、言語失声、甚者吐血。五味子、桂枝、麦門、大棗、粳米、桑白、款冬、乾姜、右八味。

・麦門冬湯の一層咳嗽甚しき処へ用寒従背起口中如含霜雪と云か目的なり肺痿熱候なき症にままあり甘草乾姜湯と参照すべし一説に此症必頭頂冷て咳する者也と云柴胡姜桂湯も水飲なき咳に用て効あり然れども彼は熱ある者此は熱なき者を分とする也

 

 

 

牡蠣沢瀉散料  傷寒論

・方函「牡蛎、沢瀉、楼根、蜀漆、、商陸、海藻、右七味、実者加大黄。」

・腰以下の水気を治すとあれとも腰以上の水気に用て効あり其之く所は虚実間にある者なり若実する者は大黄を加べし劉教諭蔵庭の経験なり此方服しかたき者は傷寒五法の沢瀉牡蠣湯を用ゆへし

 

 

 

奔豚湯  金匱

・方函「半夏、葛根、芍薬、当帰、川芎、黄芩、李根皮、甘草、生姜、右九味。」

・奔豚気の熱症を治す奔豚のみならす婦人時気に感し熱あり血気少腹より衝逆する者即効あり独嘯菴奔豚気必しも奔豚湯を用すし謂れてれと余門にては奔豚湯必しも奔豚を治するのみならすとして活用するなり

 

 

 

奔豚湯  肘後

・方函「療卒厥逆上気、々叉両脇、心下痛満、淹欲絶、此謂奔豚病。桂枝、半夏、人参、呉茱萸、甘草、生姜、右六味。

・此方は前湯の熱候なき処へ用ゆ。且つ虚候あり方中の呉茱萸一切気急ある者を治す。腹症奇覧翼には積聚の套剤とす。故に、一切の積気に因て下より心下に升り痛み、或は嘔し呼吸短気死せんと欲するを治す。

 

 


 

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麻黄湯  傷寒論

・方函「麻黄、桂枝、甘草、杏仁。右四味。」

・太陽傷寒無汗の症に用。桂麻の弁仲景氏たる規則あり犯すへからす。又喘家風寒に感して発する者此方を用れば速に愈。朝川善庵終身此一方にて喘息を防くと云。

嚴然:いかめしくおごそかで犯しがたいさま

 

 

 

 

麻黄湯  千金

・方函「治小児丹腫、及風毒風疹。麻黄、独活、射干、桂枝、甘草、木香、石膏、黄芩。右八味。」

・風疹麻疹熱甚しく発泄しかたき者に効あり麻疹の咽痛に別して宜し小児丹毎には紫円を兼用すへし

 

 

 

麻黄湯  外台

・方函「治少小喘嗽、頭面熱。麻黄、黄芩、甘草、桂枝、石膏、芍薬、杏仁、生姜。右八味。」

・小青竜湯の症にして発熱甚者を治す但小青竜は熱を主とせす心下水気を主とするなり

 

 

 

麻黄加朮湯  金匱要略

・方函「即麻黄湯方中加蒼朮。」

・風湿初起発表の薬なり。歴節の初起にも、此方にて発すべし。此の症、脈は浮緩なれども身煩疼を目的とするなり。若し一等重き者は越婢加朮湯に宜し。

 

 

 

 

麻黄杏仁甘草石膏湯(麻杏甘石湯) 傷寒論

・方函「麻黄、杏仁、甘草、石膏。右四味。」

・麻黄湯の裏面の薬にて汗出而喘と云か目的なり熱肉裏に沈淪して上肺部に熏蒸する者を麻石の力にて解する也故に此方と越婢湯は無大熱と云字を下してあり

 

 

 

 

麻黄杏仁苡甘草湯(麻杏甘湯) 金匱要略

・方函「麻黄、甘草、苡、杏仁。右四味。」

・風湿の流注して痛解せさる者を治す蓋此症風湿皮膚に有て未至関節故に発熱身疼痛するのみ此方にて強く発汗すへし若其証一等重き者は名医指掌苡仁湯とす若発汗後病不関節にて痛熱甚き者は当帰拈痛湯に宜し又一男子周身疣子数百を生し走痛する者此方を與て即治す

 

 

麻黄附子細辛湯   傷寒論 

・方函「麻黄、附子、細辛。右三味。」

・少陰の表熱を解するなり一老人咳嗽吐痰午後背洒淅悪寒し後微似汗を発して不止一医陽虚の悪寒とし医王湯を與て効なし此方を服す僅五貼にして愈凡て寒邪の初発を仕損して労状をなす者此方及麻黄附子甘草湯にて治することあり此方はもと表熱を兼る者故後世の感冒侠陰の証と同し又陰分の頭痛に防風川芎を加て効あり又陰分の水気桂枝去芍薬湯を合て用ゆ陳修園は知母を加て去水の聖薬とす

 

蔓荊子散  万病回春

・方函「治上衝熱、耳内生膿、或耳聾。
蔓荊子、芍薬、麦門冬、木通、地黄、茯苓、柴胡、桑白、甘草、菊花、升麻。右十一味。」

・上部に熱を醸して耳鳴耳聾をなし或は耳内膿汁を出す者を治す但老人婦女血燥より来る者に宜し
小児耳には効なし葛根芎黄湯を與ふへし

聤:みみだれ耳

 

蔓倩湯マンセイトウ  原南陽

・方函「治陳久腹痛発作、嚢囃、吐食者、方與丁字湯同効只四逆散方中加呉茱萸牡蛎。」

・脾疼嚢の症腹裏拘急脇肋に水飲を停畜するを目的として用ゆ若し嚢の症拘急せす脇肋軟なる者は苓桂甘棗湯に非されは効なし


―― む ――

無礙丸ムカ゛イカ゛ン()   三因方

・方函「治脾気横泄、四肢浮腫、心腹脹滿、喘不得臥、蘇沈良方云、治病喘手足皆腫、脾病横瀉四肢也。
莪朮、三稜、大腹、木香、檳榔、生姜。右六味、宝鑑有郁李仁、今従之、特効。」

・脾気横泄と云か目的にて腹中に伏梁の如き堅塊ありて脹満し四肢浮腫をなす者に効あり
 若此症にて虚候ある者は変製心気飲加附子か三因の復元丹を與ふへし
 



―― め ―― 

明眼一方

・方函「防風、菊花、車前子、滑石、桔梗。右五味、或加於敗毒剤治天行眼、或加於解毒剤治湿眼。」
・藝州土生氏の家伝にて諸方に加味して用ゆ其中外膿眼の類には別して効あり

  

明朗飲    和田東郭

・方函「治風眼、黴瘡約言、治諸風熱眼目、黴気衝上者。
即、苓桂朮甘湯方中加車前子、細辛、黄連。」

・風眼のみならず逆気上衝眼中血熱或は翳を生する者を治す今眼科用ゆる処の芣苡湯排雲湯皆此類方なり

芣苡フイ:おおばこ

 

綿実湯  本朝経験

・方函「治卒腰腹弦急、不能動揺。綿実仁、甘草。右二味。不大便者加大黄。」

・本邦の俗伝なれども腰痛に即効あり腰痛大抵は当帰建中湯角石散にて治すれども卒に腰腹弦急して動揺する能はさる者此方に非れは治せず

 


 

―― も ――

 

木香分気飲()  葉氏

・方函「治気滞腫満、虚気上衝、神思不爽。
 木香、茯苓、沢瀉、半夏、枳実、蘇子、檳榔、猪苓、右八味。」

・気分腫を主とす桂姜棗草黄辛附湯枳朮湯にて大概は治すれども、
 気滞甚しく虚気上衝して鬱塞する者は此方に宜しきなり。

 

木防已湯  金匱要略

・方函「木防已、石膏、桂枝、人参。右四味。」

・膈間支飲ありて逆倚息短気臥すことを得す其形腫るるか如きものを治す。
 膈間の水気石膏に非れは墜下すること能はす。
 越婢加半夏湯厚朴麻黄湯小青竜加石膏の石膏皆同義なり。
 其中桂枝人参を以胃中の陽気を助て心下の痞堅をゆるめ木防已にて水道を利する策妙と云べし

  

木防已去石膏加茯苓芒硝湯   金匱要略

・方函「即木防已湯方中去石膏加茯苓芒硝。」

・水気久しく去らす唇口其皮堅厚にして枯燥したとえは枯木の潤沢なきか如く、
心下痞硬胸中不利微しく喘気ある者を治す。但し前方に石膏を去硝を加る者は其邪已散して
復聚るものは堅定の物有て留て包裏するか故なり。故に芒硝を以て其堅定の物を耎にするなり。
茯苓は木防已に加援して飲を引て下行する也。

  


―― や ――

射干麻黄湯    金匱要略

・方函「射干、麻黄、生姜、細辛、紫苑、款冬花、五味子、大棗、半夏。右九味。」
・後世の所謂喘に用ゆ水鷄声は哮喘の呼吸を形容する也。
 射干紫苑款冬は肺気を利し、麻黄細辛生姜の発散と半夏の降逆、五味子の収斂、大棗の安中を
 合して一方の妙用をなすこと西洋合錬の製薬よりに勝れりとす

哮:コウ、ほえる

益智飲

・方函「即三味湯。藿香、益知、木香。」
・即神組の御袖薬なり傷食の主方とす

三味湯をみ
神組‥徳川家康のこと、

 


―― よ ――

養血湯  万病回春

・方函「治腰痛、腿痛、筋骨疼痛、栗園先生日、今移治湿漏、虚熱身疼、特験。
 当帰、地黄、秦艽、杜仲、桂枝、茯苓、防風、牛膝、遺糧、川芎、甘草。右十一味。」

・元腰腿或は筋骨の疼痛を和血して治する方なれども、今黴毒家種々の汞剤燥剤を服し、
 或は巴豆・硝黄にて攻撃を極め、遂に肌肉枯柴骨立して疼痛猶止まず痿躄をなす者に用て効あり。
 又、湿労にも用ゆ。蓋、逍遙解毒は寒熱を目的とし此方は疼痛を主とする也

 

薏苡仁湯  名医指掌

・方函「治手足流注疼痛、麻痺不仁難以屈伸。
 薏苡、当帰、芍薬、麻黄、桂枝、甘草、蒼朮、右七味。」

・麻黄加朮湯、麻黄杏仁苡甘草湯の一等重き処へ用るなり。
 其他桂芍薬知母湯の症にして附子の応せさる者に用て効あり。

流注リュウチュウ・ルチュウ‥病名。肢体深部組織の化膿性疾患。毒邪の流れが不定で随所に生ずる。
漢薬の臨床応用11-3巻高橋道史

 

薏苡仁湯  正宗

・方函「即四味腸癰湯方中加芍薬。」

・弁詳于腸癰條

 

薏苡附子敗醤散    金匱要畧

・方函「薏苡、附子。右二味。」

・散にて瞑眩に堪へかたき故料とするなり。胸痺急劇の症を治す。又腸癰急に脱候を現す者にも用ゆへし。

 

抑肝散  撮要

・方函「治肝経虚熱、発、或発熱咬牙、或驚悸寒熱、或木乘土而嘔吐痰涎腹脹少食、睡臥不安。
 柴胡、甘草、川芎、当帰、白芍、茯苓、釣藤。右七味。
 東郭去白朮茯苓加芍薬、名六抑湯、又川芎加半夏梔子黄連莎草、名加減抑肝散。

・四逆散の変方にて凡て肝部に属し筋脈強急する者を治す。四逆散は腹中任脈通り拘急して胸脇の下に衝く者を主とす。
 此方は左腹拘急よりして四肢筋脈に攣急する者を主とす。此方を大人半身不遂に用るは東郭の経験なり。
 半身不遂并不寐の証に此方を用ゆるは、心下より任脈通り攣急動悸あり。心下に気聚りて痞する気味あり。
 医手を以按せは左のみ見え、子ども病人に問へば、必痞と云う。又左脇下柔なれども少筋急ある症ならは、
 怒気はなしやと問へし。若怒気あらは此方効なしと云ことなし。又、逍遙散と此方とは二味を異にして其効用同しからす。
 此処に着眼して用ゆへし   

※莎草‥ハマスゲ、香附子

 

抑肝扶脾散  古今医鑑/幼科

・方函「補元気、健脾胃、退熱消癖、寿世保元云、治癖積日久不消、元気虚弱、
 脾胃虧損、肌肉消痩、肚大青筋、発熱、口乾、腹脹。
 人参、白芍、茯苓、竜胆、白芥子、山査子、橘皮、青皮、神曲、黄連、柴胡、胡黄連、甘草、右十三味。

・肝実脾虚を目的とす。其人気宇鬱塞飲食進ます。日を経て羸痩し俗に所謂疳労状をなす者に効あり。
 小児なれは浄府散の虚候を帯る者に宜し。

 

抑気散  医級

・方函「治気道壅滞、不得升降、胸膈痰飲塞碍。
 烏薬、蘇葉、橘皮、檳榔、縮砂、沈香、莎草、枳実、右八味。

・気剤のとす正気天香湯大烏沈散は無形の気を散するを主とす。
 此方は胸膈痰飲窒碍を主とす若腹裏拘急を主とするときは柴胡疎肝湯に非れは効なし

※窒碍(礙):ふさぎさまたげる

 


 

―― り ――

 

利膈湯  名古屋玄医

・方函「七情気與邪気、相結咽喉之間、噎飲食日噎、結胸、飲食留膈不下日膈、
 膈猶可治、半夏下気、附子散邪、梔子解鬱、百発百中之妙方也。
 不早治無効、至反胃津液枯燥而渇者、雖虚扁何得渇哉」。
 半夏、附子、梔子。右三味、今合乾姜甘草更佳。」

・名古屋玄醫の工夫にて古梔附湯に半夏を加たるもの也。其説醫方問餘に悉し膈噎の初起に用て効あり。
 此方甚た服し難を以吾門にては甘草乾姜湯を合して用る也。
 楊氏家藏方には仲景の梔子乾姜湯を二気散と名け膈噎に用ゆ。即此方と同意なり。

 

理気平肝散  統旨

・方函「治七情諸傷、発痙、今用以治肝実気滞、胸脇痞満、変為諸証効。」

・柴胡疎肝湯に烏薬木香を加たる者にて其源は四逆散に出づ。
 二行通り拘急して上胸脇下に迫り腹痛下利微喘等をなす者四逆散なり。
 一等進て上部に迫り気逆胸痛をなし鬱塞する者を柴胡疎肝湯とす。
 今一等進て身體強急痙の如く神気鬱々不楽物に感動しやすき者此方の主なり

七情:喜怒憂思悲驚恐→内傷の原因にも鳴る
四逆散→→柴胡疎肝湯→→理気平肝散
柴胡疎肝湯は瘀血が絡んでいる

 

理中湯(人参湯)   傷寒論

・方函「治飲食過度傷胃、或胃虚不能消化、致反嘔吐逆、物與気上衝蹙胃口、決裂所傷、
 吐血出、其色鮮紅、心腹絞痛、白汗治流、名日金匱人参湯。」

・理中丸を湯にする者にして理は治也。中は中焦胃の気を指乃胃中虚冷し
 水穀化せす繚乱吐下して譬は線の乱るか如を治る。
 故に、後世中寒及霍亂の套薬とす。余か門にては太陰正治の方として、
 中焦虚寒より生する諸症に活用するなり吐血下血崩漏吐逆等を治す皆此意なり

 

理中安蛔湯  六書

・方函「治傷寒吐蛔者、手足冷、胃中空虚。白朮、人参、乾姜、茯苓、烏梅、蜀椒、甘草、右七味。」

・胃中虚冷して吐蛔する者に宜し若胃中熱ありて吐蛔する者は清中安蛔湯なり。
 寒熱錯雑して吐蛔する者は烏梅圓なり。若吐甚た以上の諸薬下す能はざる者は寒熱を論せす。
 甘草粉蜜湯を与ふへし、又吐蛔して痛甚きものは椒梅湯大に効あり。
 又、吐蛔に泥ます胃中寒飲ありて喜唾止まさる者此方を用て効あり。

  

理中加二味湯  外臺祕要方

・方函「療霍亂、胸滿、腹痛、吐下。即理中湯方中加当帰芍薬。」

・元霍亂の腹痛を治する方なれども中気不足して腹痛拘急し種種の症を生する者を治す。
 理中湯は胃中を乾す方也。建中湯は胃中を湿す方也。此方は一燥一潤其中を得たり。

 

鯉魚湯  千金

・方函「治妊娠腹大、胎間有水気。鯉魚、蒼朮、生姜、芍薬、当帰、茯苓。
 右六味。崔氏療水病身腫、唯用鯉魚赤小豆。」

・婦人血気薄弱或は年長して懐孕し子胞の爲に養を奪われ身體虚して水気を生し滿身浮腫する者を主とす。
 若血気虚せす水腫を爲す者は産寳防已湯に宜し又雛脚と名つけ但足部水気ある者脚気の治法にて宜し

 

六君子湯  和剤局方

・方函「治脾胃虚弱、飲食少思、或久患瘧痢、若覚内熱、或飲食難化作酸、属虚火者。
 人参、蒼朮、茯苓、甘草、半夏、橘皮。右六味。一方加旋覆花、治膈証飲粒全不入口、
 又加赤石脂、治吐淸水者多気虚。」

・理中湯の変方にして中気を扶け胃を開の効あり。故に、老人脾胃虚弱にして痰あり。飲食を思はず。
 或は大病後、脾胃虚し食味なき者に用ゆ。陳皮半夏、胸中胃口の停飲を推し開くこと一層力ありて、
 四君子湯に比すれは最活用あり。千金方半夏湯の類数方あれども此方の平穩に如かす。

 

龍骨湯    外臺祕要方

・方函「療宿驚、失忘()、忽々喜忘、悲傷不楽、陽気不起。
 竜骨、茯苓、桂枝、遠志、麦門、牡蛎、甘草、生姜。右八味。」

・失心風を主とす。其人健忘、心気鬱々として楽まず、或は驚搐、不眠、時に獨語し、
 或は痴の如く、狂の如き者を治す。此方にして一等虚する者を帰脾湯とする也。

失忘‥原典では失志となっている

 

龍胆湯  千金

・方函「治嬰児出腹、血脈盛実、寒熱温壮、四肢驚掣、発熱大吐哯者、
 若已能進哺、中食実不消、壮熱、及変蒸不解、諸驚癇悉主之。
 竜胆、釣籐、柴胡、黄芩、桔梗、芍薬、茯苓、甘草、大黄。右十味。」

・一名龍鬚湯と云巣源にも見えて普以前より小児の套剤と見ゆ。吐乳驚癇の初發此方に如はなし。
 此症にて心下急迫あれば、大柴胡加羚羊角甘草効あり。其一等軽き者を抑肝散とす。
 都て大人小児の癇症に活用すへし。

 

龍胆瀉肝湯  薛氏

・方函「治肝経湿熱、玉茎患瘡、或便毒、下疳、懸癰、腫痛、小便赤渋滞、陰嚢腫痛。
 龍胆、黄芩、当帰、 沢瀉、梔子、車前子、木通、甘草、地黄。右九味。
 此方本出蘭室及理例、無黄芩梔子甘草、有柴胡、今従通用。」

・肝經湿熱と云か目的なれども湿熱の治療に三等あり。湿熱上行して頭痛甚しく或目赤耳鳴者は、
 小柴胡湯加龍胆胡黄連に宜し。若湿熱表に熏蒸して諸瘡を生する者は九味柴胡湯に宜し。
 若下部に流注して下疳毒淋陰蝕瘡を生する者は此方の主なり。
 又主治に据て嚢癰便毒懸癰及婦人陰癃痒痛に用ゆ。皆熱に属する者に宜し。臭気者は奇良を加へし。

癃リュウ‥①小便不利のこと→癃閉。②小便頻数のこと。③淋のこと。④疲れる、病む、あるいは老衰の意味

 

龍騰飲  賀川

・方函「治血気衝逆。大黄、黄芩、黄連。右四味。或加紅花。」

・三黄瀉心湯に川芎を加へたる者にて気痞上逆する者に即効あり血症には紅花を加るを佳とす

 

 

良枳湯  療治大蘗

・方函「塊痛在右者。茯苓、桂枝、甘草、大棗、半夏、良姜、枳実。右七味、痛在左者、去良姜加呉茱萸。」

・苓桂甘棗湯に半夏良姜枳実を加る者にて飲癖の痛ある者に用ゆ。苓桂甘棗湯の澼飲に効あるは辻山崧の経験なり。
 又呉茱萸と良姜と左右を分つことは和田東郭精弁あれども其実は岡本の燈下集に出と云う。考うべし。

苓桂甘棗湯が入っている、柴胡桂枝湯よりやや虚、右の季肋腹痛によい。柴胡剤でないのに柴胡剤のような効き方をしている。但し本方は太陰病。

  

良姜湯  奇効

・方函「治腸胃受風、久為飧泄、下利、嘔逆腹内疞痛。
 良姜、木香、檳榔、茯苓、人参、肉豆蔲、呉茱萸、陳皮、縮砂、乾姜、右十味。」

・久下利の症にして断痢湯の如く上焦の不和にも非す真武湯の如く下焦の不足にも非す。
 唯陳寒凝結して腹内疞痛し飲食之か為に不能化者を治す

 

 

苓甘姜味辛夏仁湯  金匱要略

・方函「茯苓、甘草、五味子、乾姜、細辛、半夏、杏仁。右七味。」

・小青竜湯の心下有水気と云処より変方したる者にて支飲の咳嗽に用ゆ若胃熱ありて上逆する者は後方を用ゆへし

 

苓甘姜味辛夏仁黄湯  金匱要略

・方函「茯苓、甘草、五味子、乾姜、細辛、半夏、杏仁、大黄。右八味。」

辨見于上

 


 

―― る ――

 

瘰癧加味

・方函「貝母、夏枯草、瓜蔞根、牡蛎、青皮。右五味、或合逍遥散、或合小柴胡湯。」

・陳修園の創意にて加味逍遙散に合して用ゆ。余か門には症によりて小柴胡湯或は順気剤に合い用る也。

 


 

 

―― れ ――

羚羊角湯  「外臺祕要方

・方函「治気不通、不得食。木通、橘皮、厚朴、呉茱萸、乾姜、羚羊、附子。右七味。」

・気噎にて食餌咽につまり不下者に用ゆ。飲膈の者には効なし一士人疝にて飲食を硬塞する者あり。
 此方にて効を得たり古方膈噎に辛温の剤を用るは其辛味を以透達するの意なり羚羊角噎を治す亦古意なり

 

羚羊角湯  「得効」

・方函「治筋痺、肢節束痛。羚羊、桂枝、附子、独活、芍薬、防風、川芎川芎、生姜。右八味。」

・筋痺と云を目的とす。一婦人、腎痛甚しく肩背の筋脈強急して動揺しがたき者、此を用て治す。
 羚羊附子と伍するは前方と同旨にて格別の活用あり。

筋痺は関節炎や慢性関節リウマチなど
羚羊角‥木、厥陰肝経。筋の攣急に用いることが多い。

 

連葛解醒湯  (証治大還、清、陳治)

・方函「治酒積、腹痛泄瀉。黄連、葛根、滑石、梔子、神曲、青皮、木香。右七味。」
・酒客の久痢に効あり。俗に疝瀉などと唱るもの真武湯七成湯等を與て効なきとき、
 腸胃の湿熱に着眼して此方を用ゆべし。又酒毒を解すること葛花解醒湯より優なり。

 

連翹飲  医事説約(香川修庵、一本堂薬選)

・方函「主痘後一切癰毒実証。連翹、牛蒡、柴胡、当帰、芍薬、木通、黄芩、甘草。
 右八味、或加荊芥、蝉退、黄連、梔子、車前子、滑石。」

・痘疹の余毒を治す。大連翹飲よりは簡にして用ひ易し。若し毒深き者は大連翹飲の方に本きて加減すへし。

  

連翹湯  本朝経験

・方函「治胎毒。桔梗、甘草、連翹、木通、紅花。右五味、今合千金五香湯、名日五香連翹湯、
 又本方中去木通甘草加沈香丁香金銀花鬱金木香檳榔大黄、名紅花散。
 治胎毒血毒、寒熱往来、腹痛、胸膈痞塞、疳虫等諸証。」

・本方唖料の経験にて類方多あれども此方を是とす。胎毒の虚症にあり。
 若内攻の勢あらは千金五香湯を合して用ゆ。実するもの即馬明湯なり。

胎毒‥脂漏性湿疹やアトピー性皮膚炎など

  

連理湯  (秘伝)証治要訣

・方函「治傷寒陰証、自利而渇、此陰在下、隔陽於上、兼因泄瀉、津液既去、枯燥而渇、其人雖引飲、
 所飲自少、而常喜温、不可投冷剤、即理中丸方中加黄連茯苓。」

・桂枝人参湯と表裏にて裏寒に表熱を挟みて下利する者は彼方なり陰下に在陽を上に隔たして
 下利する者は此方なり此意にて傷寒のみならず諸病に用ゆべし。

  

連珠飲  本間棗軒

・方函「治、血虚、眩暈、心下逆満、発熱自汗、婦人百病。即ち苓桂朮甘湯四物湯合方。」

・水分と血分と二道に渉る症を治す。婦人失血或産後男子痔疾下血の後、面部浮腫或両脚
 微腫して心下及水分に動悸あり。頭痛眩暈を発し又は周身青黄浮腫して黄胖状を為す者に効あり。

 


 

-- ろ --

弄玉湯  原南陽

・方函「理小児疳症、黄痩、腹痛、久下、食不進者、大人心下痞、悪心、虚悸等、可運用。
 茯苓、桂枝、白朮、甘草、黄連、木香、橘皮。右七味。」

・原南陽の経験にて児疳を治すること消疳飲より優れり但腹痛下利を目的とすべし若黄痩腹満寒熱ある者は医鑑の黄耆湯に宜し

エキスでは苓桂朮甘湯+少量の半夏瀉心湯と帰脾湯

黄耆湯‥黄蓍、人参、鼈甲、当帰、地黄、茯苓、橘皮、川芎、芍薬、蝦蟆、半夏、柴胡、使君子、生姜。
小児の癇証で急性期を過ぎた慢性の熱病。小児癇証で黄痩、腹満、寒熱のあるもの。

梢疳飲‥脾疳につかう

 

楼貝養栄湯  温疫論

・方函「治痰涎湧甚、胸膈不淸。
 仁、貝母、知母、橘皮、芍薬、当帰、天花粉、蘇子、生姜。右九味。」

・熱邪大勢解後、痰涎壅塞して精気振はざる者に用ゆ。竹葉石膏湯は余熱上焦にありて痰を動かす者を治す。
 この方は、胸膈清からずして痰壅を目的とす。雑病には精気振はす痰胸膈にありて懸痛する者を治す

痰壅:喀痰が気管支または肺胞内に壅滞して喀出し得ないもの。毛細気管支炎、肺炎の類
肺陰虚に用いる。気管支炎等に応用。

 

六度煎  南溟

・方函「治黴毒、骨節疼痛、諸薬不効、形体虚憊者。
  芍薬、当帰、黄耆、遺糧、附子、虎脛骨。右六味。」

・梅毒頑固数年不愈、津液之が為に虚憊骨立或は筋骨疼痛殆ど痿躄を為し、桂枝加朮附湯の類を與て効なき者を治す。
 若し津液稍復すと雖も、毒動かざる者は化毒丸少量を兼用すべし。

 

六物黄芩湯  金匱(外薹黄芩湯)

・方函「黄芩、人参、乾姜、大棗、桂枝、半夏。右六味。」

・黄芩湯と桂枝人参湯の間に位して、上熱下寒の下利に用て効あり。且、黄芩湯は腹痛を主とし、
この方は乾嘔を主とし、桂枝人参湯は腹痛嘔なく表熱ありて虚寒に属するを主とす。
蓋、半夏瀉心湯に類して下利を治するの効尤も捷ショウなり。

 

六物解毒湯  黴癘新書/片倉鶴陵(1751—1822)

・方函「治黴瘡、骨節疼痛。遺糧、金銀花、川芎、薏苡、木瓜、大黄。右六味。」

・山脇東洋の捜風解毒湯を刪訂したる者にて捜風の主治と同じ処へ用ゆる也。
 蓋し、香川の解毒剤は一切瘡瘍の毒を小便に分泌する効あり。諸瘡の臭気を去るには別して妙なり。
 此の方は筋骨疼痛と軽粉甘汞の毒を解するを主として用ゆべし。

捜風:風邪が藏腑経脈を侵して留滞した病。証に対して比較的風作用の強い薬物を用いてそれを治療すること
刪訂:文字や文章を削って改める
軽粉、甘汞‥塩化第一水銀、黴毒の第二期に用いていた、汞剤の中止時期に本方解毒剤などが用いられた

  

六物附子湯  三因方/南宋

・方函「治四気流注於足太陰経、骨節煩疼、四肢拘急、自汗、短気、小便不利、悪風怯寒、頭面手足時々浮腫。
 附子、桂枝、蒼朮、甘草、防已、茯苓。右六味。」

・骨節疼痛の模様、附子湯に似たれども、其因風湿より来たりて四肢に水気を含み悪寒自汗等出るもの也。
 つまり、桂枝附子湯の一等水気ある者に用ゆ。又、其水気表に専らにして真武湯の内水とは大に異なるなり

四気‥風寒暑湿気
甘草附子湯や苓桂朮甘湯の加減方とも見られる。桂枝附子湯より湿多い、表証は桂枝附子湯より少ないと考えられる

 


 

-- わ -- 

和解湯  雞峰

・方函「治血気虚弱、外感寒邪、身体疼倦、壮熱悪寒、腹中㽲痛、鼻塞頭昏、痰多咳嗽、大便不調。
芍薬、桂枝、甘草、乾姜、蒼朮、茯苓、半夏。右七味、按雞峰本有厚朴人参生姜大棗無半夏、
今従玄医々方問餘。

・傷風中寒なとの軽邪に用て効あり和気飲は此方の一等重き処に用ゆ

桂枝湯の加減方と見られる

 

和肝飲  玉案

・方函「治脇下杠梗起一條作疼。当帰、芍薬、三稜、青皮、茴香、木香、枳実、柴胡、縮砂。右九味。」

・柴胡疎肝湯同種の薬なれども脇下の硬痛には此方を優とす。其中左脇下の痛に宜し。
 右に在る者は小柴胡湯に芍薬青皮或は良枳湯の類反て効あり。

 

和気飲  續易簡後集

・方函「即五積散方中去麻黄」

・辨見于上

和解湯より一段重い症状に用いる

 

和中飲  本朝経験

・方函「枇杷葉、藿香、縮砂、呉茱萸、桂枝、丁香、甘草、木香、莪朮。右九味。」

・開本拍伝の家方にて傷食の套剤なり。夏月は、傷食より霍乱を為す者最も多きを以て、俗常に暑中に用うる。
故に中暑の方に混ず。中暑伏熱を治するには、局方の枇杷葉散を佳とす。今、俗間所用の枇杷葉湯は、
此方の藿香丁香を去り、香薷扁豆を加る方なり。

矢数道明の分量‥枇杷葉3、藿香3、縮砂2、桂枝2、莪朮2、呉茱萸1、丁香1、甘草1、木香1。
芳香健胃剤が多く入っている
浅田一門での暑気払いの薬として使われている。薄く煎じ蜂蜜を入れて冷やしてお茶代わりに飲む